榊遊矢のGX次元漂流記   作:おこむね

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#029 『今度こそ俺と一緒に戦ってくれ』

 ――今でも、その夢を見る。

 もしかしたら、あのデュエルを見た時、いつか自分はこうなってしまうのだと予期していたのかもしれない。

 あの高等部の入学試験――外部から来るであろう優秀な生徒を品定めしていた自分の価値観を、突如として破壊していった榊遊矢のデュエルを見た時から。

 

 それまでの自分こと――万丈目準は、良く言えば自信に満ち溢れ、悪く言えば慢心していた。

 中等部でもトップの成績を収め、高等部でも一年で自分に勝てる奴などいない。いずれはカイザーすら退けプロとなり、二人の兄達と共に政界、財界、カードゲーム界のトップに立つという夢を叶えるのも、そう遠いことではないと思っていた。

 

 だが、そんな夢への道は容易く打ち砕かれる。

 

 シンクロ、エクシーズという新システムの導入――また、それに伴った環境の変化により、力こそが全てだった自分の世界は終焉を迎えた。

 榊遊矢に負けてから、まるで自分がパズルのようにバラバラになってしまったと感じる。

 遊城十代とのデュエルも、謎の力で操られてしまって殆ど記憶がないが、カードの発動を封じるという強力なモンスターを使っても負けたらしい。

 

 そうして、徐々に負けが増える度に――

 

 ――今度は、勝ち方がわからなくなっていく。

 

 それでも、同じオベリスクブルーの連中にだけは意地でも負けなかったが、強敵相手にどうやって戦えばいいかわからなくなってしまった。

 そんな中で、負ければラーイエローに降格するという三沢とのデュエルが行われることになり、兄達との約束が果たせなくなることに恐怖する。

 これ以上の無様は晒せない。

 最初はなりふり構わず、三沢のカードを捨ててでも不戦勝をもぎ取ろうかとも考えたが、ペガサス会長が自分のために作ったというカードを見ていると、それは無様を晒す以上の恥だということに気が付いた。

 

 生き残るには、正々堂々とデュエルをして勝つしかない。だが、もし負けたら兄達の期待は――と、考えると、プレッシャーで体が震えていく。

 今にして思えば、前に榊遊矢が言った「怯えるな」というのは、兄達の期待というプレッシャーに飲まれるなという意味もあったのかもしれない。

 しかし、この時の俺はそんなことにも気づかずに、見えない兄弟のプレッシャーに飲まれ三沢の前に散った。ラーイエローへの降格など、認められるはずもなく、デュエルアカデミアを飛び出したが、その結果――嵐に飲まれて船は座礁し、現在自分以外の船員は行方不明となっている。

 

「ちっ、水もこれで最後か……」

 

 ペットボトルに入っていた水もなくなり、いよいよ生命の危機に陥っていた。

 そんな極限状態の中、段々と榊遊矢や遊城十代の幻聴が自分に、デュエルアカデミアに戻って来いと甘い言葉をかけてくる。

 誰のせいでこんなことになっていると思ってるんだ――と、思わず内心で悪態をついていると、鯨でも近くに現れたのか、高波に船が呑み込まれ、万丈目は再び海へと流されていった。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 次に意識が戻った時、最初に聞こえたのはデュエルで良く聞くドラゴンの鳴き声だった。

 続けて、誰かを『アニキ~』と呼ぶ、薄気味悪い声が聞こえ、段々と万丈目の目が覚めていく。

 

「こ、ここは……?」

「目が覚めたようだな」

 

 自分が暗く狭い場所にいる――と、認識した瞬間、どこかから声をかけられる。

 振り返ると、頭に大量のワカメを被り、仮面とマフラーで顔を隠した謎の人物がカードを手に座っていた。

 

「どこだここは? 鯨の腹の中か?」

「フッ、ここがどこかなどどうでも良かろう」

「どうでもいい訳……って、おいワカメお化け。お前が持っているのは俺のデッキか?」

 

