継国之物語   作:西次

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 読者からの反応がなかったので、とりあえず自分の思うがままに、話を進めていきます。

 この作品が、皆様方の無聊を一時でも慰めることが出来たなら、それだけでありがたいことだと筆者は思います。



第二話 継国家の双子

 継国景勝と月舟禅師との関係は、いささか込み入っている。少なくとも、一言で表現できるほど、簡単な付き合いではないのだが――実際に向かい合ってみれば、気の置けない友人のようにふるまうことができていた。

 景勝の方にしてみれば、たまたま曹洞宗の高僧が近くにやってきたから、よしみを通じておこう――という程度の認識であったはずだが、気づけばずいぶんと心を許すようになってしまったというのが本音である。

 禅師自身の人柄もあるだろうが、訪ねてくれば屋敷に上げて、茶を振舞うくらいは当然のようにしてみせる。礼としては当然、という意味合いもあろうが――景勝とて、感情を吐き出せる相手は貴重であった。挨拶もほどほどに、他愛のない話が口からついて出る。

 

「今は仕事が忙しい時期ゆえ、あまり時間も割けぬのが残念だ。なるべく歓待して差し上げたいが、その余裕も限られておる。何とも、世知辛いことよ」

「いやいや、熱い茶が一杯もあれば、充分な馳走と言えまする。景勝殿もお忙しい中、わしの話に付き合ってくださる。ありがたいことです」

 

 人と人との繋がりこそ、宗教の本分だと月舟は考えていた。宗教的価値観を共有できる相手とは、話が通じやすい。共同体を作り上げ、維持するのに、この手の宗教的連帯は大きな効力を持つ。月舟はまさにそれを利用することで、これまで生きてきたのだ。

 

「馬借の仕事は当然だが、最近は水運の方も順調だ。上野国の中はもちろん、武蔵国の方でも色々と物が売れる。――今は材木を出荷する時期ゆえ、久々にまとまった収入が入ったところでな。客用の茶を用意するくらいは、どうということもない」

「いやはや、商売が順調で何よりですな。継国家が存在感を保てているのは、まさにそれだけの仕事ができているからでしょう。我が寺も、様々な形でお世話になっていると思えば、感謝の念に堪えません」

 

 景勝がそれなりに心を許しているように、老僧もまた、相手を信頼していた。小さいなりにも在地領主としての力量は認めていたし、人格面でも『家庭の事情』を除いては、頼るに足る人物であるとも。

 ――なればこそ、現状を変え得る余地があるか否か。月舟はいい加減に結論を出しておきたいと思っていた。そして景勝もまた、老僧が言いにくい話を持ってきたことを察する。

 察したならば、話しやすい雰囲気を作るのが作法というものであろう。近況報告や耳寄りな話題など、ごく普通の会話をしばし続けた後、景勝の方から切り出した。

 

「――して、この度は、どのようなご用向きでこられたのかな? 巌勝が、なにかやらかしたというのであれば、同席させてもよろしいが」

「……いえ、そうではなく、個人的な懸念があるのですな。巌勝と縁壱の兄弟については、わしも個人的に気にかけてやりたいので」

「あなたには、巌勝を任せている。それで不足というのなら、部下の子息らを送っても良いのだが――」

「数の問題ではありませんな。……話を逸らすのはやめましょう。我々は、もっと現実的な観点から話し合うべきなのです」

「禅師は私を批判したいようだが――私の家のことは、私が決める。それの何がいけないのかと、言い返してやりたいところだ」

 

 巌勝と縁壱、という名前が出た時点で、景勝は眉間にしわを寄せた。不快に思われていることは承知のうえで、月舟は話を続ける。

 嫌なことを後回しにして、それで済むことばかりではない。世の中には、不快でも立ち向かわねば問題が、いくらでもあるのだ。老僧は厳しい口調で、景勝に向かった。

 

「ぶしつけな言い方になって申し訳ありませぬが、最悪の事態についても、思いを致すべきでしょう。……あえて、極端な話をします。もし嫡子である巌勝に何かしらの不幸があった場合、お家を継ぐのは縁壱ということになります。――違いますかな?」

 

 景勝は即答しなかった。彼はしわの寄った眉間を揉み、一呼吸おいてから発言する。

 

「私と貴方の仲だ。言葉を濁さずとも結構。……違う、とは申せぬ。有事とあらば、命を懸けるのが武家の宿命であれば。もちろん、不幸があることは承知しておるとも」

「承知しているとおっしゃられるが、具体的には?」

「具体的な言葉を、ここで述べたところで何になろうか。口にしたくないことを、口にしない。私には、それくらいのわがままが許されているはずだ」

 

 それが精いっぱいの返答であるように、景勝は言った。言葉を濁したくないにしても、もう少し言いようというものがあるだろうと、月舟は指摘せねばならなかった。

 

