早乙女レイという名前の男子生徒が、我らがオシリスレッドに編入してきた。
しかし、遊矢の目には、どこからどう見ても女の子にしか見えない。これが上手く性別を隠しているなら遊矢も気に留めなかったかもしれないが、十代達の部屋で預かることになってから、男子特有のノリや半セクハラまがいの行動で顔を真っ赤にしているのは見ていて可哀想な気分になってくる。
本当はいけないのだが、仕方ないのでしばらく遊矢の部屋で預かることにした。レイも十代達の部屋から遊矢の部屋に移ったことで、少しは安心した様子を見せている。
本来、遊矢がオシリスレッドで一人部屋を与えられているのは、遊矢だけが持つペンデュラムカードを守るためだ。
この世界で遊矢だけが使えるカードと言えば、同室になれば魔が差す生徒はどうしても出て来る。デュエルキングの武藤遊戯の時でさえ、神楽坂のような生徒がいたのだ。今、遊矢の持つカードは、レアリティだけならデュエルキングのデッキに匹敵する。故の一人部屋なのだが、流石にあの状況を見逃すことは出来なかった。
レイもしばらくは遊矢に警戒した様子を見せていたが、遊矢がいろいろ配慮したおかげもあって何とか落ち着きを見せている。
男だらけの大浴場が使えないであろう故に、備え付けのシャワーを貸してあげたり、寝顔や着替えを見られなくないだろうからと言うことで、パーテーションで部屋に区切りを付けてあげたりと、ストレスをなるべく感じさせないように努力したのだ。
そのおかげもあって、次の日には普通に話すくらいの仲にはなることが出来た。
その仲は、どうも遊矢が思っていた以上だったようで、いつものように学校でデュエルをしていると、悩みを相談しに来るくらいには信頼してくれたらしい。
聞けば、レイは女の子だという(知ってた)。
どうも、レイはカイザー亮に惚れているということで、彼に自分の思いを伝えるために、わざわざ編入試験を受けてデュエルアカデミアにやってきたようなのだが、いざ男子ブルー寮まで亮に会いに行ったら、十代に自分が女だとバレてしまったらしい。
まぁ、バレたのが十代なら悪いことにはならないだろうと思ったが、本人は「どうしようどうしよう」と困った様子を見せている。
困った時は、真正面からぶつかろうということで、遊矢が十代を呼び出したのだが、何故かデュエルをすることになり(いつもの)、レイも渋々そのデュエルを受けていた。
あまり目立ちたくないというレイのために、他の人に見つからないようレッド寮の崖下へ移動する二人を見送り、遊矢は崖上からデュエルを観戦している。
「「デュエル!!」」
こうして、十代対レイのデュエルが始まった。
先攻はレイ。大徳寺曰く、彼女はすぐにでもラーイエローに昇格できるレベルの実力だということだが、十代もこれまでにラーイエローやオベリスクブルーの生徒を軒並み倒して来ている。
果たしてレイがどこまで十代に食い下がれるか――と、考えていると、騒ぎを聞きつけたのか、翔と隼人がこちらにやってきた。まぁ、同じレッド寮に住んでいるのだ。あれだけ騒いでいれば気が付いてもおかしくはない。
ただ、レイとの約束もあってあまり目立ちたくはないので、遊矢が静かに――と、いうジェスチャーをすると、二人とも頷いて上から覗くようにデュエルを観戦し出した。
「ボクは、《恋する乙女》を攻撃表示で召喚!」
《恋する乙女》
効果モンスター
☆2 光属性 魔法使い族
ATK400 DEF300 攻撃表示
オレンジ色のドレスを着た長い茶髪の少女が現れる。少女の回りのエフェクトは、如何にもな光やハートに溢れていて、どうやらそれが恋心を表現しているらしい。
翔なんかは、簡単に釣られたようで、「か、かわいい」とデレデレしている。神楽坂の時もそうだったが、女性型モンスターなら何でも可愛いっていうのではないだろうか?
