灰に灯る藍春の朝を 作:通りすがり
公共の場において、全裸での徘徊は犯罪です。
よく耳にするだろう刑法174条の公然わいせつ罪や軽犯罪法1条20号、各都道府県の迷惑防止条例に引っかかる可能性が非常に高く、拘留をはじめ、罰金や拘禁刑を科される可能性があります。
一応、故意がない場合、犯罪として成立しにくく、心神喪失/心神耗弱など心身に異常がある場合はその限りではないとは言えますが、基本的には犯罪です。
しかし、ここはキヴォトスです。
いやたぶんキヴォトスでも十分犯罪になる可能性があります。
転生や移住をお考えの読者の方は十分お気を付けください。
当たり前のことですかね。
このログも当たり前の話がもうちょっとだけ続きます。
学校といわれて何を思い浮かべるだろうか?
俺は特にない。
まるで映画やドラマでのシーンを見ていたかのような主体性のない日常の中にその景色はあるが、何かを思うことはない。
明日遊ぶ約束をした友人やよく廊下に放り出されるお調子者、怖い担任。
そんな記号に何も思うことはなかったのだが、この時ばかりは必要なのかもしれない。
「学校が行政と治安組織を兼任してる?非常識なんてもんじゃないな」
「全裸で突然出てきたあなたが言わないでください。変質者。」
わけがわからず立ち尽くすしかなかったが、頭が状況を飲み込む前に、目の前に瞬間移動してきた少女に胸元を思いっきり殴られ、そのまま宙に浮く。
胸部から聞いてはならない音が聞こえたとともに呼吸ができなくなり、揺れるピンク髪と殺さんとばかりにこちらをにらむ眼光が見えたのを最後に、俺は意識を失った。
ここまではいい、いや良くはないが問題はここから。
目が覚めたら学校、保健室と思われる場所に寝かされていた。
胴体にはサラシでも巻いたかのように包帯が巻かれており、四肢には絆創膏などの応急処置の痕跡。
陽は傾き空を赤く染め始めてるのが窓越しに視認する今日この頃。
自分が今どこで何が起きてるのかすらわからない状況にただ身を任せるしかなかった。
そんな時、ノックとともに女性が入ってくる。
反射的に体を動かそうとしたが、まだ身体は完治していなかったことを痛感する神経を削るような痛みを胸のあたりから感じ思わず声が出る。
「わわ?!まだ動いちゃだめだよ!」
そう言いながら彼女はこちらに駆け寄り俺の身体を押さえる。
抵抗手段を反射的に探そうとするも、表情と様子からすぐさま攻撃されるわけではないことを悟ったので、呼吸を整え、いろいろ聞くことにした。
「ここはどこなんだ」
「アビドス高等学校の保健室だよ。
あの時急に飛び出してきたあなたをホシノちゃんが攻撃しちゃって...それで息もしてなくて...死んじゃったかと思ったよぉ...」
目の前でだんだん嗚咽交じりになっていく彼女。
涙がぽたぽたと落ち、巻かれた包帯に染み込んでくるのを感じるが、何をどう言えばいいのかわからなかった。
その時、
「...生きてたんですね」
引き戸のほうから声が聞こえた。
目を向ければ、気絶する前に見たピンク髪の少女、おそらくホシノちゃんと呼ばれてた子なのだろう。
「よかったぁ...ホシノちゃんが人を殺めちゃったと思ってぇ...」
「大袈裟ですよユメ先輩。
第一”キヴォトス人”があれくらいで死ぬわけないじゃないですか」
目の前ですすり泣いてる女性がユメという名の女性だということを知ると同時に、不可解なことが聞こえた。
「悪いんだけどキヴォトス人ってなんだ?一応俺は血統でいえば日本人なはずなんだけど」
「...はい?」
素朴な、当たり前だと思ってた疑問は彼女、ホシノにとってはどうやら相当不可解だったらしい。
「?日本って聞いたことないか?それかJapan?Японияなら?」
「気でもおかしくしたんですか?」
...そんなことある?お互い日本語でしゃべってて?と疑問が浮かぶ。
「...ほんとに知らないのか?」
「知りません。どっかの国の名前ですか?」
これが最初に会った人物との会話だった。
一瞬、申し訳ないが、相手の学がないだけかとも思った、が、そもそも俺だってキヴォトスやアビドスなんて聞いたこともない。