「せめて、素直に縁壱の存在を肯定してやるべきでしょう。不吉な双子とはいえ、時至らばお家を継ぐ正当性を持つ次男坊。れっきとした、血のつながった息子ではありませんか」

「私は、あれを息子とは思っておらん。必要な時が来るまでは、少なくともあれが正当な扱いだと思っておる。……下手に扱って、跡目争いが起こることこそ、最悪の事態であろう。ゆえ、この件は巌勝にも意識させたくはない」

 

 あからさまに不機嫌であったが、景勝の声には淀みがなかった。本心からの言葉だと、察してしまうほどに。だからこそ、月舟は彼が心を病んでいるのだと理解した。

 現実よりも、理想を優先させている。自身の思考がすべてだと思い、現実はそれに従うべきだと他者に強制するのは、常人に許される考えではないのだ。景勝の考えには実害があると思えばこそ、月舟は苦言を口にしたくなる。

 跡目争いは確かに問題であろう。しかし、押し込められ、虐げられている子供が、健全に育つものか。

 そうして恨みを買った方が、後でひどいことになりはしないか。老僧は言葉を選びつつも、景勝の病を払うべく、さらに話を続けた。

 

「問題は承知。しかし、生まれてきただけでまったく落ち度のない次男を、息子ではないと強い言葉で否定される。……物には、限度というものがありましょう。遠目に拝見しただけでも、わしには巌勝と縁壱、よく似た双子であると思います」

「まさか、まさか。あの醜い痣があって、どうして同じ兄弟などと思えよう。あれはまさしく、災いをもたらす忌み子に外ならぬ。押し込めて巌勝との接触を禁じているのも、あれの呪いから遠ざけるためだ」

「呪いだなどと! 根拠のない、思い込みに過ぎぬではありませんか」

「思い込みであるかどうかは、今にわかる。……月舟禅師は、仏教以外の全てを迷信と思われるのだろう。だが、たとえ迷信であろうと、不吉と判断されたものは不吉なのだ。私は共同体を治める長として、その事実と向かい合わねばならぬ」

「外聞を気にすればこそ、縁壱を冷遇するとおっしゃられる?」

「……取り出した産婆からして、縁壱を忌避していた。私もまた、気味が悪いと思った。冷遇する理由としては、それで十分だと判断したまでのことよ」

 

 そんなことを気にしているのか、と老僧の立場では考えてしまうが、それはそれとして――武家には武家の立場というものがあるのだと、思考の違いに思い当たる。

 双子は縁起が悪い。生まれつきの痣は凶兆である――と思うのは、異端を嫌う小さな社会では、ありふれた感性であろう。

 社会そのものに責任を持つ地方領主なら、些細な住民感情にも配慮を求められる。景勝が己の感情を抜きにしても、不気味な子供をもった親として、これを放置できなかったというのが言い訳になるであろうか。

 だが、そのありふれた感性が子供を傷つけるならば、一人の大人として、釘を刺しておかねばなるまいと月舟は思う。

 

「……生まれつきのものです。本人にどうしようもないことを理由に、貴方は彼を排除なされるのですか。それは、なんとも無情なことではありませんか」

「いや、私にはわかる、月舟禅師。あれは、ひどく聡明だ。あの目、あの態度。……耳が聞こえずとも、きっと私の言葉は理解されている。生まれつきというなら、あれは最初から怪物として生まれたのだろう。――巌勝には才能がある。あれに頼らずとも、継国は安泰だ」

 

 答えにならぬ答えを、彼は返してきた。どうやら、景勝の中にはすでに結論があって、それを変えるつもりは一切ないらしい。

 不興を買った、という一言では表せぬほど、その態度は異様であった。彼は、すでに視線を月舟に向けていない。何もない床に目を落とし、暗い声で自説を語る。

 妄執にとらわれている相手に、どんな言葉も届くまい。これは重症だと、月舟も匙を投げた。

 

「そうであれば、よろしいですな。――ともあれ、縁壱は我が寺で預かります。以後の処遇は流れに任せ、景勝殿の関わるところではないと、そういうことでよろしいですな?」

「構わぬ。どうにでもしてやればいいとも」

 

 匙は投げたが、責任まで投げようとは思わぬ。どうにでも、という一言を引き出せたのなら、それでよいと月舟は安堵した。

 この時代、言質というものはそれはそれで重い意味を持った。書類に書き残しておくことが重要なのは当然だが、聖職者の前で偽りを語ることも忌避された時代である。

 禅僧に対して、正式に発言したことを後で撤回するとなると、外聞がどうしても悪くなる。ここまで堂々と言ったことを反故にすれば、それは月舟個人への非礼にとどまらず、曹洞宗への侮辱にも等しくなろう。

 

 景勝は、正しく強くあること。ゲンを担ぐことを重視する男だった。口に出した言葉には力が宿る。こうして口にしてしまった以上は、縁壱に必要以上の干渉をすることはあるまい。