「さらに、リバースカードを三枚セットしてターンエンド」
レイ 手札2枚 LP4000
フィールド 《恋する乙女》
魔法・罠 リバース3枚
VS
十代 手札5枚 LP4000
フィールド なし
魔法・罠 なし
レイがターンを終えると同時、ふと視線を感じた遊矢が振り向くと、いつの間にか亮や明日香も翔達の後ろに来ていた。
聞けば、亮の部屋に女物の髪留めが落ちていたようで、亮はレイが来たと察したらしい。おそらく、十代に女だとバレた時に落として行ったのだろう。
遊矢としても、レイの件もあって、このデュエルが終わった後にでも亮を呼び出すつもりでいたので、逆に来てくれて手間が省けて有難かった。
「俺のターン! 魔法カード、《融合》を発動! 手札のフェザーマンとバーストレディを融合し、《E・HEROフレイム・ウイングマン》を融合召喚だ!」
毎度お馴染みの手札融合を決めて、十代がフェイバリットモンスターを出していく。
《E・HEROフレイム・ウイングマン》
効果モンスター 融合
☆6 風属性 戦士族
ATK2100 DEF1200 攻撃表示
「この瞬間、永続罠、《召喚制限―猛突するモンスター》を発動! このカードがフィールド上に存在する間、モンスターの特殊召喚に成功したプレイヤーはそのモンスターを攻撃表示にする。さらに、そのターン、そのモンスターが攻撃可能な場合は攻撃しなければいけない!」
「攻撃を強要するカード……? よくわからないけど、攻撃しなきゃいけないなら攻撃してやるぜ!」
あからさまな罠だが、十代に躊躇という文字は存在しなかった。
「バトル! フレイム・ウイングマンで、《恋する乙女》を攻撃! フレイム・シュート!」
《E・HEROフレイム・ウイングマン》 ATK2100 VS《恋する乙女》 ATK400
ヒーローが幼気な乙女に攻撃するという最悪な構図だが、これこそレイが待ち望んでいた瞬間だった。
「《恋する乙女》の効果! このカードはフィールドに表側攻撃表示で存在する限り、戦闘では破壊されない!」
「だが、ダメージは受ける!」
「受けないよ! 罠カード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージをゼロにして、カードを一枚ドローする!」
フレイム・ウイングマンの攻撃が完全に決まるも、《ガード・ブロック》によってレイのダメージはゼロとなる。
しかし、ここからがこのデュエルの本番だった。十代の相棒である《ハネクリボー》の精霊が現れ、『あれを見て!』と言わんばかりに、レイのフィールドを指さしている。
「うぇ?」
十代が何かのどに詰まったような声を上げた。
見ると、フレイム・シュートを決めたフレイム・ウイングマンが、泣いている《恋する乙女》にタジタジになっている。
精霊の声が聞こえる十代の耳には、フレイム・ウイングマンの困ったような『お、お嬢さん、大丈夫ですか……?』という探るような声と、『ええ』と微笑みを浮かべる《恋する乙女》の声が聞こえていた。
何をしているんだ――と、思っていると、『よ、よかった!』という安心したらしいフレイム・ウイングマンの茶番のような声が聞こえてきて、そのまま世間話に花を咲かせている。
崖上にいる遊矢には、距離があって流石に声は聞こえなかったが、何やら精霊がおかしな挙動をしているのは確認していた。
「《恋する乙女》のもう一つの効果! このカードを攻撃してきたモンスターに、乙女カウンターを一個乗せるよ」
《E・HEROフレイム・ウイングマン》 乙女カウンター 0→1
どうも、フレイム・ウイングマンが《恋する乙女》に熱を上げているのは、この乙女カウンターとやらのせいらしい。
十代が「しっかりしろ! フレイム・ウイングマン!」と声をかけると、フレイム・ウイングマンも仕事だから仕方ないとばかりに十代のフィールドに戻ってきた。
「全く……俺はモンスターをセット。さらに、永続魔法、《悪夢の蜃気楼》を発動! 最後にリバースカードを一枚伏せてターンエンドだ」
