榊遊矢のGX次元漂流記   作:おこむね

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#019 『さらば、デュエルアカデミア』

 万丈目は朝早くからデュエルアカデミアから外へ続く道を歩いていた。寮生活だけあって、荷物自体はそう多くなく、黒い手鞄一つを担いでいる。誰がどう見ても、デュエルアカデミアから出て行こうとしていた。

 そして、昨日の万丈目の様子から、彼がそうするのではないかと思っていた遊矢は、事前に港で万丈目が来るのを待ち構えており、万丈目も何となく遊矢がいることを察していたかのように小さく笑みを浮かべている。

 

「やっぱり、行くのか?」

「ああ、このままで終わらせる気はない。十代や三沢――いや、貴様よりも、もっと強くなってやる」

 

 おそらく、武者修行に行くつもりなのだろう。

 実際、今のデュエルアカデミアは万丈目の居やすい場所ではない。心機一転するのは悪い判断ではないのかもしれないと遊矢も考える。

 

「……寂しくなるな」

「心にもないことを――と、言いたい所だが、貴様に限っては本心なのだろうな」

 

 何だかんだ、遊矢と万丈目は仲が悪くなかった。

 デュエルでは負けたが、万丈目も別に遊矢と会話をすることにそこまで不快感はなかったし、改めて遊矢のことは割と嫌いではなかったと思っている。

 

「いつか、貴様にもリベンジする。それまで腕を腐らせておくなよ」

「毎日のようにデュエルしている俺に言うことか?」

「相手は全員格下ばかりだろう。俺や十代を含めてもな」

 

 事実、遊矢はあの亮を相手にしても追い込まれはしても負けはしていなかった。

 元の世界でプロというだけあって、生徒達とはそれだけの実力差が存在しているのが現実であり、一度デュエルした万丈目もそれを体感している。

 

「これは善意で言ってやる。お前、同じレベルの相手と戦わないと腕が落ちるぞ」

 

 それは、遊矢も薄々感じていたことだった。

 別に十代達とやるデュエルが楽しくない訳ではない。しかし、全力を出さなくても勝ててしまうのは確かだ――これまでズァーク事件を通じて様々な試練を乗り越えてきた遊矢と、一アカデミア生では地力が違いすぎるというのが大きい。

 ただ、その環境に慣れてしまうと、いざ強敵と戦った時に力を出し切れなくなる――万丈目はそれを危惧してくれたのだろう。

 

「……肝に銘じておくよ」

「いや、弱い俺達にも非はある。いずれ強くなってやるから、それまで待っていろ」

 

 そう話していると、船がやってくる所だった。

 また、遊矢から見て近くのコンテナの陰に大徳寺らしき人物が隠れてこちらの様子を見ている。どうやら、万丈目を心配していたのは遊矢だけではないようだった。

 

「そうだ、このカード」

 

 そう言って、万丈目が《光と闇の竜》のカードを遊矢に渡してくる。

 

「やはり、このカードは俺には相応しくない。ペガサス会長には、もっと良い使い手を探すように頼んでくれ」

 

 遊矢は一応受け取った。

 しかし、直感的にカードが万丈目から離れるのを嫌がっていると感じ、すぐに万丈目へと向き直る。

 

「万丈目!」

「なんだ……っと」

「悪いけど、返却は受け付けてないんだ。返したかったら自分でペガサス会長に返してくれ」

「……融通の効かん奴だ」

「そのカードはラッキーカードだよ。前に十代から聞いたデュエルキングの真似をするなら、『そのカードが君の所へ行きたがっている』ってやつだ」

「フン、意味がわからんぞ」

 

 仕方なく、万丈目は再びカードを懐にしまった。

 万丈目にも遊矢にも聞こえないが、機嫌の良いドラゴンの鳴き声が港に木霊する。同時に、万丈目が船に飛び乗った。

 

「さらば、デュエルアカデミア」

「……ちょっと似合わないな」

「うるさい」

 

 自分でも口にして少し恥ずかしかったのか、万丈目自身もちょっと顔を赤らめている。

 とはいえ、これでしばらく万丈目とはお別れだ。そう思うと、こういう軽口も叩けなくなる訳でやはり寂しい。

 しかし、万丈目はもう話すことはないとばかりに、視線をデュエルアカデミア本島へと向けた。短い時間だったが、万丈目もこの島で過ごした時間を思い返しているのだろう。

 

