肉体の形は魂の形に引っ張られる。
 じゃあ魂を女の子にしてみよう。

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♂無為転性♀

 

 東京都渋谷区。

 その日、渋谷は戦場と化していた。

 平等に命が奪われていく、まさしく地獄。そこに人間と呪霊という垣根は存在せず、等しく強者に摘み取られていくだけだった。

 

 そして、その一握りの強者ですらもさらに力を持った強者に摘み取られる。

 

「……いたんですか」

「いたよ、ずっとね」

 

 渋谷駅地下にて、彼らは再会を果たしていた。

 しかしそれは喜ぶべき邂逅ではなかった。一方からしてみれば確実に今出会うべきではない存在であり、対面は確定的な死を意味していた。

 

「ちょっとお話するかい? 君には何度も付き合ってもらったし」

 

 その呪霊───真人は問いかける。

 

 対して、七海健人は口を噤んだ。

 死闘に次ぐ死闘。陀艮との戦いに始まり、漏瑚の急襲、そして改造人間の群れとの戦いを経た彼は満身創痍であった。

 潰された左目も、焼かれた左半身も、最早痛みさえ感じない。

 

 だが、ここが今際の際だという感覚だけはあった。

 胸に添えられた真人の手。彼の術式は魂に干渉し、肉体を変形させる凶悪無比な代物だ。たった今自分が倒して回った改造人間同様変形させることは勿論、風船を割るように破裂させるなど訳はないだろう。

 

 沸々と沸き上がってくる死の実感。

 その時、近づいてくる足音が聞こえた。

 

「───虎杖」

「ナナミン!!」

 

 改札を越えて来たのは見知った少年だった。

 呪術師らしからぬ明るさと素直さを兼ね備え、他人の死に怒りや悲しみを覚えることができる少年だ。

 

 彼を見ていると、かつて共に過ごしていた親友が脳裏を過る。

 そして、今際の際に立つ自分の前に現れた親友が口を開いた。たった今やって来た少年を指差しながら。

 

(駄目だ、灰原。それは違う。言ってはいけない。それは彼にとって“呪い”になる)

 

 かつての自分がそうであったように。

 

 その言葉は彼を苦しめる。

 その言葉は彼を追い詰める。

 その言葉は一生彼の喉の奥に、呪いのようにつかえる。

 

 だからこそ言ってはならない。

 しかし、唇は自然と動いていた。

 彼に呪いを残したかった訳ではない。ただ、走馬灯のように駆け抜けていく人生を振り返る途中、思い出してしまったのだ。

 

 呪術師から逃げて、一般社会で折れそうになっていた自分を、それでも立ち上がらせてくれたものはなにか?

 

「虎杖君」

 

───願わくば、この“(のろ)い”が彼にとって“(まじな)い”にならんことを。

 

「後は頼みます」

 

 直後、七海の肉体が膨れ上がる。

 炎に焼かれながら、それでも命を繋ぎ止めていた身体が呆気もなく。

 

「う……ぐぅ……~~~!!」

「ナナっ……!?」

 

 苦悶の声を上げていた七海のトーンが、一段高くなった。

 すると、一度風船のように膨れ上がっていた身体は縮む。見るも無残に焼け爛れていた表皮は元通りどころか、連日連夜のハードワークで潤いを失っていた中年同然の肌からつやつやの二十代前半の肌に。

 食い潰された左目も復活し、骨格から変形した顔の輪郭はシュッとしたラインを描く。

 全体的に筋肉質だった肉体もほんのりと丸みを帯びたスタイルへと変貌。何よりも逞しかった胸筋は乳房のような膨らみへと変わる。

 

 その容姿はほとんど女と言って差し支えないものだった。

 だが、真人が変えられるのはあくまで魂を宿す物体。

 衣服は術式の対象外であることから───。

 

「くっ……!!」

「どうかな? 我ながら良い出来に仕上がったと思うけど」

「っ!?」

 

「!!」

 

