大地が泡立つ様に蠢いている。
地面が泡立つようにメタルワームの波が大地を耕し、ゆっくりとゆっくりとカシュガルを包囲しながら迫っているのだ。
周辺ハイブのBETAは、この現象の遅延活動に奔走しており現時点で人類圏への侵食は停止していた。
しかしそれらのBETAによる妨害活動も焼け石に水の様な状態に見える。
逐次投入されるBETAは返り討ちに会っており餌にしかなっていない。
全ては、メタルワームの包囲網に飲み込まれる運命なのだろう。
周辺ハイブからの支援は、その全てがメタルワームの河を渡ることが出来ず流れに引きずり込まれており、只々餌になるだけの徒労が繰り返されていた。
これまでのBETAの順応の速さは、経験情報を上位個体に持って帰ってはじめて生きてくるものであり、そもそも情報がゼロの状態からでは進捗のしようがないのである。
そして、河のようなメタルワームの波が通り過ぎた後には、平らに均され同時に汚染物質が除染された清浄な大地と所々にうず高く小山を成す希少素材や汚染物が行儀よく集積された塚が点在しているのだった。
汚染物も元をたどれば資源に違いはない。
取り扱いの容易な形に纏まれば、其れ即ち全てが資源と言えるのではないだろうか。
廃棄物も要は使いようで今は使わないというだけの資源に違いは無いのだ。
しかし、そんな事はお構い無しで何でも荒らす輩はどこにでも出没するようである。
ハッキリ言えばこれらは全てメタルワームたちの溜クソの山なのだが、人類にとっては御宝の山にほかならなかったということだ。
それにいち早く気がついた者たちは、もうBETAとの戦いなどそっちのけで素材漁りに励んでいたりするのだから始末が悪い。
まあ大体犯人は推して知るべし、『また、彼奴等かよ!碌な事やらかさネ~よな』
大陸はまだ完全な安全圏が確立している場所など無いに等しい状態であるから、馬鹿な連中はカシュガル以外からの
大陸は除染が進むにつれて人類の生存圏が広がってきたこともあり、ハイエナ達が増えている理由ではあるのだが、難民の帰国入植を管理するはずの国体が機能不全を起こしている事も理由の一つであるのだろう。
結局のところ統一中華は、対BETAにおいて軍事をまとめては居たが世界中に逃げ出した自国の難民の管理までは手が回らずに放置しており、帰国の管理も復興支援も行わずに火事場泥棒に明け暮れているのだった。
お上が泥棒の元締めではどこにも文句の行場がないのは当たり前の話である。
結果、戦場の監視や不正を取り締まるのは巌谷さん達に貸与されているワルキューレ達にほぼ依存している様な状況だった。
何故なら通常の戦術機では航続距離とスピードがネックとなってまともな監視も取締活動も不可能だったからである。
アメリカなど強国からの横槍もあったが実行能力が伴わないことには、何を行ってきても無駄であった。
現在、日本帝国軍と国連軍からの選抜チームに貸与されたワルキューレは、総数1027機。
不本意ながら、当初予定されていた1万機の貸与には遠く及ばず、予想を大きく下回る結果にアスガルド側としても残念な結果となっている。
どうしてこうなった?
理由は、簡単な事だった。
ワルキューレが現行人類を生理的に嫌がったのである。
ちなみに貸与されている1027機の全機にパートナーを選抜できている訳でもない。
世界中から選抜されマッチングに挑んだ猛者たちの中から実際に操縦資格を得たものはとても少なかった。
選抜者すべてが挑んで実際にパイロット資格を得たのは現在運行している機体の半数にも満たない398人。
残りの629機は、無人状態の自立随伴機として稼働状態にあった。
どうやら現在稼働状態のワルキューレ内でも暇を持て余しており、野次馬といっても過言ではない状態であるのだ。
独立稼働するマシンが存在するだけでも信じられないのに、個に好奇心が存在するというのだからびっくりである。
ワルキューレが自我のある自立マシンであるとはいえ操縦者以外は誰も触らせてももらえないって、ここの人類どんだけ信用されてね~んだよって話である。
話を聞くに、整備にかこつけてリバースエンジニアリング……早い話が勝手にバラして調べようとするもんだから質が悪い。
これらの際には、目を血走らせて迫ってきてこちらの制止も一切聞かないらしい。
傍から見たらそんな変質者の集団、嫌われるのが当たり前とも言える訳である。
それ以外にも、ベタベタと触りまくったり、勝手に乗り込もうとしたり、勝手に罵詈雑言を捲し立てて移送しようとしたり、あげくにはハアハア言いながら御人形さん扱いしたりと、惨憺たる有り様だった。
当然突っぱねられるのだが、一時的には反省しても直ぐに忘れてまた群がってきてバラそうとしてくる。
結果ワルキューレからは、学習しない猿以下と見なされているふしがあるのだが、其の辺の詳しいことはワルキューレ達とシスターズにしかわからないのだった。