十代 手札0枚 LP4000
フィールド フレイム・ウイングマン、セット1体
魔法・罠 《悪夢の蜃気楼》、リバース1枚
VS
レイ 手札3枚 LP4000
フィールド 《恋する乙女》
魔法・罠 召喚制限、リバース1枚
「ボクのターン、ドロー!」
「この瞬間、《悪夢の蜃気楼》の効果で、デッキからカードを四枚ドロー! さらに速攻魔法、《非常食》の効果で、《悪夢の蜃気楼》を墓地へ送り、ライフを1000回復する!」
十代 LP4000→5000
「なら、ボクはデッキの一番上のカードを墓地へ送り、魔法カード、《アームズ・ホール》を発動! このターン、通常召喚が出来なくなる代わりに、デッキ・墓地から装備カード一枚を選んで手札に加えることが出来る。ボクは、《キューピット・キス》を手札に!」
通常召喚権を捨ててまで、手札に入れた装備カード。遊矢はすぐに、それがレイのキーカードだと察した。
「ボクは装備魔法、《キューピット・キス》を《恋する乙女》に装備! そして、そのままバトル! 《恋する乙女》でフレイム・ウイングマンを攻撃! 一途な思い!!」
《恋する乙女》 ATK400 VS《E・HEROフレイム・ウイングマン》 ATK2100
「攻撃力400で攻撃を仕掛けてくるだって!?」
驚く十代を他所に、《恋する乙女》はフレイム・ウイングマンに向かって真っすぐ走っていく。
再び声が十代に聞こえてくる。『フレイム・ウイングマンさぁ~ん! 私の一途な思いを、受け止めて~っ!』という意味不明な声が。
「この瞬間、永続罠カード、《マジシャンズ・プロテクション》発動! 魔法使い族モンスターがボクのフィールドにいる限り、ボクが受ける全てのダメージは半分になる!」
光に包まれた《恋する乙女》がフレイム・ウイングマンに抱き着こうとするが、攻撃力の差で弾かれ、しりもちをついてしまう。
レイ LP4000→3150
倒れる《恋する乙女》が、涙ながらに『ひ、ひどい……! ひどいわぁ~!』と泣き崩れる。
対するフレイム・ウイングマンは『す、すまない。そんなつもりはなかったんだ!』と、弁解するように《恋する乙女》に近づいていった。
――その瞬間。
ちゅっ――という効果音と共に、《恋する乙女》がフレイム・ウイングマンの頬にキスをする。それが、悪魔の効果の発動だった。
「な、なんだ……?」
「装備魔法、《キューピット・キス》の効果。乙女カウンターが乗っているモンスターを装備モンスターが攻撃し、装備モンスターのコントローラーが戦闘ダメージを受けた時、ダメージステップ終了時に戦闘ダメージを与えたモンスターのコントロールを得る!」
キスをした《恋する乙女》がニヤリと笑みを浮かべると、『ねぇ、私の言うこと……聞 い て く れ る わ よ ね?』と、お願いする。
フレイム・ウイングマンは『勿論!』と即答すると、レイのフィールドに移っていった。
「く、くっそー! フレイム・ウイングマン! お、女の子にメロメロになるなんて、お前それでもヒーローか!?」
「ふふっ、ヒーローだって恋くらいするよ! フレイム・ウイングマンでセットモンスターに攻撃! フレイム・シュート!」
《E・HEROフレイム・ウイングマン》 ATK2100 VS《フレンドッグ》 DEF1200
敵に回った十代のフレイム・シュートによって。全身機械の犬が墓地へと送られていく。
「くっ、《フレンドッグ》の効果発動! このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地から『E・HERO』モンスター一体と《融合》を手札に加える! 俺はバーストレディと《融合》を回収するぜ!」
「ならこっちも、フレイム・ウイングマンの効果! えっと、戦闘で相手を破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える……だよ!」
丁寧にテキストを読みながら、レイがフレイム・ウイングマンの効果を発動した。