 見れば、腕のデュエルディスクにカードがない。目の前の人物が持つカードが万丈目のデッキと見る方が自然だろう。

 

「そうだが、これはもうダメだ。水に濡れて使い物にならん」

 

 そう言うと、ワカメお化けはカードを地面に落とす。代わりに、一枚のカードを万丈目に向かって飛ばした。

 

「何だこのクズカードは……」

 

 渡されたのはステータスも貧弱で絵柄も悪い弱小モンスターだった。

 いらぬと、即座にカードを捨てようとする万丈目だが、ワカメお化けは「そのカードを捨てたら後悔するぞ」と慌てて止めてくる。

 聞けば、この近くにはデュエルアカデミアノース校があり、そこで戦うには40枚のカードが必要らしい。まぁ、デュエルにデッキが40枚必要なのは当然だし、今の万丈目はデッキを失ってカードが一枚もなかった。

 とはいえ、別にどうしてもノース校で戦わなければいけないというルールがある訳ではない。だが、ワカメお化けに「逃げるのか?」と問われると、急に怒りが込み上げてきた。

 

 頭に敗北の記憶が蘇ってきたのだ。

 

 また、デュエリスト万丈目準として残された僅かなプライドが、ここから逃げるという選択肢を捨てさせた。

 ここが底辺だというのであれば、這い上がってやる。

 聞けば、ノース校の回りにはカードが散らばっており、強いカードほど危険な場所にあるらしい。しかし、その程度の危険など怖がる万丈目ではなかった。

 

 もはや恐怖などないとばかりに、一面銀世界の地に降り立ち、断崖絶壁を駆け上がり、猛獣と戦い、極寒の海を越えてカードを39枚まで集める。

 だが、どこを探しても最後の一枚が見つからない。

 ここまでか――と、万丈目の頭に諦めがよぎると、再びドラゴンの声が万丈目を導いた。

 

 そういえばと、胸ポケットを確認する。そこにはデュエルアカデミアから離れる際に遊矢から渡された、ペガサス会長が自分のために作ってくれたという一枚のカードが眠っていた。

 

「……一度は抜いた。けど、それは俺が弱かったからだ」

 

 三沢とのデュエルでは、このカードは自分に相応しくないと言い訳して向き合うことが出来なかった。

 あのペガサス会長が、自分のためだけに作ったカード――その重さに耐えきれず逃げ出してしまった。

 今の自分は、このカードに相応しくない。その思いは今でも続いている。しかし、這い上がるには、このカードがどうしても必要だった。

 

「今度こそ、俺と一緒に戦ってくれ……《光と闇の竜》」

 

 もう逃げない――相応しくないというなら、相応しいデュエリストになるまでのことだ。

 

 そんな不屈の覚悟に、再び耳に心地よいドラゴンの鳴き声が聞こえてくる。

 

『ねぇ、アニキ~。オイラのことも忘れないでおくれよ~』

 

 同時に、ワカメお化けに無理矢理渡された雑魚カードの精霊が万丈目の目の前に現れた。

 万丈目はいつの間にか、デュエルモンスターズの精霊を見る力を手に入れていたらしい。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 雑魚カードの精霊こと《おジャマ・イエロー》は、生き別れの兄弟を探しているということだったが、今の万丈目はそれ所ではなかった。

 カードを40枚集めた万丈目は、勇んでデュエルアカデミアノース校に殴り込みに行く。

 都合がいいことに、ノース校には、新入生歓迎の挨拶として、死の50人抜きデュエルなるものがあるらしい。序列が下の人間から順番に戦っていき、負けた所でランクが決まるということだ。

