独自設定と独自解釈を盛り込んだ捏造の塊だから閲覧注意なの。
帝国最強は誰か?
この質問には必ず2人の名が挙がる。
1人は皇帝の側近、ヴァンガード大将。戦闘能力だけでなく知略や統率力にも優れた
そしてもう1人は純粋な戦闘能力だけで数々の戦果を挙げ、大将の地位まで登りつめた男、”戦闘狂”ドレッドノート大将。
この両名の名が挙がるのは、勝ち取ってきた数々の功績が彼らの能力を保証しているためである。では、功績という夾雑物を除いた、純粋な実力によって評価するのであればどうか。地位も名誉も取っ払った戦闘において、自身を討ち得る者は他にいないのか。
ドレッドノートは知っていた。ヴァンガード以上に、あるいは彼らの仕える皇帝・ユリウス以上に、純粋な実力によって自身を平伏させうる実力者を。
「……遅えな」
帝国の夜は明るい。厳密な都市計画と精緻な建築技術によって形成された街並みは、道の端に等間隔に立つ街灯に煌々と照らされている。行き交う人々――帝国民たちの表情も明るい。彼らが夜の闇を恐れずに済むのは、闇に潜む脅威が片端から討ち取られていることを知っているからだ。それを成し遂げてきたのが帝国軍である。
帝国軍大将であるドレッドノートは、柄にもなくそんなことを考えていた。赤い短髪の偉丈夫で、鍛えに鍛えられ張り詰めんばかりになった筋肉が、コートの袖を内側から圧迫している。特異体質の関係で頑丈なドレッドノートであるが、夜の寒空の下で防寒対策をしないほど無謀ではない。今の彼は帝国軍大将としてではなく、ただのドレッドノートとして人を待っていた。コートで軍服を隠すのは、その意思表示の意味もあった。
「おーーーーーーーい」
街灯の照らす大通りを駆ける影があった。周囲の人々より頭一つ大きいドレッドノートを目指していることがわかった。すれ違う帝国民たちは、その人物を必ずといっていいほど二度見した。近寄ってくるにつれて、その異様な風体が明らかになっていく。以前からちっとも変っていない、とドレッドノートは静かにため息を吐いた。
「やあ! ドレッドノート君、久しぶりだねぇ」
「遅えぞ、ケンタッキー」
ケンタッキーと呼ばれた人物は、ドレッドノートの言葉に悪びれる様子もない。栗色の髪の、引き締まった体つきをした青年である。体つきまで見て取れるのは、全身に張り付くような黄色いタイツ様のボディースーツのせいだった。胸から腹にかけて大きく「K」とプリントしてある。首に巻いた赤いスカーフは防寒の役には立ちそうにない。正気のファッションではなかった。
「やだなぁ、君がせっかちなんじゃないか。僕は時間通りに来たよ」
「チッ。店は予約してある。行くぞ」
「そんなに急がなくたっていいじゃないか」
お前みたいなキ○○イファッションと歩いてると目立つんだよ、と言う台詞をドレッドノートはかろうじて飲み込んだ。ドレッドノートが少年のころに出会ったときから今まで、ケンタッキーのファッションセンスには一切の改善が見られない。他の国よりも科学技術が進んでいるという認識はあるが、ケンタッキーのような服装が一般的になるのはあと500年は先だろう、とドレッドノートは思う。
「あっ! 昔はいつも行ってた店じゃないか! 懐かしいなぁ」
「サシで飲むにはちょうどいいだろ」
到着した飲み屋では、ドレッドノートが予約していた通りに個室に通された。コートを脱いで私服のシャツのドレッドノートと、黄色い全身タイツ姿のままのケンタッキーが対面に座った。
「ずいぶん変わったねぇ、君は」
「そういうお前こそ、全く変わってねえな。毎度その格好なのか」
「かっこいいだろう?」
ドレッドノートはため息を吐くだけで何も言わないことにした。店員が運んできたボトルから、2人分のジョッキへ小麦色の液体を注ぐ。2人はお互いのジョッキを持ち上げて、静かに打ち合わせた。ガチンという音がしてすぐにドレッドノートは一口飲んだ。深酔いするわけにはいかなかったが、素面で話したくもなかった。