十代の目の前にフレイム・ウイングマンが移動し、戦闘で破壊された《フレンドッグ》の攻撃力800が炎として十代にダメージを与えていく。
「ぐぅっ!」
十代 LP5000→4200
「ボクはリバースカードを二枚セットしてターンエンド!」
レイ 手札1枚 LP3150
フィールド 《恋する乙女》、フレイム・ウイングマン
魔法・罠 召喚制限、《マジシャンズ・プロテクション》、《キューピット・キス》、リバース2枚
VS
十代 手札6枚 LP4200
フィールド なし
魔法・罠 なし
「くそっ、調子狂うぜ! 俺のターン!」
ライフこそ優勢ではあるが、フィールドの状況は圧倒的に十代が不利だった。
フェイバリットモンスターであるフレイム・ウイングマンは女の子に翻弄されて寝返り、ヒーローにあるまじき行為をしている。
「なら、こいつで形勢を逆転するぜ! 俺は、再び《融合》を発動! 手札のスパークマンとクレイマンを融合し、《E・HEROサンダー・ジャイアント》を融合召喚する!」
スパークマンとクレイマンが一つとなり、サンダー・ジャイアントへと変身していく。
《E・HERO サンダー・ジャイアント》
効果モンスター 融合
☆6 光属性 戦士族
ATK2400 DEF1500 攻撃表示
「サンダー・ジャイアントの効果発動! 一ターンに一度、手札を一枚捨てることで、フィールド上に存在する元々の攻撃力がこのカードより低いモンスター一体を選択して破壊する! その厄介なモンスターには退場して貰うぜ!」
先程、《フレンドッグ》で回収したバーストレディをコストに、十代は効果で《恋する乙女》を対象に破壊効果を発動させた。
対象に選ばれた《恋する乙女》は『きゃあああああああああああああ!』という悲鳴と共に、サンダー・ジャイアントの雷によって黒焦げにされていく。
「罠カード、《戦線復帰》! 自分の墓地のモンスター一体を守備表示で特殊召喚する! ボクは《恋する乙女》を守備表示で特殊召喚!」
《恋する乙女》
効果モンスター
☆2 光属性 魔法使い族
ATK400 DEF300 守備表示
隣にいたフレイム・ウイングマンが、《恋する乙女》が破壊されたことで、自身の力不足を嘆いていると、再び《恋する乙女》が復活してフレイム・ウイングマンを慰めている。
声無しで上から見ている遊矢ですら、「なんだ、あの状況……?」とツッコミを入れるレベルのヤバさだった。
「この瞬間、永続罠、《召喚制限―猛突するモンスター》の効果で、特殊召喚されたモンスター、《恋する乙女》は攻撃表示になる!」
「上手く躱されたか! ならバトルだ! 俺のヒーローを返して貰うぜ! サンダー・ジャイアントでフレイム・ウイングマンを攻撃! ヴェイパー・スパーク!!」
《E・HEROサンダー・ジャイアント》 ATK2400 VS《E・HEROフレイム・ウイングマン》 ATK2100
「させないよ! 罠カード、《立ちはだかる強敵》! 相手の攻撃宣言時、自分フィールドの表側表示モンスター一体を選択。このターン、相手は選択したモンスターしか攻撃対象に出来ず、相手は全ての表側攻撃表示モンスターで選択したモンスターを攻撃しなければいけない! ボクは《恋する乙女》を選択!」
フレイム・ウイングマンに向かっていたサンダー・ジャイアントの稲妻が逸れ、《恋する乙女》へと向かっていく。
《E・HEROサンダー・ジャイアント》 ATK2400 VS《恋する乙女》 ATK400
「永続罠カード、《マジシャンズ・プロテクション》の効果発動! 魔法使い族モンスターがボクのフィールドにいる限り、ボクが受ける全てのダメージは半分になる!」
それでも、ダメージは受けるということで、サンダー・ジャイアントの攻撃が通る。
「っ!」
レイ LP3150→2150
しかし、攻撃したという事実は消えず、乙女カウンターがサンダー・ジャイアントにも乗せられる。
《E・HEROサンダー・ジャイアント》 乙女カウンター 0→1
「ほら、サンダー・ジャイアントにも乙女カウンターが乗ったよ?」
再び始まる茶番。
