榊遊矢のGX次元漂流記   作:おこむね

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#050 『よく、見ていてくれ』

 三幻魔との戦いも終わり、十代達は進級試験の為に毎日デッキの調整を頑張っているようだった。

 特に一回留年している隼人は、今度こそ落ちることは出来ないと真剣に取り組んでいる。

 遊矢は新システムのテスターであり、半分は教員という立場なので、進級試験は当然のように免除されていた。なので、いつものように翔や隼人など、自信のない生徒の面倒を見ている。

 

 そんなある日。遊矢のスポンサーでもあるI2社のカードデザインコンテストで、隼人が優勝するという素晴らしい出来事が起こった。

 校長室に呼び出された隼人は、通信でペガサス直々にI2社のカードデザイナーにならないかと誘われる。

 しかし、そのためにはデュエルアカデミアが推薦することが条件であり、実技最高責任者のクロノスは、一回留年している隼人を簡単には推薦は出来ないと言い張ってきた。

 

 結局、今回の進級試験で隼人が勝つことが出来れば、クロノスも隼人を推薦すると言うことで、隼人はレッド生にしてクロノスを倒さなければいけなくなる。クロノスも「手加減する気はないノーネ」と言って、本気で隼人を倒しに来ていた。

 正直、実力差は圧倒的だ。

 勿論、生徒相手ということで、クロノスも融合は封じてくるとは思うが、それでも真正面からぶつかって隼人が勝てるかどうかは微妙な所である。

 それでも、隼人は夢の為にも逃げないと前を向いていた。とても一年前まで、デュエルアカデミアで生活するのを諦めてなげやりになっていた人物には見えない。

 

 ――そして、当日。

 

「行ってくるんだな」

「おう、絶対勝てよな隼人!」

「隼人君、頑張って!」

「隼人らしいデュエルをすれば大丈夫だぞ」

 

 十代、翔、遊矢に見送られながら、隼人はデュエルリングに向かおうとしていた。

 既に応援席には、万丈目、三沢、明日香、亮、吹雪と、これまで一緒に過ごしてきた仲間達も応援に来ている。

 

「――遊矢」

「どうした、隼人?」

「俺が今、ここにいるのは遊矢のおかげなんだな。この一年、遊矢が俺にデュエルを教えてくれたから、俺はクロノス先生が相手でも逃げずに戦おうと思えたんだな」

「だとしたら、それは隼人が頑張ったからだよ」

「違う。いや、違わないけど……今から、その成果を見せるんだな。よく、見ていてくれ」

「ああ、気張れ! 隼人!!」

 

 隼人がデュエルリングに入り、デュエルディスクを構えた。今回は進級試験なので、先攻は生徒側に与えられている。

 

「クロノス先生、よろしくお願いします!」

「では、始めるノーネ!」

「「デュエル!!」」

 

 互いにデッキからカードを五枚引く。

 隼人は溢れる気合を叩きつけるように、さらにデッキに指を添えた。

 

「俺のターン、ドロー!! 魔法カード、《天使の施し》! デッキからカードを三枚ドローし、二枚を捨てる!」

 

 早速、手札を入れ替えていく。少しでも有利に戦えるように、カードをじっくり選んでいた。

 

「よし、俺はモンスターをセット、リバースカードを一枚セットしてターンエンドなんだな!」

 

 

 隼人 手札4枚 LP4000

 フィールド セット1体

 魔法・罠 リバース1枚

 

 VS

 

 クロノス 手札5枚 LP4000

 フィールド なし

 魔法・罠 なし

 

 

「いい気迫なノーネ。私のターン、ドロー!」

 

 遊矢はクロノスの表情を見て安心していた。クロノスは落第者が多いレッド生に厳しいが、その努力を認めない人ではない。

 一年前はまだ隼人もそこまでやる気もなく、十代や翔も遊んでばかりだったから叱られていたが、この一年の頑張りをクロノスはクロノスなりに認めていた。

 だからこそ、一足先に社会に出る隼人に頑張れと伝えたいのだろう。

 自分という壁を超えていけ――その思いで、今回のデュエルに望んでいるのが遊矢には伝わってきた。

 