 上裸の七海から胸を覆い隠す腕を引き剥がす真人。

 辛うじてもう片方の腕が大事な部分を隠してはいるものの、筋骨隆々だった頃の見る影もなくなった細腕では、たわわに実った胸が今にもまろび出そうであった。

 しかし、事態はそれだけに留まらない。

 ガタイのいい男性から華奢な女性への肉体の変形。当然、身に纏っていた衣服のサイズは合わなくなる。

 

 ズリッ……、と七海のズボンがずり落ちる。

 気づくや否や、必死に内股になって落下を食い止めようとする七海。

 そんな努力も甲斐も虚しく鼠径部は露わとなり、あと少しで七海のナナミンが晒されそうな危険ラインにまでズボンのウエストはずり落ちた。

 

 だが、虎杖の目についたのは()()ではない。

 暴漢よろしく腕を引っぺがす真人を前に、頬を紅潮させる七海の顔。理路整然と呪術師としての在り方を説き、自身を導いてくれた立派な大人の男性であったはずの彼が浮かべていたのは紛れもない羞恥───女の顔であった。

 

「……オマエは、」

 

 刹那、虎杖の脳が沸騰する。

 脹相との戦いに敗北してからの宿儺の大量虐殺と、精神が壊れる寸前であった少年の心であったが、恩師のメス顔という状況を前に魂からの拒絶感を怒りへと変換したのだ。

 

「なんなんだ!! 真人!!」

「デケェ声出さなくても聞こえてるよ!! 虎杖悠仁!!」

 

 未だに腕を掴む真人から七海を引き剥がすように、虎杖が割って入る。

 真人にとって虎杖は不俱戴天の敵。思想もそうであるが、何よりも魂に干渉しなくては攻撃が通じない真人相手に攻撃を通せる虎杖は、まさしく天敵と呼んでいい存在であった。

 

 振り抜かれる拳を颯爽と躱す真人。

 その時掴んでいた七海の腕を放す真人であったが、彼は十分楽しめたと言わんばかりに恍惚とした表情を浮かべていた。

 

 なぜなら真人の視線の先では、あられもない姿となった七海の前に虎杖が立つという光景が広がっていた。

 

「ナナミン大丈夫!?」

「ええ……助かりました、虎杖君」

「っ……!!」

 

 七海を労わる言葉を投げかけた虎杖であったが、即座にそっぽを向く。

 

(あれはナナミン……あれはナナミン……あれはナナミンだ……!!)

 

 決してデンマーク人のクォーター美女ではない。

 一回り小さくなったとはいえケツとタッパがデカい───好みドストライクな───女ではあるが、あれは七海だ。

 

 邪な感情を抱くなどあってはならない。

 だが、目の前の“呪い”は語り掛ける。

 

「いいだろ? バリバリのキャリウーっぽいクールビューティーが、服をはぎ取られて恥ずかしがる姿」

「真人ぉおおお!!」

 

 半裸の七海に投げつけるように上着を渡した虎杖は、そのまま真人に殴りかかる。

 そこから始まるのは肉と肉をぶつけ合う肉弾戦だ。決して卑猥な意味ではない。

 

 呪力を纏った四肢で仕掛ける虎杖に対し、真人は術式で変形した肉体で器用に攻撃と回避をこなしてみせる。

 両者一歩も退かず、渋谷駅地下を破壊しながら戦いは繰り広げられていく。

 だがしかし、我が身一つで戦う虎杖に対し改造人間のストックを有する真人は手数で勝る。

 

「ゔっ!!?」

 

 一瞬の隙を衝き、真人の拳が虎杖の顔面に突き刺さる。

 事実、肉体を変形させた剣が顔面を切り裂いたが、大事にまで至らないのは虎杖の生来の頑強さ故だろう。

 

「もっとふんばりがきけば顔面を貫けたかな?」

「どうしてオマエは何度も……何人も!! 人の体を弄ぶことができるんだ!!」

「くははっ、指折り数えて困り顔で弄れば満足か? 次からそうするね♡」

 