帝国機密兵、ケンタッキー。
ドレッドノートが自身を、あるいはヴァンガードを指して「帝国最強」と言えない理由はケンタッキーの存在にあった。
かつて、下っ端兵士として同じ戦闘に参加したことがあった。兵士として最低限の振る舞いを身に着けたにすぎない若輩者たちは、淘汰圧にかけられるように先陣を切らされた。その頃から自身の頑強さに自信のあったドレッドノートはひとり先行した。それに付き従い、途中で追い抜いて行った者がいた。それがケンタッキーである。わずか二名の若い兵士の活躍により、戦闘は戦闘のていをなさないまま終結した。犠牲者ゼロの完勝であった。
その後、ドレッドノートが参加した戦の先陣の中に、ケンタッキーの姿を見た。ドレッドノートが投入されるまでもなく、作戦は意味をおよそなさないまま終わった。先陣の活躍により敵陣は崩壊していた。
ご当地モンスターと呼ばれる、地域に根差す害獣駆除作戦の中でも、ケンタッキーの姿を見ることがあった。彼が参戦した作戦は、ドレッドノートが出るまでもなく大半の害獣が駆除され尽くしていた。
ドレッドノートが重要戦力として遠隔地に投入されるようになると、ケンタッキーの姿を見ることはなくなった。内心安堵しながら、ドレッドノートは自分の求める強さを得るべく鍛錬を続けた。
本国の皇帝直々に武勲を授けられ、大将の地位を得たころ、ドレッドノートは再びケンタッキーの姿を見るようになった。作戦行動に組み込まれることすらない、遊撃兵とでも呼ぶべき立場で、本国内で活躍しているらしかった。
戦闘技術に限れば、ドレッドノートは同じく大将であるヴァンガードよりも高い戦闘能力を持っているという自信がある。少なくとも一対一で勝たせてやる気はない。ヴァンガードは単純な戦闘能力以外の面……例えば権謀術数においてはドレッドノートとは比べ物にならない。ドレッドノートは自らの力を振り回すことに長けているが、ヴァンガードは他者の力を利用することに一日の長がある。普段の作戦行動においても、ドレッドノートはヴァンガードの組み立てた作戦のピースとして働くことが少なくなかった。
一方でケンタッキーは異質だった。彼が帝国軍人として武功を挙げたことは一度としてない。そして、普段の作戦行動に組み込まれることすら、今はない。
「お前、いつまでこんなことを続けるつもりだ?」
ジョッキを置いたドレッドノートの問いかけに、ケンタッキーはにこやかに笑って答えた。
「僕がやることは変わらないよ。僕らを脅かす脅威がある限り、僕の戦いは終わらないのSA」
屈託のない笑みも、かつてと変わらない。己の信念に対する疑いの欠片も感じられない。ドレッドノートはもう一度ため息を吐く。ケンタッキーとの付き合いは長いが、ドレッドノートには未だに彼のことが理解できないでいた。
「お前、何のために戦ってんだ? お前ほど積極的に戦う奴は他に見たことはねえ。が、お前ほど戦う理由がわからない奴も他にいねえ」
「うーーーーーーーん、僕が戦う理由なんていつも同じさ」
「言ってみろ」
「もちろん、帝国のみんなを守るためだよ。パパや、ママや、キャロン、バリカン……あっ」
ケンタッキーが言葉を詰まらせる。ドレッドノートは我知らず奥歯を噛みしめて眼前の青年を睨んでいた。憎しみが、悲しみが、後悔が入り混じった視線を受け、ケンタッキーは叱られた子供のようにうなだれた。
「そうか! 君のご両親は……ごめんよ」
「確かに、俺には守りたいものなんてねぇ。だがそんなことはどうでもいい」
いつしか置かれていたつまみの皿を一皿かきこみ、ジョッキの中身で喉奥へ流し込む。盛大にゲップをしてから、ドレッドノートはケンタッキーに人差し指を突きつけた。
