俺の主である聖女は存外変わっていると思う。
聖女との出会いは、いつかの夏夜の日に起こった。
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随分と昔、俺は霧靄霞の呪霊として発生した。
皮肉にも、俺のような呪霊は人間から漏れた呪力の集合体であるらしい。
たとえ実在してなくても共通認識の負のイメージを持たれることで強力な呪いになるのだとか。
というわけで、特に自然から発生した呪霊は軒並みに強いのだと。
勝手に人間達につけられているらしい名称は忘れたけど、大層なものだった気がする。
とはいえ、俺は強い呪いだからといって、人間を◯すことへの興味や関心は一切湧かなかった。
かといって、他の
呪霊の中でも並外れた知能や能力だけを背負っている存在。
人と呪霊の蔓延るの世界をふらふらと無気力に彷徨い、宛もなく歩くだけ。
…それだけでよかったのに。
昔のそのまた昔から、術師は仕事ゆえか、それとも単に強さ自慢にか絶えず俺のことを祓いに現れた。
勿論、どれも弱いから手加減しても直ぐに散らしてしまうのだが。
俺に勝てる人間は早々にいなかった。
いても互角か下位互換で、闘い甲斐など毛ほどもない。
しかし、諦めが悪く現れる術師にいつしか辟易として。
『そんなに◯にたいのなら、望みの通りにやってあげようか?』
人間如きの、花のように儚い命を手折ることなんて造作もない。
此方は殺意なんてないし、戦う意思すらないのに襲ってきて、人間って意味がわからないな。
自◯希望が多すぎて、いっそのこと叶えてやりたくなる。
少しは学習すればいいのにな。
人間は見栄とか誇りだとか、どうでもいいことに縋りたがる。
鬱陶しくて◯してしまいたい。
でも、そんなことをしたとしても蟻のごとく湧いてきて永遠に終わらない。
どちらを選んでも面倒でしかないんだが。
俺は、段々と積もりゆく不満や憤りを人間にぶつけそうになりながらも抑えていた。
ー…そんなある日。
夜の街を浮遊していたら、とてつもない量の呪力の気配を感じたのだ。
自分と同等か上位互換並の呪力に戦慄した。
まさか、“敵”と相見える日が来るとは。
呪力の気配は俺を追うわけでもなく、一点に留まっているようだった。
内心怖怖としながらも、呪力に惹きつけられてそちらへと向かう。
行き着いた場所はとある教会の一室だった。
呪力はここから溢れ出している模様。
偶然にもバルコニー空いており、そこにスタッと降りたつ。
その瞬間、気配が動いた。
「?あれ、君、人間??」
中にいたのは、一人の真っ白な衣装に身を包む人間の女だった。
女は俺の方をさっと振り返ると、まん丸で円な瞳が俺をまっすぐに射抜く。
気が抜けた脳天気な質問に思わず呆れた。
なんだ、コイツ。
『空飛べる人間なんているかよ。
呪霊に決まってんでしょ』
「エッ、呪霊!?喋れるとか天才なの!?」
敵を目前として、「凄いね!」と興奮してるのか手を握りブンブン振るソイツ。
『………』
無駄にハイテンションな女に俺は白けた目を向けた。
…コイツ、俺のことなんだと思ってんの?
『其辺のと一緒にしないでくれる?
俺はこれでも強いんだけど』
「それはとても分かるよ。
喋れる呪霊を初めて見ただけ」
女は眉を顰めたままの俺に、にこりと柔らかく微笑む。
コイツ、俺のこと舐めてるのかな。
お前なんかいつでも余裕で倒せるぞと言いたいわけ?
だから俺を少しも疑うどころか警戒しないのか?
それとも、まさか心を許している?
呪霊相手にそんな馬鹿な。
人間って皆呪霊を目の敵にしてると思っていたけれど、どうやらコイツは違うらしい。
『俺のこと祓わないわけ?』
「え、祓われたいの?М??」
『◯すぞ』
女の煽りの仕方に腹が立って仕方がない。
コイツ絶対俺を怒らせること分かってて言ってんでしょ、一遍殴らせろ。
俺は禍々しい色をした霧を醸し出すと、女はわざとらしく両腕で肩を抱いて怯える素振りを見せた。
「こわぁい、野蛮だわ!!」
『きも』
「は??」
気色の悪いぶりっ子に鳥肌が立って、思わずボソリと呟いたら、ドスの聞いた低い声が耳に入る。
お前の本性絶対そっちでしょ??
