万丈目グループがデュエルアカデミアを乗っ取ろうと画策している――校長室に呼び出された遊矢、十代、万丈目の三人が聞かされたのはそんな話だった。
詳しく話を聞いてみると、ご存じの通り、政界、財界、カードゲーム界の支配を夢見ている万丈目兄弟だが、どうも他二つに比べてカードゲーム界を支配するための末っ子、万丈目準の動きが些か遅すぎると思ったらしい。
ならば、自分達からアプローチをかけて、金でデュエルアカデミアを乗っ取り、カードゲーム界の支配の足掛かりにしてしまえばいいと思ったようで、デュエルアカデミアを経営するオーナーに直談判し、万丈目と万丈目の兄――長作がデュエルをして勝ったら、デュエルアカデミアを奇麗さっぱりくれてやるという約束を交わしてきたというのだ。
オーナーの性格を良く知る遊矢も、あの人なら言いかねないと頭を抱えている。
おまけに、相手はデュエルの素人ということで、万丈目には攻撃力500未満のモンスターでデッキを組むというハンデまで与えられていた。
あまりに万丈目が不利すぎる条件に、デュエルアカデミアの生徒は八百長を疑う。わざと万丈目が負けてデュエルアカデミアを乗っ取ろうとしているのでないか、と。
しかし、そんな人物がデュエルアカデミアを守るために、命を懸けてセブンスターズと戦うはずもなく、万丈目への疑いは即座に晴れている。
だが、疑いが晴れても問題はまだ残っていた。
第一に、万丈目は攻撃力500以下のモンスターを、数枚しか持っていなかったのだ。《超電磁タートル》や《バトルフェーダー》のように、バトルフェイズを終了させる効果のカードの他は、ノース校の一ノ瀬校長から貰った精霊の宿った《おジャマ・イエロー》のみ。
流石にモンスターカード数枚だけではデュエルにならない。とはいえ、統一性もなく、攻撃力500以下のモンスターをかき集めたとしても、そんなものはただの紙束であってデッキとは言えない代物だ。
第二に、万丈目は遊矢や十代達が協力するのを嫌がった。今回の件、責任は自分にあると言って、頑なに協力を拒んだのである。
とはいえ、そこは十代がいつものごり押しで何とかするので問題はないだろう。やはり、全ての問題は、攻撃力500以下のカードがないということだった。
ほとほと困り果てていた所に大徳寺が現れ、過去にマナーの悪いデュエルアカデミアの生徒が低スペックのカードを捨てていた井戸があるという話を聞く。
実際に行ってみると、そこには万丈目の《おジャマ・イエロー》の兄弟達を始め、大量の低スペックのカードの精霊達が眠っていた。
自分達を捨てた人間に対し、強い怒りを抱いているようだったが、万丈目の《おジャマ・イエロー》が仲介することで、何とかカード達も怒りを収めつつこちらの話を聞いてくれている。最終的には、万丈目が全てのカードを預かることになり、何とか攻撃力500以下のモンスターを入手に成功した。
――そして、当日。
万丈目は新たなデッキと共にデュエルリングに現れた。対する万丈目の兄――長作は、金に物を言わせた強力デッキを用意してきたようで、手加減する気は一切無さそうに見える。
ただ、遊矢にはどうも長作や正司が万丈目に向ける視線や言葉に、負の感情を感じることが出来なかった。どうも、それは万丈目も同じようで不思議そうな顔をしている。
「ハンディに怖気づかずによく来たな。その勇気だけは褒めてやるぞ、準」
「兄さん達、デュエルの前に宣言しておく。俺のデッキは攻撃力500未満のモンスターという約束だったが――」
「どうした?」
「今更、ハンデを軽くしてほしくなったか?」
「いや、その逆――俺のデッキのモンスターは全て攻撃力ゼロだ。それで勝ってみせる。見ていてくれ」
そう言って、万丈目がデュエルディスクを構えた。同時に、長作が「フッ、ならば、その力見せて貰うぞ」と、笑みを浮かべている。
後ろにいる正司が、「兄者……素が出てるぞ」と、頭を抱える仕草を見せると、慌てたように「バ、バカにしおって! やれるものなら、やってみるがいい!」と、セリフを言い直してデュエルディスクを構えた。