 まるで反省していない真人の声色が、さらに虎杖の神経を逆撫でする。

 彼の犠牲になったのは何も七海が初めてではない。

 それよりもずっと前に犠牲になった人間は大勢いる。

 

 映画館の高校生。

 屋上で出会った主婦。

 そして───。

 

「真人……順平を元に戻せ!!」

「ああ、まだ生きてたんだ」

「テメェ!!」

 

 無関心な口ぶりに怒りを露わにするが、それもまた真人の思う壺だった。

 

「そうカンカンするなよ。カワイイ同級生が増えたんだ。むしろお礼を言ってくれなきゃ」

「ッ……順平はテメェのせいで男で居られなくなった」

「で? だから?」

「今までの人生を否定しなきゃならなくなったっつってんだ!!」

 

 吼える虎杖の脳裏に過るのは一人の同級生の姿。

 吉野順平は、かつて()()()()()()()

 

「それをテメェが体を弄ったせいで、どれだけッ……!!」

「キレんなよ。たかが女の子になっただけだろ」

「ッ!!」

 

 真人の口車に乗せられているとは分かっている。

 それでも湧き上がる怒りはとめどなかった。

 

(……順平)

 

『ねえ、悠仁……僕、これからどうすればいいかな?』

『とりあえず男の体に戻れるまで悠仁と一緒に呪術師を頑張るよ』

『悠仁、今度の休日一緒に映画見に行かない?』

『ち、違うんだ悠仁! このスカートは五条先生が無理やり穿かせてきただけで……!』

 

(……順平!!)

 

 思えば、男の順平と一緒に過ごした時間よりも、女の順平と過ごした時間の方が長くなってしまった。

 虎杖はまだ男だった時代を覚えているからいいものの、そうでない面子からは女子扱いされることもしばしば。

 

 それに加えて順平はやけに可愛かった。

 可愛かったのである。

 

 元々大人しめで童顔寄りだった顔立ちが、女の子になったことで可愛さに磨きが掛かった気がする。

 それで右目を前髪で隠していると来た。

 なんか元々そういうキャラなんじゃないかと思うくらいには個性が立っていた。

 しかも一人称は男の時からの延長で『僕』だ。メカクレ僕っ娘である。

 これだけでも属性マシマシで好みの人間にはドストライクだろうに、順平の距離感はやけに近かった。

 

 いや、別に距離感が近くて悪いという訳じゃない。

 正しく男友達の距離感だ。

 しかし、男友達の距離感で頬を赤らめながら映画を熱く語るメカクレ僕っ娘を想像してみよう。その破壊力は2.5乗だ。

 

 だが、いかに優れた容姿を手に入れようとも本人の望みの上でなくては何の意味もない。

 

「……テメェには順平もナナミンも元に戻させる」

「それってどっちの話? 魂? 体?」

「どっちもだ」

 

 虎杖は構える。

 七海の教えを胸に、思考は冷静に。しかし怒りの全ては呪力に変換する。

 

「テメェが好き勝手弄った体も……それで殺された魂の尊厳も……ここで全部にケリをつけてやる」

「分かってないな、虎杖悠仁」

「あ?」

 

 それは虎杖にとって予想していない返答だった。

 思わず声にもドスが掛かる。

 

「どういう意味だ?」

「オマエは俺が肉体を女に変えたせいで男のあいつらが迷惑被ってる……そう考えてるな」

 

───いいや、違うさ。

 

 邪悪な笑みを湛えた真人は、堪えきれぬ笑い声をクツクツと漏らしながら続ける。

 

()()()()()()()()。俺の術式は知ってるはずだろ?」

「は……?」

「訳が分からないって顔をしてるな。まったくトロい脳味噌だぜ、虎杖悠仁。そんな脳味噌すっからかんなお前にでも分かりやすいよう解答(こたえ)を授けよう」

 

 左腕を順平(女)に変形させた真人は、恥ずかしそうに胸を覆い隠す順平(女)の腕を指で引き剥がす。

 すると順平(女)の肉人形は頬を紅潮させ、わざとらしく『きゃー』と悲鳴を上げた。

 