「私は手札から、フィールド魔法、《歯車街》を発動ンヌ! このカードがフィールド魔法ゾーンに存在する限り、お互いのプレイヤーは『アンティーク・ギア』モンスターを召喚するために必要なリリースを一体少なくなるように出来るノーネ!」

 

 観客席にいる万丈目は「おいおい、本当に手加減なしかよ」と呟き、三沢が「《融合》を使わないだけ手は抜いているのだろう」と答えている。

 

「魔法カード、《デビルズ・サンクチュアリ》を発動ンヌ! フィールドに《メタルデビル・トークン》一体を特殊召喚するノーネ!」

 

 フィールドに《メタルデビル・トークン》が現れた。

 

 《メタルデビル・トークン》

 トークン

 ☆1 闇属性 悪魔族

 ATK0 DEF0 守備表示

 

「私はこのトークンをリリースして、《古代の機械巨人》をアドバンス召喚するノーネ!」

 

 フィールド魔法、《歯車街》の効果で、リリースが一体少なくなっているので、レベル8の《古代の機械巨人》も一体のリリースで召喚することが出来る。

 

 《古代の機械巨人》

 効果モンスター

 ☆8 地属性 機械族

 ATK3000 DEF3000 攻撃表示

 

 クロノスのエースともいうべきモンスターが呼び出された。対峙する隼人も、その迫力に思わずゴクリと唾を飲み込んでいる。

 

「さらに、速攻魔法、《ダブル・サイクロン》を発動しますーノ! このカードの効果で、私のフィールドの魔法・罠カード一枚と、貴方のフィールドの魔法・罠カード一枚を破壊するノーネ!」

「なら、俺も罠発動! 《和睦の使者》! このカードの効果で、このターン、俺のモンスターは戦闘では破壊されず戦闘ダメージを受けないんだな!」

「グッド! なかなか良い回避なノーネ! これで私はこのターンで、貴方に戦闘ダメージを与えることが出来なくなりましたーノ!」

 

 しかし、ただで終わるクロノスではなかった。

 

「けど、こちらもこれで終わりではないノーネ! 破壊され墓地へ送られた《歯車街》の効果発動ンヌ! 自分の手札・デッキ・墓地から『アンティーク・ギア』モンスター一体を選んで特殊召喚することが出来るノーネ!」

 

 そう言って、デッキから新たな『アンティーク・ギア』モンスターである《古代の機械巨竜》を呼び出していく。

 

 《古代の機械巨竜》

 効果モンスター

 ☆8 地属性 機械族

 ATK3000 DEF2000 攻撃表示

 

「こ、攻撃力3000のモンスターが二体……!」

「私のフィールドのモンスターが機械族の効果モンスター二体のみなので、手札から魔法カード、《アイアンドロー》を発動しますーノ! カードを二枚ドローするノーネ!」

 

 さらに、ここに来て手札も補充してきた。

 

「とはいーえ、このターン、《和睦の使者》の効果でモンスターも戦闘破壊できなくなっていますーノ。カードを一枚伏せてターンを終了するノーネ」

 

 

 クロノス 手札2枚 LP4000

 フィールド ゴーレム、リアクターD

 魔法・罠 リバース1枚

 

 VS

 

 隼人 手札4枚 LP4000

 フィールド セット1体

 魔法・罠 なし

 

 

「俺のターンなんだな!」

 

 攻撃力3000のモンスターが一ターンで二体並ぶという危機的状況を何とか回避しつつ、再びデッキからカードをドローしていく。

 

「魔法カード、《強欲な壺》を発動! デッキからカードを二枚ドローするんだな!」

 