応援のために、リング近くに座っていた遊矢には全ての会話が聞こえており、やはりおかしいと首を傾げている。
「「デュエル!!」」
若干の不可解さを感じつつもデュエルは始まった。
基本的に先攻後攻はデュエルディスクによってランダムに決まるが、今回はハンディキャップ有りということで、初心者の長作が先攻となっている。
「私の先行、ドロー!」
ただ、初心者とは言っていたが、本当にずぶの初心者ではないようで、どことなくカードの使い方に慣れが見えた。
「私は魔法カード、《融合》を発動! 手札の《ロード・オブ・ドラゴン―ドラゴンの支配者―》と《神竜 ラグナロク》を融合する! 出でよ、《竜魔人 キングドラグーン》!」
初心者には難しい融合召喚を簡単に決めてくる。おまけに、金に物を言わせただけあって、出て来るモンスターもレアリティが高い強力なものだった。
《竜魔人 キングドラグーン》
効果モンスター 融合
☆7 闇属性 ドラゴン族
ATK2400 DEF1100 攻撃表示
一見、全身が金色の竜に見えるが、上半身には人間のような体や腕があり、まさに魔人というべき風貌をしている。
一般の人間には簡単には手に入らないパラレルレアの高額カードだった。実際に見るのは初めてという学生も多いいだろう。
また、融合素材となったロード・オブ・ドラゴンと同じく、相手にドラゴン族を魔法・罠・モンスターの効果の対象にさせなくする効果を持っており、更には一ターンに一度、手札のドラゴン族モンスター一体を特殊召喚する効果も持っていた。
「永続魔法、《一転着地》を発動! さらにキングドラグーンのモンスター効果で、私は手札の《エメラルド・ドラゴン》を特殊召喚する!」
《エメラルド・ドラゴン》
通常モンスター
☆6 風属性 ドラゴン族
ATK2400 DEF1400 攻撃表示
全身がエメラルドで出来たドラゴンが出現する。宝石ドラゴンとも呼ばれ、通常モンスターであるにも拘らず、その美しさからデュエリストにかなりの人気があり、値段も高いレアカードとされていた。
「この瞬間、《一点着地》の効果! 自分、又は相手の手札から自分フィールドにモンスター一体のみが特殊召喚された場合、カードを一枚ドローする! ただし、この効果でカードをドローしなかったターンのエンドフェイズ、このカードは破壊される」
カードの効果を上手く利用したドローソースの確保。とても、初心者とは思えない動きに、応援席に座っている遊矢も首を傾げている。
「手札から《アレキサンドライト・ドラゴン》を召喚!」
《アレキサンドライト・ドラゴン》
通常モンスター
☆4 光属性 ドラゴン族
ATK2000 DEF100 攻撃表示
続けて出てきたのも、《エメラルド・ドラゴン》と同じ宝石ドラゴン。こいつも全身がアレキサンドライトのウロコで出来ている。
リリースなしで攻撃力が2000もあることから、使い勝手の良さからも人気があり、子供にはなかなか手が出ない金額のレアカードだった。
「美しいレアモンスター達だろう。総攻撃と行きたいが、初心者の私でも基本のルールである、先攻は攻撃できないというルールは知っている。これで、ターンエンドとさせて貰うぞ」
長作 手札1枚 LP4000
フィールド キングドラグーン、エメラルド、アレキサンドライト
魔法・罠 《一点着地》
VS
万丈目 手札5枚 LP4000
フィールド なし
魔法・罠 なし
「俺のターン、ドロー! 魔法カード、《天使の施し》を発動! デッキからカードを三枚ドローし、二枚を捨てる!」
開幕から手札を交換していく。しかし、それも当然のことだった。攻撃力0のモンスターしかいないデッキ――つまり、そう簡単に攻撃することも出来ないということだ。
魔法・罠・モンスター効果で攻撃力を上げるのは当然として、盤石な相手フィールドをどうにかする必要もある。手札は何枚あっても足りなかった。
「俺は、永続魔法、《暗黒の扉》を発動! このカードの効果で、お互いのプレイヤーはバトルフェイズにモンスター一体でしか攻撃できなくなる!」