「あれだけ活躍していながら異常なほどに出世していないと不思議には思っていた。が、『皇帝にわざわざかけあって隠密隊扱いしてもらっていた』とは恐れ入ったぜ、ケンタッキーどの?」
帝国には、「隠密隊」と呼ばれる、帝国民には存在すら公にされていない部隊が存在する。監視や諜報による情報収集や伝達を主な仕事とするが、上層部の命令によってはあらゆる命令を遂行するという帝国の走狗である。一般の帝国軍人と違い、存在そのものが秘匿とされているため、いかなる武功を挙げても公にその功績が知られることはない。ドレッドノートがケンタッキーの現状を知ることができたのは、大将という地位に就いてようやく知ることを許されたためであった。
「俺自身出世のことなんざ考えねえまま戦って、気付いたら今の地位に就いてたクチだが……お前はなんだ? 俺以上の戦果を挙げておいて、それを全部フイにしてまでそんな地位に甘んじていやがるんだ」
「強者こそが全てを握る」。それがドレッドノートの人生哲学と言ってもいい。彼にとって、彼と同等以上の実力を持つであろうケンタッキーが、何ひとつ手にしていないように見えるのが許せなかった。
「お前なら、」
言いかけてドレッドノートは辛うじて後の言葉を飲み込んだ。「何者にも負けない強者になれるかもしれないのに」。内心の敗北感を認めるわけにはいかなかった。
「僕は、」
ケンタッキーが返事をする前に、店の外で大きな物音がした。冬の夜、帝国領内で何が起こるというのか。ドレッドノートが席を立ったときには、ケンタッキーはすでに店の外へ向かって駆け出していた。
「チッ」
ドレッドノートは体質上、深酔いすることはまずありえない。酒を飲むのは、飲み会というていで言いたいことを言うための儀式のようなものだった。それでも脳裏にこびりつくモヤを振り払うように頭を振った。外の騒ぎに驚いた様子の店員に、財布から金を出しながら言った。
「釣りはとっとけ」
夜の闇に紛れてわかりづらい、暗い色をした魔物の群れだった。建物の壁に張り付いたり、街灯に絡みついたり、屋根から通行人に飛び掛かったりしていた。触手めいた四肢を持った、人間サイズの魔物である。
「ジュラ…魔物め! 覚悟しろ!」
ケンタッキーが、通行人に絡みつこうとしている魔物に飛び蹴りを食わせながら言った。華奢な見た目からは想像もできないほど強烈な蹴りであることが、傍目のドレッドノートにもわかった。魔物は建物の壁に強烈に叩きつけられた。反動で空中に浮いたケンタッキーに、軟体の魔物が数匹単位で襲い掛かる。灯りを失っていない街灯をちらりと見て、ケンタッキーが吼えた。
「チャージング、GO!!」
瞬間、黄色い全身タイツに変化が起こった。腰からはベルトが巻き付いた状態で出現し、異様に巨大なバックルに仕込まれていた三角形が高速で回転しだす。握り引き締めた左手、妙なサインをしながら天に高く掲げた右手、それに気を取られているうちに黄色いスーツの「K」の模様は「V」に変化し、いつのまにかケンタッキーの頭部にはフルフェイスのヘルメットが装着されている。
「そり!」
着地を待たず、左手に装備されていた拳銃様の武装を抜き放つと、先端から光線を発射した。光線を浴びせられた魔物は、耳障りな悲鳴を上げながら苦しみ悶え、そして光の粒子になって消滅した。一体、一体、そして一体。光線の発射間隔は短く、それでいてトリガーを一回引くごとに確実に一体は仕留めていく。照準と発砲の間隔の極めて短い、神業とも言える射撃である。ケンタッキーも魔物も棒立ちというわけではない。ケンタッキーを狙って振り回された魔物の触手は舗装された地面をバターのように切り裂いていく。触手の狙いをごろごろと転がって回避しながらカウンター気味に光線を照射する。そしてまた一匹、魔物が消滅した。