 壺の効果で手札を増やす。どうやら、いいカードが引けたようで、隼人の顔に笑みが浮かんだ。

 

「俺はセットされた《デス・コアラ》をリバースして、効果を発動するんだな! 相手の手札の数×400のダメージを相手に与えるんだな!」

 

 今、クロノスの手札は2枚なので800のダメージとなる。

 

「やはり、《デス・コアラ》でしたーか」

 

 クロノス LP4000→3200

 

 勿論、クロノスも推測をしていたが故に攻撃を仕掛けなかった。一年も生徒を見れば、どんな戦術を使ってくるかなど当然のようにわかる。

 

「俺は手札から、《コアラッコ》を召喚!」

 

 《コアラッコ》

 効果モンスター

 ☆2 地属性 獣族

 ATK100 DEF1600 攻撃表示

 

 コアラデッキを自称しているだけあって、次々とコアラがフィールドに飛び出してきた。

 

「《コアラッコ》の効果発動! このカード以外の獣族モンスターが自分フィールドに存在する場合、相手フィールド上のモンスター一体の攻撃力をゼロにする! 俺は《古代の機械巨人》の攻撃力をゼロにするんだな!」

「なんですート!?」

「さらに、魔法カード、《融合》を発動! 手札の《ラッコアラ》とフィールドの《コアラッコ》を融合し、《コアラッコアラ》を融合召喚するんだな!」

 

 《コアラッコアラ》

 効果モンスター 融合

 ☆6 地属性 獣族

 ATK2800 DEF200 攻撃表示

 

 全身青色のゴリラにも似たコアラが爆誕する。尻尾はラッコのようにも見えるが、どう見ても融合前二体の面影はそこまで残っていなかった。

 

「《コアラッコアラ》の効果! 手札の獣族モンスター1体を墓地に送り、相手フィールドに存在するモンスター一体を破壊するんだな! これで、《古代の機械巨竜》を破壊!」

「ガジェルドラゴンまで破壊するとーは!」

「よーし、バトルフェイズなんだな! 《コアラッコアラ》で《古代の機械巨人》に攻撃!!」

 

 《コアラッコアラ》 ATK2800 VS《古代の機械巨人》 ATK0

 

 青色のコアラが疾走し、ゴーレムへと襲い掛かっていく。

 

「罠カード、《ガード・ブロック》発動ンヌ! 戦闘ダメージをゼロにして、カードを一枚ドローするノーネ!」

 

 しかし、決定打を与えられない。あの手この手で、致命傷になる攻撃を避けてくる。

 

「くっ、なら《デス・コアラ》でダイレクトアタック!」

 

 《デス・コアラ》 ATK1100 VSクロノス LP3200

 

 だが、押しているのは隼人だった。今現在、クロノスのフィールドにはモンスターが居らず、《デス・コアラ》の直接攻撃でライフが削られていく。

 

「なかなかやるノーネ」

 

 クロノス LP3200→2100

 

「俺はカードを二枚伏せて、ターンを終了するんだな」

 

 

 隼人 手札0枚 LP4000

 フィールド 《コアラッコアラ》、《デス・コアラ》

 魔法・罠 リバース2枚

 

 VS

 

 クロノス 手札3枚 LP2100

 フィールド なし

 魔法・罠 なし

 

 

「隼人もなかなかやるじゃんか! あのクロノス先生を押してるぜ!」

「この調子なら勝てるっす!」

 

 同じレッド組である十代と翔が、隼人の優勢に喜ぶ中、遊矢は冷静に状況を考えていた。

 確かに、フィールド・ライフ共に隼人の方が優勢だが、隼人ももう手札を使い切っている。もし、次のターンで、クロノスが隼人のフィールドを壊滅させるようなことがあれば、隼人は一転して大ピンチに追いやられるだろう。

 

「きばれ! 隼人!!」

 

 だが、それでも遊矢は隼人を応援していた。このまますんなりとはいかないのは目に見えているが、それでも隼人なら乗り越えられると信じているのだ。

 