「しかし、キングドラグーンの効果で俺のドラゴンは効果の対象にならんぞ!」
「これはモンスターを対象にした効果ではなく、プレイヤーが受ける効果だ。残念だが、キングドラグーンの効果でも防ぐことは出来ないんだよ、長作兄さん」
攻撃指示を一体にしか出せなくなると言えば、少しはわかりやすいかもしれない。モンスターではなく、命じる側のプレイヤーへ効果を及ぼすカードで、万丈目は何とか相手の動きを封じた。
「俺は、モンスターをセットしてターンエンド」
とはいえ、早々に攻撃はできないようで、しっかりと守備を固めている。
万丈目 手札4枚 LP4000
フィールド セット1体
魔法・罠 《暗黒の扉》
VS
長作 手札1枚 LP4000
フィールド キングドラグーン、エメラルド、アレキサンドライト
魔法・罠 《一点着地》
「私のターン、ドロー! 魔法カード、《強欲な壺》を発動! カードを二枚ドローする!」
兄も当然のように、壺で手札を補充していく。
このドローで、何とか《暗黒の扉》を破壊できるカードを引きこまんとする長作だったが、引いたカードの中に魔法・罠カードを除去できるものはなかった。が、代用できそうな効果を持つカードは引くことが出来ている。
「ふっ、私は、キングドラグーンの効果で、手札から《サファイア・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚! さらに、《一点着地》の効果で一枚ドロー!」
《サファイア・ドラゴン》
通常モンスター
☆4 風属性 ドラゴン族
ATK1900 DEF1600 攻撃表示
宝石ドラゴンの一体。全身がサファイアで出来たドラゴンが出現する。
こいつもまた《アレキサンドライト・ドラゴン》同様に、高い攻撃力を持っているが故に、レアリティが高く設定されているカードだった。
「フン、《暗黒の扉》の効果で一体しか攻撃は出来ないが、そのモンスターは倒させてもらう! 行くぞ、バトルフェイズ! キングドラグーンでセットモンスターに攻撃! トワイライト・バーン!!」
キングドラグーンの攻撃を受け、セットモンスターが表になっていく。
《竜魔人 キングドラグーン》 ATK2400 VS《またたびキャット》 DEF500
セットカードは《またたびキャット》だ。紫色の体に渦巻のような模様を持った猫が、圧倒的な力の差の前に粉砕されていった。
「メインフェイズ2で、永続魔法、《エクトプラズマー》を発動! お互いのプレイヤーは、それぞれの自分のエンドフェイズに一度だけ、自分フィールドに表側表示で存在するモンスター一体をリリースし、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える!」
「《エクトプラズマー》だって!?」
「ふっ、フィールドが埋まった時用の対策だったが、ことのほか上手くハマったな。リバースカードを1枚伏せて、エンドフェイズ! 《サファイア・ドラゴン》をリリースし、準に950のダメージを与える!」
毎ターンの効果ダメージ、これにより万丈目がいくら防御を固めても、ライフは削られていく。
「ぐうっ!!」
万丈目 LP4000→3050
「私はこれでターンを終了する」
長作 手札1枚 LP4000
フィールド キングドラグーン、エメラルド、アレキサンドライト
魔法・罠 《一点着地》、《エクトプラズマー》、リバース1枚
VS
万丈目 手札4枚 LP3050
フィールド なし
魔法・罠 《暗黒の扉》
「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、リバースカードオープン! 永続罠、《聖なる輝き》を発動!」
「《聖なる輝き》!?」
「このカードがフィールドに存在する限り、モンスターをセットすることは出来ない。また、モンスターをセットする場合は表側守備表示にしなければならない!」
「くっ……!」
