死の支配者と呪いの王   作:国盗りしたいお

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久しぶりです。


嚆矢邂逅ー参ー

宿儺はモモンガと別れた後、森に残った兵を裏梅と万で狩っていた。

「宿儺様、森に残っていた兵はあらかた片付いたようです」

「そのようだな」

「それにしても弱かったわねー。下位のアンデッドの方がまだマシよ」

裏梅は兵が片付いたことを宿儺に報告し、万は兵の弱さを嘆いていた。3人の周囲には、バラバラになった死体、氷像のように凍りついた死体、巨大な物で潰されたような死体など、多種多様な死体が転がっており、宿儺達との圧倒的な力の差を示していた。

「念の為、もう少し探…」

「宿儺様?」

宿儺は喋るのを中断し、草原の方角を凝視した。

「…草原の方角からかなりの数が来ているな」

「なっ!」

宿儺の言葉を聞き、裏梅は驚愕する。それを尻目に、宿儺はモモンガに伝言を送る。

『聞こえるか、モモンガ。草原の方からかなりの数が向かってきている』

『こっちも確認しています。今、村に来た王国の部隊が迎え撃とうと準備しています』

『王国の部隊?』

『ええ、ガゼフ・ストロノーフという王国最強の戦士長が率いているようです』

『なるほどな。…で、その戦士長は奴等に勝てそうなのか?』

『…正直厳しいですね。相手は第三位階魔法で召喚される炎の上位天使を多数使役しています。さっきの兵の強さを考えると、いくら王国最強と言っても貧相な装備しか所持していないなら、最悪全滅します』

『そうか…ならモモンガ。戦士長とやらにこう伝えろ』

『え?』

『「モモンガの友人が、敵の部隊を殲滅する」とな』

『そんなっ…、もし宿儺さんに何かあったら』

『案ずるな、俺とてそこまで馬鹿ではない。だからモモンガ、ナザリックにいる階層守護者に、俺に万が一のことがあった場合すぐ出れるよう準備しろと言ってくれ』

『でも…』

『それにメリットもあるぞ?今回の事を解決すれば、戦士長とのコネクション、周辺国家の情報等、これ以外にもお釣りが来る』

『…そこまで言うなら、わかりました。でも、もしものことがあったら俺も出ますからね!』

『ああ、よいよい』

そこで宿儺は伝言を切り、後ろにいる二人に向き直る。

「これから此方ヘ向かってくる部隊を殲滅する。わかったか?」

「仰せのままに」

「了解しました!」

宿儺の命令に、裏梅は静かに、万は力強く了承する。

「行くぞ」

そして3人は、敵を迎え撃ちに行く。

 

 

 

 

 

 

ニグン・グリッド・ルーインは余裕の笑みを浮かべ、飛行(フライ)で飛び部下を引き連れ村に向かう。今回の任務は、いつもの亜人種の村の殲滅ではなく、一人の戦士の抹殺。しかもその相手は、周辺国家最強、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。本来ならば、英雄級の実力を携えた法国最強の漆黒聖典の出番だ。だが今は、破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の復活に備え、"ケイ・セケ・コゥク"の警護に当たり、風花聖典は裏切り者を追っているので、ニグンが隊長を務める陽光聖典に白羽の矢が立ったのだ。相手は周辺国家最強の戦士。普通なら苦戦は必須だが、今のガゼフは愚かな貴族により装備は最弱。そして万が一に備え、神々が残した至宝が渡されている。負けるはずがない。ガゼフ・ストロノーフは人類の未来のための犠牲になるのだ。そう思いながら飛んでいると、前方に3つの人影を視認する。ニグンは部下たちに手で止まるよう合図し、静止したまま前方の人影を観察する。はじめはガゼフの部下かと思ったが、すぐに違うと気がついた。3人の内2人は、変わった服装をしていること以外は人間の女だった。しかし、その二人の真ん中にいる男は違った。4つの腕と目、腹に付いた口、全身に刻まれた禍々しい紋様と、人間、亜人、悪魔などどの種族ともとれない姿をしていた。初めて見る異形に驚きながらも、相手の出方を探るため話しかける。