 月舟は、これで巌勝への義理は果たしたと、安心することができた。だがもう一つ、くさびを打っておかねば安心できない、とも思う。

 

「結構。――しかし朱乃殿は、それで納得されておられるのですかな?」

「……縁壱が寺に入ることは、もとより納得しておる」

「ああ、いや。これはこちらの言い方が悪かったですな。――景勝殿。縁壱が僧になるのはいい。しかし万が一の事態になった場合、還俗した後のことは知らぬ、というのは生家としてどうなのでしょう。兄がいなくなった後の家で、弟が苦労するようでは、母親としても気がかりで仕方ありますまい。……縁壱の処遇を今少し考え直して、周囲への理解を求められよ。還俗後の生活には、周囲からの補助がどうしても必要になります故」

 

 朱乃が縁壱を気にかけているのは、この家に関わるものなら、誰でも知っていた。それくらい、朱乃は縁壱と共にいることが多かった。共有する時間の多さは、愛情の存在を語るには十分であったろう。

 なにより、朱乃の背景を知る月舟は、別の意味でも彼女のことを信じていた。だからこそ、老僧はいちいち縁壱の処遇について語ったのである。

 

「……巌勝が不幸に見舞われる事態など、今から想定することではあるまい。あれは、正しく育っておる。万が一にも、そのようなことには――」

「そうはなるまい、と高を括るより、そうなっても良いように準備しておくのが当主の仕事でしょう。……はっきりと言いましょう。嫡子が戦死、病死する。そして寺にいる次男が家に戻り、後継ぎとなる。こういった話は、たまに聞くことではないですか。現実から目をそらしても、世間は継国家を特別視してはくれぬのですぞ」

 

 中世社会において、死など当たり前のように、そこらへんに転がっているものだ。

 だからこそ備えは必要であり、予備の存在が重要になる。改めて問題にするようなことではなく、月舟禅師の言葉はそのまま武家社会の常識であるとさえ言えた。

 

「巌勝は負けぬ。いくさにも病にも、負けさせたりはせぬ。ならば当然、死ぬこともない。……無駄なことに余力を費やす余裕など、継国家にはどこを探してもないのだ」

「いいえ、勝敗は兵家の常。いかに備えようと、勝つこともあれば、負けることもありまする。――結果としての戦死であれば、武家としてはむしろ誉(ほまれ)でしょう。そして、その誉は次代への財産となる。家の存続を考えるならば、こう考えるのが正当ではありませんかな?」

「違う、敗北は恥よ。ゆえ、何があっても負けてはならぬ。たとえ勝ちを重ねていても、最後に負ければそれは悪だ。……だから、巌勝は負けぬ。死なぬ。縁壱などが後釜に座ることなど、万が一にもありえてはならぬことなのよ」

「――景勝殿。貴方は、自分が言ったことを忘れておられる。その万が一について、先ほど言及したばかりではありませんか」

「月舟禅師。私は現実から目を背けたくて背けているのではない。現実がそうあってほしいと願えばこそ、そのために必要なことを追及しているのだ。……縁壱が必要とされる事態など、起きぬに越したことはない。私には、考えたくないことを考えずに済ませる権利くらいはあるはずだ!」

 

 どこの家でも常識であるそれが、継国景勝にとってはそうではなかった。武家であること、正しく強く、勝ち続けることを求める彼が、この部分では道理に合わない言動をとる。

 窮地とあらば、己の価値観や命よりも、家の存続を最優先する。それが戦国の武家というものだが、景勝はかたくなに自身の理想に殉じようとする。

 その原因は何か。探れるものなら探りたいものだと、月舟は言葉を重ねていく。

 

「なぜですか? そこまで頑なになられるのは、何かしらの理由があるのだと愚考いたします。――この月舟に、その理由というものをお聞かせねがいたい。共にこの地に根を張る同胞として、重ねてお願い申し上げる」

「……継国家は、正統な武家ではない。どうしてもと言われるので、お答えするが……失礼ながら、月舟禅師は我が家の歴史についてはご存じないようだ」

 

 継国景勝は、これまで付き合った中で、まったく見せたことがない表情を露わにしていた。

 嘲笑とも受け取れるような、陰のある笑み。それでいて泣きそうなほど哀愁を背負った雰囲気で、彼は語った。

 

「継国家は、もとは馬借の庶人であった。……身元がはっきりしているというのが、かえって問題になるといっても、僧籍の貴方にはわかるまい。得体のしれぬ出自なら、それはそれで誤魔化しようのあるところを、我らが先祖はそうではなかった。どうしようもなく上野の、生粋の地元の出であり、周辺の住民も保証するほどの、馬借の棟梁の一族だった」

 

 それが、何かの間違いで身分を保証され、武家の端くれになってしまった。先祖の功績を否定するわけではないが、景勝とて現状に思うところがあるらしい。

 継国家なるものの現状を作ってしまったのも、また先祖の責任が大いにあると思っているのだろう。

 だが、月舟は今一つ理解が及ばなかった。出自がどうあれ、在地領主として認められているのは確かなのに、己を卑下する必要があるのか、と。

 