フレイム・ウイングマンが『サンダー・ジャイアント! お前はヒーローの癖に、か弱い女性を攻撃するなんて!』と責め立てると、サンダー・ジャイアントも『くっ、俺としたことがなんてことをしてしまったんだ! お嬢さん、申し訳ない』と、膝を付いて倒れ伏す《恋する乙女》に手を出している。
当の《恋する乙女》は、『自分を責めないで。戦うこと、それは宿命なのですから……ねっ』と、サンダー・ジャイアントを手籠めにしていた。
サンダー・ジャイアントの目もハートマークになっており、フレイム・ウイングマン同様に《恋する乙女》にメロメロになっているのは一目瞭然である。
「……俺は、モンスターをセットしてターンエンドだ」
十代 手札2枚 LP4200
フィールド サンダー・ジャイアント、セット1体
魔法・罠 なし
VS
レイ 手札1枚 LP2150
フィールド 《恋する乙女》、フレイム・ウイングマン
魔法・罠 召喚制限、《マジシャンズ・プロテクション》
十代が頭を抱えながらターンを終えるのを見て、遊矢はレイの技量に舌を巻いていた。
「レイはフィールドコントロールやダメージコントロールが抜群に上手いな。大徳寺先生はすぐにでもラーイエローに行けるって言ってたけど、これならオベリスクブルーでも十分通用するんじゃないか?」
「流石の十代も、レイの前にはタジタジだな」
遊矢が感心するようにレイのデュエルを評価する。亮も遠回しに遊矢の感想に同意していた。
それを証明するように、十代も融合モンスターを連続で出しても攻めあぐねている。おまけに、《恋する乙女》なんていう使いにくいモンスターを、サポートカードを駆使して上手く立ち回っているのは、まさに天性の才能と言っていいだろう。
「そりゃ、デュエルのモンスターを夢中にさせることくらい簡単でしょ。初恋の人を追いかけて、遥か南の島まで飛んできちゃうんだもの……」
「えっ、そうだったの!?」
「知らなかったんだな!」
どうやら、明日香はレイの事情をある程度亮から聞いていたらしい。
逆に事情を知らない翔と隼人は、明日香の目線でレイの意中の相手が誰なのかわかったようで驚きの声を上げている。
「しかも、難しい編入試験まで突破してね」
デュエルアカデミアの編入試験は、入学試験の何倍も難しいと遊矢も聞いたことがあった。
「でも、何でわざわざ男子として入ってきたんっすか? 普通にオベリスクブルー女子寮に入ればいいのに」
「確かに、レイの実力なら入れてもおかしくはないんだな」
「男子女子に限らず、オベリスクブルーへの途中編入は基本的に認められていないの。ほら、成績優秀の三沢君でもラーイエローに所属されたでしょ?」
そして、女子はオベリスクブルーに入る以外に入学手段がない。だから、仕方なく男子生徒として入学してきた。全ては亮へ思いを伝えるために。
「恋する乙女は最強だな」
と、遊矢が苦笑いを浮かべて視線をデュエルへ戻すと、自分のターンになったレイが速攻魔法《武装再生》の効果で墓地の《キューピット・キス》を《恋する乙女》に装備させ、一気にバトルフェイズに入ろうとしている所だった。
「よし! バトルだよ! 《恋する乙女》で、サンダー・ジャイアントを攻撃! 一途な思い!!」
《恋する乙女》 ATK400 VS《E・HEROサンダー・ジャイアント》 ATK2400
再び《恋する乙女》が『サンダー・ジャイアントさ~ん!』と、走っていくが、サンダー・ジャイアントの足にぶつかってひっくり返っていく。
「永続罠、《マジシャンズ・プロテクション》の効果で、ボクが受けるダメージは半分になる!」
レイLP2150→1150
そして、レイが戦闘ダメージを受けたことで、装備魔法、《キューピット・キス》が効果を発動した。
茶番が再開され、ひっくり返った《恋する乙女》が座り込んで『ひ、ひど~い!』と泣き叫んでいる。そんな《恋する乙女》に、サンダー・ジャイアントが困ったような顔で「す、すまない」と声を上げると、《恋する乙女》がそっとその足にキスをした。