「何者だ、貴様ら」

そう問いかけると、異形は不快そうな表情を浮かべながら喋る。

「許可なく喋るな…痴れ者が」

異形はそう言うと、指を振るう。その直後、自身の後ろで何かが倒れる音がし振り返ると、そこには首のない部下の死体が2つ倒れていた。

「ッッ⁉」

なんの躊躇もなく部下を殺した異形に、ニグンは戦慄を覚える。そしてすぐさま、部下に命令を出す。

「何をしている!天使を突撃させろ!」

仲間の死に方を見て恐怖していた部下は、すぐさま天使4体を突撃させる。翼をはためかせ、炎の剣を突き出しながら突撃させる。しかし、異形は自身を殺しにかかる天使をまるで気にしてないような余裕な態度で喋る。そして、いつの間に取り出していたのか、金剛杵のような形をしたものを振りかざす。

「遅い。――"神武解"」

そうつぶやいた直後、天使に雷が降り注ぐ。視界一面を白に染め、地響きが起きるほどの威力を持った雷を受けた天使は、炭化し黄金の粒子になりながら消えていく。

「第三位階で召喚される炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)か…。わかってはいたが、やはり弱いなお前ら」

第三位階という普通の魔法詠唱者が到達する最高点で召喚される天使を容易く屠った異形は、何の気無しに言い放つ。そして異形の左右にいる二人の女も、当然だと言わんばかりの顔で頷いている。その姿を見てニグンはさらに恐怖し、再び命令を出す。

「早く天使を突撃させろ!今度は全天使でだ!急げ!」

弾かれたように、全ての炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が異形に迫る。

「こりん奴らだな…。芸が無い」

天使達が襲い掛かる中、異形は冷静な声で話す。四方八方からの天使の攻撃に、まるで焦りを感じてないようだ。そして異形が無数の剣により串刺しになる、そう思ったが――それより早く異形が攻撃する。

「"解"、"神武解"」

天使の剣が刺さる直後、左手に先程天使を屠った武具を持ち、そして右手で印を作り、詠唱する。その瞬間、左から迫っていた天使には雷が降り注ぎ、右から迫っていた天使には不可視の斬撃が遅い来る。2つの攻撃を受けた天使たちは炭化し、細切れになり消えていく。

「…あり、ありえない…」

ニグンの部下が声を震わせつぶやく。それほど信じられない光景だったのだ。総勢40体の上位天使。それら全てが、ものの数秒で塵芥に変わる。ニグンはこの光景を作り出した異形に向かい、もはや悲鳴のような声で問い掛ける。

「貴様は一体何物だ!上位天使をたったの一撃で滅ぼすなど、あ、ありえない!貴様の名は何だ!貴様のようなものが今まで無名なはずがない!」

ニグンの決死の問いかけに、異形は顎に手を当て少し考えた後、答える。

「俺の名は宿儺。両面宿儺だ」

"宿儺"と名乗った異形に対し、ニグンが言い返す。

「宿儺?両面宿儺だと!?そんな名は聞いたことがない!貴様の本当の名前は何だ!?」

冷徹だった表情は何処へやら。今のニグンは、この現実を認めることができないと叫んでいた。

「……そうか、知らんのか。この名はかつて、古今東西知らぬものは居なかったのだがな」

そこで宿儺は、「さて」と前置きし、会話を続ける。

「それで、くだらん児戯には満足したか?次はこちらの番だ」

宿儺は獰猛な笑みを浮かべ、歩を進める。

「行くぞ?――鏖殺だ

ニグンは宿儺の表情に戦慄し、反射的に自身の天使である監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を突撃させる。先程の天使より高位の天使ならあるいは、と考えたが、その考えは脆くも崩れさる。一気に宿儺の下まで辿り着いた天使は、宿儺の胸元に光り輝くメイスを叩き込もうとする。しかし宿儺は余裕そうな表情でメイスを一本の手で受け流す。そのまま2度、3度と受け流した後、一本の手でメイスを。残りの3本の手で天使の頭、手、胴を鷲掴みにする。そして少し力を入れたような動作をし、天使を素手でバラバラにしてしまう。