「馬借の棟梁、結構ではないですか。そこまで自虐するような家系でもありますまい」

「僧籍の貴方にとってはそうであっても、由緒正しき武家の連中にとって、我々は歴史の浅い成り上がりもの。……足利や上杉といった名門と比べれば、その変に転がっている木っ端と同じ。だからこそ、武家として認め続けられるためには、相応の結果を出し続けねばならぬ」

「武家の成果とは、いくさに勝つことですかな?」

「――期待に応えることだ。有事においては兵を駆り出し、率いて、忠実な手足となる。平時には周囲を統率し、民を主家に従わせ、与えた名に相応しい貢献を行うことだ」

 

 景勝は、怒りさえ含んだ表情で、吐き捨てるように言った。

 不本意であることは、見ていてわかる。そうでありながら、従うことを己に強いている。そうした印象を受けた。

 なればこそ、月舟も言い返さずにはいられなかった。

 

「無礼を承知で申し上げるが、貴方の家はそこまで大きな仕事ができる力はないはず。期待というほどの期待を背負っているとは、到底思われませぬぞ。上野国ではそれなりの力は及ぼうが、実際に動員できる兵力は百か、二百がいいところでしょう。経済面での貢献であれば、まだまだ高く見積もってもよろしいが……」

「事の大小が問題なのではない。課せられた義務を果たせるか否かが問題なのだ。……そうでなければ、誰が継国家を尊重してくれるのか。武家として認めてくれる主家なくして、我が家は侍としての自負を持つことは出来ぬ。――もし上杉家の不興を買い、被官としての地位を失えば、継国家はただの侍を自称する、不逞の輩になりさがるのだ」

 

 悲観的に過ぎる、と月舟は感じたが、それこそ僧と侍の感性の違いというべきものだろう。景勝自身、日常的に重圧を感じていればこそ、こうやって吐き出したくもなったのか。

 貴方はよくやっている。継国家は地域に根差した武家として、恥ずかしくない成果を出してきたのだ――と言っても、僧籍の自分では説得力もなかろう。

 

 言われずとも、そんなことはわかっている。だから落ち度を作らぬためにも、弱みはその一切を封じねばならぬ――と返してくる姿が、容易に想像できた。

 月舟は頭痛さえ感じた。ここで彼の悲観的な見方を変えさせるなど、己には過ぎた仕事だろう。そもそもの本題からも外れていることだし、老僧はここで話を戻す必要性を口にする。

 

「では、不逞の輩に成り下がらぬためにも、もしもの備えは必要でありましょう。――縁壱を寺に入れた後も、万が一のことあらば、家に戻るよう取り計らいます。何度でも申し上げるが、寺としても、出来る範囲で協力します。それで、よろしいな?」

「……万が一の事態に等ならぬが、そこまで言われるならば、禅師の顔も立てねばなりますまい」

 

 顔を立てる、という言い方が、今の景勝の限界であろう。彼が愚かな妄想に逃げ込むのも、現実の厳しさに打たれ続けた結果であるのかもしれない。

 所詮、己は部外者でしかない。ここまで本音を聞き出せただけでも、まずは満足せねばなるまい。月舟は溜息とともにこれを受け入れると、今後のことを案ずるようにつぶやく。

 

「巌勝にも、厳しい生き方を強いることになりますな」

「何をいまさら。この世に生きるものにとって、厳しくない時代が、果たしてどれだけあったことか。……我々は、末法の世で生き足掻くしかない。禅僧の貴方には、それこそ釈迦に説法というべきもののはず――」

 

 景勝は、自分の信ずるモノのために生きており、そこに余人が立ち入れる隙間はない。

 そして彼がかたくなな態度を崩さない上は、縁壱と巌勝の関係はこじれ続けることになる。兄弟の間にある溝は、きっと埋められることのないまま、成長していくことだろう。

 性急であったかと、月舟は己を恥じる。しかし、性急でもやっておかねばならぬことだと、信ずるからこそ動いたのだ。

 

「……戦国の世が、何もかも悪い。そう思うことにいたしましょう」

「それはそうだ。――ああ、本当に、そうだな」

 

 その後、二人は適当な雑談を交わした後、程よいところで会談を終了させた。

 結局、前向きな話し合いはできなかった。僧と武士では、お互いの尺度が違いすぎるのだと、帰路になって月舟は思う。

 

――古典の教養も、仏典の知識も、人の心を変えるには不十分。大事なのは、それを語る人の説得力。あるいは、人徳とでもいうべきものか。そのどちらも、わしには備わっておらぬ。

 

 どれだけ立派な学識があっても、現実に適応できず、結果を出せないならば意味はない。

 論語の子路篇において、孔子が語っていたことだ。いくら勉学に励んでも、実務に、現実に生かせぬなら、それが何になる。

 