「私のターン、ドローなノーネ! 私も《強欲な壺》を使い、カードを二枚ドローするノーネ!」

 

 この追加の壺ドローで、クロノスの手札は五枚まで回復した。攻めるには十分と判断し、カードをデュエルディスクに挿していく。

 

「シニョール前田、貴方の成長は認めるノーネ。しかし、このデュエルは私に勝たないといけないノーネ」

「……わかってます。本気で来てください、クロノス先生!!」

「私は、永続魔法、《古代の機械要塞》を発動ンヌ! さらに手札から魔法カード、《古代の機械射出機》を続けて発動するノーネ! 自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分のフィールドの表側表示カード一枚を破壊し、デッキから『アンティーク・ギア』モンスター一体を、召喚条件を無視して特殊召喚出来ますーノ!」

 

 カミューラとのデュエルでも見せた魔法コンボだった。今、クロノスのフィールドに永続魔法《古代の機械要塞》以外にカードが存在していない。

 よって必然的に《古代の機械要塞》が破壊され、《古代の機械射出機》の効果が発動する。

 

「私はデッキから《古代の機械巨人》を、召喚条件を無視して特殊召喚するノーネ!」

 

 《古代の機械巨人》

 効果モンスター

 ☆8 地属性 機械族

 ATK3000 DEF3000 攻撃表示

 

 二体目の《古代の機械巨人》がデッキから姿を現した。

 

「さらに、魔法・罠ゾーンから破壊され墓地へ送られた《古代の機械要塞》の効果を発動するノーネ! 自分の手札・墓地から『アンティーク・ギア』モンスター一体を特殊召喚できますーノ! 墓地から、《古代の機械巨竜》を特殊召喚なノーネ!」

 

 《古代の機械巨竜》

 効果モンスター

 ☆8 地属性 機械族

 ATK3000 DEF2000 攻撃表示

 

 再び、墓地からガジェルドラゴンも復活する。これでまたクロノスのフィールドに攻撃力3000のモンスターが二体並んだ。

 

「最後に手札から《古代の機械猟犬》を召喚!」

 

 《古代の機械猟犬》

 効果モンスター

 ☆3 地属性 機械族

 ATK1000 DEF1000 攻撃表示

 

 遊矢には特に見覚えのあるモンスターだった。オベリスクフォースの優等生デッキだとほぼ最初のターンで出て来るイメージの強い機械の犬である。

 

「《古代の機械猟犬》の効果発動ンヌ! このカードが召喚に成功した場合、相手に600ポイントのダメージを与えるノーネ!」

 

 オベリスクフォースは集団でこれを連発するという鬼畜なコンボを使っていたが、流石にクロノスはそんな非道なことはしないようだ。

 

「くぅっ!!」

 

 隼人 LP4000→3400

 

「バトルフェイズに入るノーネ! 《古代の機械巨人》で《コアラッコアラ》に攻撃するノーネ! アルティメット・パウンド!!」

 

 《古代の機械巨人》 ATK3000 VS《コアラッコアラ》 ATK2800

 

 先程は攻撃力が0になっていたから倒せたが、本来の攻撃力の前では《コアラッコアラ》も僅かに届かないようで、《古代の機械巨人》に上から殴り倒されていく。

 

「《コアラッコアラ》っ!」

 

 隼人 LP3400→3200

 

「続けて、《古代の機械巨竜》で《デス・コアラ》を攻撃なノーネ!!」

 

 《古代の機械巨竜》 ATK3000 VS《デス・コアラ》 ATK1100

 

 本来、《デス・コアラ》は真正面から戦うタイプのモンスターではない。それでも隼人を守ろうと、勝てない戦いへと向かって行った。

 

「ぐっ、《デス・コアラ》! すまないんだなっ!」

 

 隼人 LP3200→1300

 