フレイム・ウイングマンと違ってサンダー・ジャイアントは大きいので、届かないと判断したのだろうが、それでも効果は発揮するらしく、『私の為に、戦 っ て く れ ま す か?』という問いに、『もちろんだ!』と即答している。
同時に、サンダー・ジャイアントもフレイム・ウイングマン同様にレイのフィールドに移動していった。
「続けて、フレイム・ウイングマンでセットモンスターを攻撃!」
《E・HEROフレイム・ウイングマン》 ATK2100 VS《E・HEROワイルドマン》 DEF1600
セットモンスターはワイルドマン。守備力は1600であり、当然のようにフレイム・ウイングマンのフレイム・シュートで焼却されていく。
そして、その効果により、ワイルドマンの攻撃力1500が十代のライフから削られていった。
「ぐぅっ!!」
十代 LP4200→2700
「さらに、サンダー・ジャイアントでダイレクトアタック! ヴェイパー・スパーク!」
《E・HEROサンダー・ジャイアント》 ATK2400 VS十代 LP2700
壁モンスターもリバースカードもない十代に、サンダー・ジャイアントの稲妻が襲い掛かっていく。
「くっ! やるなぁ!」
十代 LP2700→300
「ボクはリバースカードを一枚セットして、ターンエンド」
レイ 手札0枚 LP1150
フィールド 《恋する乙女》、フレイム・ウイングマン、サンダー・ジャイアント
魔法・罠 召喚制限、《マジシャンズ・プロテクション》、《キューピット・キス》、リバース1枚
VS
十代 手札2枚 LP300
フィールド なし
魔法・罠 なし
「どう? 恋する女の子は最強なんだから!!」
そう言って、レイが被っていた帽子を捨て、その長い髪を靡かせた。
同時に、ターンが十代に移り、精霊の《ハネクリボー》が十代のことを心配そうに見ている。
「大丈夫だって。どんなに、恋する女の子が最強でも、ヒーローは絶対に負けない。俺のターン、ドロー!」
十代がデッキからカードをドローしていく。それを見て、何となく察したのか、「多分、このターンでデュエルは終わるな」と、遊矢が呟いた。
そんな遊矢の勘を認めるかのように、十代はドローカードをそのままデュエルディスクに差し込んでいく。
「魔法カード、《天使の施し》! デッキからカードを三枚ドローし、二枚を捨てる!」
手札入れ替えによって、有効なカードを引き込めたのか、十代の表情に笑みが浮かぶ。
「速攻魔法、《融合解除》! 奪われたサンダー・ジャイアントの融合を解除し、その素材となったモンスターを俺のフィールドに特殊召喚する!」
元々、サンダー・ジャイアントは十代のモンスター故に、EXデッキに戻したモンスターの融合素材に使ったモンスター一組を特殊召喚するという効果は問題なく適応される。
目がハートになって寝返っていたサンダー・ジャイアントは分離し、元々のスパークマン、クレイマンとなって再び十代のフィールドに蘇った。
《E・HEROスパークマン》
通常モンスター
☆4 光属性 戦士族
ATK1600 DEF1400 攻撃表示
《E・HEROクレイマン》
通常モンスター
☆4 地属性 戦士族
ATK800 DEF2000 守備表示
「永続罠、《召喚制限―猛突するモンスター》の効果で、特殊召喚されたモンスターは攻撃表示になり、このターン攻撃しなければいけない!」
「おっと、そうだったっけ」
守備表示だったクレイマンが強制的に攻撃表示へと変更されていく。
「けど、問題ないぜ! お楽しみは、これからだ!」
と、まるで遊矢のようなセリフを口にする。
「俺は手札から魔法カード、《R-ライトジャスティス》を発動! 自分フィールドの『E・HERO』モンスターの数だけ、フィールドの魔法・罠カードを破壊できる!」
「対象を取らない効果か……なら、発動にチェーンして、リバースカード、《ダメージ・ダイエット》を発動! このターン、ボクの受けるダメージは半分になる!」
