ポケモン世界を安全に観光するなら 作:ミパデネア
いや、スターミーは無理。
戦うことになるとおもってなかったサカキ、そして準備万端で挑んだタケシも含めて、はっきり言えば困難ではあるだろうが無理難題という気持ちはなかった。
しかしスターミーは無理である、いったいガキの頃の俺があのスターミーに何度泣かされたことか。
今でこそ考えられないが負けすぎてポケモンに触らず、ゲームボーイを起動しない日まであったほどだ。
まあ、それはもちろん幼き故にゲーム自体に慣れていなかったのは大いに関係はあるだろうが。
お月見山麓のポケモンセンター、ベッド上で俺は来るべきカスミ戦に向けてああでもないこうでもないと悩んでいた。
ニビジムでは天候変化自体は見抜かれていたわけだし、かみなりパンチを奇襲に利用できるかは怪しい。そもそも接近させてもらえるかが謎だ。
遠距離攻撃できるわざはほとんどがいまひとつ、こだわりハチマキやこだわりメガネが手に入れられたらそれらのゴリ押しできたかもしれないが。
ああ、道具の選択肢がないのがここまでキツいとは。
なんて考えた時に、閃いた。
ある。
道具はある。
それも奇襲に使えて、遠距離攻撃ができて、火力も出せる理想のものが。
背負ったバッグを漁って目的のものを取り出す。
わざマシン43、なげつける。
そして。
わざレコード43、オーバーヒート。
なげつけるは、持たせた道具を文字通り投げつける。そして投げつけた道具によって威力や効果が変わる。
通常のアイテムで最高の威力が出るのは130のくろいてっきゅう、でかいきんのたまのどちらかしかないが、第八世代においてのみ確認できる特殊な仕様が存在した。
それはわざレコードを投げつけた場合、記録されたわざの威力と同じになるという仕様。
ガラル地方でしか流通していないわざレコードを用いたこの作戦ならば、カントー地方のトレーナーの意識の外にあるだろう。
レコードは重量も比較的軽く投げやすい、スピードもあって遠距離攻撃に向いている。
そして火力は申し分ない、今のリザードが使える中じゃ最高な上、こうかはばつぐん!
あとは。
「……なあリザード、ちょっとだけ苦しいの我慢できるか?」
「カ?」
数分後そこには口からレコードを出しながら涙目のリザードが!
と、随分と苦労をかけたが、どうにかレコードを口に含んだままえんまく程度は使えるようになった。
紐か何かで首からぶら下げようとも思ったが、見えていては奇襲になるかは怪しい。ごめんリザード。
しかし、カスミさんがあんなにも強いとは思わなかった。なげつける以外の作戦やこちらのレベルは見抜かれていた。あれならミュウツーだって倒せるだろう。
その上、手持ちを増やすとかじゃなくレベルの高い一匹に選出を変えてくるなんて。スターミーの耐久が上がってしまったから対面した瞬間になげつけるで倒す予定だったのが狂ってしまった。
さて無事に戦いは終わった、が。
「ねえねえ、カシアはジムに入る気はないの? カツラじーさんのとこならタイプも合ってると思ってるし。そしたら対抗戦なんかで戦えるじゃない」
現在カスミさんから勧誘を受けているところである。
「あのカスミさん」
「カスミでいいわよ、同い年でしょ。それよりなにあれ! なげつけるなのは分かったけどあの円盤よ円盤」
グイグイ、グイグイ来るよカスミさん……じゃなくてカスミ。
「あれはガラル地方の技術で作られたわざレコードというもので」
「何よそれカシアってガラル出身なの? もしかしてジムチャレンジ経験者とか? 道理で強いと思ったのよね、ねえねえガラル地方のみずポケモンってどんなのが」
「だあガラル出身じゃなくて親戚の伝手とかで手に入れたもので」
サイン貰おうと思っていたのにそんな隙もないほど攻め立てられてる……
と、そんなところで。
「あの、カスミさん!」
観客席からいつの間にかこちらに来たナナミさんが声をかけてきた。
そう、ナナミさんのバトルはまだだったのだ。普段は先にナナミさんが挑戦しているものだから忘れていた。
ナナミさんとジムリーダーとのバトルを見るのは初めてで、ワクワクしてしまう。バトルビデオを思い出すな。
「弟子にしてください!」
そんなことを考えていたので、初めはその言葉が理解できなかった。
「弟子って、あんたみずポケモン使いなの?」
カスミも同じく隣で首を傾げている上、当然の疑問である。
「いえ、今の手持ちはフシギソウとプリンです!」
「ならわたしよりエリカのとこに行きなさいよ」
「でもカスミさんが最強のジムリーダーなんですよね」
「そりゃそうだけど」
当然のことね、と言わんばかりに胸をそらす。