「最後に《古代の機械猟犬》でダイレクトアタック!!」

 

 《古代の機械猟犬》 ATK1000 VS隼人 LP1300

 

「うわああああああああああぁぁぁっ!!」

 

 隼人 LP1300→300

 

「メインフェイズ2で、《古代の機械猟犬》の効果を発動するノーネ! 一ターンに一度、自分の手札・フィールドから、『アンティーク・ギア』融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、融合召喚を行うノーネ!!」

「クロノス先生! それは――」

「シャラップ! シニョール遊矢! 私は、このデュエルを行う際に、シニョール前田にも伝えましたーノ! 手加減はしないと! 私の本気を乗り越えられないようなーら、この先、I2社で働いていくことなど到底できないノーネ!!」

 

 ましてや隼人は一度挫折している。だからこそ、クロノスはもう隼人が諦めないように高い壁であろうとしていた。

 

「大丈夫なんだな遊矢! 俺は、絶対勝つんだな!!」

 

 実際、融合召喚すると聞いても、隼人は一歩も引いていない。かかってこいとばかりに、クロノスに向き合っていた。

 

「その意気なノーネ! 私は、フィールドの《古代の機械巨人》、《古代の機械巨竜》、《古代の機械猟犬》の三体を素材に、《古代の機械究極巨人》を融合召喚するノーネ!!」

 

 召喚条件は、《古代の機械巨人》+『アンティーク・ギア』モンスター×2体――各々がパーツを分解しつつ、組み合わせることで新たなモンスターへと姿を変えていく。

 

 《古代の機械究極巨人》

 効果モンスター 融合

 ☆10 地属性 機械族

 ATK4400 DEF3400 攻撃表示

 

「カードを二枚セットして、ターンエンドなノーネ!!」

 

 

 クロノス 手札0枚 LP2100

 フィールド 究極ゴーレム

 魔法・罠 リバース2枚

 

 VS

 

 隼人 手札0枚 LP300

 フィールド なし

 魔法・罠 リバース2枚

 

 

「おいおい、クロノスのやつ、冗談抜きに本気じゃないか。これじゃ、隼人に勝ち目なんかないぞ」

「確かに、隼人も頑張ってはいるが、この状況は圧倒的にピンチだ」

 

 万丈目と三沢が状況を的確に分析し、隼人の不利を嘆いていた。仮に融合がなかったとしても、逆転するのは容易ではないが、融合されたことでピンチは広がっている。

 

「けど、隼人君はまだ諦めてはいないようだよ」

「彼もこの一年で、随分逞しくなった」

 

 しかし、吹雪と亮は、万丈目や三沢とは反対に、隼人のメンタルを褒めていた。とても一度留年した人物とは思えない強靭なメンタルは評価に値する。

 

「遊矢君が、この一年、僕達にデュエルを教えてくれたおかげっすね……」

「そうね、二人とも一年前よりもずっと強くなったし、自信を持ってる」

 

 約一年前、隼人の親父さんが学校に殴り込みに来てから始まった臨時遊勝塾――不定期だが、それでも遊矢は時間を見つける度に、翔や隼人にデュエルを教えていた。

 その積み重ねが自信となり、今の隼人を支えている。

 

「いけぇ、隼人! きばれー!!」

「ここを乗り切れ、隼人!!」

 

 ここまで来れば、もう開き直るしかない。十代と遊矢が全力で応援を始めると、後ろの全員が声を出して、「きばれ!」と声をかけていく。

 

「この一年間、みんなに教わったことがあるんだな! それは、デュエルは楽しいものだってことなんだな!」

 

 勿論、中には苦しい戦いもあった。けど、思い出の中には笑顔のデュエルが多かった。

 自分にデュエルを教えてくれる時、遊矢もいつも口にしていたのを隼人は忘れない。デュエルは自分だけでなく、戦う相手も笑顔になれると。

 

