灰に灯る藍春の朝を   作:通りすがり

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Debriefing
Debriefing.log〈プロローグ〉


まだ誰かの声が聞こえる。

身に着けた防弾ベストに括り付けられ、落ちることもなく、垂れさがり揺れるインカムから。

今、裏切りだます側となって、俺は"怪物達"の願いを初めて理解したのかもしれない。

部隊に裏切られ、這いずり回り、数多の死体の上に積み重なった復讐は、俺のすべてを飲み込んだ。

 

ここ(キヴォトス)にきて、なんど転換点があったかもわからない。

いびつながらも平凡な生活。

俺が望んでいたものは、ここにすべてあったのかもしれない。

交友関係を築き、数多くの難題をともに乗り越えてきた生徒としての日々を経て、私は"幸せ"というものが何かを知ったのだろうと思う。

 

だが、俺には過ぎた代物だ。

この記憶を抱きながら、不死身の生に終止符を打つことは、きっと私にとって最高の幸せであると同時に、受けるべき報い、背負うべき罪なのだと思う。

 

内臓にまで響くような警報音とともに崩れ行く箱舟(アトラ・ハシース)の中、もう目を覚ますこともない"彼女"を背に、彼女の教え子として、私は、請け負った"タスク"の仕上げに向かう。

もし"外で"誰かがこれを見つけたなら、私の恩人のトレーダー、Praporに特定のファイルごと渡して伝えてほしい。

 

約束を守れなかったことを謝ってたこと、使命を果たしたこと、そしてTerraGroupの化けの皮を剥いでくれと。

 

これから話すことは、追悼と継承、願いと罪滅ぼし、私にとっては二年と半年の記録。

タスク"舟旅の終点"のデブリーフィング。

 


 

目を開ければ、一面には砂漠が広がっていた。

間違いなく俺は驚いてた、何せ死屍累々の研究室にいたと思ったら今度はいつの間にか外、それももともといたロシア北西部にはあり得ない砂漠、そのど真ん中に俺は立っていた。

砂の中から生えてるビルの数々を見れば、かなり反映していた都市が砂漠化により消滅してしまったのだろうと推測はできるが、あまりの変化に思考の処理が追い付かない。

 

試しに身に着けていたはずのものを確認する。

 

が...

 

 

 

 

 

 

「...なんで、裸...???」

 

 

 

先ほど、体感でいえばおおよそ1分前、私は軍事的な作戦が遂行できるレベルの武装をしていた。

旧石器時代レベルではなく、もちろん近代的なものを。

 

なぜないのかと焦りを募らせあたりを見渡すも、装備していたアサルトライフルも、タクティカルベストも、背負っていたバックパックも、着ていた使い古しのウェアも、すべてが消え去っていった。

何かしらの異常かと、いやどう見ても異常ではあるが、何らかの影響で見えてないだけかとも考え、何度も確認したが、質量も感じなければ、日光や風を身体がダイレクトに感じ取っている。

 

追剥に合った難民だってもっと衣服はあったぞ...などと現状に不満をたれ、衣服がない不慣れな解放感に困惑しつつも、移動を始めた。

不幸中の幸いだが周りに人の気配は全くなく、この状況がいつまで続くかもわからなかったので、残った物資や使えそうなものがないかを砂に埋もれたビルや民家を探し回収することに。

 

一棟、二棟、一軒、二軒と建物を巡れど、砂漠化の進みがそこまで早くもなかったのだろう、ほとんどの建物はなにも残されてはいなかった。

布一つに至るまでだ。

カーテンやベッドシーツ、衣服ではなくとも何かしらの布は夜を凌ぐためにもほしい、体の露出を減らすのもそうだが砂漠の夜は冷えると聞く、凍死の可能性すらある中で衣服なしは雨風凌げる空き家があれど貫通してくる冷気からは身を守る手段がない現状は命にかかわりかねない。

が、そう思いながら開く引き出しから突き付けられる現実は実に非情なものだった。

 

 

 

しばらく散策し、時刻は影のを見るにおおよそ昼過ぎ夕方前のあたりだろうか、影が少しづつ伸びつつある現在。

数十の建物を巡ったが、戦利品は今のところゼロ。

だがところどころ不審な点を見かけるときがある。

 

「...ここも荒らされてるのか」

 

そう、おそらくは空き巣に入られたのだろう薄く広がる砂に残る足跡と割られた窓などの痕跡。

だが奇妙なことにどう見てもその足跡には"肉球"が映っている。

明らかに人じゃない。

そしてもっとおかしいのが、どう見たって"二足歩行の足跡"であること。

無論、探したほかの建物では革靴のような足跡の時もあるが、ちょこちょこ謎の獣が空き巣犯のような挙動をしている。

それに...