「私、強くなりたいんです。今のバトルを見て、カスミさんに教えてもらいたいって思ったんです……勝ちたいから」
ナナミさんの瞳は、真っ直ぐカスミと。そして多分、俺を射抜いていた。
そうか。
楽しい旅だったが、そういうことならば仕方ない。
ゲームでのジムの攻略も、いつだってライバルと競争してきた。
一緒にいる方が、稀だったのだ。
ナナミさんは強くなりたいんだから、そして俺は旅をしたいのだから。
こういうこともあるだろう。
「お願いします。それで、ごめんカシアくん」
悲しいことはない、ナナミさんなら追いついてくる。どころか抜き去るかもしれないし。
「ああ、大丈夫。先で待ってるよ」
だから、一旦お別れだ。
「ちょっと、わたしは了承するなんて言ってないんだけど」
「いやあナナミさんは強いよ、俺にも勝ってるし」
「ちょっとカシアくん! そうだけど負け越してるし……」
「ふうん、ならとりあえずバトルね」
「ええ!?」
そう、トレーナー同士なら語るよりもバトルをするのが一番。
俺はコートからさっさと観客席に移り、少し考えてから最前列に移動する。
どれくらいになるのかは分からないけれど、しばらく見れないのだし。水がかかろうが関係ない、このバトルは目に焼き付けておこう。
「さあ行くわよ!」
「はい、よろしくお願いします!」
始まった。
ナナミさんのフシギソウははっぱカッターとつるのムチで立て続けにヒトデマンとコダックを戦闘不能に。
しかしフシギソウはコダックのねんりきでかなりのダメージを受けている。
そして最後はもちろんスターミー、とはいえ俺が戦ったのとは違う個体、レベルはフシギソウのが上だろう。
「戻って、フシギソウ」
ここで戻ることを選択したナナミさんはプリンを繰り出す、そして。
「うたう!」
「スターミー、水に潜って」
惜しい、ねむり状態にできれば有利になったが。水中に潜られては歌声も届きにくいだろう。
「そのままバブルこうせん!」
「プリン、戦闘不能……」
だが、ナナミさんなら。
「お願いフシギソウ!」
そのぐらいは考えて組み立てるはずだ。
「はっぱカッター!」
ナナミさんの指示にカスミさんはそのまま水中に隠したままを選択したようだが、そっちじゃない。
ヒトデマンやコダックに使い、プールの底に沈めて隠しておいたはっぱカッターがスターミーを切り裂いた。
再利用はナナミさんの得意戦術である。
「スターミーは戦闘不能ね……分かった、いいわよ。バッジも弟子も認めてあげる」
さて、ハナダジムの前である。
「じゃあ、カシアくん」
「うん、俺はこのまま行くよ」
別れではあるが、俺たちの間に湿っぽい雰囲気はない。
「どうせならカシアも弟子になりなさいよ」
「いやあ、旅が俺を待ってるんで」
「待たせておきなさいよそんなの、急がば回れって言うでしょ」
「カントー最年少のジムリーダーが言うと説得力ないですよ」
「あんたジムバッジ全部手に入れたらまた来なさいよね、というかナナミに言って連れて来させるから絶対」
むしろカスミの方が駄々を捏ねている。
と、忘れ物だ。
「はい、ナナミさん」
「これ……タウンマップ?」
「ナナミさん持ってなかったでしょ、ニビの時にもう一つ買っておいたんだ」
ここまで一緒の旅だったから、キャンプやことあるごとに開いてこの上で談笑して、議論して、夢想して二人で書いたメモ付きのもの。
「今までの旅路、次会うときはお互い新しいこと書き込んでるだろうからさ。また見せあって話し合お……って」
「ひぐう」
ナナミさんがプルプル震えながら、ポロポロ大粒の涙を流している。ええ、いや、その、今まで一度もそんな反応、前世含めて見たことないから困惑してしまう。
「カシアったら、泣かすなんてサイテーよ」
「いやまさかそんな、え、ごめんわざレコードとかのがよかった?」
「ち、違うよお……」
湿っぽい雰囲気はないなんてさっきは言ってたが、感極まって泣いてしまったらしいナナミさんを見て。
少しナナミさんのお姉さんの印象が薄れたというか、いろめがねで見ていたなと反省である。
泣き止んだナナミさんに改めて手を振って。
夕暮れの道を歩く。
落ちた影はいつもと違って一人分。
悲しくはないけど、寂しいくらいは想ってもいいだろう。
……というか、マジでポケモンの世話を完璧にできるようにならないとな。
「ああ、俺も誰かに弟子入りできねーかな」
情けない独り言は、紫色の空に消えていった。
はい、というわけでナナミさんとは一旦お別れ。
果たして次会うのはいつなのか。
またカシアくんはこのまま一人旅なのか。
ちょっと区切りなお話でした。