「こんな楽しいデュエルが出来るだけでも、去年落第した時、止めなくて良かったんだな!!」

「……シニョール前田」

「自分で自分の限界は決めない! 俺はもう、何があっても絶対あきらめないんだな! 俺のターン、ドロー!」

 

 そして、諦めないデュエリストの元に奇跡はやってくる――引いたカードは、隼人がI2社のカードデザインコンテストで優勝し、カードとなった一枚だった。

 

「俺は魔法カード、《エアーズロック・サンライズ》を発動! 自分の墓地の獣族モンスター一体を特殊召喚するんだな! 甦れ、《ビッグ・コアラ》!!」

「なぬっ! 《ビッグ・コアラ》ですート!?」

 

 隼人は、前のターンの《コアラッコアラ》の効果発動時に、既に墓地へ《ビッグ・コアラ》を送っていたのだ。よって、特殊召喚が可能となっている。

 

《ビッグ・コアラ》

 通常モンスター

 ☆7 地属性 獣族

 ATK2700 DEF2000 攻撃表示

 

「さらに、《エアーズロック・サンライズ》の効果で、モンスターを特殊召喚し、相手フィールドにモンスターが存在する場合、それらのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、自分の墓地の獣族・鳥獣族・植物族モンスターの数×200ダウンする!」

 

 今、隼人の墓地には、最初の《天使の施し》で捨てた《デス・コアラ》に加え、プレイで墓地に送られた《コアラッコ》、《ラッコアラ》、《コアラッコアラ》、《デス・コアラ》の計五体の獣族モンスターが存在している。

 よって、攻撃力は1000ポイントダウンだった。

 

「ならば、チェーンで速攻魔法《リミッター解除》を発動するノーネ! これで、自分フィールドの全ての機械族モンスターの攻撃力はターン終了時まで二倍になるノーネ!」

 

 しかし、クロノスもただではやられない。先に攻撃力を二倍にすることで、8800から1000を引いた7800が、アルティメットゴーレムの攻撃力になる。

 もし、攻撃力を下げられた後に《リミッター解除》を発動していれば、下げられた3400の二倍の6800が攻撃力となり、かなりの差が生まれていた。

 

 《古代の機械究極巨人》 ATK4400→8800→7800

 

 しかし、これで隼人は攻撃力7800のモンスターを破壊しないといけなくなる。

 クロノスが使った《リミッター解除》には、エンドフェイズに効果を適用したモンスターを破壊するデメリットがあるが、仮にこのターンをエンドしてアルティメットゴーレムを破壊しても、アルティメットゴーレムの効果で、墓地から《古代の機械巨人》を呼び出されるだけなのであまり意味もない。

 

 逃げてもじり貧になるだけなら、攻めるしかなかった。

 

「罠カード、《融合準備》を発動! EXデッキの融合モンスター、《マスター・オブ・OZ》を相手に見せ、その融合素材モンスターである《デス・カンガルー》を手札に加え、墓地から《融合》を手札に加えるんだな!」

 

 これで、融合召喚で《マスター・オブ・OZ》を呼ぶ事が出来る。しかし、それでも攻撃力は4200と、僅かに届かない。

 

「このターンに全てを賭けるんだな! 俺は罠カード、《無謀な欲張り》を発動! 自分のデッキからカードを二枚ドローし、以後自分のドローフェイズを二回スキップする!」

 

 これで、隼人はもう次から二ターン、カードを通常ドローできなくなった。このターンで決めるという覚悟で、さらに手札を二枚増やしていく。

 

「最後に《貪欲な壺》を発動! 墓地のモンスター五体をデッキに戻して、カードを二枚ドローするんだな!」

 

 墓地には《エアーズロック・サンライズ》で参照した五体がいる。これで、隼人も前のターンのクロノスと同じく、手札を五枚まで回復した。

 

「全力で行くんだな! 俺は魔法カード、《融合》を発動! フィールドの《ビッグ・コアラ》と手札の《デス・カンガルー》を融合して、《マスター・オブ・OZ》を融合召喚!」