「茶番は置いといて。
君、別に祓われるようなことしてないし、する気もないでしょ?」
『…何で断言できるの?』
「うーん、勘かな!」
あと経験談!と指を立てる女に呆れた。
勘とか宛にならないでしょ、バカなのコイツ。
まぁ、仮に俺が手を出したところで相打ちが精々だから襲う気は微塵もないけども。
『…お前、何者なんだよ』
尋ねずにはいられなかった。
俺を油断させる策略なのかと思うくらいには見かけは普通だ。
しかし、どんなに愚かしく見えても、オーラや呪力の多大さは本物。
女はキョトンとした後、ケロッと言った。
「私?私は聖女だよ」
真面目に話す気はなさそうな女に溜息を零す。
『…頭湧いてるの?』
もしかしてコイツは人間の言葉でいう“厨二病”というものなのだろうか。
心底憐れんだ目を向けながら冷たく返したら、女は不満げに頬を膨らます。
「ひっどーい、私は本物の聖女だよ?
誰だって華麗に救ってみせるんだからね!」
えっへん、胸を張って言い切る女。
…ふぅん、
『誰でもって、
俺の質問は予想していなかったのか、女は不思議そうに首を傾げた。
「?救われたいの??」
女の言葉に黙り込む。
救われたい?呪霊のくせに?
馬鹿みたいだと思いながら、内心嗤いながら。
気づいたら、ポツポツと溢していた。
『……救われたいっていうか。
意味もなく闘うのに疲れたんだよ』
「へぇ、変わってるね!!」
『うっさい。
…で、お前は呪霊である俺を救えるの?』
不貞腐れつつ放った俺の言葉に、女はにっこりと意味深な笑みを浮かべる。
「君が望むなら、ね」
否定せずに敢えて思わせぶりな口調をして、ズルくない?
それに。
のぞむなら、望むなら、希むなら。
この女のことだ、何かしらの代償は払わないといけなくなるだろう。
それでも、この願いを口にするのか?
暫く迷って、それから口を開いた。
『…救ってくれ』
「分かった、救うよ」
仮にも呪霊の頼みに即答とかありえないんだけど。
俺呪霊なんかにもコイツは施しを与えるらしい。
お前の方が数倍変わってるわ。
聖女と俺は契約縛りを結んだ。
聖女からの庇護と引き換えに服従を対価として払った。
聖女は横暴だけど、考え無しの馬鹿じゃないのは分かるからある程度の願いにも従ってきた。
その日から俺は付かず離れず聖女の側に居続けている。
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ぼーっとしていたら頭に声が響く。
「幽霧!!」
聖女の声だ。
最近は日常に飽きてか俺に「外へ出せ」と強請る聖女の危機感のなさに呆れる日々。
阿呆なのか?
呪術界はお前を見つけたら捕まえに来ること間違いなしだろうに。
別に捕まったからと言って俺に何があるわけでもないけど、奪われ搾取される様を見るのは何だか嫌だった。
呪霊には愛着や執着なんて芽生えないはずなんだけどね、ほんと癪だな。
「幽霧ぃい!!!
ヘルプ!ヘールプ!!!」
聖女にはもしも助けが必要な時は呼べと言っていた。
いつもは迎えにしか行かなくて済んでたから楽だったんだけど。
聖女のやけに焦りを帯びた声に仕方なく重い腰を上げる。
『はぁあ、何??うっさいな』
「五条悟がいる!!!!」
『それ先に言えよバカ!!』
お読みいただきありがとうございます(*^^*)
筆者の都合にて更新が遅れ、大変お待たせしてしまったこと誠に申し訳ありませんm(_ _)m
今回は、幽霧の視点です。幽霧が聖女と出会った時の話はいつか書きたいと思っていたので、書けて良かったです。
最後に、お気に入り・しおりの登録や感想・評価を下さりありがとうございます❀
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