「なら、続いてこっちの効果だ! 俺のフィールドにはスパークマンとクレイマンがいる! よって、永続罠、《マジシャンズ・プロテクション》と《召喚制限―猛突するモンスター》を破壊する!」
永続罠二枚を破壊したが、保険として伏せられていた《ダメージ・ダイエット》によって、《マジシャンズ・プロテクション》がなくてもダメージは半減させられることになった。
また、永続罠、《マジシャンズ・プロテクション》にはフィールドから墓地に送られた時に墓地の魔法使い族モンスターを蘇生する効果があったが、今、レイの墓地には魔法使い族モンスターがいないので効果は発動していない。
「ダメージ勝ちを狙おうとしたみたいだけど、これで仮にスパークマンとクレイマンで《恋する乙女》を攻撃しても、ボクのライフはまだ残るよ?」
「だな。新しい仲間を呼ぶっきゃねーか」
「新しい、仲間……?」
「俺は、レベル4のスパークマンとクレイマンでオーバーレイ!!」
「あっ、エクシーズ召喚!!」
レイも新システムについては知っているらしく驚いたような声を上げる。どうやら、レイはまだエクシーズ召喚を生で見たことはないようだった。
「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 新たな英雄よ、逆境を跳ね返す力をその手に、平和への礎となれ! エクシーズ召喚!!」
十代がEXデッキからカードを引き抜く。思えば、ナンバーズが関わっていないデュエルで十代がナンバーズを使うのは、これが初めてかもしれない。
「――現れろ、《№39希望皇ホープ》!!」
《№39希望皇ホープ》
効果モンスター エクシーズ
ランク4 光属性 戦士族
ATK2500 DEF2000 攻撃表示
肩に39という数字を刻んだ二刀の光の戦士が降臨する。
だが、ナンバーズまで出すということは、それだけ十代も追い詰められたという証拠でもあった。
「で、でも、《№39希望皇ホープ》の攻撃力は2500……仮に、《恋する乙女》を攻撃しても、このターンのダメージは半分になるからギリギリライフは残るよ!」
ホープと《恋する乙女》の攻撃力差は2100。ダメージを半分にされると1050となり、残り1150のレイのライフをギリギリ削り切れない。
「なら、バトル! ホープで《恋する乙女》を攻撃!」
《№39希望皇ホープ》 ATK2500 VS《恋する乙女》 ATK400
ホープが腰の二本の件を抜き、《恋する乙女》へと斬りかかっていく。
「《ダメージ・ダイエット》の効果で、ボクの受けるダメージは半分に――」
「この瞬間、ホープの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、攻撃を無効にする!」
ホープのオーバーレイユニットが一つ消費され、《恋する乙女》に当たる直前で剣が引かれていった。
「こ、攻撃を無効に……? なんで!?」
「このためさ! 速攻魔法、《ダブル・アップ・チャンス》発動! モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を二倍にしてもう一度攻撃が出来る!」
「攻撃力を二倍!?」
「乙女カウンターを乗せる効果も、ライフがゼロなら意味はないだろ! いけぇ、ホープ! ホープ剣・ダブルスラッシュ!!」
《№39希望皇ホープ》 ATK2500→5000 VS《恋する乙女》 ATK400
攻撃力が二倍になり、5000となったことで《ダメージ・ダイエット》で半減されたとしても、レイに与えるダメージは2300となる。
ライフ1150のレイにこれを耐え切ることは出来ず、ホープの一撃でデュエルは決着となった。
「きゃあああああああああああああっ!」
レイ LP1150→0
勝敗が着くと同時に、ソリッドビジョンが解除されていく。
「ガッチャ、楽しいデュエルだったぜ」
最終的に勝ったということで、十代が決めゼリフを決めた。
「十代、ボクは……」
「言わなくていい。いや、それより先の話は、俺じゃなくて後ろで見ていた奴にしてやんな」