 だが、万丈目は負ける気などさらさらなかった。

 このデッキは、前のVWXYZデッキに比べれば、遥かにパワーが劣るし、デッキ構成としても甘すぎる。それでも、今自分にあるカードで、出来ることを、可能性を模索した。

 戦術や戦略を駆使することで、雑魚カードでも使えるのだということを証明していく。皮肉なことにその姿は、パワーこそ全てと言っていた頃の自分とはまるで逆の姿だった。

 モンスターと魔法のコンボ。相手のフィールドを逆利用した罠。純粋な数によるビート等、様々な手段でノース生をボコボコにしていく。

 そうして最後に残ったのは、お山の大将――ここではキングと呼ばれているらしい江戸川という男だけとなった。しかし、万丈目もここまで来るまでにデッキの殆どを見せてしまっている。

 

「もはや、貴様のデッキは見切ったぞ。それでもデュエルするのか?」

「笑わせるな。俺はもう前に進む以外に道はない!」

 

 だが、そんな万丈目に対して、ワカメお化けに渡されたカード、《おジャマ・イエロー》の精霊が『もう止めようよアニキィ……二番でも良いじゃない』と、弱気なことを口にしていた。

 

「黙っていろ雑魚め。俺はこんな所で立ち止まっている訳にはいかないんだ!!」

「言ってくれるじゃないか。ならば、負けて俺の小間使いになるがいい!!」

「「デュエル!!」」

 

 本来なら《おジャマ・イエロー》に向かって言った言葉だったが、どうやら向こうのキングに言ったことだと勘違いされたらしい。

 しかし、万丈目は撤回しなかった。言ったことは事実だったからだ。

 

「俺のターン!」

 

 先攻は江戸川。おまけに、万丈目は手の内の大半がバレているということで、圧倒的に不利な状況でデュエルはスタートする。

 

「魔法カード、《デビルズ・サンクチュアリ》を二枚発動! 《メタルデビル・トークン》二体を特殊召喚する!」

 

 《メタルデビル・トークン》×2

 トークン

 ☆1 闇属性 悪魔族

 ATK0 DEF0 攻撃表示

 

 前に万丈目も利用したことがあるカード。召喚権を使わずにリリース要員を作れるので、使い勝手のいいカードだった。

 

「そして、二体のメタルデビル・トークンをリリースして、《デビルゾア》をアドバンス召喚!!」

 

 《デビルゾア》

 通常モンスター

 ☆7 闇属性 悪魔族

 ATK2600 DEF1900 攻撃表示

 

 全身が水色で、まさに悪魔というべき風貌をしている。また、攻撃力も2600とかなり高く、今の万丈目のデッキでは殆どのモンスターがその力に敵わなかった。

 

「ふっ、貴様のデッキが雑魚モンスターしかいないことなど既に把握済みよ」

「じゃあ、その雑魚に倒される貴様は雑魚以下だな」

「減らず口を! 俺はカードを二枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 江戸川 手札1枚 LP4000

 フィールド 《デビルゾア》

 魔法・罠 リバース2枚

 

 VS

 

 万丈目 手札5枚 LP4000

 フィールド なし

 魔法・罠 なし

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたのは《おジャマ・イエロー》だった。

 精霊が宿っているせいなのか、高確率で最初の方に手札に来る。しかし、イエロー単品のステータスはゴミ同然。使いようがない。

 

「俺は、モンスターをセット。カードを二枚伏せてターンエンドだ」

 

 またべちゃくちゃうるさい口を開く前に、《おジャマ・イエロー》をセットする万丈目。

 これでフィールドにセットされてしまったため、《おジャマ・イエロー》は口を開くことが出来なくなってしまった。

 

 

 万丈目 手札3枚 LP4000

 フィールド セット1体

 魔法・罠 リバース2枚

 

 VS

 

 江戸川 手札1枚 LP4000

 フィールド 《デビルゾア》

 魔法・罠 リバース2枚

 

 

「どうした? もう手詰まりか!? 俺のターン!!」

 