セットを封じられた以上、モンスターは必ず表側表示になってしまう。つまり、万丈目もまたエンドフェイズに《エクトプラズマー》によって、モンスターをリリースしなければいけなくなったということだった。
長作はライフダメージだけでなく、モンスター除去も狙ってきていたのだ。とても初心者とは思えないプレイングである。
これで《暗黒の扉》があったとしても、万丈目は一ターンに二体以上のモンスターを出さないとフィールドにモンスターが残らない。おまけに、《エクトプラズマー》でモンスターをリリースしても、攻撃力がゼロである以上、相手に与えられるダメージも当然ゼロだった。
「流石は兄さん……隙のないコンボだ」
「準、次からは大ダメージを覚悟して貰うぞ」
「どうかな? 俺も、《強欲な壺》を発動し、カードを二枚ドローする! さらに、リバースカードを一枚セットしてターンエンド」
ただ闇雲にモンスターを召喚しても、《エクトプラズマー》でリリースさせられるだけ。何とかして、この状況を逆転するカードが必要だった。
万丈目 手札5枚 LP3050
フィールド なし
魔法・罠 《暗黒の扉》、リバース1枚
VS
長作 手札1枚 LP4000
フィールド キングドラグーン、エメラルド、アレキサンドライト
魔法・罠 《一点着地》、《エクトプラズマー》、《聖なる輝き》
「私のターン、ドロー! 私は、キングドラグーンの効果で、手札から《ダイヤモンド・ドラゴン》を特殊召喚!!」
《ダイヤモンド・ドラゴン》
通常モンスター
☆7 光属性 ドラゴン族
ATK2100 DEF2800 守備表示
前に三沢も使っていたカードだった。全身がダイヤモンドで出来たレアなモンスター。こいつもまた、宝石ドラゴンの一体であり、かなりの高額カードでもある。
「さらに、《一点着地》の効果で、カードを一枚ドロー!」
このドローで、長作は《暗黒の扉》を破壊できるカードを引き当てた。
「ふっ、まずはバトルフェイズだ! キングドラグーンでプレイヤーにダイレクトアタック! トワイライト・バーン!!」
《竜魔人 キングドラグーン》 ATK2400 VS万丈目 LP4000
フィールドががら空きの万丈目に向かって、キングドラグーンの一撃が炸裂していく。
「永続罠、《血の代償》を発動! ライフを500支払い、相手のバトルフェイズにモンスターを召喚できる!」
だが、万丈目も攻撃を素直に通すほど甘くなかった。ライフをコストに、相手ターンでモンスターを召喚するという離れ業で対応していく。
ちなみに、この《血の代償》も、大量展開の容易さやワンターンキルのパーツとして優秀なため、遊矢の世界では禁止カードに分類されているカードだった。しかし、この世界では当然のように制限がかかっていない。不思議。
万丈目 LP3050→2550
「俺は《そよ風の精霊》を守備表示で召喚する!」
《そよ風の精霊》
効果モンスター
☆3 風属性 天使族
ATK0 DEF1800 守備表示
青い髪に緑色の肌を持った妖精が万丈目の身を守ろうと前へと出て来る。
自分のターンで召喚出来ないのであれば、相手のターンで召喚すればいいという、長作の作戦の裏をかいた戦術だった。
また、普段は出来ない表側守備表示も、《聖なる輝き》のおかげで可能となっている。
「ちぃっ! ならば、《そよ風の精霊》を破壊しろ! トワイライト・バーン!」
《竜魔人 キングドラグーン》 ATK2400 VS《そよ風の精霊》 DEF1800
守備力1800と、《そよ風の精霊》の精霊は攻撃力が0の割には守備力が高い方だが、それでもキングドラグーンの前にはあっけなく散っていく。
「メインフェイズ2、私はリバースカードを一枚伏せる。そして、エンドフェイズ! 《エクトプラズマー》の効果で、《アレキサンドライト・ドラゴン》をリリースし! 準、貴様に1000ポイントのダメージを与える!」
先程は何とか不発に出来たが、今回は防げなかった。《アレキサンドライト・ドラゴン》が生命エネルギーに変換され、万丈目を襲う。