――きっと景勝殿も、目には見えぬ、道義とか義理とか、そうしたもので雁字搦めなのだ。わしに語り切れなかったところで、引くに引けぬ事情などもあるのだろう。そこまで察してしまえば、わしの立場で無理押しも出来ぬ。

 

 老年になって得たものといえば、その役に立たぬ知識だけか。心に悟りを得ることなど、出来はしないと思い知る。結果、教え子の問題を看過してしまう。

 

 時期を見るのだ、と月舟は己に言い聞かせる。巌勝と縁壱の関係が、このままで良い訳はない。実際に問題の場を見てはいないが、話に聞くだけでも、あの家庭は問題が多すぎる。

 継国家の安泰が、国部村の安泰につながる。あそこが崩壊すれば、多くの人々が不幸になる。

 そうと思えば、巌勝への態度も再考すべきだろう。ただの学問の師として振舞うつもりだったが、これからは投資の額を増やすべきかもしれぬ。

 

――景勝殿。貴方が巌勝に全賭けするというのなら、わしもまた賭けようか。どうせ老い先短い身の上よ。最後は趣味に全てを投ずるというのも、悪くはあるまい――。

 

 巌勝の才気は本物だと、教えを重ねる内に確信するようになった。感情的な部分は別として、実利的な面から評するならば――継国家の次代があれなら、今後の曹洞宗の普及にも利用できよう。

 そして縁壱が後継ぎに収まることがあれば、後援となって継国家を支え、この地により深く根を張るのだ。

 ……そうした下心が、禅僧として正しいかどうかはともかく。誰にとっても得になる話にすれば、むしろこれは称賛に値する件になる。

 月舟はそう決意した。決意した以上は、行動あるのみだった。

 

――朱乃殿には、さて。なんと切り出すべきか。

 

 景勝にとって、一番難しい相手が朱乃である。こちらから話を通す、というやり方もあるはずだ。

 しかし最近は体調を崩しがちであり、離れに療養しているという。そこから縁壱の押し込み部屋がすぐ近くにある、ということも、様々なことを月舟に想像させた。

 いきなり顔を出すのは、迷惑になるかもしれぬと思いつつも、ここで躊躇するようでは何も成せぬであろうとも考える。

 

「……またの機会、としようか」

 

 先ほどの会談にて、景勝の感情を刺激しすぎた。ここで即座に朱乃に訴え出ることは、彼の精神の許容量を超える可能性がある。

 人間は所詮、感情の生き物であり、情動の奴隷とも言える。景勝がそこから解脱した、高次の存在であるとは思わない。ここで彼を激昂させて、感情を固めさせてしまえば、外部からの口出しはもはや叶わぬこととなろう。

 

 しばらく冷却期間を置いてから、改めて朱乃に話を持ち込むべき。そう結論付けて、月舟は帰路についた。

 子供たちのために、大人どもが苦労をする。逆に言うならば、子供を利用するために、苦労という名の投資を続けるのが己の姿だ。月舟は、思わず自嘲したくなった。

 景勝に対して、こんな本音をさらけ出したら、軽蔑されるだろうか。それとも、共感してくれるだろうか。

 そもそも正しい世など、本当に訪れるものなのか。老僧は諦観を抱きつつも、狡猾に時期を待つのであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上野国が国部村に、継国という家があった。大永八年(1528年)、その家に双子の男の子が生まれたことが、すべての始まりである。

 

 先に取り出された、痣のある赤子は『縁壱』と名付けられ――。

 後に取り出された、痣のない赤子は『巌勝』と名付けられた。

 双子は生れ出た順番で、兄弟の序列が決まるものだが……どちらが兄で、どちらが弟か。これについては、近代まで統一した見解はなかったとされている。

 

 ただ、この時代においては、先に生まれた方が弟と見なされていた。双子の男子は不吉である、という見解についても、その地方の風習と文化によるところが大きいものの――武家においては対等の男子が存在すると、ややこしい問題が出てくることは間違いない。

 

 よって弟の方を屋敷の片隅に押し込め、兄にだけ徹底した教育を施すというのは、道徳的にはともかく――この時代の武家として、行き過ぎた行為とまでは言えなかった。

 戦国時代に限らないが、名声と武力を保持する一家で、お家騒動を警戒するのは当然のこと。継国家の縁壱への待遇は、まさにこの家が武家であろうとするがゆえに起きたことであった。

 

「……武家に嫁ぐということは、そうした理不尽を受け入れることでもあるのでしょうか」

 

 しかし、武家ではない生まれの妻、朱乃にとって――そうした夫の態度は、厳しすぎるように思えてならなかった。

 朱乃は曹洞宗の高僧の娘であり、不義密通によって生まれた子であった。父と顔を合わせたことは片手で数えるほどしかなく、母は幼少の頃に病で逝った。

 それでも母からの愛情は理解していたし、父が邸宅を整え、金銭の援助で自分たちを生かしてくれたこともわかっていた。

 だから両親に悪感情はないのだが、これが親子関係としては歪な形であることも、また確かであったろう。

 