 遊矢もまた船が離れていくのを黙って見送る。

 

 そのまま船が見えなくなる頃になると、隠れていた大徳寺が出て来て遊矢の隣にやってきた。

 

「止めなくて良かったのかニャ?」

「止めても行きましたよ。あいつはそういう奴です」

「十代君も寂しがるだろうニャ」

「そうですね。何だかんだ、あいつも万丈目嫌いじゃなかったですし」

 

 実際、この後すぐに万丈目がいなくなったという話を翔から聞いて、十代が万丈目を島中探すことになるのだが、入れ違いになった遊矢がそれを知ったのは、十代が謎の猿とデュエルを始める頃のことだった。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 どうもこの島で研究中のデュエルをする猿――通称SALが脱走したということで、何故かオベリスクブルー女子で明日香の取り巻きの一人であるジュンコが人質になってしまったらしい。

 またしても、いつもの「大変だ、遊矢――」からなる、十代の問題に巻き込まれた訳だが、今回は合流前に明日香から事情が説明されている。

 聞けば、猿を追っている謎の研究員達と、ジュンコと猿、そしてジュンコを助けたい十代達で対立していたようだが、何だかんだあって、「デュエルすれば、例え相手が猿でもお互いの気持ちがわかる」という十代の一言で、十代とSALはデュエルで決着をつけることになったらしい。状況はサッパリ理解できないが、遊矢が何とか追い付いた頃には、既にデュエルが始まっていた。

 

「ターンエンドだ」

 

 

 十代 手札4枚 LP4000

 フィールド スパークマン

 魔法・罠 リバース1枚

 

 VS

 

 SAL 手札5枚 LP4000

 フィールド なし

 魔法・罠 なし

 

 

「ギリギリ、間に合ったか……」

「ええ、今十代の一ターン目が終わった所よ」

 

 と、明日香がセーフ判定をしてくれている。

 見れば、十代のフィールドにはスパークマンが攻撃表示で存在しており、リバースカードが一枚伏せられている。

 対する相手の猿は、機械のようなものを身に着けており、どうやらあの機械が猿にデュエルを可能にさせているようだった。

 

「おねがーい、早く助けてー!」

 

 視線を声の方へ移すと、猿の後ろの木の幹にジュンコが抱き着いている。

 背後は崖となっており、木から下手に落ちようものならそのままお陀仏。前に逃げようにも、猿が退かないと逃げようがない形だった。

 翔が「大丈夫―、すぐにアニキが猿を倒して助けてあげるよー!」と、声を上げるが、まだあの猿が弱いと決まった訳ではない。明日香の隣にいる、取り巻き2号のももえも同意見のようで、「それはどうかしらねぇ」と、疑問の声を上げていた。

 

「ウキャッ!」

『私のターン、ドロー』

 

 機械が音声サポートもしているのか、デュエルの展開やカードの効果など、相手の人間にもわかるように伝えてくれている。使われている技術はなかなか高そうなものだった。

 見れば、十代達と反対方向に、黒服の怪しい奴等がいる。どうやら、奴らが猿を研究しているようで、今はデュエルのデータを取ろうとしているらしい。少なくとも、今すぐ猿を取り押さえる気はないのか、静かにデュエルを見守っていた。

 

「キキッ!」

『手札から、《怒れる類人猿》を通常召喚』

 

 《怒れる類人猿》

 効果モンスター

 ☆4 地属性 獣族

 ATK2000 DEF1000 攻撃表示

 

 全身赤みがかったゴリラが、炎を吹きながらドラミングしている。

 レベル4で攻撃力2000と、かなりのステータスを持つモンスターだった。

 

「キキッ!」

『手札からチューナーモンスター、《虚栄の大猿》の効果を発動。手札の獣族モンスター一体を墓地に送った場合に特殊召喚することが出来ます。私は、手札の獣族モンスター、《スレイブ・エイプ》を墓地に送り、《虚栄の大猿》を特殊召喚します』

 

 《虚栄の大猿》

 効果モンスター チューナー

 ☆5 地属性 獣族

 ATK1200 DEF1200 守備表示

 

 フィールドに小さな猿が現れたかと思うと、その猿が巨大な悪魔のような影をオーラのように身に纏っている。

 本体は猿なのは間違いないが、どうしても悪魔の方に目が行ってしまう。虚栄というだけあって、自分を大きく見せようとしているのだろう。

 しかし、このモンスターの本質はそこではない。戦っている十代は、機械音声が口にしたとある単語を聞き逃さなかった。

 