「まるで腕は衰えてねえようだな…」
ドレッドノートもこの間遊んでいたわけではなく、身体に巻き付けるように変形させていた得物を両刃刀の形状にして魔物を薙ぎ払っていた。近隣住民の通報を受けてか、遠くでも兵士が応戦する音が聞こえてきた。まもなく戦闘は終結するものと考えられた。
そのうえで、ドレッドノートは拳銃をしまおうとしているケンタッキーに背後から切りかかった。
「はっ!」
ケンタッキーは直撃する直前にようやく気付いた様子で、辛うじてかわしたもののかすめた一撃で無様に吹き飛んだ。
「いててて…いきなり何をするんだ!」
「うるせぇ! 俺は一遍お前をボコボコにしてやりたかったんだよ!」
起き上がる前に、追撃を食らわせていく。ケンタッキーはタイツに覆われた腕で防ぎ、いなし、受け止めた。
「何をするんだ!」
「やかましい! 殺られたくなけりゃ反撃してみろ! その銃でも何でも使ってな!」
「ダメだよ! これはジュラ…魔物を倒すための武器だ! 君を撃つためのものじゃない!」
「綺麗ごとを!」
ドレッドノートは両刃刀を二本の剣に分割し、ケンタッキーに連撃を浴びせる。それはドレッドノートが亡き養父から受け継いだ憤怒と狂気の55連撃……
「どうした、そんなもんか! 『守るものがあるから戦ってる』なんて綺麗ごとを吐く暇があるなら俺と戦え! お望みならお前が守りたいもの全部ぶっ壊してやろうか? そうすればお前が本気になるって言うならいくらでもやってやる!」
ドレッドノートの言葉に、ケンタッキーの震えがピタリと止まった。なめらかな動作を取り戻した右手が、左腕に添えられる。戦いを終えたと油断して収納されていた魔導式拳銃が引き抜かれるのが見えた。知らず、ドレッドノートは歯を見せて笑った。
光線が放たれた。ドレッドノートは得物を盾に変形させ、その光線を受け止めた……かに思えた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ドレッドノートの背後で、誰のものとも知れぬ悲鳴が上がった。振り向いてみれば、軟体の魔物がその形状を失い、消滅していく一連の様子が見て取れた。ケンタッキーは、初めからドレッドノートではなくその背後に忍び寄っていた魔物に照準を向けていた。言い知れぬ屈辱にギリ、と歯が鳴った。再び地面に倒れこんだケンタッキーの胸倉を掴んで顔を起こさせる。
「……なぜ俺を撃たなかった」
「僕は、みんなを守りたくて戦ってるんじゃない」
半ばうわごとのようで、ドレッドノートの問いに答えている様子ではなかった。ケンタッキーは続けた。
「みんなを脅かす敵を倒したくて戦ってるんだ」
「それが、守ることとどう違う」
「守る必要がなくなるよう、敵をせん滅したいんだ」
「……」
「……君は敵じゃないから、撃てないよ」
数時間ののち、帝国城にて。
「陛下。ドレッドノート大将より、作戦に関する報告が届きました。『機密兵ケンタッキーはキ○○イだが間者にあらず、また謀反人にあらず。帝国の矛である。であればこそ、大将ドレッドノートの名において助命を嘆願する』とのこと。……いかがいたしますか?」
「もちろん手はず通り、しっかり治療を受けさせてやってくれ。……いつも面倒を押し付けてすまないね、ヴァンガード」
「いえ。……しかし、ドレッドノートに襲わせるとは、本気で彼を疑っていたのですか?」
「まさか」
皇帝・ユリウスは細い目を糸のように細くして笑う。
「しかし彼……ケンタッキーは欲が、正義の強さが尋常じゃない。彼は帝国全体の技術の粋を結集して支援すべき逸材だが、鋭い矛の先端は常に敵に向いているか、定期的に確認しておかないと不安で仕方がないというのが本音だ。……ケンタッキー、その名も僕らの『