そう言う十代の視線の先には、遊矢、亮、明日香、翔、隼人のデュエルを観戦していた五人が立っている。
遊矢がデュエルの終わりを予期したタイミングで、亮が下に降り始めたので全員で後について行ったのだ。
「亮様!」
案の定、レイには亮しか見えていないようで、頬を紅くして見つめている。否、見ているだけでは済まなかった。如何に、自分が亮を好きなのかを全力で伝えていく。
流石のカイザーも、恋する乙女の勢いには負けるのか、「う、うむ」と言葉を詰まらせていた。
そんな亮を見て、明日香が助け舟を出すが、レイには恋のライバルにしか見えないようで逆に睨みつけられている。確かに、明日香は亮といることが多いので、そう勘違いする人間がいるのも間違いではなかった。
「レイ、お前の気持ちは嬉しい」
「亮様!」
「でも、今の俺は自分のことで精一杯なんだ。カイザーなどと呼ばれているが、俺はそこの遊矢にまだ一勝もしていない未熟者だ。今は、デュエルに集中して少しでも強くなることしか考えられない。すまないな」
そう言って、亮はレイが部屋に落としていった髪飾りを返していく。
「レイ、故郷に帰るんだ」
「ちょっと待った! そこまで言わなくてもいいだろ! レイだってせっかくアカデミアに編入してきたんだぜ!?」
「……レイはここに居られない。彼女はまだ小学五年生だ」
十代がレイを庇おうとしたが、亮から発せられた衝撃の新事実に逆に言葉を失う。
小学五年生――つまり、遊矢の世界で言えば、フトシ達と同じジュニアのランクということだ。
「へ、へへへへ……」
本人も、これは誤魔化せないと悟ったようで、困ったように笑っている。
基本的にデュエルアカデミアには飛び級という概念はない。つまり、レイは編入試験の際に書類を改竄してきたということだ。
それも、年齢と性別の二つも。
性別だけならまだ何とかなったかもしれないが、年齢だけはどうしようもない。聞けば、両親にも黙って出てきたということで、親御さんが心配しているのは間違いなかった。
「な、なんだよ……俺、小学生にあんなに苦戦したのかよぉ」
かなり本気でデュエルして負けそうになった十代がショックを受けたような声を出す。
それを見て、レイが慰めるように、「ごめんね、十代。がっちゃ、楽しいデュエルだったよ」と声をかけていた。
◇◆
結局、レイは次の日の定期便で帰ることになり、来年小学校を卒業したらまた編入試験を受けると言っていた。
その頃にはもう卒業して亮はいないはずだが、どうやら昨日のデュエルで、恋のターゲットが亮から十代に移ったようで、「待っててね、十代様~」と声を上げている。
それを聞いて、ホッと一安心したような顔の亮が「後は任せる」と一抜けし、翔が続いて「じゃあ、アニキ。僕ら帰るから」と二抜け。隼人も「しっかり見送るんだな」と他人事で、明日香も「船が見えなくなるまで見送るのよ」と言って去って行った。
苦笑いを浮かべて船を見送る十代を置いていくのは流石に忍びないので、仕方なく遊矢も付き合って一緒に船を見送る。思えば、自分はレイって名前の女には振り回されっぱなしだな――と、遊矢が思ったのは、船が小さくなって見えなくなってきた頃のことだった。
原作との変化点。
・#20『恋する乙女は強いのよデッキ!』より、レイのデュエリストレベルを上げた。
実際、今のデュエルアカデミアに編入してくるなら、これくらいのプレイングが出来て当たり前。ただ、次に出す時はどんなデッキにしようか困っている。
・恋する乙女とキューピットキスは未OCG
ただ、タッグフォースやデュエルリンクスでは実装されているのでオリカではない。あらすじの未OCGはこいつのためだけのもの。最初は話をスキップすることも考えたが、どうしてもレイを出したかったので恋する乙女を採用した。
・遊矢がレイを気にかけていた。
名前繋がりで、レイには弱い。ただ、レイの方も遊矢は頼りになるお兄ちゃんという感じで、互いに恋愛感情はゼロ。
明日は祝日なので、朝8時と夜20時で一話ずつ上げます。十代VS三沢の前編と後編です。