勇者ヒンメルの死から29年後。
なんだかんだで仲間にしたザインを連れ、北側諸国地方ラート。その宿泊施設で休憩を取っていた僕達。
僕がベッドの上でだらけていると、
「いつもきつく当たりやがって!! そんなに俺のことが嫌いかよ!」
そんな元気でいて虚しいシュタルクの声が聞こえてくる。
それはフリーレンとフェルンがいる女子部屋の方だ。
「……?」
また喧嘩かな?
僕はそう思って起き上がり、あっちの部屋に直行した。
「もういい! 師匠のところに帰る!!」
しかし、来たのは少し遅かったようで。
扉の前で突っ立っているザインと僕を無視し、ぷんすこと怒りながらシュタルクは宿泊施設のロビーから外へ出て行った。
その瞬間、僕とザインは顔を見合わせる。
中に入ると、フリーレンがなんとも言えないしょんぼりとした顔をしていた。
「なんだ、痴話喧嘩か?」
「……みたいだね」
呆れたザインに続くように、僕はフードを深く被る。
状況を理解できていない僕達に、フリーレンが事の経緯を話し始める。
「今日フェルンの誕生日なんだけど、シュタルクがプレゼント用意してなかったんだ」
「ああ、それで」
その言葉に、僕は深く納得する。
年頃の女の子というのは複雑なものだ、男の子の何気ない行動一つで一喜一憂する物。
しかも、彼女にとっては初めて出来た年相応の友達、誕生日という重要な行事を忘れられていたのは……相当堪えたであろう。
「むすー」
「でも、今回は正直言いすぎだと思うよ。シュタルクの話全然聞いてあげないしさ」
フリーレンは第三者としてそう指摘する。
しかし、未だに気に入らないフェルンはまだ頬を膨らませたまま。
僕は頬を膨らませるフェルンの背中をなで、語りかける。
「ま、今回のことはシュタルクに非があると僕は思うよ。君は何も悪くないよ」
「リンク様……」
僕は優しく微笑んだ後、ポケットからある物を出す。
それは、小包にはいったクッキーである。
「これプレゼントね、良かったら食べてね?」
「あ……」
そうすると、フェルンはちょっとだけ嬉しそうな顔をする。
しかしそれは一瞬で、その後はコクリと頷くだけだった。
「ね、リンク。わたしのは?」
「ないよ」
「(´・ω・`)」
むしろなんであると思ってしまったのか。
フリーレンは悲しげにこちらを見てくる。すると、ザインはこんなことをいった。
「つうか、んなもん俺だって用意してねぇよ。男って言うのは誕生日とか記念日とかそういう細かいことは気にしない生き物なの」
「…………」
なんてことを。
ザインがそれを言い終わった瞬間、フェルンはげしげしとザインの足にローキックを仕掛ける。
「わかった! 買ってくるからローキックやめて! そういうのは後で膝に来るから!」
フェルンの蹴りから逃げると、ザインは落ち着くようにたばこを吸う。
「まったく、シュタルクが可哀想だぜ。俺ぐらいの歳になると冷たくされてもある程度流せるが、あの歳の男子は女の子の言動に一喜一憂するからな」
「まあ、ね」
呟くようなザインの言葉に、僕は否定はしなかった。
確かに、シュタルクもお年頃の少年だ。そんな少年がフェルンという美少女にむすっとされたらそりゃ来る物があるだろう。
「けど、女の子って言うのはすごく見とれちゃうけど。蔑ろにしたらしっぺ返しを喰らう物なんだ」
「……リンク様、そんな経験が?」
フェルンの静かな問いに、僕はすぅーっと吐息を吐いた。
――あら? なんだかオカリナの音色が変わったネ。
「……少しだけ」
僕は時のオカリナで無く妖精のオカリナを取り出して、ずっと友達宣言されたあの友達を思い出していた。
□ □ □
勇者ヒンメルの死から29年後。
二人が仲直りしたのを見届けた僕達は、ある馬車に乗せてもらって道中を進んでいた。
「ありがとう、ここら辺は乗り合い馬車も無かったから助かったよ」
「こういう時は助け合いですから」
