存在しないはずの自分が存在していることに、常に疑問が生じていた。
本来いないはずの自分を、僕っ子可愛い妹は兄と慕う。
どうして彼女に兄がいるのか。
どのようにこれから生きればいいのか。
自分で作り出した難題に、彼は行動で見切りをつける。
家を出て、妹の手を引き、国外へ。
映画のような経験をして、たどり着いた先にいたのは見目麗しい貴族の少女だった。
僕が男だと言ったら彼女は驚くだろうか、怒るだろうか、それとも特に興味を持たないんだろうか。
ああ興味を持たれないのはいけないな。心が持たないだろう。
彼女はウサギで僕は亀だ。
昔先生が言っていた。ウサギと亀の話は、努力家が報われる話じゃないのだ。才能を持ったものに勝てるのは、彼らが腰を据えて怠けている時だけなんだ。そういう事実を述べられただけなんだ、と。
彼女は頭脳明晰で名家で体を動かすことだって苦手じゃない。
加えて環境が彼女に足を止めることを許さなかった。
彼女の名前はセシリア・オルコット。
亀である僕のウサギである。
セシリア・オルコットにとって彼女の存在は大きかった。
彼女には一点に特化した才能がある、そう思わせるような風格があった。
彼女が近くにいると努力を余儀なくされた。
いつか追い抜かされてしまうのではないかと、常に気持ちが追い立てられた。
勉学で抜かされたことはない、スポーツでも負けたことはない、身体接触が苦手なのか顔を赤らめていたが。
けれど、自分が解けなかった問題を、彼女は正答していた。誰もが真似できないだろうサーカスショットを彼女は決めた。
彼女は知らないだろう。彼女は自己評価が低いから。
セシリアは常に彼女を意識した。
「・・・・・・・」
二人目の男性操縦者は、セシリアの知る人物だった。
いつものごとく暗い表情で彼女、いや彼は教室に入ってきた。
ジロリと彼を睨む。
彼は視線を逸らした。
ぞくりと、今まで得たことのない感覚が彼女の背中を走った。
にこりと彼に笑顔を投げかけた。
彼は一度目を見開き、逡巡したのち顔を窓の方へ素早く逸らした。
セシリアの笑顔は仄暗い笑みへと変わった。
セシリア・オルコットという少女は常に意識を高く持ち上を目指してきた。彼女が周囲に意識を向けたことはない。
その中で唯一彼に対してだけは注意を払ってきた。正体不明の焦燥感故に。
彼女は知っている。
男は女に勝てないのだと。
その言葉の意味は、ただ単に世に広まったISありきの薄っぺらい論理ではない。
女は華、男は虫。
セシリアは、今まで一度も勝てたと思えたことのない存在に対して勝機を見出した。
「ねぇデュノアさん、初めましてでいいのかしら?」
「私驚きましたわ。あなたたちは双子の姉妹ではなくて兄妹だったのですわね」
「どうして嘘をついていらしたのか」
――話してくださいませ。私たちお友達でしょう、ね?
シャルル・デュノアの首筋に一筋の汗が流れる。
セシリアは、人生で初めて、悦の味を知った。