 

 《マスター・オブ・OZ》

 通常モンスター 融合

 ☆9 地属性 獣族

 ATK4200 DEF3700 攻撃表示

 

 隼人の切り札が、ここに降臨する。

 

「さらに手札から、魔法カード、《野生解放》を発動! 《マスター・オブ・OZ》の攻撃力を守備力分アップする!」

 

 《マスター・オブ・OZ》 ATK4200→7900

 

「攻撃力7900ですーか……アルティメットゴーレムを越えてきたノーネ!」

「バトルなんだな! 俺は、《マスター・オブ・OZ》で《古代の機械超巨人》を攻撃! エアーズ・ロッキー!!」

 

 《マスター・オブ・OZ》 ATK7900 VS《古代の機械究極巨人》 ATK7800

 

 相手に向かって、《マスター・オブ・OZ》が真っすぐ走っていく。

 

「罠カード、《ダメージ・ダイエット》発動ンヌ! このターン、私が受けるダメージは全て半分になるノーネ!!」

 

 ダメージステップに入る前に罠カードを発動させる。クロノスもしっかり保険を用意していた。

 

「逃げられた……けど、まだまだ! 速攻魔法、《鈍重》を発動! アルティメットゴーレムの攻撃力をターン終了時まで守備力分ダウンさせるんだな!」

 

 《マスター・オブ・OZ》 ATK7900 VS《古代の機械究極巨人》 ATK7800→4400

 

「くうっ! やるノーネ!」

 

 クロノス LP2100→350

 

「ですーが、《古代の機械究極巨人》が破壊された場合、自分の墓地の古代の機械巨人一体を、召喚条件を無視して特殊召喚するノーネ!!」

 

 《古代の機械巨人》

 効果モンスター

 ☆8 地属性 機械族

 ATK3000 DEF3000 攻撃表示

 

 クロノスの象徴でもいうべきモンスターが復活する。

 

「《マスター・オブ・OZ》の攻撃は終了。貴方には追撃の手がないノーネ。このターンの終了と共に、《野生解放》の効果で《マスター・オブ・OZ》は破壊され、貴方は敗北となるノーネ」

「クロノス先生! 俺にはまだカードが残っているんだな!」

 

 そう言って、最後の手札をデュエルディスクに挿していく。

 

「速攻魔法、《融合解除》! 《マスター・オブ・OZ》の融合を解除し、《ビッグ・コアラ》と《デス・カンガルー》を墓地から特殊召喚するんだな!」

 

 《ビッグ・コアラ》

 通常モンスター

 ☆7 地属性 獣族

 ATK2700 DEF2000 攻撃表示

 

 《デス・カンガルー》

 効果モンスター

 ☆4 闇属性 獣族

 ATK1500 DEF1700 攻撃表示

 

 融合素材となったコアラとカンガルーがフィールドに復活する。遊矢、十代、翔は約一年前、ナンバーズに操られた親父さんを助けるために、奮闘した隼人の姿が蘇っていた。

 

「しかし、かかし、そのモンスター達の攻撃力も《古代の機械巨人》には届かないノーネ!」

「届かないなら届かせるんだな! 墓地の《スキル・サクセサー》の効果発動! 墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールド上のモンスター一体の攻撃力をエンドフェイズまで800アップさせる!」

 

 それは最初のターン、《天使の施し》で重なった《デス・コアラ》と共に捨てていたカードだった。これにより、《ビッグ・コアラ》の攻撃力が800ポイントアップする。

 勿論、伏せて使うことも出来た。

 だが、隼人は今この時の切り札とするために、ずっとクロノスからこのカードの存在を隠していたのだ。

 

 《ビッグ・コアラ》 ATK2700→3500

 

「バトル! 《ビッグ・コアラ》で《古代の機械巨人》に攻撃! ユーカリ・ボム!!」

 