「チューナーモンスターだって!?」

「ウキキッ!」

『《虚栄の大猿》の効果発動。獣族モンスターを墓地へ送った特殊召喚に成功した時、墓地へ送った獣族モンスターのレベルを確認し、次の効果から一つを選択して発動できます。1、そのレベルだけこのカードのレベルを上げる。2、そのレベルの数だけこのカードのレベルを下げる』

 

 またも猿のようなモンスターカードを墓地に送って、カード効果を発動させていく。

 

『私は2を選択し、《スレイブ・エイプ》のレベル分、《虚栄の大猿》のレベルを下げます』

「えっと、《スレイブ・エイプ》のレベルは2だから……3になるのか」

 

 普段、あまりレベルを変更させる効果に慣れていないと、こういう時にすぐ計算が出来なかったりする。

 しかし十代も、シンクロやエクシーズが普及する前から遊矢とデュエルしていたおかげで、何とか《虚栄の大猿》のレベル変動を把握できていた。

 

 《虚栄の大猿》 ☆5→3

 

『さらに、装備魔法カード、《幻惑の巻物》を《虚栄の大猿》に装備して効果を発動。属性を一つ宣言し、装備モンスターの属性を宣言した属性にします。私は闇属性を選択』

 

 フィールドに現れた巻物を猿がキャッチすると、巻物自体が黒く染まって、属性が変更されていく。

 

 《虚栄の大猿》 地属性→闇属性

 

「わざわざ属性を変えた……?」

『私はレベル4の獣族、《怒れる類人猿》に、レベル3の闇属性となった《虚栄の大猿》をチューニング。召喚条件は、闇属性チューナー+獣族モンスター』

 

 丁寧に召喚条件を説明してくれたおかげで、わざわざ使いにくい《幻惑の巻物》なんて装備カードを使った理由を遊矢も察する。

 どうも、猿をコンセプトにしたデッキのようだが、拘りと実用性を上手く共存させていた。仮に、この猿を今すぐラーイエローに放り込んでも、そこそこ通用するのではないだろうか?

 

『《猿魔王ゼーマン》をシンクロ召喚』

 

 《猿魔王ゼーマン》

 効果モンスター シンクロ

 ☆7 地属性 獣族

 ATK2500 DEF1800 攻撃表示

 

 現れたのは魔王と呼ばれる猿のモンスター。全体的に真っ黒な鎧とマントを着込んで、目を怪しく輝かせている。

 

『バトルフェイズ、《猿魔王ゼーマン》で《E・HERO スパークマン》を攻撃』

「罠カード――」

「ウッキャ!」

『《猿魔王ゼーマン》の効果。このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動することが出来ません』

「なんだって!?」

 

 罠カードを発動させようとした十代の指が止まる。罠を封じられた以上、スパークマンには素直にゼーマンと戦うしか道がなかった。

 

 《猿魔王ゼーマン》 ATK2500 VS《E・HERO スパークマン》 ATK1600

 

 しかし、当然叶うはずもなく、ゼーマンの一撃でスパークマンが爆散していく。

 

「くっ、スパークマンが!」

 

 十代 LP4000→3100

 

『リバースカードを一枚セット、ターンエンド』

 

 

 SAL 手札1枚 LP4000

 フィールド ゼーマン

 魔法・罠 リバース1枚

 

 VS

 

 十代 手札4枚 LP3100

 フィールド なし

 魔法・罠 リバース1枚

 

 

「やるなぁ、この猿」

「やるなぁ――じゃ、ないわよ! 怖いんだから、早く助けてよー!」

「十代! 相手が猿だからって油断してると負けるぞ!」

「猿に負けたら、あなたの方がデュエルアカデミアに居られなくなるわよ!」

「わかってるって! 俺のターン、ドロー!」

 

 SALの初動は文句なしの動きだった。

 しかし、十代の本領はここからだ。猿が十代にどこまで対応できるか――近くで待機している猿を研究しているチームの奴等もデータを必死に取っている。

 

「俺は魔法カード、《融合》を発動! 手札のフェザーマンとバーストレディを融合し、フレイム・ウイングマンを融合召喚する!」

 

 《E・HEROフレイム・ウイングマン》

 効果モンスター 融合

 ☆6 風属性 戦士族

 ATK2100 DEF1200 攻撃表示

 