「俺は肉体の形を女にしてるんじゃない。魂の形を女にしてるんだ」

「? ……───!!」

「ようやく分かったみたいだな」

 

 愚図め、と罵倒を付け加えることも忘れず、真人はさっさと臨戦態勢に戻る。

 

「オマエはあれだろ。どうせあいつらの男としての尊厳がどーたらこーたらとか語るつもりだったんだろ。だが、そいつがそもそも筋違いなんだよ」

「真人……」

「こいつは性自認どうとかの話じゃない。魂の形が女になったあいつらにとっちゃ『男である』という認識そのものが違和感なんだよ」

「やめろ……」

「分かってきたか? あいつらはさぁ、男みたいに振る舞っていた癖して結局最初(はな)っから根っこがメスだったってことなんだよ!!」

「真人おおおおおッ!!」

 

 固く握った拳が振り抜かれる。

 それは体を変形させた真人に回避されるものの、背後にあったコンクリートの柱を破壊する。

 

「真人ォ!!」

 

 鬼のような形相を浮かべながら迫る虎杖に対し、真人は改造人間をばらまきながら距離を取る。

 

「ハハッ」

「待て!!」

 

 虎杖も俊足であるが、それでも真人の方が逃げ足は速い。

 

「追いつけるもんなら追いついてみな」

 

 挑発する真人は通りすがりの男性二名に掌を添えた。

 そして、

 

「やめ───」

 

学生(ガキ)!?」

「おい、コッチ来いよ!! そっち化物だらけで危ね……きゃあああ!?」

「は? どうした、ってひゃあああ!?」

 

「真人おおおッ!!」

 

 一般人の男性二名を女体化させた後、力尽くで上着を破り捨てた。

 何がなんだか分からぬ内に女の体になった元男性は、とりあえず甲高い悲鳴を上げながら胸を隠してその場に蹲った。

 

「なにィ!? 何が起きたのォ!?」

「おまッ、女になってんじゃねえか!?」

「はあ!? そういうオマエだって!!」

「えっ、嘘!?」

 

「やめろ、真人ォ!!」

 

「きゃ、男子高校生が来る!!」

「きゃ、こっち見ないでぇ!!」

 

「見ないからちょっと退いてェ!!」

 

 恥じらう元男性に目のやり場に困りながら、虎杖は真人を追う。

 

(ちくしょう!! このままじゃどんどん犠牲(おんなのこ)になる人が増えていく!!)

 

 それこそ手あたり次第だ。

 小さい男児から中年のおっさんまでもれなく性転換させられてしまう。それもタマを取るなんていう話ではない。

 奴の言葉を信じるに魂のレベルから女に変えられてしまうのだ。現代医学もビックリな性転換を前に非術師が正気を保っていられるはずもない。

 

「きゃあ!?」

「いやーん!!」

「あはーん!!」

 

「ハハハハハッ!!」

「クソ、クソォ!!」

「それが君の女の魂になった肉体の形? 巨乳か、悪くないね。でもどうせならもっと魂の本質に素直になってみなよ。性癖を開示しな、それで本気かよ?! ───うぉ……流石にそれは盛り過ぎ……」

「真人ぉ!!」

 

 真人の無為転変の毒牙に掛かり、駅地下は瞬く間に性癖展覧会へと早変わりする。

 

(あいつ、どこまで逃げる気だ⁉)

 

 さっきから一向に攻撃を仕掛けてこない真人に、虎杖は違和感を覚える。

 どこかに誘い込まれているような気がしてならない。

 だが、このまま真人を無視する訳にはいかない。

 

(このまま行くと地上に逃げられる!! それまでになんとか……!!)