 デュエル前の煽りが程よく効いているようで、かなり攻め攻めになってきている。

 万丈目も、この状況を打破するための手は既に打っていた。後は相手がそれに乗ってくれるかどうか――

 

「俺はリバースカードオープン! 罠カード、《メタル化・魔法反射装甲》を《デビルゾア》に装備! 攻撃力300ポイントアップ!」

 

 《デビルゾア》 ATK2600→2900

 

 全身がメタル化し、《デビルゾア》が機械へと姿を変える。シルエット以外に面影はなく、とても同じモンスターには見えなかった。

 

「さらに、このカードを装備した《デビルゾア》をリリースし、デッキから《メタル・デビルゾア》を特殊召喚!!」

 

 《メタル・デビルゾア》

 効果モンスター

 ☆8 闇属性 機械族

 ATK3000 DEF2300 攻撃表示

 

 姿形はメタル化した《デビルゾア》、そのままと言っていいだろう。しかし、攻撃力が僅かに100だけ高い。

 

「攻撃力3000……!」

「まだまだ! リバース罠、《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地の《デビルゾア》を特殊召喚する!」

 

 《デビルゾア》

 通常モンスター

 ☆7 闇属性 悪魔族

 ATK2600 DEF1900 攻撃表示

 

 墓地より、再び《デビルゾア》が蘇った。これで、相手のフィールドには、攻撃力2600と3000のモンスターが並んだ。

 

「どうだ? これで勝ち目がないということがわかったんじゃないか? 万丈目」

「万丈目さんだ! いいからさっさとかかってこい!!」

「へっ、バトルだ! 《デビルゾア》でセットモンスターを攻撃! デビル・エックス・シザース!!」

 

 《デビルゾア》 ATK2600 VS《おジャマ・イエロー》 DEF1000

 

 表になった《おジャマ・イエロー》が『酷いよ、アニキ~』と叫びながら粉砕されていく。

 

「これで雑魚モンスターはいなくなった! 《メタル・デビルゾア》でダイレクトアタック! メタル・エックス・シザース!!」

 

 《メタル・デビルゾア》 ATK3000 VS万丈目 LP4000

 

 二枚あるリバースカードで攻撃を防ぐかとも思ったが、万丈目は素直に《メタル・デビルゾア》の一撃を受けた。

 

「ぐっ!」

 

 万丈目 LP4000→1000

 

「……お前が《デビルゾア》を出した時から、この時をずっと待っていたぜ。速攻魔法、《ヘル・テンペスト》! 自分が3000以上の戦闘ダメージを受けた時、互いのデッキ・墓地のモンスターを全て除外する!」

「なにっ!?」

 

 正直、《メタル・デビルゾア》よりも、メタル化を装備した《デビルゾア》の方が使い勝手はいいのだが、《デビルゾア》にメタル化を装備して《メタル・デビルゾア》を出さないデュエリストなど存在しない。

 万丈目は、ワンターン目に《デビルゾア》が出てきた時点で、こうなることを読み切っていた。

 

「俺様の手の内は既に把握済みだったな? ならば、モンスターなど全て除外してくれる!」

 

 デュエルモンスターズにおいて、モンスターカードが占める割合は、凡そ5割から7割。中にはモンスターだけだったり、逆に少なかったりする構築もあるが、大半はモンスターカードを中心としている。

 その大半を除外。まさか、デッキ破壊――と、江戸川が思考するが、だとしても既にフィールドの展開は終わっており、次のターンの総攻撃で終わりな以上、もはやデッキ破壊をされた所で意味はなかった。

 

「結局は無駄な足掻き! 俺はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

 

 江戸川 手札1枚 LP4000

 フィールド 《メタル・デビルゾア》、《デビルゾア》

 魔法・罠 リビングデッド、リバース1枚

 

 VS

 

 万丈目 手札3枚 LP1000

 フィールド なし

 魔法・罠 リバース1枚

 

 