 新たに出てきたのは、十代のフェイバリットモンスター。

 

「さらに、フィールド魔法、《摩天楼―スカイスクレイパー―》を発動! 『E・HERO』の攻撃力は、その攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターに攻撃するダメージ計算時のみ1000ポイントアップする! 行くぞ、バトルだ! スカイスクレイパーシュート!!」

 

 フィールドがビル群に埋め尽くされ、フレイム・ウイングマンが突撃していく。

 お得意の摩天楼とのコンボで、ゼーマンを破壊するつもりなのだろう。

 

 《E・HEROフレイム・ウイングマン》 ATK2100 VS《猿魔王ゼーマン》 ARK2500

 

「ウッキー!」

『《猿魔王ゼーマン》の効果を発動。相手モンスターの攻撃宣言時、自分の手札、又はフィールド上のモンスター一体を墓地へ送ることで、相手モンスター一体の攻撃を無効にします。私は、手札から《ファイターズ・エイプ》を墓地へ送り、《E・HEROフレイム・ウイングマン》の攻撃を無効にします』

「なにっ!?」

 

 だが、十代の使ったスカイスクレイパーの攻撃力上昇効果も、攻撃を無効にされては意味がなかった。

 おまけに、スカイスクレイパーは自身の攻撃時のみに効果を発動するカードであり、相手からの攻撃では効果を発動しない。攻撃を防がれたことで、一転して不利な状況になってしまった。

 

「くっ、俺はこれでターンエンドだ」

 

 

 十代 手札1枚 LP3100

 フィールド フレイム・ウイングマン

 魔法・罠 スカイスクレイパー、リバース1枚

 

 VS

 

 SAL 手札0枚 LP4000

 フィールド ゼーマン

 魔法・罠 リバース1枚

 

 

「アニキが猿に押されてる……」

「いえ、あのお猿さん、かなりの実力よ」

 

 明日香の言葉の通り、下手をすればオベリスクブルーでも通用するレベルかもしれない。

 と、こちらの誉め言葉が聞こえたのか、研究員達がドヤ顔で自分達の成果を自慢し始めた。動物の方が精霊の声が聞こえやすいとか何とか言っているが、とりあえず興味がなかったので、遊矢も全スルーでデュエルの流れを見守っていく。

 

「ウキャキャッ!」

『私のターン、ドロー。このままバトルフェイズ、《猿魔王ゼーマン》で《E・HEROフレイム・ウイングマン》に攻撃』

 

 《猿魔王ゼーマン》 ARK2500  VS《E・HEROフレイム・ウイングマン》 ATK2100

 

 ゼーマンの攻撃で、フレイム・ウイングマンまで破壊される。こちらの攻撃は効果で無効にされ、向こうの攻撃は魔法・罠が使えず防げないのでは勝負にならなかった。

 

「くっそ! ちょっとヤバいぜ……!」

 

 十代 LP3100→2700

 

『カードを一枚伏せてターンエンド』

 

 

 SAL 手札0枚 LP4000

 フィールド ゼーマン

 魔法・罠 リバース2枚

 

 VS

 

 十代 手札1枚 LP2700

 フィールド なし

 魔法・罠 スカイスクレイパー、リバース1枚

 

 

 だが、遊矢はSALの作った一瞬の隙を見逃さなかった。

 

「チャンスだ、十代! ゼーマンの効果は、手札かフィールドにモンスターがいないと使えない! 今はゼーマン以外に場のモンスターがいないから、効果を使うにはゼーマン自身をリリースするしかない!」

「オッケー……って言いたい所だけど、手札がちょっと良くないな」

 

 先程、フレイム・ウイングマンを融合召喚したことで十代の手札は残り一枚となっている。

 融合主体のデュエリストは一枚の手札では起死回生が難しい。

 

「俺のターン、ドロー! 一旦、ここは手札補充だな。永続魔法、《悪夢の蜃気楼》を発動! さらにカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 十代 手札0枚 LP2700

 フィールド なし

 魔法・罠 スカイスクレイパー、《悪夢の蜃気楼》、リバース2枚

 

 VS

 

 SAL 手札0枚 LP4000

 フィールド ゼーマン

 魔法・罠 リバース2枚

 

 