 

───仕留めきる。

 

 そんな虎杖の思考を遮ったのは、通路の奥からやってくるもう一人の真人。

 

 

 

 では、ない。

 

 

 

「……虎杖!!」

 

 釘崎野薔薇。

 何故かここまで来てしまった同級生の少女の下へ、分身と思しき方と入れ替わった真人が駆け寄っていく。

 

「逃げろ!!! 釘崎!!!」

 

 だが、時すでに遅し。

 

 ベチィィィ!! と。

 本体の真人の掌が釘崎の顔面に直撃した。モロだ。避ける間もなかった。

 

 その間に分身を屠った虎杖は釘崎へと駆けつける。

 

「釘崎!! 大丈夫か!?」

「……虎杖」

 

 未だ変化は訪れない。

 そう思ったも束の間だった。

 

「皆に伝えて」

 

 何かを悟ったように、彼女は告げる。

 

「『悪くなかった』!!」

 

 破裂音。

 どこがとは分からない。

 けれども、確かに釘崎の体から聞こえた破裂音と共に彼女からは血が滴り、その体は地面へと崩れ落ちた。

 

「なに……ッ!?」

 

 これに驚いたのは他ならぬ真人である。

 確かに自分はあの女に無為転変を施した。しかしそれはあくまで胸やウエスト、尻のサイズ変形といった部位に関わるものだ。

 ここまで致命的なものになるとは真人ですら想像だにしていなかった事態であった。

 

(……いや、違う!)

 

 直後、真人は全てを理解する。

 

(こいつは()()()()!! こいつ、魂が男前過ぎて自滅しやがったってのか!?)

 

 女の魂へとさせようとした無為転変に対し、他ならぬ釘崎の魂が拒絶反応を起こした。

 それゆえの悲劇だった。

 

 完全に予想外の事態ではあったが、収穫がまったくないという訳ではない。

 

「釘崎……」

 

 倒れた釘崎を見下ろす虎杖。

 その両手の震えは刻一刻と激しくなる。

 

「だっ……だめだ……釘崎!!」

 

 脹相戦の敗北。

 宿儺による大量虐殺。

 七海健人の女体化。

 

「くぎっ」

 

 虎杖悠仁の心はもう、限界を超えていた。

 

 そして、その隙を付け狙ってこその呪い。

 

「───ハハッ」

 

 立ち尽くす虎杖へと肉迫する真人。

 刹那、振り抜いた拳に纏う呪力が黒く爆ぜる。

 

 

 黒閃!!

 

 

 百万分の一秒に咲く黒い火花。

 微笑む相手を選ばない閃光を前に、虎杖悠仁の肉体がボールのように跳ねていく。

 その体が着地するよりも早く、真人は肥大化させた手で捕捉。己に引き寄せた後、全力の拳を見舞う。見舞う。見舞っていく。

 

「どーせオマエは!! 害虫駆除とか!! 昔話の妖怪退治とか!! その程度の認識で渋谷(ここ)に来たんだろ!? 甘ぇんだよクソガキが!!」

 

 嘲笑を湛えた顔面を邪悪に歪め、トコトン痛めつける。

 

「これはな、戦争なんだよ!! 間違いを正す戦いじゃねぇ!! 性癖の押し付け合いさ!! ペラッペラの正義のな!!」

 

 何度も

 何度も。

 何度でも。

 

「オマエは俺だ、虎杖悠仁!! 俺が何も考えず男を女にするように、オマエも何も考えず人を助ける!! 呪い(おれたち)本能(せいへき)と、人間(オマエら)の理性が獲得した尊厳!! 100年後に残るのはどっちかっつーそういう戦いだ!!」

 

 虎杖が動かなくなるまで、徹底的に痛めつける。

 

 気づけば虎杖は血塗れとなって横たわり、ピクリとも動かなくなっていた。

 

「そんなことにも気づけない奴がどうして俺に勝てるよ。なぁ、虎杖悠仁。殺した呪いを数えたことはあるかい?」

 

 答えは返ってこない。

 沈黙。すなわち、肯定。

 

「ないよな、俺も俺も♡ 殺した男の数とかマジでどーでもいいもん。オマエの事もそのうち忘れるさ」

 

 望む未来は呪いが上に立つ世界。

 付け加えればカワイイ女の子がたくさん居れば尚良しである。

 

「因みに俺は……」

 

 宿儺が内に居る虎杖は魂に干渉し、女体化させることは叶わない。

 それならば生かす価値はない。

 