 僧が妻帯することは、この時代においては外聞の悪いことであった。大っぴらに許されている宗派もあるのだが、禅宗はそうではない。不義密通の類であれば、なおさらである。

 十歳を超えたくらいで、継国家に行儀見習いの名目で向かわされ――数年をすごした後に、そのまま嫡男であった景勝に、妻として迎え入れられる。

 安全に保証された人生であったともいえるが、男親の理不尽さというものに、流され続けた一生ともいえる。

 だからこそ、自身が成したこと。自分で生んだ子供たちについて、朱乃は強い愛情、そして執着を持つことになった。他のすべてのことは許せても、夫の縁壱への差別を容認することができないのは、それゆえでもあった。

 

「親が子を疎み、子を縛り、家のための道具へと教育し、それを恥じない。これを許す環境、社会に問題があるように感ずるのは、私が世間知らずだからなのでしょうか――。神仏はどうして、このような世を許しておられるのか? ……神仏がこの世を変えられぬなら、せめて私だけは、縁壱の味方にならねばなりません」

 

 子供は、親の愛情を無条件に受けて育つものだ。そうあってしかるべきだと、朱乃は考えている。親の影響力の強さを実感しているだけに、せめてこの世の不幸からは、子供を守れる親でありたいと願うのだ。

 だから、縁壱への虐待に反抗すべく、無理を押してでも自身の手で彼を養育することを決意したのである。景勝は嫌がるだろうが、自分がその気になれば、無理を通せると朱乃は読んでいた。

 なぜか、己は景勝から愛されている。そうした自覚があったから、朱乃はこれを利用しようと当然のように考えていたのだ。

 

「縁壱は、耳が聞こえない様子。ならばせめて、なんとか読み書きくらいはできるようにさせて……。気休めだけれど、何か、お守りになるようなものも作っておきましょう」

 

 どうすればいいかは手探りだが、努力もしないで泣き言を吐くだけでは、何も変えられぬ。

 朱乃は、戦国時代に生まれた女性としては、稀なほどに教養のある人物だった。書物を好み、ことあるごとにねだっては取り寄せていたから、この時ばかりは裕福な父親に感謝したくなる。

 彼女の父が禅宗の高僧であり、恩恵を得られる立場にあったからこそ、朱乃は教師として最低限の素養は持つことができたのだ。

 最初の一歩こそが難しいと心得るべきだが、とにもかくにも言葉を認識させることができれば、教えることに支障はあるまい。朱乃は縁壱の教育については、一切妥協するつもりがなかった。彼が聡明に育ったのは、こうした母の努力も一因ではあったろう。

 

「私が縁壱に会いに行くことさえ、あの人は嫌がるのでしょう。けれど、私の子は巌勝だけではないのです。――何と言われようとも、私は、私にできることをしなければ」

 

 朱乃は一人で決意を固めていたが、しかし縁壱は規格外の存在だった。彼は耳が聞こえないのではなく、自分から言葉を制限しているだけなのだと、身近にいる母ですら知らなかったのである。

 縁壱本人の認識からして、物心がついた段階で言葉を正確に理解し、他者の感情を読み取り、自身の言動を制御していたというのだから、その才は空前絶後という他ない。

 

 巌勝が百年に一人の天才ならば、縁壱は万年に一人の鬼才である。

 その残酷な事実が周囲にとっても明らかになるのは、二人が七歳を数え、縁壱が武を知る機会を得た、その時まで待たねばならなかった。

 それが幸運なことであったかどうかは、それこそ神仏でもなければ、判断できぬ事柄であったろう――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 継国縁壱は、自意識を獲得した瞬間を覚えている。およそ、二歳から三歳の間くらいの頃であった。

 

『お前は忌み子だ。生まれてきてはいけなかった、不吉な子供だ。いずれは継国家に災いをもたらすだろう――』

 

 幼い瞳で、おぼろげに風景を認識しながら、縁壱はその父の言葉を聞いていた。親子の在り方について、彼は虐待という言葉を知るよりも早く、従順に振舞うことを知ったのである。

 父景勝にとっては愚痴のようなものであったが、幼子であった縁壱にとって、これが自身の世界を決定する一言になってしまった。

 己がどこの家に生まれ、いかなる環境で、どのような家族を持ったかを把握する。なすべきこと、なしてはならないことを、彼はその場で理解したのだった。

 

――自分は、本当はここにいてはいけないのだ。今それが許されているのは、母がいるからだ。

 

 生まれた瞬間より、情動のまま泣き叫ぶ習性をもたなかった縁壱である。自我を持った時より、彼は口を閉ざすことを選んだ。

 そして四歳になる頃には、単語や文法のみならず、その言語の意味するところ。文化的背景まで、天から授かったかのように取り込んだ縁壱は、自分の存在価値というものについても、考え始めていた。