「ば、ばかな」

「素手で天使をバラバラにするだと…」

「あ、あ、ありえるかぁあああ!」

部下の混乱の中、ニグンの怒鳴り声が響く。40体の天使を瞬殺。そして高位天使を素手で八つ裂きにするなど、現実離れした宿儺の強さを見て、ニグンは悟る。

――あれは想定以上の化け物だ。自分たちでは勝てない、と。

そして、対ガゼフ・ストロノーフの切り札を使用することを決意する。

「防げ!生き残りたいものは時間を稼げ!」

ニグンの命令に部下たちは動揺する。あんな化け物を相手に盾となれと言われれば、死を恐れぬ兵であっても躊躇するだろう。しかしその動揺は、ニグンが懐から取り出したものを見ることで消え去る。

「最高位天使を召喚する!時間を稼げ!」

そう言いニグンが懐から取り出したのは、眩い光を放つクリスタルだった。その中に封じられている存在は、200年前魔神を単機で滅ぼした最強の天使。その存在を知っているニグンの部下たちは、目に希望の灯火が宿り、動きも目に見えて変わる。宿儺は水晶を見て、ブツブツとニグンにとっては理解できない得体のしれないことを呟く。

「…あの輝きは…魔法封じの水晶?それも輝きからして超位魔法以外を封じるものか…。だとすれば召喚されるのは熾天使級(セラフクラス)?裏梅、万、いつでも術式を展開できるようにしろ。流石に恒星天の熾天使(セラフ・エイススフィア)はなかろうが、至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)が来たら厳しいな…モモンガにもいつでも出れるよう知らせるか」

宿儺が棒立ちの間、ニグンの手の中で規定の使用法に従いクリスタルが破壊され――光が顕現する。それは天で輝く太陽が、地上に降り立ったかのようだった。草原は爆発的に白く染め上げられ、ニグンが歓喜の声を上げる。

「見よ!最高位天使の尊き姿を!威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)

それは正に光り輝く翼の集合体。王家の象徴たる笏を持ち、本来頭や手がある場所は翼で覆われている。しかしその身が放つ威光から、聖なる存在であることは誰もが感じる。至高善の存在を目にし、部下が万雷の喝采を送る。この存在なら両面宿儺を殺せる。その思いでニグンは宿儺を見ると、宿儺は言葉を紡ぐのがやっとのようであった。

「これが……?これが本気だと?この程度の天使が…俺への切り札と?」

ニグンは宿儺の様子に、先程まで感じていた不安や恐怖心がすべて消し飛ぶ。

「そうだ!怯えるのも仕方ないが、これこそが最高位天使の威光。本来ならばこんなことに使うのはもったいないが、お前にはそれだけの価値があると判断した」

「なんという……」

宿儺は2本の手で顔を覆う。その様子を見てニグンは更に気分を良くする。

「両面宿儺。最高位天使を召喚させたお前には正直、敬意すら覚える。誇れ!お前は凄まじい力を持った「つくづく…下らん」…は?」

ニグンの賞賛の声に、宿儺が言葉をかぶせる。その言葉には、深い失望が宿っていた。ニグンが何を言われたか理解できないでいると、宿儺の体が小刻みに震えだす。

「ケヒ、ヒヒッ…ゲラゲラゲラゲラ!

宿儺は天を仰ぎながら、空気が震える程の声量で笑い出す。

「つくづく!!愚かな連中だ!!この程度の天使で、俺を殺すとは!つくづく甜められたものだなぁ!!」

宿儺の地獄の底から響く笑い声に、ニグンたちは背中に氷柱を刺されたように全身が凍りつく。

「ケヒッ、ヒヒ。すまんな裏梅、万。この程度の児戯に術式を展開するよう頼んで」

「宿儺様が謝罪することはありません。相手が想像以上の愚者だっただけです」

「裏梅の言う通りです。それに、何が召喚されるかわからない以上、あの判断は適切ですもの!」

「そうか、そうか…全くもってその通りだ。しかしこの程度とはな。つまらん」

相手にするのも下らないと言うように、宿儺は二人の女とのんびり話す。そんな様子に、ニグンは激怒する。

「最高位天使を前に、何故そんな態度が出来る!」

ニグンの怒声に、宿儺が顔を向ける。

「わかったわかった。何もせぬから、好きに打ってこい」

まるで親が子供の遊び相手をするかのような態度に、ニグンは恐怖する。魔神すら倒した存在に、その態度は何だ。まさか、こいつはこの天使よりも……。そこまで考えて、ニグンは頭をふる。それは考えてはいけないことだ。考えたら、自分は終わってしまう。そんな気持ちを必死に押し留め、ニグンは命令する。

