禪院甚爾に「私で童貞捨てたくせに」って言いたい欲求がある   作:らっきー(16代目)

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親友に彼女が出来ると複雑な気持ちになる

 伏黒さんからの依頼は無事に終わった。あんな素人の呪い……というかおまじない程度が何か効果を発揮していたのかは分からないが、少なくとも彼は二度とあんな行為をしようとは思わないだろうし、甚爾君曰くおそらく取り憑いていたであろう呪霊の方も祓い終わったとのことだ。

 

 どんな呪霊だったんですか? と甚爾君に聞いてみたところ、かなり高位の呪霊であったらしい。

 

 曰く、数度の夢を見せなければ危害を加えられないという縛り。それに夢という空間を擬似的に領域として使用するために、その中に複数人を巻き込み1人ずつしか攻撃を当てられないという更なる縛りを……うん、私はこういうのを纏めるのは向いてないな。

 

 ともかく縛りを活用して擬似的な領域で挑んでくる厄介な呪霊……なのだけど。私達天与呪縛の呪力無しは領域に認識されないという利点を持っているので、まあ相性が最良だったらしく。

 具体的に言えば必中効果は無駄だし、1人ずつの縛りだから甚爾君が生きている間は他の人は護られる。うん、相手が悪かったね。

 

 そんなわけで伏黒さんの依頼は見事解決。めでたしめでたしでさようなら……のつもりだったのだけど。

 

「あの……本当にもう大丈夫なのか不安で。あと数日だけここで過ごさせてもらえませんか……?」

 

 なんてことを言われてしまえば、数日かかるかもしれないと言った手前断ることも出来ず。その上その間は依頼料も払いますのでと言われてしまえば、そもそも断ろうという気にもならなかった。ギャンブラーが家に居るとお金がいくらあっても安心できないのだ。

 

 さて、ここで過ごさせてもらえないか、とは言われたものの。私達からしたらもう十中八九事態は解決したという認識なわけで。ともすればわざわざ家の中でだけ過ごす必要も無いのである。

 

「だからといって競馬場だの競艇場だのに連れ回すのはどうなのかと思うんですけど……私の感覚がおかしいんですかね? これは」

 

「あはは……まあその……陰気さとは程遠い場所ですし、いいんじゃないでしょうか」

 

 伏黒さんも苦笑している。連れてきた甚爾君はといえば、私達には構わずいつも通り負けている。私が知らないだけなのかもしれないけど、少なくとも甚爾君がギャンブルに勝つところを見たことがない。

 

 甚爾君含めて賭けに負けた人達が大袈裟に嘆いたりブチ切れたりしている所を見ていると、ある意味負の感情が貯まりやすいのではないかなんて気もしてくる。まあなんとなくそれで生まれた呪霊って弱そうだけど。

 

「あーくそ、負けだ負けだ……お前ら、何やってたんだ?」

 

「え、見ての通り食べ歩きですよ。絶対に勝てる賭け以外には興味無いですし。それよりもっと伏黒さんをエスコートしてあげてくださいよ」

 

「あ? ああ……お前コミュニケーションとか苦手だもんな。……悪かったよ、そんな顔するな」

 

 ……いや、別に甚爾君と悟以外の人と接したことがほぼ無いから、人とどう関わればいいのか分からないなんてことは無いし。会話の内容が天気デッキしか手持ちが無いなんてことは無いし。泣きそうな顔なんてしてないし。

 

「あー……伏黒。そろそろ実感できてきたんじゃないか? もうアンタを呪うものは無いって事を。体調も、もう悪くないだろ?」

 

「お陰様……なんでしょうか。なんというか……気分が、凄く楽です。今までは外出を楽しむ余裕も無かったので」

 

「そいつは重畳。だったら依頼ももう終わりでいいか?」

 

 珍しいなとは思った。てっきり不安を煽って搾り取れるだけ金を搾り取るぐらいの事はするかと思ったのに。やっぱり女性には甘いところがある気がする。例えば私とか……いや、私はよく叩かれてるな……なんて冗談はさておき。

 

「はい……そして、いいえ。これだけでは私の気が済みません。どうかお礼をさせてください」

 

 甚爾君の珍しい甘さは、彼女のそんな言葉で無意味になった。

 

「礼ならもう金を貰った。これ以上は要らねえよ」

 

「そういう訳にはいきません。命の恩人ですから……!」

 

 これまた珍しいなとは思う。大体の人はこう言われれば引き下がるのに。これはさては……

 

(甚爾君、甚爾君)

 

(あ? なんだよ)

 

(あんまり無下にしない方が良いですよって私の勘が言ってます。素直に受け取っておきましょう)

 

(……分かったよ。お前の勘はそれなりに信用出来るしな)

 

 多分伏黒さん、甚爾君に惚れた……は言い過ぎにしても、かなり好意的になってそう。まあ命の恩人ともなればそうなってもおかしくはないというか、十分な理由にはなると思うのだけど……しばらく色々見てもらって、幻滅してもらうとしよう。

 

 

 

 なんて私の目論見は、結論から言えば大失敗だった。いや、別に幻滅してもらいたいって訳でもないのだから、失敗という言い方もおかしい気はするのだけど。

 

「甚爾さん! ……は居ないですかね? ……空さんこれ、いつものです」

 