「俺のターン、ドロー! 魔法カード、《強欲な壺》! デッキからカードを二枚ドローする!」

 

 とはいえ、あくまでも引いたから使ったに過ぎない。既に万丈目の手には、必殺のコンボが完成していた。

 

「このターンで、終わりだ! 魔法カード、《カオス・エンド》! 自分のカードが7枚以上除外されている場合に発動可能。フィールドに存在する全てのモンスターを破壊する!」

「このために、カードを除外したのか!」

 

 今、フィールドには《メタル・デビルゾア》と《デビルゾア》しか存在していない。

 自分のフィールドにモンスターのいない万丈目は、大した痛手もなく高レベルモンスター二体を除去することが出来た。

 

「さらに、リバースカードオープン! 罠カード、《異次元からの帰還》! ライフを半分支払って、除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する!」

 

 万丈目 LP1000→500

 

「蘇れ! 雑魚共!!」

 

 《円盤闘士》

 効果モンスター

 ☆4 地属性 戦士族

 ATK1000 DEF1000 攻撃表示

 

 《KA-2 デス・シザース》

 効果モンスター

 ☆4 闇属性 機械族

 ATK1000 DEF1000 攻撃表示

 

 《ヂェミナイ・デビル》

 効果モンスター

 ☆4 闇属性 悪魔族

 ATK1000 DEF1000 攻撃表示

 

 《スカル・ナイト》

 効果モンスター

 ☆3 闇属性 悪魔族

 ATK1000 DEF1200 攻撃表示

 

 《おジャマ・イエロー》

 通常モンスター

 ☆2 光属性 獣族

 ATK0 DEF1000 攻撃表示

 

 除外されていたモンスター達がフィールドに戻ってくる――中、一つおかしな所があった。

 

「おい! 攻撃力0が戻って来て何の役に立つ!?」

 

 本来であれば、攻撃力の比較的高い《巨大ネズミ》を最後に選んだはずだったが、同じ獣族ということで、出番を譲って貰ったらしい。

 しかし、攻撃力0のモンスターを攻撃表示など壁にもならなかった。当の本人は、『アニキ~、そんなこと言わないでおくれよ~』と泣きついている。

 

「ええい、仕方ない。残りのモンスターで総攻撃だ。貴様が馬鹿にした攻撃力1000の雑魚も4体居れば十分――」

「だが、そう簡単にはいかん! 罠カード、《逆さ眼鏡》! フィールドに存在する全てのモンスターの攻撃力をエンドフェイズまで半分にする!」

「なんだと!?」

 

 フィールドのモンスターに謎の眼鏡が逆さまにつけられ、攻撃力が半減していく。

 

 《円盤闘士》 ATK1000→500  《KA-2 デス・シザース》 ATK1000→500 《ヂェミナイ・デビル》 ATK1000→500 《スカル・ナイト》 ATK1000→500  《おジャマ・イエロー》 ATK0→0  VS江戸川 LP4000

 

「これで、総攻撃を受けても俺のダメージは2000で済む」

 

 江戸川 LP4000→2000

 

「ええい! 攻撃力0め! とことん役に立たんな!」

『酷いよ、アニキ~』

 

 憤慨する万丈目をしり目に、江戸川は手札を見て笑みを浮かべた。

 残された一枚の手札は《死者蘇生》。次のターン、このカードで墓地の《メタル・デビルゾア》を蘇生して雑魚モンスターを蹂躙すればデュエルは自分の勝利で終わる。そんな決着が見えたことで、つい笑みが浮かんでしまった。

 

「フン、何をニヤニヤしている! 言っただろう、このターンで終わりだと!」

 

 そう言って、万丈目は一枚のカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「速攻魔法、《ライバル・アライバル》! 自分、又は相手のバトルフェイズに発動し、モンスター一体を召喚できる!」