『私のターン、ドロー』

「このスタンバイフェイズ、《悪夢の蜃気楼》の効果発動! 手札が四枚になるまでデッキからカードをドローする! さらに速攻魔法、《非常食》を発動! 《悪夢の蜃気楼》、リバースカードのミラーゲート、スカイスクレイパーを墓地へ送り、一枚につきライフを1000回復させる!」

 

 十代 LP2700→5700

 

 永続魔法、《悪夢の蜃気楼》のデメリットを回避しつつ、ライフを大幅に回復していく。

 だが、十代のフィールドにはモンスターはおろか、カードが何も存在していない。SALからすれば、攻め込む大チャンスだった。

 

「ウキャッ!」

『私は手札から、二枚目の《怒れる類人猿》を通常召喚』

 

 《怒れる類人猿》

 効果モンスター

 ☆4 地属性 獣族

 ATK2000 DEF1000

 

 再び赤い毛色のゴリラがフィールドに現れる。

 

『さらに罠カード、《幻獣の角》を発動。発動後、このカードは攻撃力800ポイントアップの装備カードとなり、自分フィールド上の獣族、獣戦士族モンスターに装備出来ます。《猿魔王ゼーマン》に《幻獣の角》を装備します』

 

 前のターンに伏せたカードがオープンされ、ゼーマンの頭に角が生え、攻撃力が上がっていく。

 また、このカードには相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、デッキからカードを一枚ドローする追加効果があった。

 

 《猿魔王ゼーマン》 ARK2500→3300

 

「ウッキィ!」

『バトルフェイズ、《怒れる類人猿》でプレイヤーにダイレクトアタックします』

 

 《怒れる類人猿》 ATK2000 VS十代 LP5700

 

 十代のフィールドにカードはない。ゴリラの拳が十代に直撃する。

 

「くっ、きっちい!」

 

 十代 LP5700→3700

 

『続けて、《猿魔王ゼーマン》でプレイヤーへダイレクトアタックします』

 

 《猿魔王ゼーマン》 ARK3300  VS十代 LP3700

 

 続くゼーマンの攻撃も直撃し、ライフが大きく削られていく。想像以上にギリギリの状況だった。

 

「《非常食》で全回復しなかったら終わってたな……」

 

 十代 LP3700→400

 

『ターンエンド』

 

 

 SAL 手札0枚 LP4000

 フィールド ゼーマン、類人猿

 魔法・罠 《幻獣の角》、リバース1枚

 

 VS

 

 十代 手札4枚 LP400

 フィールド なし

 魔法・罠 なし

 

 

「ちょっとー! 本当に大丈夫なんでしょうねー!?」

 

 序盤の十代が迂闊だったとはいえ、ここまで十代を追い詰めるとは――万丈目辺りが見ていたらブチ切れそうだと、遊矢は苦笑いを浮かべる。

 しかし、気になるのは一ターン目からSALのフィールドにずっと伏せられているリバースカード。これまで発動する素振りを欠片も見せない以上、おそらくはゼーマンを守るカードだろう。

 

「俺のターンだ!」

「十代、いい加減決めろよ!」

 

 流石に、そろそろ後ろで半泣きのジュンコが可哀想だった。

 

「だから、わかってるって! おい、猿! ここまでよくやったけど、そろそろ勝負を決めさせて貰うぜ」

 

 と、ドローを終えた十代がカードを発動させようとした瞬間、森の中から猿の群れが現れた。

 野生の猿達は、心配そうな顔でデュエルをしているSALに声をかけている。SALも悲しそうな顔で仲間の方を見ていた。

 

 それで大体の事情は察する。

 

 SALは仲間達の元へ帰りたくて研究所を脱走してきたのだ。ジュンコを人質にしたのも、偏に仲間の元へ帰るため。しかし、ここで十代が勝ってジュンコを取り戻せば、SALは研究員達に捕まってしまうだろう。

 

「……悪いが猿、一度デュエルを始めた以上、どんな事情があっても手加減はしねぇ。俺は手札を一枚捨て、魔法カード《スペシャルハリケーン》を発動! フィールド上に存在する特殊召喚されたモンスターを全て破壊する!」

 

 EXデッキからモンスターを出すのは全て特殊召喚に当たる。それはシンクロ召喚も同じだった。

 

「ウッキキー!」

『リバースカードオープン、速攻魔法《我が身を盾に》を発動。ライフを1500ポイント支払い、モンスターを破壊する効果を持つカードの発動を無効にして破壊します』

 

 SAL LP4000→2500

 