「巨乳セーラー服JKが好きだ!!!」

 

 キャッキャウフフな未来を夢に見る真人は、本能が赴くままに虎杖の首を刈り取りに行く。

 

 寸分の狂いもなく、正確に───。

 

「祇園精舎の鐘の声」

「!!」

 

 しかし、すでに虎杖悠仁の姿はそこになかった。

 代わりに通路を反響する拍手の音と共に、何者かの声が響き渡る。

 

「諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色。盛者必衰の理を表す……ただし!!」

 

 現れたのは左目にかけた傷跡が痛々しいガタイのいい大男。

 

「俺達を除いてな」

 

 呪術高専京都校3年、東堂葵。

 姉妹校交流戦において特級呪霊である花御を前に、互角以上の戦いを演じた術師である。

 

「起きろ、虎杖(ブラザー)!! 俺達の戦いはこれからだ!!」

 

 紛れもなく油断ならない相手。

 激励を飛ばす東堂に虎杖は何か答えているが、真人は構わず仕掛ける。

 

「声が小さくて聞こえねぇよ!!」

「呪霊よ。さっき好きな女のタイプを話していたな」

「!!」

 

 だが、位置替えの術式『不義遊戯』を前に攻撃は不発に終わる。

 翻弄される真人に、余裕の笑みを湛える東堂は言葉を紡ぐ。

 

「因みに俺は……身長(タッパ)(ケツ)がデカい女です!!」

 

(性癖の開示!!)

 

「本気だね」

 

 確かに彼らはいつも自分の性癖に本気ではある。

 そうこうしているうちに虎杖は立ち上がり、

 

 

 黒閃!!

 

 

 黒い火花が虎杖の拳から咲く。

 拳を受け止めた腕がグチャグチャの肉体と化すも、真人は瞬く間に元の形へと変形させる。が、これも決して無傷で済んだ訳ではない。

 虎杖の攻撃を食らえば食らうほどに真人の魂は消耗する。

 それも黒閃級の攻撃はそう何度も食らえるものではない。

 

「死に体が」

 

 吐き捨てるように真人は呟いた。

 

 ここからさらに戦闘は熾烈を極める。

 黒閃を決めてゾーンに入った虎杖と真人に続くように東堂も黒閃を決める。黒閃を決めた者は普段に比べ120%の潜在能力を引き出し得る状態となる。

 

 三者それぞれが全力を越えた力を発揮する中、最初に動いたのは真人であった。

 体内にストックした改造人間を吐き出し、それらを一つにまとめる。

 すれば、それぞれの魂の拒絶反応により爆発的に高まった魂の質量が、肉の波となって虎杖と東堂に襲い掛かる。

 

 『不義遊戯』の位置替えすらも意味をなさぬ暴力の奔流を前に、戦いの舞台は地上へと移り変わった。

 

「アゲてけよ、虎杖!!! 俺とオマエ!! 最後の呪い合いだ!!」

 

 やはり真人が付け狙うは不倶戴天の敵、虎杖悠仁である。

 だがしかし、それを邪魔するのが厄介な位置替えを発動する東堂の存在だ。攻撃性能を高めた幾魂異性体を何体か仕向けるも、それほど時間を稼ぐこともできずに終わる。

 

(コイツに攻撃を当てるのはハードルが高い。かといって領域を展開すれば、俺は宿儺に触れ、殺される!!)

 

 領域展開は悪手だ。

 ただしそれは、宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「領域展開」

 

 口腔に生やした手が掌印を結び、結界が広がっていく。

 

「───『自閉円頓裹(じへいえんどんか)』」

 

 0.2秒の領域展開。

 黒閃を経た覚醒状態が可能にした早業は、東堂の簡易領域による防御術も、虎杖による妨害すらも出し抜いて完成に至った。

 

「テメェも身長と尻がデカい女にしてやるよ」

 

 真人の狙いは最初から東堂であった。

 簡易領域を展開する間もなく領域に付与された必中必殺の術式が東堂───真っ先に彼の股間へと命中する。

 