「なっ!? し、しかし、お前のフィールドには既にモンスターが五体居る! 雑魚モンスターを並べることは出来んぞ!」

「雑魚モンスターだと? 悪いが、俺は一言も雑魚モンスターしか持っていないなどと言った覚えはない!」

「ま、まさか……その残りの手札は――」

 

 万丈目の使用した《ヘル・テンペスト》によって、デッキ・墓地のモンスターは全て除外された。

 つまり、残されたモンスターは今のフィールドにいるモンスターか手札のみということになる。

 万丈目はずっと持っていたのだ。このデュエルだけではなく、全てのデュエルで、《おジャマ・イエロー》と同じくらいの頻度で手札に来る、この最強のモンスターを。

 

「今こそ、見せてやる! 俺は、雑魚二体をリリース!」

 

 そうして選ばれたのは《おジャマ・イエロー》と《スカル・ナイト》だった。

 しかし、《おジャマ・イエロー》は華麗なフットワークで、リリース要員を《ヂェミナイ・デビル》にバトンタッチして回避している。何とも無駄な根性だ。

 

 万丈目がカードに手をかける。

 

 覚悟は決めた。俺はこいつと共に、今度こそ頂点へと駆けあがってやる――そんな気持ちがリンクし、カードが光輝く。

 

「な、なんだ……この光は!?」

「――我が道を切り開け! 出でよ、《光と闇の竜》!!」

 

 《光と闇の竜》

 効果モンスター

 星8 光属性 ドラゴン族

 ATK2800 DEF2400 攻撃表示

 

 神々しいほどの光を身に纏い、その竜はフィールドに降臨した。

 顔から足まで、縦半分が白で半分が黒。尻尾だけが二つに分かれ、これも片方は白で片方が黒。天使と悪魔が共存しているかのようなその姿は、神秘的な美しさすら感じた。

 竜が咆哮を上げる。

 思わず、江戸川の腰が抜けてしまった。攻撃力だけなら《メタル・デビルゾア》の方が上だ。だが、見えずとも感じられる精霊の力で、カードとしての格が違うと、直感的にわかってしまったのだ。

 

「バトルフェイズ中の召喚だ。当然、追加攻撃が出来る。そして、貴様の《逆さ眼鏡》も、発動後に召喚されたモンスターには効果を及ぼさない。これで終わりだ」

 

 江戸川の残りライフは2000。対する《光と闇の竜》の攻撃力は2800。子供でも結果がわかる状況だった。《光と闇の竜》がとどめを刺さんがばかりに、口にブレスを貯めていく。

 

「く、くそ……」

 

 無念そうに手札に視線を送る江戸川。

 次のターンになれば勝てた。そういう顔だった。

 

「……いや、気が変わった。慈悲をくれてやる。貴様にターンを回してやろうじゃないか。これでターンエンドだ」

 

 だが、万丈目はバトルフェイズをキャンセルし、そのままターンを終えた。

 エンドフェイズに入ったことで《逆さ眼鏡》の効果も切れ、万丈目のモンスターの攻撃力が元に戻り、《異次元からの帰還》の効果も切れてモンスターが再び除外される。

 

 《円盤闘士》 ATK500→1000

 《KA-2 デス・シザース》 ATK500→1000

 《おジャマ・イエロー》 ATK0→0

 

「……えっ?」

「聞こえなかったか? ターンエンドだ」

 

 万丈目が重ねてエンド宣言したことで、心配そうにこちらを見て居た『おジャマ・イエロー』も他のモンスターと共にフィールドから消えていく。

 

 

 万丈目 手札2枚 LP500

 フィールド 《光と闇の竜》

 魔法・罠 なし

 

 VS

 

 江戸川 手札1枚 LP2000

 フィールド なし

 魔法・罠 なし

 

 

 攻撃すれば勝ちの状況で、万丈目は攻撃しなかった。

 勝ちが見えたことで油断したのだ。一転して、自分のターンが回り、江戸川は笑みを浮かべて立ち上がる。奴は慢心した。それが、自分を勝利に導いたのだ。

 