そう、気さくそうに話す馬を操る青年。
「実は私、この先の村の商人でして、代々装飾品店を営んでおります。ご興味ありますか」
「商売上手だね」
さらりと営業を入れる運転手に少し笑うフリーレン。
「私は余り興味は無いけど、フェルンはそういうの好きだったよね」
フリーレンがフェルンに身を寄せて視線を動かす。
すると、彼女が目新しい物を身につけているのに気がついた。
「あれ、新しくブレスレッド買ったの?」
「えっと……これは……」
言いよどむフェルンが何かを言い出す前に、フリーレンが言葉を続けた。
「可愛い意匠だね、私、同じデザインの指輪持ってるよ」
そう言って、フリーレンは整頓されていないアタッシュケースの中をガサゴソと探し始める。
「何処にやったかな……」
「整理整頓しないから……」
そんな会話を隅に、僕の長い耳がある声を聞く。
「…………」
「リンク、どうした?」
「話してくるなんて珍しいね、どうしたの?」
その声は、勿論シュタルク達には聞こえない。
「おい、誰と話しているんだ?」
聞こえなくて当然だ。
この声はハイラルの人間、というより神の声を聞くとされる長い耳を持つ物にしか聞こえないのだから。
それは僕、時の勇者と関係する……時を司る剣。
――退魔の剣であるマスターソード。
その精霊の声なのだから。
「……何かが来る?」
その精霊の話によると『こちらに突進してくる飛行物体あり、こちらを標的にしている可能性92%』だそうだ。
――どぉぉぉんっ!
だが大体、この精霊が話しかけてきた時の可能性は現実の物になる。
角の生えた大きな鳥が馬車の荷台を掴み、僕らを連れて上空高く飛んでいってしまったのだ。
「……ごめん、油断してた。鳥型の魔物って狡猾で魔力を隠すのが上手いんだよね」
「ごめん、僕もすぐに気がつけなかった」
「どうしよう……」
鳥の魔物に捕まれて、何処かへ向かっている僕達。
多分、この魔物の巣に向かっているのであろう、僕達はひな鳥に与える餌と言ったところか。
その後、シュタルクが提案する。
「とりあえず魔物は倒すとして、あとは飛行魔法でなんとかならないのか。馬車くらいなら浮かしたりできんだろう」
「シュタルク、空飛ぶ馬車って見たことある?」
「今乗ってるよ」
わかっていないシュタルクに、僕が解説を入れる。
「魔法は、きちんと原理がわからないと応用できないんだ。この世界の飛ぶ魔法は原理がわからないんだ」
「じゃあリンク、お前は原理がわかる飛ぶ魔法を知ってるのか」
「盾で飛んだり、ゾナウだかのエネルギー使えば」
「なにいってんの?」
真面目に答える僕に、シュタルクは悲しく冷たい目をする。
まあ、僕も伝え聞いた話だから見たことは無いのだが、マスターソードの精霊によれば今の勇者は馬を使わず、天井の壁を抜けたり盾でサーフィンしたりして移動する……らしい。
とはいえ、その続きで今の勇者は退魔の剣をピッケル代わりにすると言ってたので、普通にジョークなんだと思うけど。
盾で空を飛べたらなと、すこしワクワクした。
「とりあえず、脱出するしか無いね」
そんなことを考えていると、フリーレンが言葉を続けた。
「私が商人を連れて飛ぶから、フェルンはザインをお願い。リンクはフェルンの背中に」
「……なあ、俺は?」
「シュタルクは飛び降りて」
「なにいってんのこの人」
珍しく指示したわりに、彼女の作戦では一人犠牲にするようだ。
「死んじゃうと思うんだけど……」
「戦士はこのくらいの高さで死なないでしょ」
「死ぬに決まってんだろ!!!」
素で言っている様子のフリーレンに、シュタルクは怒鳴り声を上げる。
「なに訳わかんないみたいな顔してんだよ!」
「おかしいな、アイゼンは自由落下程度ならどんな高さでも無傷だったよ?」
「シュタルク、おりた瞬間にでんぐり返しするといいよ」
「なんで自由落下で死なない前提で話をすすめるんだよ!?!?」
その瞬間、地面と衝突した。