 

「使用済みの薬莢...」

 

5.56mm、9mm、12ゲージ、間違いなくこの近辺では戦闘があった。

スーツか何かと思われる衣服の破れた破片、壁や天井に残る弾痕、落ちてるピンクや金色の髪の毛。

明らかに殺しあったと思われる現場。

砂に埋もれたと思われるものを合わせればその数はざっと100発に届くほどの量が内外に散乱していた。

 

だが違和感がある。

試しに砂を少し掘ってみたところ、いびつな形の鉛があちらこちらから出てくる。

 

「実弾での戦闘だったのに、負傷者が出なかった...?」

 

あたりには血の一滴もない。

この家から誰かがほかに向けて発砲したのかとも考えたが、"薬莢が落ちてる場所の近くの壁にも弾痕"がある。

近くの家も調べたが、反対側の家に着弾したとみられる弾痕が複数あったものの、薬莢が転がってるのはあの家の付近だけ。

つまり、"家一軒分もない空間で撃ち合ってた"ことになる。

なのに血が一滴も付近に落ちてなかった。

防弾性能のあるギアを装備してたとして、基本的には腕や足は露出する。

人間同士が対峙していたのなら、近距離の撃ち合いで腕や足、頭部に当たらないなんてことは基本ない。

それに散乱する衣服の破片が人体への着弾を物語ってる。

 

そんな中、銃声が鳴り響き始める。

驚き身を反射的にかがめるが、どうやら狙いは俺ではなく別の何か、しかも銃声が連続してることからおそらく戦闘状態に入っている。

俺は全速力でその方向に走っていった。

 


 

走り出して数分、銃声はまだ鳴り響いている、かなり大きな戦闘のようだ。

何が起きているかを確認する必要がある、少なくともここはロシアではないことはわかるが、どこかの軍や警察機関、PMCなどが戦闘しているならまだ保護がもらえるかもしれない。

物資ゼロで砂漠でさまようよりかはずっと生存の確率が上がると踏んで急いで近づく、もっと言えば死体から何かを拝借できればより動きやすくなる。

そんな期待を胸に足を速める。

 

かなり近くで銃声が聞こえる位置につき、俺は廃墟から銃声のする方向に顔を出し状況を伺う。

状況は人間の活動があったというだけで好転し始めている。

人間がいるということはどういう状態であっても生きるための物資が確保できている環境なのであって、すくなくとも自分の生存に必要な物品はすべてこのエリアに存在することが確約されているということだ。

だから状況は何であれ合わせて動けば、戦闘がどうなろうと自分は生き残れると思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

だが何を間違えれば少女が少女と戦闘してる事態に遭遇するのだろうか...?

 

 

 

 

方やショートヘアのピンク髪と緑髪の女性、相対するはマスクをつけたガラの悪そうな女性達、俗にいうスケバン?というやつなのだろうか。

互いに銃口を向け殺すつもりで相手に発砲しているのが見える。

 

言葉もない。冗談もいい加減にしてほしい。

数ブロック以上離れた先の戦闘は一方的な暴力に見える状況。

明らかな人数不利、なんだったらガトリングのようなものを持ってるのも見える。

やっぱ視野に深刻な異常が発生してるんだろうか?それとも脳みそ?

まるで意味が分からない。

 

「ひぃん、ホシノちゃんちょっとそろそろ厳しいかも...」

「もう少しだけ耐えててください!」

 

そう言って後ろにいる少女がショットガンに弾を込め始めるのが見える。

装填が完了したのか目線を相手側に向けたと思えば、何かを彼女らに向かって投げた。

 

直後、爆音とともに閃光はしる投擲物、おそらく閃光手榴弾(フラッシュバン)だろう。

気づけば彼女は大楯を構える緑髪の少女の背後からいなくなっていた。

 

まさかと思いつつ、視線をスケバン達に向ければ、最後の一人に向かって銃口を構えているところだった。

 

「待て!」

 

とっさに物陰を飛び出し今にも引き金を引こうとする少女を制止するべく声を張り上げる。

びくっと小動物みたいな反応をする少女含め、銃口を向けていた彼女の意識もこちらに向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ななななんなんですかあなたは?!」

 

「あわわわわ」

 

と、思った矢先彼女達はわけのわからないものを見る顔をしたと思ったら途端に驚嘆し顔を赤く染める。

 

 

 

 

「...あ」

 

気づいたときには遅かったが、そういえば俺素っ裸だった。

 

これがこのキヴォトスという場所に来て最初の記憶

初めて遭遇した人物とのファーストコンタクト(最悪なプロローグ)だった。

 

 




お待たせしました。
第一話プロローグにつき短めです。
次回から少し内容詰めていきます。
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