「成程、ずっと伏せてたのはそれだったのか……」

 

 遊矢の予想通り、リバースカードは防御カードだった。《猿魔王ゼーマン》は、戦闘にはこの上なく強いが効果破壊は防げない。そういう意味では《我が身を盾には》は悪くないチョイスだ。

 

「防いできたか。なら、魔法カード、《ミラクルフュージョン》発動! 墓地のフレイム・ウイングマンとスパークマンを除外して、《E・HEROシャイニング・フレア・ウイングマン》を融合召喚するぜ!」

 

 序盤に破壊された二体のモンスターが除外されながら、新たな一つのヒーローへと変身する。

 

 《E・HEROシャイニング・フレア・ウイングマン》

 効果モンスター 融合

 ☆8 光属性 戦士族

 ATK2500 DEF2100 攻撃表示

 

「シャイニング・フレア・ウイングマンの効果! このカードの攻撃力は、墓地の『E・HERO』の数×300ポイントアップする! 俺の墓地にはフェザーマン、バーストレディ、そして《スペシャルハリケーン》で捨てたクレイマンがいる! よって、攻撃力900ポイントアップ!」

 

 どうやら、ちゃっかり一枚ヒーローを追加していたようで、シャイニング・フレア・ウイングマンの攻撃力がさらに上がっていく。

 

 《E・HEROシャイニング・フレア・ウイングマン》 ATK2500→3400

 

「さらに、装備魔法《フェイバリット・ヒーロー》をシャイニング・フレア・ウイングマンに装備! これで準備完了だ!」

 

 そのまま十代はフェイズを進めた。

 

「バトルフェイズ! この瞬間、《フェイバリット・ヒーロー》の効果発動! バトルフェイズに、デッキ・手札からフィールド魔法を発動できる! フィールド魔法、《フュージョン・ゲート》を発動!」

 

 フィールドが暗雲に包まれていく。

 モンスターカードを除外することで融合が出来るフィールド魔法だが、バトルフェイズ中に効果は発動できないため、一見意味のない効果でしかない。

 

「《フェイバリット・ヒーロー》の更なる効果、自分フィールド魔法ゾーンにカードがある時、装備モンスターの攻撃力は元々の守備力分アップする!」

 

 しかし、この効果によって、無意味なフィールド魔法にも意味が出てきた。

 シャイニング・フレア・ウイングマンの攻撃力が守備力の2100分さらにアップする。

 

 《E・HEROシャイニング・フレア・ウイングマン》 ATK3400→5500

 

「シャイニング・フレア・ウイングマンでゼーマンを攻撃! 闇を打ち払え! シャイニング・シュート!!」

 

 《E・HEROシャイニング・フレア・ウイングマン》 ATK5500 VS《猿魔王ゼーマン》 ATK3300

 

 圧倒的攻撃力を光に変換し、ゼーマンを消滅させようとするシャイニング・フレア・ウイングマン。

 

 だが、SALも素直にその攻撃を通すつもりはなかった。

 

『《猿魔王ゼーマン》の効果。フィールドの《怒れる類人猿》を墓地へ送り――』

「おっと、残念! 《フェイバリット・ヒーロー》の効果で、装備モンスターは相手の効果の対象にならないぜ!」

 

 上手い――ゼーマンの攻撃無効効果は、相手モンスター一体を対象に発動する誘発効果だ。故に、対象が取れなくなれば発動することは出来ない。

 防御を全てゼーマンの効果に頼っていたSALに、これを防ぐすべはなかった。シャイニング・フレア・ウイングマンの攻撃でゼーマンが消滅し、SALのライフが削られていく。

 

「ウキャキャッ!?」

 

 SAL LP2500→300

 

「シャイニング・フレア・ウイングマンの効果発動! 相手モンスターを戦闘で破壊して墓地へ送った時、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

 シャイニング・フレア・ウイングマンがSALの前に移動し、ゼーマンの攻撃力分ライフを削っていった。

 残りライフ300しかないSALに、この効果は受けきれない。

 

「ウッキャ—……!」

 

 SAL LP300→0

 

 十代お得意の必殺技でSALのライフがゼロになると同時にソリッドビジョンが消え、衝撃でSALが尻もちをついた。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ! しかし、お前、猿の癖にとんでもなく強いな。もしかしたら、クロノス先生より強いかも!」

「おいおい……」

 