 《ビッグ・コアラ》 ATK3500 VS《古代の機械巨人》 ATK3000

 

 攻撃力が上がった《ビッグ・コアラ》の攻撃で、《古代の機械巨人》が破壊されていく。

 

 クロノス LP350→100

 

「これで最後だ! 《デス・カンガルー》で、クロノス先生にダイレクトアタック!!」

 

 フィールドにモンスターも、魔法・罠もなくなったクロノスに向かって、《デス・カンガルー》が真っすぐ距離を詰めていった。

 

 《デス・カンガルー》 ATK1500 VSクロノス LP100

 

「……見事なノーネ」

 

 クロノス LP100→0

 

 ソリッドビジョンが解除されていく。気付けば、隼人は涙を流していた。

 それは勝利したことによる喜びの涙なのか、それとも楽しいデュエルが終わってしまったことによる悲しみの涙なのかはわからない。

 隼人が涙を拭うと同時、対戦していたクロノスが笑みを浮かべながらこちらに歩いてきた。

 

「シニョール前田。進級試験の結果は貴方の勝利なノーネ。デュエルの内容もスプレンディッド、素晴らしいものだったノーネ。デュエルアカデミア、実技担当最高責任者として、貴方をI2社に推薦するノーネ。おめでとう」

「クロノス先生……」

 

 観客席から拍手が飛ぶ。

 

「シニョール前田、I2社で働くということはデュエルアカデミアで挫折するよりも、もっと厳しい現実が貴方を待っているノーネ。しかし、今回のデュエルを胸に、それを乗り越えて行って欲しいノーネ」

 

 遊矢は気が付いていた。

 本来ならば、二ターン目のクロノスのバトルフェイズで、クロノスはデュエルに勝つことが出来たことを。

 あの時、リバースカードをセットするのではなく、攻撃に合わせて《リミッター解除》を使っていれば、クロノスはデュエルに勝利していた。

 本人はきっと保険をかけただけというかもしれないが、クロノスは心のどこかで頑張る隼人をもっと見て居たかったのだ。だから、倒すのを躊躇してしまった。

 おまけに、融合を使った以上、仮に隼人が負けてもクロノスに落ち度があることで妥協点が生まれる。もしクロノスが勝っていたとしても、自分が融合を使ったのは大人気なかった――と、何やかんや理由をつけて隼人をI2社に推薦していたはずだ。

 

「クロノス先生、ありがとうございます……」

「貴方は私の誇りなノーネ。困ったことがあったら、いつでも連絡してくるノーネ」

 

 こうして、隼人は一足早くデュエルアカデミアを卒業し、I2社所属のカードデザイナーになることが決定した。

 少し寂しい気もするが、遊矢、十代、翔のお馴染みのメンバーは笑顔で隼人を見送っていく。

 特に遊矢は、I2社のテスターでもあるので、またどこかで会う機会もあるだろうということで、そこまでしんみりした別れはしなかった。隼人本人も、「またな! 俺、気張るよ!」と、笑顔で飛行機に乗っている。

 そんな隼人に触発されたのか、いつかまた会った時に、隼人に負けない人間になろうと、十代と翔も気合を入れて進級試験に望んでいた。

 

 

 




 原作との変化点。

・#50『隼人VSクロノス! エアーズロックサンライズ』より、隼人の気合が原作よりも高い。
 遊矢にこの一年の成果を見せようと気合が入っていた。地味に笑顔教に入っているため、デュエルで笑顔を心掛けている。

・隼人が勝利した。
 原作では隼人が敗北するが、こちらでは勝利させた。正確には勝たせてもらっただが、隼人の頑張りはしっかり伝わっている。

・クロノス先生、マジ先生。
 泣いた。


 デュエル内容変更点。

・古代の機械熱核竜を使っていたが、ちょっと効果が強すぎるので古代の機械巨竜に変更しました。


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