「ありがとうねえ、いつもいつも」

 

 伏黒さんが持ってきてくれたのは、平たく言えば手料理。私と甚爾君がいかにインスタントや冷凍に頼った壊滅的な食生活を送っているかを知った彼女は、自分が何とかしなければ栄養失調でどうにかなってしまうと使命感に駆られたらしく、時々というには多すぎる頻度でこうして世話を焼いてくれるようになってくれていた。

 

「あの、ところで甚爾さんは……」

 

「今日もギャンブル……って言うつもりだったんだけど、今日はお仕事中。それも呪霊とか関係ないやつ。珍しいことにね」

 

 そうですか……と残念そうな顔をする彼女。もしかしなくともこれはいわゆる脈アリという状態なのでは無いだろうか。

 

「ねえねえ伏黒さん」

 

「はい? なんでしょうか」

 

「甚爾君のどこが好きなの?」

 

 ストレートに聞いてやれば顔を真っ赤にして口をパクパクさせていて。それがもう何よりも雄弁に彼女の気持ちを物語っていた。

 

「うーん図星かぁ……」

 

「そ、そんなに分かりやすかったですか……?」

 

「そりゃねえ……普通の人は単なるお礼をここまで丁寧に、長いことはしないよ……何かしらの目的が無ければね」

 

「……空さんは」

 

「うん?」

 

「甚爾さんの恋人だったりするんですか?」

 

 あまりにも予想外すぎたその発言には、少しばかり思考が空白になりかけた。私が、甚爾君と……恋人。ちょっと面白い想像図ではあるかも。いや、ないな。そんな甘ったるい関係になるには私と甚爾君はちょっとばかり近すぎる。

 

「いやーないない。私と甚爾君の間の縁がもしも目に見えるとしたら、そんなお綺麗なものじゃなくて、もっとこう……腐ってるよ」

 

「じゃあ」

 

 意を決した様な顔で、彼女は言う。

 

「私が告白しても、問題無いって事ですよね?」

 

「え、うん。むしろ面白そうだし是非ともやってみて欲しい」

 

 誰かに告白された甚爾君、どんな反応するんだろうか。いつもみたいに面倒臭そうにするのか、照れくさそうにするのか、まさかの喜びを露わにするのか。是非とも告白の瞬間を見させて欲しいのだけど、それは流石に悪趣味が過ぎるかな。

 

 ああでも、もし甚爾君が結婚とかすることになったら、流石に家は出ていかないといけないのか。それはちょっと面倒かも。甚爾君に頼んだらまたその辺の手続きやっといてくれないかな。あと家具とか揃えるのも。

 

 まあそんな事は後で考えればいい事として。

 

「うん。私としては伏黒さんが本気で甚爾君のこと好きだって言うなら応援するよ。あれで頼りになる男だとは……だとは……うん、いざという時には頼りになるし、女が出来れば少しぐらいちゃんとしてくれるでしょ」

 

「じゃあ、いいんですね?」

 

「そもそも私が決めることでもないでしょ……あ、でも、2人がくっつくにしろ、振られるにしろ、私とも交流は続けてくれると嬉しいかな。友達、少ないからさ」

 

 五条空の友人を紹介するぜ! 禪院甚爾! 以上だ! 自分で考えてて悲しくなるな。他に唯一交流の続いている悟は弟だから友人では無いし。

 そんなおふざけは置いておいて、伏黒さんは私の割と切実なお願いにもクスリと笑って頷いてくれた。

 

「こちらこそ、お願いします。空さんだって私の命の恩人ですし」

 

「うーん、そんな畏まられる程のことはしてないんだけどな。ともかく、応援してるよ。上手くいくといいね」

 

 家族に悪意を伝えることすら諦めた私にとって、きちんと好意をぶつけようとしている彼女はとても眩しいものに見える。きっとこれが当たり前の幸せの眩しさなのだろうなと、そんなくだらない事を考えるぐらいには。

 

 私のほんのちょっとだけ皮肉を混ぜた応援の言葉に、彼女ははにかみながら、はい、と返事をしてくれた。

 

 

 

 それからしばらくして。

 

 甚爾君と伏黒さんの交際が始まったと、本人達から聞かされた。当然私としては友人同士が恋人になったということで祝福以外の思いなんて無いのだけれど。2人ともお互いが最優先になってしまうのかと、私との交流が少しは減るだろうなと思うと、ちょっとだけ寂しくもあった。

 

 これは構ってくれる頻度が減ってしまうのが悔しいというか、悲しいというか、ともかくそういう話であって。

 

 胸がチクリと痛むのは、失恋の痛みなどでは断じて無いのだ。

 

「……私で童貞捨てたくせに」

 

 当たり前のことだけど。そんな言葉を呟いてみたって、誰からも返事は返ってこない。

 

 別に、恋愛的な意味で甚爾君を見たことは無いし、自分のものだなんて思ったことも無いのだけれど。

 

 これから自分以上に甚爾君と一緒に過ごして、彼を理解してあげられる人が生まれるのだろうなと思うと。

 

 ちょっとばかり、嫉妬もしてしまうのだ。

 

 





次は禪院甚爾→伏黒視点の予定です。ちょっと更新遅くなるかもしれません。

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