俺達も其の様子に呆れてしまい詳しく聞く気がないのでノータッチ、もう誰がどんなに騒ごうと放置である。
大体のところこちらが地球人類に譲歩できる境界線は、既に大きく超えているのだ。
身障者など一部ボランティアで助けた部分もあるにはあるが、地球の政治や国際問題には直接介入しないし面倒も見たくない。
まあそっちはそっちで勝手に内輪揉めして騒いでいればいいのだ。
俺達は、BETAの掃除が済んだらさっさとこんなところから出てゆくのだから。
そんな内容のチョットした愚痴を喫茶室で茶飲み話に話していたら真っ青になった巌谷さんが慌てて喫茶室を駆け出して行った。
同席していた香月夕呼博士は、そんなことはお構いなくのんびりとコーヒー片手に寛いでいる。
彼女は、このまま俺達のところに残留して居残る気のようである。
「ピアティフもこっち側に残るのよね?」
「はい。もう血縁もおりませんしかつての上司への義理も果たしました。もう地球に未練はありません」
「それじゃ俺達との同行組は、夕呼さん達で纏めてもらって良いかな? 権限を一任するという事で銀河放浪組の選抜は任せるよ。ただし俺達に付いて来るってことはもうこの地球に戻れる保証は無いってところが肝心なところだから念押ししといてね」
「了解よ。ピアティフ、該当者をリストアップして頂戴……そうね明後日、四国のプラントに集めて貰えるかしら? そこで私が説明するから……そうね、当日は身辺整理してくるのが最低条件かしら」
「わかりました。どこまで声をかけますか?」
「その辺は裏の世界を見てきた貴方の独断と偏見に任せるわ。変なコブ付きだけは排除しておいて頂戴ね。後が面倒だから」
「了解です……ウフフフッ」
此のときのピアティフ中尉の暗~い微笑みに内心ドン引きしている俺だった。
◆
慌てて喫茶コーナーを飛び出した俺は、兎に角格納庫に急いでいた。
もう地球に残された猶予はほとんどないといって良いだろう、もう待った無しだ。
俺達に残された時間は、ほんの僅かなのだと焦っていたのだ。
これまではアスガルドの協力により人類の夢だったBETAの地球上からの根絶が達成されるのも、もうすぐ目の前に迫っている。
しかし、だからこそ安心できないのが今の地球人類だ。
俺達は、現在実質的にはBETAと戦っていない。
BETAに敗残し山賊や野盗と化している元軍属や無政府状態で野放しにされているゲリラや追剥ぎを相手にしているのが現状であるからだ。
結果的に国連軍の平和維持部隊の様な役回りを熟しているのが実情だった。
BETAを相手にしたのなんて、ほんの最初のうちだけだったるするのだった。
BETAの天敵であるメタルワームの増殖とともにBETAからの侵攻はピタリと鳴りを潜め、逆に人類側の有象無象による妨害工作が多発したのだ。
戦場でメタルワームが襲ってこないことを良いことに好き放題暴れまわっているのである。
こんな状態で外敵であるBETAが消え、最大戦力のアスガルドが地球圏から撤退したらそこから始まるのは、血を血で洗う地球上の主導権争いになるだろう。
もしかするとBEAT大戦よりも悲惨な末路が待っているのではないのだろうか……と嫌な冷や汗が止まらなくて俺は兎に角走っていた。
◆
巌谷さん……慌てて飛び出していったな。
無理もない。
此の状況になっても日本帝国政府は、国連やアメリカの顔色を伺ってハッキリとした国の指針を出していない。
このままだと問答無用で他国からの要求を飲まされる未来が見えている。
日本帝国に良い状況の今のうちに何らかの対策を打ち出すなり、アスガルドに会談のテーブルを用意して貰うなりしなければ摘んでしまうのが目に見えている。
当然これまでも打診はしていたのだろう事は想像に固くないが、政府は重い腰を上げようとはしなかった。
「トップに直訴でもしないと駄目なんじゃない? 詰んでるは……」
「政府は何処も似たりよったりよ。足元どころか一歩先のことも見えてないのよね。アスガルドがここに居るって事に安心しきってるのよ」
「勝手に期待されても困るんだけどね~」
「馬鹿よね、居なくなってから慌てだすのよ。政府の官僚なんて何処もそんなもんでしょ?」
「言えてる」
「アスガルドが何処から来たか問い合わせとか無いでしょ? BETA
「夕呼さんもそれを分かってて今まで付き合ってたんだから疲れたでしょ。まぁ、逃げ出すに逃げ出せなかったって状況もあるんだろうけども……」
「終末の分かってる不毛な無限ループを繰り返していると、精神が擦り減って行くのよ。分かる?」
「分かる、分かる。終わりのないループって嫌だよね~」
「私は、もうこの無限ループ逃げ出すのよ! 誰が何と言おうと付いていきますからね」
「アァ、ハイハイ」
手な具合に凄い迫力で迫られたんだけど、余程精神にキテいたらしい。
御可哀想に……。