「ぐうぅっ!!」
万丈目 LP2550→1550
「これで、私はターンエンドだ。フハハハハ、次のターンで終わらせるぞ!」
その余裕から、まず間違いなく、《暗黒の扉》を除去するカードを引き当てたことを、応援していた者も含めて誰もが理解した。
長作 手札1枚 LP4000
フィールド キングドラグーン、エメラルド、ダイヤモンド
魔法・罠 《一点着地》、《エクトプラズマー》、《聖なる輝き》、リバース1枚
VS
万丈目 手札4枚 LP1550
フィールド なし
魔法・罠 《暗黒の扉》、《血の代償》
「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、罠発動! 《砂塵の大竜巻》! 相手フィールドの魔法・罠カードを一枚破壊する! 当然、《暗黒の扉》を破壊する!」
「ならば、こちらも今ドローした速攻魔法、《サイクロン》を発動! 永続魔法、《エクトプラズマー》を破壊する!」
これまで攻撃を防いでいた《暗黒の扉》が遂に破壊され、万丈目の守りが一気に薄くなっていく。
しかし、同時に《エクトプラズマー》の破壊に成功し、これで毎ターンの強制リリースと効果ダメージを防ぐことが出来るようになった。
「俺は、《薄幸の美少女》を守備表示で召喚!」
《薄幸の美少女》
効果モンスター
☆1 光属性 魔法使い族
ATK0 DEF100 守備表示
非常に身なりが悪く、幸の薄そうな少女が膝を抱えてフィールドに座り出した。
「《薄幸の美少女》は、戦闘で破壊され墓地へ送られた時、バトルフェイズを強制終了できる。俺はこれでターンエンド!」
万丈目 手札3枚 LP1550
フィールド 《薄幸の美少女》
魔法・罠 《血の代償》
VS
長作 手札1枚 LP4000
フィールド キングドラグーン、エメラルド、ダイヤモンド
魔法・罠 《一点着地》、《聖なる輝き》
「私のターン、ドロー! 準よ、そのモンスターの効果で時間を稼ごうという魂胆だろうが、そうはいかないぞ!」
「なんだって!?」
「私は、魔法カード、《シールドクラッシュ》を発動! 相手の守備表示モンスター一体を破壊する!」
これにより、守備表示の《薄幸の美少女》が破壊されて墓地へ送られる。しかし、戦闘破壊ではない為、バトルフェイズを終了する効果は発動しなかった。
「くっ、《薄幸の美少女》が……!」
「これで、もうどうしようもあるまい! 私は、キングドラグーンの効果で《ラブラドライドラゴン》を守備表示で特殊召喚し、《一点着地》の効果でデッキからカードを一枚ドローする!」
《ラブラドライドラゴン》
通常モンスター チューナー
☆6 闇属性 ドラゴン族
ATK0 DEF2400 守備表示
こいつも宝石ドラゴンの一体である。ラブラドライドとは斜長石の一種で、本来は宝石ではないのだが、ラブラドレッセンスと呼ばれる特有の美しい輝きは、見た者の魂を導き、感情を解放させる力を持つとされ、パワーストーンの一種に分類されていた。
おまけに、シンクロが出たばかりで、チューナーはかなり希少であり、宝石ドラゴンの中でも抜きんでたレアリティを誇っている。しかし、攻撃力はゼロで、シンクロが流行り出したばかりの今では、まだ観賞用モンスターでしかないとも言われていた。
「バトルフェイズ! ドラゴンモンスターで総攻撃! これで終わりだ、準!!」
「残念ながらデュエルはまだ続く! 墓地の《超電磁タートル》の効果を発動! このカードを除外し、バトルフェイズを終了する!」
切り札の《薄幸の美少女》も破壊し、長作の勝利は確定した――と、誰も確信した瞬間だった。
まさかの《超電磁タートル》で、バトルフェイズを終了させられる。当然、この《超電磁タートル》も攻撃力ゼロのモンスターだ。
「いつそんなカードを……!」
「最初のターンの《天使の施し》で、墓地へ送っておいたのさ。もし、《暗黒の扉》を破壊するのに、罠カードの《砂塵の大竜巻》じゃなくて、《サイクロン》や《大嵐》、《ハリケーン》のような魔法カードを使われた場合、もっと早く攻撃されかねない。万が一のための保険だよ」