 

 この点では、朱乃の助けも大きかったと言わねばならない。絵と文字を組み合わせた、おそらく手製の教材と、付きっ切りで教育してくれる母の存在は、彼にとって救いになった。

 朱乃は縁壱が耳が聞こえないと思っているから、いちいち丁寧に読み書きを教えてくれたから、彼の方も意欲的に学習することが出来たのである。

 

――あの父の言葉がありながら、己が生かされているというならば、その理由は何か。生きねばならぬとしたら、それは何のためか。

 

 朱乃の教えと、生まれながらの才があったとはいえ、この年の幼児に出来ていい判断ではない。

 幼児の行動範囲など知れたものであり、そこで見聞きした情報を正確に分析し、疑問を抱くという行為さえ、本来ならばできるはずがないのだ。

 しかし、それをすみやかにやりおおせたのが、縁壱の異質さであろう。それを真っ先に知ったのが母でなかったら、果たして、この家の運命はどう転んでいただろうか。

 

 だが幸いにというべきか、母がお守りの耳飾りを縁壱に送った時。彼は最初の決断を行った。

 自分が生きられているのは、まさに母がいるからであり、彼女のために出来ることをしたいのだと伝えるために。それを話す機会は、この時を置いて他にはないと思ったから。

 

「母上、わたしは耳が聞こえます」

「縁壱、お前――」

「今は、聞こえないことにしたほうがよい。物言わぬ子であった方が都合がいい、と。それは、わかっております。けれども、母上にだけは、前もって知らせるべきだと思ったのです」

 

 母にとっても驚きの事実だったが、これが父にでも知られれば、余計な波紋を広げることになろう。

 父景勝の耳に入ったら、どうなるか。不具と決めつけ、押し込めた子が、健常な心身を備えていたとすれば――今後の教育についても、改める必要性が出てくる。

 この際、夫がいかなる判断を下すのか……。朱乃は、決して楽観しなかった。悪い方向に転ぶことを、まず彼女は案じたのである。

 だから、彼女はまず縁壱の考えを聞き出そうとした。彼の答えを聞いた後で、今後の方針を定めようと思ったから。

 

「縁壱、あなたはどうして、今まで黙っていたの。しゃべれるならば、言いたいことはたくさんあったでしょう?」

「これ以上黙っていては、母上に申し訳ないですから。守ってくれている母上のために、自分に出来ることがあれば、してあげたいとも思うのです」

「そんなもの、子供が気にすることではありません! ……言いたいことがあるなら、言ってもいい。私が許しますから、つらい時はつらいと、怖いものは怖いと言いなさい。それが、母のためでもあると、そう思いなさい」

「はい。でも……いいえ、つらいことも怖いものも、特にはありません」

「縁壱、何も言わないことが親孝行になるなどと、考えてはなりませんよ!」

「はい。……すいません。本当に、口がきけることだけを伝えたかったので。――他は言わなくとも、母上はわかってくださる方だ、と思います」

 

 自身が除け者にされねばならぬ、という事実を、縁壱は強く意識していた。それは父景勝の決断であり、継国家という武家の方針であり、容易には変えられぬ現実でもあると、彼は理解していたのだ。

 賢い子であると言えばそれまでだが、この聡明さを目にした母は、どんな感情を抱くのが正解であったろうか。愛情と執着、そして憐憫以外の感情を、どうして抱くことが出来るだろうか。

 

「……景勝殿を、恨んだことはないの?」

「父は父なりの考えがあるのでしょう。今の自分に、不満を持ったことはありません」

「なんという子。あなたは――」

「こんな忌み子などより、兄上を大事にしてください。この家に必要なのは、兄上であって俺ではないのですから」

 

 朱乃は、数ある感情の中で、ただ愛情だけを選択した。自分にできることは、すべて縁壱にしてあげようと。母親として与えられるものを、余すことなく伝えようと、強く決心したのである。

 

「縁壱も、巌勝も、私にとっては同じ息子です! 自分が必要ないなどと思わないで!」

「……はい。しゃべって、疲れました。慣れないことをしたから、かもしれません。もう、いいですか?」

 

 疲れたのは事実だろうが、それ以上に会話そのものが負担になっていたのだろう。このような幼児が、大人の世界に接し、気遣いを余儀なくされているのだ。

 朱乃にとって、これほど残酷な事実はない。愛し庇護すべき対象から、逆に配慮される。己の弱さを突き付けられて、朱乃の心は深く傷ついた。

 

「……ええ。そう、そうなさい。貴方の本当のことは、時期を見て伝えましょう。それまでは、何も聞こえないふりをしておくのです。私が許すまでは、決して口も開かないように」

「はい。では、そのように。――失礼いたします」

 

