百暗と水木が戦場で一緒の部隊に配属されていたと言う話 水木が紆余曲折を経て鬼太郎を育てていた頃……
pixivより転載

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【出モグ×ゲ謎(幻覚)】境界の男

 戦場にいた頃、同じ部隊に変わった男がいた。

 顔の造作は悪くない。妙な女を惹きつけそうな雰囲気があったが。弁が立つ男で、下等兵同士の喧嘩が起きてもいつの間にか仲裁していることがあった。尤も、上等兵に生意気な口を利いて殴られていることもしばしばあった。

 1番妙だったのは、腰に常に帯びているカンテラだった。

 これを寝る時も枕元から離さなかった。このカンテラは奇妙なことにずっと灯が点っていて、それがなんとなく薄気味の悪い色をしている気がした。――今にして思えば、これは自らの将来へのなんらかの布石だったかも知れない。

 俺と彼は特別話すような仲でもなかったが、仲が悪いと言うわけでもなかった。同じ死線を潜り抜けて、同じ釜の飯を食っている同士だ。自然と連帯は高まっていた、そのうちのひとりだった。

 俺が最も話していたのは、桐原と言う男だった。小柄で愛嬌のある奴で、彼は可愛がられている方だったろう。

 そんな彼が、死にかけた。そして、生き返った。

 今でも信じられない話なのだが、確かに桐原は死ぬような怪我を負ったはずなのだ。――俺も同じように怪我を負った。今でも残っている傷がこのときに負ったものだ。桐原の傷は俺のそれよりももっと深いものだった。

 それが、一晩で復活してしまった。

 目上の兵士たちは「若いのはすごいな」と言っていたが、俺にとっては薄気味悪いものだった。

 ――もっと気味が悪かったのは。

 その前後して、あのカンテラの灯が少し暗くなったことだった。

 カンテラの主は、桐原と親しかった。

 

「水木か?」

「――百暗?」

 あれから10年以上経つ。俺は本土に帰りつき復員して、そして紆余曲折を経て人外の子を育てている。今は、丁度銭湯からの帰り道だった。片手には洗面器、片手に子ども――鬼太郎と手を繋いで。幽霊族だろうといかな普段は大人しかろうと、子どもは急に駆け出すものなので、外では常に手を繋いでおくのが最適解だとここ数年で学んだ。鬼太郎もそろそろ小学校に入る頃だな、などと考えながら夕暮れ時の道を歩いていた。

 名を呼ばれ、顔を上げる。帰り道に通りかかる橋の前。そこに男が立っていた。思わず立ち止まると、鬼太郎がたたらを踏むのが伝わった。しかし手を放すとこの夜道にどこまで駆け出すかわからない。しっかりと手を繋いだまま、聞き覚えのある声の主の名を呼び返した。

 嘗てと変わらず、腰のカンテラがぼんやりと灯が点っている。男――百暗はこちらに僅かに歩み寄った。けれど橋の上からこちらに来ようとはしない。俺は鬼太郎の手を握ったまま尋ねる。

「お前、この辺に住んでたのか」

「いや、用事があってここらに来ただけだ。そっちこそ、ここらへんに住んでるのか」

「まぁな」

「……連れてる子は、お前の子か? 男だな」

「――そんなところだ」

 俺が僅かに笑って答えたとき、不意に手を強く握られていることに気付いた。

 鬼太郎が不安そうにしているのに気付いた。

 俺は笑いかける。

「どうした、鬼太郎。あのおじさんは怖い人じゃないぞ、俺が南方で配属されていた部隊の――」

「養父さん」

 鬼太郎の声は、強張っていた。

「あの人、ヒトじゃないです」

「え?」

「――水木」

 不意に聞こえてくる声が、それほど大きくなかったのに、頭がぐわんと揺れるようだった。

 思い出すのは、目玉にはじめて会ったときのこと。

 この世ならざるモノへの、悍ましさ。

 俺が思わず硬直していると、百暗は相変わらず橋の上から声をかけてくる。

「お前、南方にいた頃、酷い怪我をしたな」

「……あぁ」

「でも、俺はお前に『灯』をやらなかった。お前は生命力の塊だと確信していたからだ。あの頃から野心にぎらついてて……お前は死なないだろうと思った。実際、お前はあの怪我でもなお生き延びた。あのときの俺の判断は妥当だと思っている。でも、今のお前は……」

 百暗は一息置いた。

「――彼岸の匂いがする。お前、どこでこちらに足を突っ込んだ?」

「――」

「……今ならまだ間に合うぞ」

 それは、言外に鬼太郎を手放せと言っているのだろうと気付いた。

 鬼太郎が、黙って俺を見上げてくる。隻眼の色は読み取れなかった。

 俺も、黙って鬼太郎の手を強く握った。そして、橋の上の男に言い放つ。

「決めたことだ」

「……そうか」

 そう言って、百暗は踵を返す。カンテラが揺れた。

 

 それきり、百暗とは会っていない。

 

 

 

 

 


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