とはいえ、流石の万丈目サンダーの防御もそろそろ品切れだった。
もう次のターンは凌ぐことが出来ないだろう。何とかして、あの宝石ドラゴン軍団を倒し、兄のライフをゼロにする必要があった。
「ええい、残りの猶予が一ターン伸びたにすぎん。私はリバースカードを一枚セットしてターンを終了する!」
長作 手札0枚 LP4000
フィールド キングドラグーン、エメラルド、ダイヤモンド、ラブラドライド
魔法・罠 《一点着地》、《聖なる輝き》、リバース1枚
VS
万丈目 手札3枚 LP1550
フィールド なし
魔法・罠 《血の代償》
「いい加減に来い、雑魚共! 俺のターン!!」
万丈目はあるカードが来るのをずっと待っていた。その一枚さえあれば、この状況を何とか出来ると信じて、ずっと宝石ドラゴンの猛攻を耐え忍んできたのだ。
「――全く、時間をかけ過ぎだ。馬鹿ども……!」
そして、ようやくそのカードを引き当てた。
「俺はフィールド魔法、《おジャマ・カントリー》を発動! 一ターンに一度、手札から『おジャマ』と名のついたカードを一枚墓地へ送ることで、墓地の『おジャマ』と名のついたモンスターを一体特殊召喚できる!」
「おジャマだと……?」
「こいつも、《天使の施し》で墓地へ送っていたモンスターだ! 俺は手札の魔法カード、《おジャマジック》を墓地へ送り、墓地の《おジャマ・レッド》を攻撃表示で特殊召喚する!」
おジャマ達が暮らしているであろう田舎のようなフィールドが再現されていく。同時に、その効果でおジャマモンスター一体も復活した。
《おジャマ・レッド》
効果モンスター
☆2 光属性 獣族
ATK0 DEF1000 攻撃表示
イエローと同じく、名前の通りの体の色をしており、共通して赤いパンツをはいている。本人はリーダーのつもりのようで、首に黄色いスカーフを巻いており、強気にポーズを決めていた。
「さらに、墓地へ送られた《おジャマジック》の効果発動! このカードが、手札・フィールドから墓地へ送られた場合、デッキから《おジャマ・イエロー》、《おジャマ・グリーン》、《おジャマ・ブラック》を一体ずつ手札に加える!」
ずっと待っていたのは、このカードだった。
これにより、一気に手札が三枚増加する。ここで《手札抹殺》が使えれば、気分良く手札が増えるんだが――と、万丈目は内心で考えているのだが、残念ながら今回の主役は彼らだった。
「俺は《おジャマ・イエロー》を通常召喚! さらに、《血の代償》の効果発動! ライフを500ずつ支払い、《おジャマ・グリーン》と《おジャマ・ブラック》も連続召喚する!」
何故、こんな奴らのために、俺が血肉を犠牲にしなければならないんだ――と、思いながらも、万丈目は勝つために仕方なく、おジャマ三兄弟をフィールドに勢揃いさせていく。
万丈目 LP1550→550
《おジャマ・イエロー》
通常モンスター
☆2 光属性 獣族
ATK0 DEF1000 攻撃表示
《おジャマ・グリーン》
通常モンスター
☆2 光属性 獣族
ATK0 DEF1000 攻撃表示
《おジャマ・ブラック》
通常モンスター
☆2 光属性 獣族
ATK0 DEF1000 攻撃表示
全員が名前の通りの体の色をしており、赤いパンツをはいている。
リーダーのレッドが『遅いぞ』と声をかけると、四人揃って格好悪いポーズを決めていた。思わず、万丈目がカードを発動させる手を止めて頭を押さえる。酷い絵面だった。
「くっ、茶番はこれで終わりだ。俺は手札から、魔法カード――」
『ねぇ、万丈目のアニキィ~。四人じゃポーズが決まらないのよ、もう一人召喚してぇ~』
「出す訳ないだろう、四人で十分だ!」
『でも、せっかくのお披露目の場だし、気分良くポーズ決めたいぜ!』
『そうだよ、万丈目のアニキ。けちけちしないで、もう一人、呼んでくれよ!』
『俺達のスペシャルファイティングポーズは五人でこそ完成するのだ!』