 縁壱は、そう言い残して朱乃から離れた。終日付き添っていても、もはや文句を言うものもいないのだが、母にはしばらく考える時が必要であろうと、彼の方から気を使った結果である。

 

「なんとふがいない母であること! ……わが身の弱さが、嫌になるではありませんか」

 

 子から与えられるだけの母親になってはならぬ。これから一層、縁壱を支えよう、と朱乃は思った。そのために必要であるなら、あえて事実も伏せよう。明るみになった時に景勝が暴力を振るうならば、身を盾にすることも迷うまい――とも。

 来るべき時まで、縁壱は耳も聞こえず、口もきけぬ子供になる。縁壱自身が、自らの力だけで生き残れる日が来るまでは、今の環境を維持しようと考えた。

 

 体に不自由がないならば、学識の伝授も急ぐことが出来る。朱乃は高名な禅僧ほどではないにしろ、門前の小僧よりは知識も豊富であった。

 武士にはなれずとも、僧としての道はある。それも嫌なら、農夫として生きるのもいいだろう。

 どの未来を選ぶにしろ、学問が邪魔になることはあるまい。今のうちに、詰め込めるだけ詰め込むべきなのだ。

 

「巌勝には、景勝殿がいる。でも、この子には、私しかない。……神仏よ、どうか私たちに今しばらくの時間をください。二人の兄弟が自立できるまでの時間を、どうか――」

 

 弱い我が身を恨みつつも、朱乃は自身のすべてをもって、縁壱に尽くしたくなった。

 初めからそのつもりではあったが、彼の子供らしからぬ態度を目にした以上、早々に動かねばならぬ。

 夫、景勝に対しても。もはや、遠慮などしている余裕はないのだ。自分のためではなく縁壱と、そして巌勝のために。

 朱乃は自分なりのやり方で戦うことを、この日に決めたのである――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 父母を敬愛するのは当然のことだと縁壱は思っているが、それ以上の感情を抱く相手が、彼には存在した。

 縁壱には、尊敬する兄がいる。正確には、尊敬を示さねば、自身の生存すら危うくなる存在がいる――というべきなのだが。

 そうした義務的な理解は、出会ってすぐに変わった。尊敬という感情が、血の通った心からのものに変化したのは、縁壱にとってそれだけ巌勝の存在が大きかったことを表している。

 母から耳飾りを送られた、すぐ後のことだった。彼は、はじめて己の兄という存在と邂逅することになった。

 

「お前の兄、巌勝だ。……双子と聞いていたから、一目で縁壱だとわかった。父上は……お前と会うな、と言っていたが。私は……せめて、言葉くらいは、かけてやりたいと思った。たとえ――その耳が、聞こえていなくともな」

 

 遠目に一目見た時から兄だとわかった。彼が近づいてきて挨拶するまでの間、微動だにできなかったのは、なにゆえか。

 透き通った世界を知覚し、他者の感情のすべてを理解できるはずの彼が、その時はじめて言葉に詰まった。

 

「……お前が哀れだと、そう思うくらいは、父も許してくださるだろう。何をしてやれるかは……わからないが。母だけでなく、私も、お前のことを……気にかけている。……それだけ、言っておきたかった」

 

 聞こえています。私は言葉がしゃべれますと、反射的に答えそうになるのを、彼は無表情の顔の元で、こらえねばならなかった。

 ここで縁壱は、生まれて初めて、己の感情と向き合うことになったのである。

 

「今度は……遊びの札でも、持ってこよう。どうやって遊ぶかは……身振り手振りで、どうにか……なればいいが。他にめぼしいものが、私には思いつかんのでな」

 

 耳が聞こえないと思っている弟に対しても、巌勝は言葉を選んで、慎重に対応したと言えるだろう。

 その気遣いが、いかに異例であったか。縁壱は、その優れた才覚によって、兄の気持ちを正しく察した。たとえ哀れみの感情が元であったとしても、これは間違いなく『仁』と定義してよい行いである。

 継国家に望まれていない己が、継国家でもっとも貴重な人間に、尊重されている。

 己に愛を向けてくれるのは、母だけではないのだ。それを、彼は初めて理解したのだった。

 

 背を向けて、この場を立ち去る巌勝に、『兄上』と声を掛けたかった。

 それでも、無言無表情で見送らねばならぬ現状が、縁壱には何よりもつらかった。

 

――いつになったら、言葉を発してもいいか。母上に、聞いておこう。

 

 自らの口で、兄に事実を告げる日がやってくること。縁壱はその時を熱望しつつ、母から学ぶべきことはすべて学ぼうと、強く決意したのである――。

 




 いかがでしたでしょうか。多少なりとも、興味が引ける内容になっていたでしょうか。

 個人的な考察というか、妄想というか。とにかく独自設定を大盛にして書いております。

 その辺り、読者には理解しがたい部分もあるかもしれません。それでもよろしければ、今後とも見守っていただければ、幸いに存じます。

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