善なる一撃(ホーリースマイト)!」

魔法の発動。そして宿儺たちに光の柱が落ちる。第七位階――人間が辿り着く境地を遥かに凌駕する極限の魔法。その一撃を喰らえば、如何なる存在であろうと消滅する。

しかし――健在。

両面宿儺と言う怪物は、傷一つつかず佇んでいた。

「クハハハ!属性が悪のものに効きやすい魔法なだけあって、僅かながら痛みを感じるぞ。これが痛み…。思っていたより大した事ないな」

宿儺は満足そうな声で喋る。しかし、それとは反対に、とてつもない怒りがこめられた言葉が響く。

「貴様…!人間ごときが宿儺様に痛みを感じさせるとは…万死に値するぞ…っ!」

「わ、私の愛する宿儺様にぃ、痛みを与えるなど…人間風情が調子に乗りやがって!楽に死ねると思うなよ虫風情がぁ!」

宿儺と同じく無傷だった2人の女は、鬼の様な顔で怒り狂い、2人の方から冷気と熱気が漂ってくる。その2人を、宿儺は手を上げ制止する。

「よい。裏梅、万」

「し、しかし宿儺様。奴らは――」

「よいのだ。俺に痛みを感じさせたことは、天使の召喚で笑わせてもらったことに免じて許そう。それに――」

そこで宿儺は、ニグンに4つの瞳を向ける。

「どうせ貴様らは、楽に死ねんのだからな」

そう言う宿儺に、ニグンは戦慄を覚える。

「も、もう一度だ!もう一度善なる一撃を放てぇ!」

ニグンの悲鳴にも似た命令を受け、天使は魔法を放つ。しかし…。

「解」

その一言ともに魔法は両断され、天使はサイコロ状に切り刻まれこの世から消える。

「お前程度の天使など、やつには到底及ばん」

宿儺は昔を思い出すような表情で、そう呟く。

「お前は何者なんだ…」

ニグンは憔悴しきった声で宿儺に尋ねる。

「先刻も言ったとおり、両面宿儺だ。ギルドアインズ・ウール・ゴウンに所属しているな」

宿儺の返答に、ニグンは訳が分からないという顔をする。

「なんなのだ…。両面宿儺も…アインズ・ウール・ゴウンも聞いたことは無い…。お前たちは魔神だとでもいうのか?」

そんなニグンを無視し、宿儺は言葉を続ける。

「さて、次はお前らを片付けるか」

その言葉に、ニグンたちは絶望する。そして、ニグンは宿儺に言い寄る。

「ま、待ってください!両面宿儺殿……いや様!取引を!私を助けてください!」

ニグンの言葉を聞いた部下は驚愕し、怨嗟の声を上げる。それらを無視し、更に言葉を続ける。

「あなたはどの強者を満足させるのは難しいかもしれませんが、私は国ではかなりの価値があるもの。破格の金額でも国は必ず用意するはず!ですからどう「黙れ」ッッ!」

ニグンの命乞いを遮り、指を振るいニグンの片手を切り落とす。痛みに悶えるニグンをゴミでも見るかのような目で見ながら、言葉を続ける。

「貴様ら、ここらに来るまでずいぶんな数の人間を殺したのだろう?散々殺しておいて自分の番が来たら命乞いとは…なんと情けない」

そこで宿儺は言葉を区切り、身をかがませ苦痛に悶えるニグンの髪を引っ張り無理やり視線を空に向けさせる。

「それに…見ていろ」

宿儺は指を空に振るう。すると陶器が割れたかのように空間が割れ、またすぐ戻る。ニグンが困惑する中、宿儺は笑いながら答えを言う。

「感謝しろよ?何らかの情報系魔法を使い何者かがお前を監視していたようだ。おそらくお前の国だろうがな。国では価値があるとか抜かしていたが、あまり信用されてなかったようだなぁ」

宿儺の言葉に、ニグンは国から裏切られたことに絶望する。そんなニグンにお構えなしに、宿儺は無理やり顔を自身に向けさせる。

「なに安心しろ。すぐには殺さん。お前には聞きたいことが山程あるからなぁ」

射殺すような顔でそう言われ、ニグンは意識を闇に落とす。

 

――この会話を最後に、ニグン・グリッド・ルーインは二度と地上に戻ることはなかった。

 

 

 

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