黄色、緑、黒、赤の順でクレームが殺到する。どうも、手札に仲間がいるというのはとっくにわかっているらしい。
当然、ガン無視の万丈目だったが、手足にくっついてどうしてもと拝み倒す四体に嫌気が差したのか、渋々《血の代償》の効果を使っている。根負けした――と、いうよりは、これ以上デュエルが長引くのを嫌がったのだろう。
「……俺は《血の代償》の効果で、《おジャマ・ブルー》を召喚する。これで満足か……?」
最後の言葉は、おジャマの精霊へ向けたものだった。本人達も嬉しそうにしており、『『『『ありがとう、万丈目のアニキィ~』』』』と、飛び跳ねて喜びを表している。
「万丈目さん、だ……」
万丈目 LP550→50
《おジャマ・ブルー》
効果モンスター
☆2 光属性 獣族
ATK0 DEF1000 攻撃表示
その名の通り、全身が青いおジャマモンスターが現れた。女性体なのか、『お待たせしたわね』と女口調だが、《おジャマ・イエロー》がオカマ口調なので、男性体でも不思議ではない。
ようやく五人が揃うと、レッドが『これで全員揃ったぜ!』と大きな声を上げた。
『おジャマ・レッド!』
『おジャマ・ブルー!』
『おジャマ・ブラック!』
『おジャマ・グリーン!』
『おジャマ・イエロー!』
全員が名乗りながら、統一性のない謎のポーズを続々と決めていく。
当然、精霊の声や仕草がわかるのは、この場だと万丈目、十代、遊矢だけであり、他のプレイヤーには何も見えていない。そう、三人以外の誰にも見えていなかった。
『『『『『五人揃って! 我ら、おジャマ・ふぁいぶ!!』』』』』
全員ポーズがバラバラだが、何故か本人達は『決まった』、『いい出来ね』、『俺達かっこよすぎるぜー』、『やっぱ、五人いないとなー』、『いぇ~い、最高よ~ん』と、大盛り上がりしている。
ちなみに彼らにはもう一人、《おジャマ・ピンク》という仲間がいるが、フィールドにいない仲間は、戦隊シリーズでいう六番目に分類されるらしい。
ただ、基本的にはフィールドに揃ったメンバーでポーズを決めるから、今回のピンクのように今の五人から誰かがハブられることもあった。
例えば、今回はたまたま最後に居たのが青だったが、もしピンクが居た場合は赤、緑、黄色、黒、ピンクだっただろう。それでも同じようにポーズを決めていたに違いない。基本的に、その場にいる五人がレギュラーで、いない奴は控え、そういう考えのようだった。
ただ、どうあれ、見られるのは精霊が見える人間に限られるので、結局はただの茶番である。
「終わらせるぞ! 俺は、魔法カード、《おジャマ・デルタハリケーン!!》を発動! 自分フィールドにイエロー、グリーン、ブラックの三体が表側表示で存在する場合、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する!」
この効果は対象を取らないので、キングドラグーンの効果で守ることも不可能だった。
万丈目がデュエルディスクにカードを差し込むと、レッドが『フォーメーション、デルタだ!』と声を上げる。レッド、ブルーが肩を組んで腰を落とすと、その二体を足場にイエロー、グリーン、ブラックが空中へと飛び上がり、ケツを密着させて回転していく。
さながら換気扇の羽根のような形だが、その回転によって生み出される風によって、長作のフィールドのドラゴンモンスターは抹殺されていった。カードイラストと技の出し方が全く違うので、万丈目も若干恥ずかしそうにしている。
「……とりあえず、これで長作兄さんのフィールドは空になった!」
「くっ、ドラゴンモンスター達もそうだが、セットしていたミラーフォースまでも……! しかし! それでも貴様のモンスターの攻撃力はゼロ! 私の敵ではない!」
《おジャマ・レッド》 ATK0→1000
《おジャマ・イエロー》 ATK0→1000
《おジャマ・グリーン》 ATK0→1000
《おジャマ・ブラック》 ATK0→1000
《おジャマ・ブルー》 ATK0→1000
「なっ、攻撃力が1000だと!?」