 流石に言い過ぎだと遊矢がツッコミを入れる。

 一応、あれでもクロノスは実技の最高責任者だ。それにゼーマンも強いが、流石にアンティーク・ギアデッキには敵わないだろう。

 

「約束通り、ジュンコを返して貰うぜ」

 

 ギリギリの勝負だったが勝ちは勝ちだ。

 SALも自分が負けたと理解したようで、素直にジュンコを抱えてこちらに戻ってくる。彼女が随分と憔悴しているのは、追い詰められた十代のせいだろう。しかし、徐々に助かったという認識が出来てきたのか、ジュンコが半泣きで明日香とももえに抱き着いていた。

 

 同時に、研究員達も動き出す。

 

「まさか、あのSALを倒してしまうとはな。まぁ、手間が省けたと思えばいいか」

 

 そう言って、研究員達がSALを連れて行こうとした。

 だが、十代は猿を渡すつもりはないようで、SALを庇うように身を出す。曰く、「ジュンコを返す約束はしたが、お前らにSALを返す約束はしてないぜ」ということだ。

 

「よっ、流石アニキ!」

「そうね。このまま、このSALを見逃すのはちょっと可哀想だわ」

「ガキ共が……構わん、SALを捕まえろ。それと、丁度いいからそこの猿共も捕まえておけ。SALを一人にするのは可哀想らしいからな。研究材料は多いに越したことはない」

 

 と、いう指示が出たことで、黒服が麻酔銃を向けてきた。

しかし、十代に引く気はなく、危うく一触即発という空気になる――が、突如として現れた猫のファラオが黒服の麻酔銃を叩き落すと、続いてオシリスレッド寮長の大徳寺が現れた。

 

「「「「「大徳寺先生!!」」」」」

「……先生、だと?」

「おっと、そこまでだニャ。事が公になれば、困るのはそちらでは?」

「ぐっ」

「動物虐待で訴えられてしまうのニャ」

 

 急に大徳寺がデュエルアカデミアの関係者だとわかると、渋々という様子で研究員達は撤退を決める。

 しかし、遊矢は何となくその言葉の裏を理解した。おそらく、彼らはかなりグレーな方法を使って猿を研究しており、デュエルアカデミアはそれを黙認していた――が、事が大きくなれば、デュエルアカデミアも自身を守るために、彼らの敵に回ると、そう大徳寺は告げたのだ。

 後ろ盾なしで研究は続けられないということで、今回は撤退を決めたのだろう。だが、そのおかげでSALは機械を外され、仲間の元へと戻って行った。デュエルディスクは気に入ったようでそのままだったが、十代が「またデュエルしようぜ!」と手を振っている。

 

「そういえば、大徳寺先生はどうしてここに?」

「そうそう、万丈目君のことを伝えに来たんだニャ。残念ながら、彼はもうこの島にはいないのニャ」

「えっ!?」

「十代君や三沢君、遊矢君を倒すために、彼はここから出ることを選んだんだニャ」

 

 その姿が何となく想像できたのか、十代も「そっか」と頷いている。

 

「まぁ、遊矢君は気付いてお見送りに行っていたみたいですけどニャ」

「なにっ!? どういうことだよ遊矢! 俺、何も聞いてないぞ!」

「……別に見送りに行った訳じゃないよ。もしかしたらいるかもって思っただけで」

 

 余計なことを――と、文句の目線を向ける遊矢。

 どうも、十代は自分を置いて行ったことが気に入らないようで、ひたすらに文句を言っていた。明日香も「あなたと万丈目君って、そんなに仲良かったの?」と疑問の声を上げている。

 結局、何を言っても文句や質問が止まらないので、仕方なくデュエルで黙らせることになり、十代、明日香を連戦で負かして何とかその場を凌いだ遊矢だった。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・#13『野生解放! SALデュエル』より、遊矢が万丈目を見送った。
 万丈目から、同格と戦わないと実力が下がると忠告を受ける。初期の方で感想でも同じことを言われ、内容を先読みされたのかとかなりビビった。

・SALがシンクロを使ってきた。
 ゼーマンをダークシンクロで出そうか死ぬほど悩んで通常にしました。数少ない猿系カードな上、そこそこ強くてビックリ。


 デュエル内容変更点

・十代の最初のリバースカードをヒーローバリアからミラーゲートに修正しました。
 ヒーローバリアだと、ヒーローがいれば任意のタイミングで使えるので、攻撃時に反応するミラーゲートにしています。

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