「何が慈悲だ! 馬鹿め! 俺のターン! 魔法カード、《死者蘇生》! 墓地の《メタル・デビルゾア》を復活させ――」

「《光と闇の竜》の効果! 攻撃力と守備力を500ポイント下げることで、カードの発動を無効にする!」

 

 《光と闇の竜》 ATK2800 DEF2400→ATK2300 DEF1900

 

 裁きの光が、カードの発動を無効にする。《死者蘇生》はその効果を発動せず、直接墓地へと送られていった。

 

「――はぇ?」

「さて、それで終わりか?」

「ま、まだだ! 魔法カード、《強欲な壺》でカードを二枚――」

「《光と闇の竜》の効果! 攻撃力と守備力を500ポイント下げることで、カードの発動を無効にする!」

 

 《光と闇の竜》 ATK2300 DEF1900→ATK1800 DEF1400

 

 再び、裁きの光によって、カードの発動が無効にされる。残りの攻守を見るに、後二回はカードの発動を無効にできるということだ。

 しかし、江戸川の手札は0枚。もはや、何もすることは出来ない。

 

「あ、あぁ……?」

「で、終わりか? まぁ、手札がない以上、ターンエンドするしかないだろうがな」

 

 無言の肯定で、ターンが終了する。もはや、江戸川は戦意を喪失していた。

 

 

 江戸川 手札0枚 LP2000

 フィールド なし

 魔法・罠 なし

 

 VS

 

 万丈目 手札2枚 LP500

 フィールド 《光と闇の竜》

 魔法・罠 なし

 

 

 慈悲――と、言いつつ、それは死刑宣告だった。

 万丈目の《ヘル・テンペスト》によって、お互いのデッキにはもうモンスターが存在していない。つまり、高い攻撃力を持つ新モンスターを召喚されて、雑魚モンスターを攻撃される心配はなかった。

 また、魔法・罠・効果モンスターの効果は全て、《光と闇の竜》で無効にできる。仮に最大まで効果を使わされたとしても、攻撃力1000のモンスターが二体居れば勝負はつく。つまりは、相手に絶望を刻むための一ターンだったのだ。

 相手にはまだ自分のターンになりさえすれば勝てたのに――という、未練のようなものがあった。だからわからせる必要があったのだ。そんなものなどない。貴様に希望など最初からなかったのだと。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は《光と闇の竜》に対し、速攻魔法、《収縮》を発動! さらに《光と闇の竜》の効果で攻撃力と守備力を500ポイント下げ、《収縮》を無効にする!」

 

 一見、無駄なカードの発動に見える。だが、これこそが万丈目の勝利への一歩だった。

 

 《光と闇の竜》 ATK1800 DEF1400→ATK1300 DEF900

 

 

「続けて、魔法カード、《天使の施し》を発動し、再び《光と闇の竜》の効果で攻撃力と守備力を500ポイント下げ無効にする!」

 

 《光と闇の竜》 ATK1300 DEF900→ATK800 DEF400

 

 万丈目の出した《光と闇の竜》は効果を発動するのに、攻守を500下げるデメリットがある。これで、もう効果を発動することが出来なくなった。

 

「最後だ。速攻魔法、《禁じられた聖杯》を発動! フィールド上のモンスター一体の攻撃力を400ポイントアップし、効果を無効にする!」

 

 効果を無効にするためのコストがないので、《光と闇の竜》の効果は不発に終わり、《禁じられた聖杯》の効果が有効になる。

 

 《光と闇の竜》 ATK800 DEF400→ATK3200 DEF2400

 

 モンスター効果を無効にされたことで、このターンはカードの効果を無効には出来なくなったが、最早そんなことは関係なかった。攻撃力が2000以上あれば問題ない。

 

「いけっ、万丈目サンダースペシャル!!」

 