似たようなものがあるとすれば、ここに来る前に見た手記の神話に関する研究や私見をまとめた研究員の手記、その中にあったアヌビスなどの神話上の存在くらいで情報は何もない。
ホシノと呼ばれた少女のほうに目を向けると、怪訝な顔をこちらに向け、ショットガンを握っている。
次の一手次第で俺はすぐに殺されるかもしれないが、一か八かの賭けに出てみようと思う。
「なぁ...治療してもらった上に申し訳ないんだが、少し教えてほしいことがある」
「...何ですか」
警戒感を隠すこともなくホシノは答え、そばにいるユメと呼ばれてた女性は漂う緊張感にオロオロとうろたえ、次のアクションを待っているようだ。
だから、俺はとりあえず正直に申し出ることにした。
「常識ない俺にいろいろ叩き込んでくれないか?」
「...は?」
ーおよそ二時間後...ー
「学校が行政と治安組織を兼任してる?非常識なんてもんじゃないな」
「全裸で突然出てきたあなたが言わないでください。変質者。」
ここで冒頭に戻ってきたというわけだ。
結論から言えば常識は根底から通用しなかった。
ここには俺が知ってる国という存在はない。
その代わりに似たようなものが自治区と呼ばれる存在であり、高校主導の自治管理をしているらしい。
行政機関をはじめ、法執行機関、軍事、政治なども学校の管轄なのがここキヴォトスという場所なのだと教えられた。
ただ、それはそれとしてそれら自治区を総合的に管理する連邦組織があるらしい。
それを連邦生徒会といい、各種省庁のような役割を統括的に持つ組織らしい。
アメリカの連邦組織と各州の関係に近いのだろうか?
だがそれをも上回る衝撃はやっぱり。
「生身で銃弾耐えるって何?ロボットかなんかなの?お前ら」
「人間です」
「あはは...痛いのは痛いんだけどね」
この世界では銃弾は本物のくせに、キヴォトス人は頭部などの急所直撃でも耐える人は耐えるらしい。
耐えきれなかったとしても数時間の気絶で済むのだとか...
「人間じゃねぇよお前ら...なんか頭の上にフヨフヨ浮いてるし...」
「?あなたにもあるじゃないですか。」
「は?」
そう言われて頭上に両手を差し伸べるが、成果は空を切る両手と連動して走る胸部の痛みだけだった。
「ああっと、ヘイローは触ることはできないんだよ。けど、鏡とかを反してみることはできるの」
そう慌て気味に、ユメから渡された手鏡で自分を見ると、そこには全体的に黒く、三本の末端が枝分かれする爪痕のような模様から大戸色のオーラが漏れてるような浮かぶヘイローがあった。
「...本当にあった」
「むしろ今まで知らなかったんですか...?」
知らないも何も、そもそもここに来るまでヘイローの概念がそもそもなかったのだ。
知るはずがない。
そのことを伝えるも、不思議そうな目で見られるだけで信じられたわけではないようだった。
「とにかく、これからどうするつもりなの?」
そうユメが問いかけてくる。
「見ず知らずの場所に突然その...裸で放り出されちゃった感じなんだよね?
それなら療養が終わったらその場所に見に行ってみる?」
もしかしたら帰る方法がわかるかも!と続ける彼女の言葉を受けて考える。
仮説が正しければ、そこに何か手掛かりはあっても帰る場所はない。
が、もし何か仮説を証明する何かが見つかるのであれば、あそこしかあるまい。
「できるなら頼みたい。
お礼にできることは少ないかもしれないが、せめて、PMC崩れの傭兵として何かしらの役には立って見せよう」
俺はそう伝えることにした。
何はどうあれ、”タスク”のこともある。
情報を収集するに越したことはないだろうと考えて、そう彼女らに伝えた。
のだが...
「...PMC崩れの傭兵?」
そう疑問を口にしてわずかに持ってる散弾銃の銃口が上がりかけるさまを見て思い出した。
「そういえば俺、自分のこと何も説明してない...?」
「...そうだね。まだ何も知らないかも...」
この後すんげぇいろいろ説明した。
ダァン!ダァン!ダァン!...