 もうすぐ東堂は東堂で居られなくなる。葵くんから葵ちゃんになってしまうのも時間の問題だった。

 そんな彼を心配する虎杖を殴り飛ばし、真人は駆け出した。

 

「済まない、高田ちゃん───だがとっくの昔に操は君に立てている!」

「!」

 

 次の瞬間、東堂は自身の股間を切り落とした。

 葵くんが葵ちゃんになってしまうより早く、去勢してでも葵くんになることを選んだのだ。いや、葵くんが居なくなったとすればそれは葵くんと呼んでいいのか定かではないが、それでも葵くんは葵くんのままであった。

 

「なんだよ、せっかくタイプの女にしてやろうとしたのに」

 

 領域展開後は術式を使えない。

 それを理解している真人は、術式ではなく純粋に呪力強化した拳を東堂に叩き込む。

 

 再び、黒い火花は咲いた。

 

 

 黒閃!!

 

 

 空間が歪み、呪力が黒く染まる。

 黒閃の威力は通常の2.5乗。たとえいかに頑丈な東堂と言えど、食らえば一たまりもない一撃───のはずだった。

 

(……コイツ!! 山勘で腹に全呪力を集中させて、ダメージを最小限に抑えやがった!!)

 

 一歩間違えれば呪力防御が疎かになった部位に食らう諸刃の剣。

 しかし、ここ一番で賭けに勝った東堂は、チン○を切り落とした掌を真人の掌に打ち据える。

 

 術式発動。

 

 東堂と虎杖の場所が入れ替わる。

 目の前の虎杖は既に拳を構えており、

 

「しまっ───」

 

 

黒閃!!

 

 

 無防備な真人の顔面に渾身の一撃を叩き込んだ。

 吹き飛ばされる途中、真人は幾魂異性体をくり出して虎杖の足止めに向かわせる。が、これも長くは持たまい。虎杖の強さと厄介さは誰よりも真人が理解しているからだ。

 

「クソッ!! 汚ぇ手で触りやがって……」

 

 東堂が自身のチン○を切り落とした手で触れられた掌を衣服で拭いつつ、それでも真人が自身の中で剥き出しの魂を見出す。

 

(こいつが俺の魂の本質!!)

 

 『無為転変』により、みるみるうちに真人の姿が変形していく。

 人間から異形へと変貌し、両腕から刃を伸ばした姿はまさしく殺す為の姿……なのだが、どことなくバインバインに膨れ上がった胸やら、キュッと引き絞られたウエスト。まるでスカートのように風になびく黒い毛皮など、どことなく本人の性癖を隠し切れていない。

 というか、クリクリとした双眸が硬そうな兜部分から覗いている為、真人本人による性転換という印象を拭えない。

 

遍殺即霊体(へんせつそくれいたい)

 

 幾魂異性体を仕留めた虎杖の前に、真人は立ちはだかる。

 虎杖は怪訝な視線を突きつけるが、真人は上機嫌に声を弾ませる。

 

「ハッピーバースデーってやつさ、虎杖。黒閃を経て理解したんだ。俺の本当の……剥き出しの魂を」

「驚いたよ。オマエが女の子になりたい願望があったとはな」

「クックッ、そうだな。でも仕上げはこれからだ」

 

 あくまでこれは真人の魂の本質。

 人が人を恐れる負の感情より生まれた人の呪いとしての姿が、そこにはあった。

 

「オマエを殺して、俺は初めてこの世に生まれ堕ちる」

 

 そこからは言葉は不要だった。

 一瞬の内に距離を詰めた両者が殴り合う。肉と肉を打ち付け合う、いや、骨と骨がぶつかり合う鈍い音が閑散とした渋谷のビル群を駆け抜けていく。

 

 その激突は決戦と呼んで差し支えないほどに苛烈だった。

 

(固い!!)