 万丈目の掛け声と共に、バトルフェイズへと移り、《光と闇の竜》が攻撃を仕掛けていく。

 

 《光と闇の竜》 ATK3200  VS江戸川 LP2000

 

「う、うわあああああああああああああああああああああああああぁぁぁっ!!」

 

 江戸川 LP2000→0

 

 デュエルが終わったことで、ソリッドビジョンが解除される。キング――いや、元キングはショックのあまり気を失ってしまったらしい。

 

「どうやら、新たなキングが誕生したようじゃの」

 

 そう、声をかけてきたのは、いつかのワカメお化けだった。ノース校の実力者、全員を倒し切った万丈目を称えるように拍手を送ってくる。

 

「ワカメお化け……貴様、何者だ?」

「ワシか。ワシは、ノース校校長の一ノ瀬じゃ」

 

 仮面とマフラーを取り、あっさりと正体を明かしてくる一ノ瀬。まさか、校長だとは思わなかったのか、万丈目も驚いた様子を見せる。

 聞けば、万丈目に渡したカードの精霊が、万丈目が遭難していることに気付き、潜水艦で助けに行ったらしい。

 しかし、気絶しながらも強くなりたいとうなされる万丈目を見て、こいつならノース校の新たなキングになれると思い、試練を与えようと考えたようだ。

 後は万丈目も知っての通り、極寒の大地でカードを40枚集めさせ、死の50人抜きデュエルをするという試練を乗り越え、無事に万丈目はノース校のニューキングとなった。

 

「これで、お前がノース校の代表となる。デュエルアカデミア本校との対抗戦のな」

「デュエルアカデミア本校との対抗戦だと!?」

 

 そういえば、万丈目も聞いたことがあった。毎年、本校とノース校は対抗戦をして覇を競い合っていると。

 その代表が自分になった。そのことに、無意識に拳を握る。

 

「俺の相手は誰だかわかっているのか?」

「こちらが一年になるだろうと言ったら、向こうも一年を用意すると言っておった」

「貴様、最初から俺がここのキングになると察して……」

「こう見えて、勘は良い方なんじゃよ」

 

 カード集めも一日で済んだ訳ではない。

 ここに至るまで、万丈目もかなりの日数をかけてきていた。だが、目の前の男は、自分に会った時には、こうなることを予期していたという。伊達に校長をやっている訳ではないということだ。

 

「それで、俺の相手は? まさか、榊遊矢か!?」

「榊? あぁ、例の新システムのテスターか。彼ではない。彼は半分教員という立場なので出場は辞退したと言っておった」

「遊矢ではない……だとすると」

「えーっと、確か結城一桁とかいう……」

「遊城? 遊城十代か!?」

「そうじゃ、そんな名前だった」

 

 遊矢との再戦が出来ないのは少しショックだったが、そのショックを吹き飛ばしてくれる相手だった。

 遊矢、十代、三沢――この三人こそ、自分を地獄に叩きこんでくれた三人だ。必ず、リベンジすると決めていた。

 

「ようやく、その機会が来たということか……!」

 

 万丈目は笑った。喜びが全身から溢れる。

 必ず勝つ――その覚悟に、消えたはずの《光と闇の竜》のソリッドビジョンも咆哮を上げていた。

 

 

 




 原作との変化点。

・#24『復活! 万丈目サンダー』より、デュエル内容を敢えてそこまで変えなかった。
 逆さ眼鏡からオリジナル。光と闇の竜の効果で恐怖を刻み込んだ。

・時系列的に二月中頃。十一月の上旬にデュエルアカデミアを退学しているので、およそ三か月彷徨っていた。



 デュエル内容変更点。

・異次元からの帰還で出したモンスターはエンドフェイズに再び除外されるのを忘れていたので修正しました。
 修正後は、光と闇の竜の効果を限界まで使って、禁じられた聖杯で攻守を戻してフィニッシュしています。


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