鼓膜に響く破裂音と鼻をツンと刺す刺激臭。
俺は尋問を受けた翌日、アビドス高等学校 校庭にて、マンターゲットに向かって発砲している。
手にはベレッタM9と呼ばれる拳銃、この学校に予備としてあったものを拝借し、次々と起き上がり動く的に狙いを合わせ引き金を引いていく。
背後にはこちらを向く視線が二つ。
全く正反対の反応をこちらに向け、静かに見守っているなか、スライドが後退したまま止まったのを合図に射撃をやめると、二人は近づいてくる。
「すごーい!しっかり全部命中してる!」
きゃっきゃと盛り上がるユメをよそに、ホシノはタイマーと的を交互に見ながら何か思いにふけっている顔をしている。
「...ねぇ」
突然そう声をかけてきたホシノに視線を向け”なんだ?”と返答を反す。
するとタイマーをこちらに渡し、口に出す。
「渡したマガジンは2本、全部で30発、ターゲットの数は5枚、それぞれランダムに6回出現します」
不快を感じる口調で続けるホシノ、渡されたタイマーを見ればそこには18秒と少しを示していた。
「10m先、角度は最大180度、着弾位置はすべてバイタル中央か脳幹、平均2秒に3発のペースでですか」
「そんな疑われてもなんも出ないぞ?俺が生まれてからこれまでの間にキヴォトスなんて場所はまず聞いたことがないし」
弁明するも鋭く刺す視線は変わらないが、ユメが”でもすごいよ!”と半ば強引に割って入って間を取り持とうとしてくる。
「キヴォトスでも普通以上の実力だと思うよ!今まで見てきた人の大半より上手だと思う!ホシノちゃんもそう思うでしょ?」
そうユメが投げかけるも、”...そうですね”と生返事気味に返答する。
そんなホシノにオロオロと慌てだすユメに、声をかける。
「それで、どうするつもりなんだ?」
問いかけに反応してこちらを向き一呼吸置くユメ。
「ハル君を一時的にアビドスで雇うかという話だよね」
こちらに問い返すユメに頷く。
無所属で法や自治が働いてる場所で、身分ナシ戸籍ナシは致命傷以外の何物でもないという状況を見かねたユメが、昨日提案してくれたものだ。
「私はもちろんオッケーだよ!ホシノちゃんはどう?」
話題の矛先と視線をホシノに向けると、とてつもなく不服そうに言葉に出す。
「...わかりました。ですがもし妙な真似をしたら...わかっていますよね...?」
こちらに告げると同時に、彼女がセーフティに指をかけるのが見えた。
そんな彼女の眼を見て頷き意思を示すと、彼女は武器から手を放し後者の中へと戻っていった。
「私たちも行こっか。あ、片付けは後でで大丈夫だよ!」
そう言ってこちらを先導するユメに、弾を抜いたハンドガンをもって後に続く。
こうして、私は一時的にアビドス高等学校の所属となり、治安維持活動を開始していくことになる。
「てめぇ今油圧を馬鹿にしたんかゴラァ???」
「誰がそんなゴミボディ使うんだよ情弱、時代は電動に決まってんだろJK」
「はぁ...これだから効率厨は身体もメンタルもクソ雑魚なんだよ。引きこもってろ使い捨て風情が」
「あぁ?!言ったな?!言ってしまったな!ほら銃抜けよ蹴りつけてやるよ。あw無理かw油圧じゃ遅すぎて話になんねぇわw」
「お前を〇す」
街をホシノとペアで見回りしてるさなか、喧嘩のノリで発生する銃撃戦。
流れ弾が頬をかすめる中、物陰に逃げ込む俺を他所に、ホシノはすぐ横ですでに突撃の構えをとっている。
「なにしてるんですか!!ぼさっとしてたら置いていきますよ!!」
「...ハイ」
被弾をものともせず戦火に高速で飛び込み散弾を叩き込むホシノの背に続き、拳銃を構えて駆け込む。
”この世界はやはり異常だ”とこの先何度思ったかわからないが、この時は食らいつくだけで精いっぱいだった。
信じられないくらい難産でした。
ついでに、ゲームの知識だけじゃだめだなって思ったので実銃を撃ちに行きました。
作中のハルとは射撃環境が違うものの、トータル150発、だいたい3秒で5発撃って、おおよそ狙ったところに着弾するかなくらいまで磨けた経験から、創作らしいスキルに合わせて算出してみました。
80ドルくらいかかりました。
楽しかったです。