「フィールド魔法、《おジャマ・カントリー》の効果だ。自分フィールド上に、おジャマと名のついたモンスターが表側表示で存在する限り、フィールドに存在する全てのモンスターの攻撃力と守備力を入れ替える……お前達が騒がしくて説明が遅れてしまったではないか」
最後の言葉は、フィールドの精霊達へ向けられたものだった。
「ごほん! まぁいい! 何はともあれ、これで終わりだ! いけ、雑魚共、長作兄さんにダイレクトアタック! 万丈目サンダースペシャル2!!」
万丈目の指示と同時に、おジャマ五体が『『『『『とう!』』』』』と、声を出して飛びかかっていく。
おジャマ・赤、黄、緑、黒、青 ATK1000×5 VS長作 LP4000
絵面的に美しいものではないが、それでもモンスターの攻撃力の合計は5000であり、壁モンスターもいない長作にこの攻撃を凌ぐすべはなかった。
ボコスカと足元で、おジャマ達が特に衝撃もない殴る蹴るをしていると、長作のライフはゼロになっていく。
「くっ、やるな準……!」
長作 LP4000→0
万丈目の逆転勝利でデュエルの幕は閉じ、ソリッドビジョンが解除される。
しかし、負けたにも拘わらず、長作の表情には若干の笑みが浮かんでいた。やはり、万丈目の兄達は、本気でデュエルアカデミアを買収するつもりはなかったのかもしれない。
どうやら万丈目もそう考えているようで、「兄さん達、こんな茶番はこれっきりにしてくれ」と、頼んでいる。
恐らく、万丈目の兄達はデュエルアカデミアを買収するという問題を弟に解決させることで、万丈目のアカデミアでの地位を上昇させようと考えたのだろう。だからこそ、わざわざ万丈目をデュエルの相手に指定したのだ。
もし、彼らが本気で買収を考えているなら、もっと弱い相手を指名すればいい。それこそ、オシリスレッドの底辺生が相手なら長作が勝っていた。
あくまでも買収は脅し――とはいえ、万が一、万丈目が期待外れで、兄が勝ってしまった場合は、本当にデュエルアカデミアを足掛かりにしていただろう。基本的には負けることが前提だが、勝っても問題ないという二段作戦で、どう転んでも万丈目の兄達には美味しい結果にしかならない。まさに頭の良い人間が考えたシナリオだった。
「万丈目! 万丈目! 万丈目!」
「万丈目! 万丈目!」
「万丈目! 万丈目! 万丈目!」
その証拠に、万丈目の勝利によって、会場中は大盛り上がりになっている。少し過激だが、弟を心配する兄達流の応援――それが、今回のデュエルの顛末だった。
会場の盛り上がりを見た万丈目も、兄達への忠告を程々にし、「否、俺の名は――」と、大きく声を上げる。
「一! 十!」
続くように、遊矢達も声を上げた。
「百! 千!」
最後に、万丈目が大きく手を上げる。
「万丈目、サンダー!!」
万丈目サンダーの声が響き渡ると同時に、観客席からもレスポンスが返ってきた。
「「「サンダー! サンダー!」」」
「「「サンダー!」」」
「「「サンダー!」」」
「「「「「万丈目サンダァァァァァッ!!」」」」」
それを聞いた万丈目の兄弟達は、負けたにも関わらず、満足そうな表情を浮かべて帰っていく。こうして、万丈目兄弟のちょっとした弟贔屓は大成功に終わった。
ちなみに後日、アカデミア職員の一人が、オーナーの元に勝利の報告に行ったらしいのだが、「当たり前だ。勝って当然、そんな報告は必要ない」と切って捨てられたという。それを聞いた遊矢は、「まぁ、あの人ならそう言うだろうな」と、苦笑いを浮かべていた。
原作との変化点。
・#35『兄弟の結束! おジャマデルタハリケーン』より、万丈目が学園対抗戦で勝っているので原作よりも機嫌が良かった。
原作だと落ちこぼれた万丈目に引導を渡しに来るが、前回勝ったこともあって、勝っても負けても美味しい取引をしてきた。仮に自分達が勝っても学園を乗っ取れ、負けても万丈目の立場が上昇する。どちらに転んでも美味しい。
・おジャマ特戦隊。
五人揃えたくなった茶番。ドラゴンボールなど見て居ない。遊矢、十代、万丈目以外には見えていなかった。