 

 だが、優位を保っていたのは真人だ。

 並みの攻撃を受け付けぬほどに防御力を高めた真人に対し、虎杖は有効打を見つけることが出来ぬ内に削られていく。単に呪力を乗せた拳では、あの鉄壁を貫くことは不可能だった。っていうか、なんであんな柔らかそうな見た目してるのにこんな固いのか意味が分からない。おっぱいは柔らかいっていう幻想を返せ。

 

(コイツを倒すには黒閃を───俺の最大呪力出力の黒閃をブツけるしかない……!!)

 

 活路はそれだけ。

 あとは死、あるのみ。

 

 だが、黒閃を狙って出せる術師は存在しない。

 一か八かの賭けだ。

 それでもやるしかない。

 

「クックッ」

 

 どちらも満身創痍。

 一見優位を保っている真人も、それほど余力が残されている訳ではない。

 早々に決着を付けねば、逆に虎杖に殺される。

 

 最後の激突を予感した両者の間に、静寂が流れる。

 

 

 

 そして───。

 

 

 

「おい……さっきはよくもやってくれたな、クソ呪霊」

 

 

 

「「!!?」」

 

 思いもよらぬ声に両者の意識が逸れる。

 陥没した戦場を見下ろすように淵に立っていたのは、駅地下で戦線離脱したはずの少女───。

 

「くぎっ……!?」

 

 しかし、虎杖は最後まで名前を呼べなかった。

 何故ならば、仁王立ちして見下ろす少女のスカートを捲り上げる()()()が、他ならぬ少女のスカートから覗き込めたからだ。

 

「そ、それは……!?」

「あ? これはあれよ、あれ。さっきそのクソ呪霊に()()()()()()()

 

 雄々しく反り返る立派なイチモツを目にし、虎杖の悠仁くんはヒュンと縮こまる。野薔薇ちゃんに生えた釘崎くんのサイズは、最早釘と呼んでいい代物ではない。あれは最早釘バットだ。

 

「馬鹿な……俺の『無為転変』を食らって!? いや……ありえなくはない!!」

 

 そこで真人は自身の失態に気づいた。

 真人は釘崎の魂の形を女の子にしようとした。だが、ありのままであろうとする本人の強固な自意識により、無為転変は失敗。結果、彼女は拒絶反応を起こして倒れた。

 しかし、だからといって肉体に変形が起きなかったとは断言できない。

 

 そう、釘崎は魂が男前過ぎたのだ。

 魂が姉御であり、兄貴であった。

 釘崎ちゃんであったが、釘崎くんでもあったのだ!

 

「不思議よね……こんな邪魔臭いもんが生えたのに、どうしてだか昔っからあったような気がすんのよ」

 

 感慨深そうに語る釘崎は、小脇に抱きかかえていたとある物体を取り出す。

 

「そ、それは!!」

「そうよ、あんたが残した分身」

 

 正確には駅地下で本体と入れ替わった際、虎杖に倒された肉体であった。

 それをわざわざ持ってきた釘崎は、ゆっくりと分身が来ていた衣服をはぎ取る。

 

「オマエ……何するつもりだ⁉」

「見て分かんない?」

「? ……ッ!!! やめろ、そっちの俺の体は男のままなんだぞ!!!」

「それがどうした?」

「!!!??」

 

 漢・釘崎野薔薇は股間に生えた立派なチン○を取り出す。

 たっぷりの呪力を込められたチン○は、今にも爆ぜんばかりに黒光りしていた。

 

「さんざ魂がどーとか女がどーとか語ってたが……笑わせんな。テメェには本当のメス堕ちってのを教えてやるよ……!!!」

「や、やめ───」

芻霊呪法(すうれいじゅほう)───『共鳴(ともな)り』!!!」

「あっ」

 

 魂に作用しない攻撃は真人に通用しない。

 だがしかし、魂に干渉する『共鳴り』であればその限りでない。

 

 

 

───あーーーーー……ッ♡

 

 

 

 釘崎のチン○に漲った呪力が爆ぜる。

 次の瞬間、真人の嬌声が渋谷の夜空に響き渡るのであった。

 

 

 

 特級呪霊・真人───撃破。

 

 

 

 




羂索「キッショ」

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