とある呪術の両面宿儺   作:全智一皆

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八月三十一日②

 

■  ■

「あっれー? これはこれは、随分と珍しい客人じゃな〜い?」

 

 佐天涙子と別れた後、宿儺は学園都市にある某人気ハンバーガーショップのテラスでまたもや食事を取っていた。

 肉厚ダブルビーフバーガーとポテトとバニラシェイク。コーラとかの炭酸ではない辺り、結構バランスおかしい気がするけど気にしない方向で。

 さて、まぁそれはそれとして、そんな宿儺の所に金髪ロングヘアー巨乳女子中学生がやってきてはキャピキャピしながら話し掛けてきたのだが。

 

「失せろ虫女」

 

 宿儺はソレを目に移す事なくポテトを平らげながら言い放った。

 

「虫っ!? ちょっと前まで牛女でまだ許容範囲内だった優しい罵倒だったのにそこからランクアップして苗字呼びすらどころかさらにランクダウンして虫呼ばわり!? 流石にその罵倒は優しい優しい操祈ちゃんも無視する訳にはいかないゾっ!?」

 

 女子中学生とは思えぬプロポーションをした金髪に椎茸目の少女は、それはもう激怒した。

 食蜂操祈は激怒した。必ずかの邪智暴虐な鬼人の罵倒を訂正せねばならぬ、と。

 食蜂には政治が分からぬ―――ことはない―――。だが、人の悪意には人一倍敏感であった。

 

 両面宿儺。彼女の想い人と同じ高校に通い、さらには同じクラスであり、そんでもって同じ場に居合わせた男だ。

 色々訳あって助けてもらった身だし、恩義みたいなものを感じていないと言えば嘘になるけれど、だからと言ってあの罵倒は看過出来ない。

 虫、虫だ! 確かに食蜂(しょくほう)で名前に漢字の(はち)が入っているけれども、だからと言ってレディに対して虫!?

 この中学生らしからぬ巨峰を以て牛と呼ばれるならまだ分かる。だが虫はダメだ、アウトなのだ。

 

「相変わらず喧しい奴だな、貴様。その喧しさを何故上条の前で出さんのだ」

「いやー、それはなんていうか、踏み込むにはまだアレかなー的な? というか、そもそも会う事も難しいって言うかぁ……」

 

 そりゃ是非とも会いたいしお喋りしたいけど学校の時間割(カリキュラム)的にも時間を作るのが難しいって言うかそもそも私じゃそこまで辿り着けないというか……

 ごにょごにょもじもじと、体をくねらせる食蜂。それにさらに宿儺は顔を歪ませた。

 

「女々しい。行動が遅い。だから貴様は虫なのだ、蜂の癖にとろい動きをするな」

「投げ掛ける言葉がいちいち容赦が無さ過ぎる……!!! 貴方、一応こっちの事情知ってるわよねぇ!? その上でその発言なのかしらぁ、だとしたら肝が据わり過ぎててちょこっとどころか、かなーりすっごくドン引くンですけど!」

 

 だから何だと言うのだ。宿儺はつまらない様に開き直る。というか、そもそも隠そうともしていないのだが。

 なんだって態々気遣い等という面倒な手間をこの俺がせねばならんのだ。巫山戯た事を抜かすな三枚に下ろすぞ貴様。

 なんて、気遣い云々と文句を言えば手刀みたいな構えから不可視な斬撃が飛びかねない。食蜂は敢えてその言葉を飲み込んだ。

 

「知っているからこそ言っている。彼奴は凄まじいぞ、一月もせん内にいつの間にか別の女を侍らす。くだらん諦観で仕舞い込むよりさっさと伝えろ、見苦しい」

 

 吐き捨てる様に宿儺は告げる。

 食蜂操祈と上条当麻の関係は複雑だ。彼もその現場に居合わせていた関係者だ、その現場の状況も結果も全て知っている。

 二人が……と言うよりは、食蜂の方が複雑と言った所だ。

 端的に言えば―――上条当麻は、食蜂操祈という人間の事を記憶する事が出来ない。

 脳の一部部分に問題が発生してしまい、何度出会おうとも記憶する事が出来なくなってしまっている。そもそも視界から外れたその瞬間に、上条は忘れてしまう。

 食蜂にとって上条は想い人だ。それは正真正銘、紛れもない本物の気持ちである。しかしだからこそ、そこには複雑な想いが絡まるのだ。

 自分が忘れられる事を日常として、彼女は受け入れている。大切に想う人から、心の底から好きだと思う人から、忘れられる事を当たり前としている。

 

 それでも、彼女は諦めていない。諦めない。いつか彼が自分の事を思い出してくれる日を信じている。

 だからこそ―――宿儺にとって、彼女の行動は見るに堪えないものでしかなかった。

 

「隠し、誤魔化し。貴様がやる事は全て回りくどい。忘却がなんだと言うのだ、貴様は信じているのだろう? 奴がいつか自分の事を思い出すと。ならばその自分が信じるいつかの為に貴様がすべきは、その面倒な誤魔化しを止める事だ」

「ふぐぅ……貴方って、本当に容赦ないわよねぇ? 普通、そういう事情に対してそうもズカズカ踏み込まないと思うんだけどぉ」

「見るに堪えない上に見苦しい無様な醜態を晒しているからだ、戯けが。貴様の諦観は面倒臭い」

 

 またもやバッサリ切り捨てる鬼人。

 食蜂のメンタルは既にボロボロだった。

 ただでさえ上条が絡むといつもの様な調子からふとした事で頬を染める乙女になるのに、それの更に深い所まで踏み込んでさらに切り捨てられるのだ。

 しかも面倒臭いなんて言われちゃ、レディとして文句の一つや二つくらいぶつけなきゃ割にあわない!!!!!!!!!!!!

 

「面倒臭い!? 女の子に対して言っちゃいけないセリフランキング堂々の上位に入る言葉を平然と発言する辺り容赦とかじゃなくて人格的に問題があると思うんデスけどぉ!!!!」

「何を今更。分かり切った事を何度も言うな、鬱陶しい」

「ほんとなんでこの人あの時手を貸してくれたのかしらぁ……思い返しても疑問しか浮かばないんだけど」

「上条に言え。基本的に彼奴が俺を巻き込むから意図せぬ手助けをする羽目になる。マジ巫山戯るな」

「あまりの怒りで口調が変わってる……」

 

 上条当麻、その場に居らずとも宿儺を不機嫌にする男。マジ        。

 はぁ……という小さな溜め息と共に、シェイクを啜る。

 ――――――あぁ、やはり食事は学園都市外のものに限る。宿儺はそう思う他なかった。

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