ムコーダとフリーレンとの出会い。
その日は確か、従魔達にせがまれて、新しく見つかったという、誰も踏破した事が無いダンジョン、その最奥地へと向かっていた時の事だった。
『む……何かあるな。用心しろ』
「何か? 何かってなんだよ?」
『……分からん、しかし恐らくはトラップの類だろう。何かしらの魔法が展開している』
そう言って珍しく警戒心を露わにした、ムコーダの従魔の内の一匹、フェンリルのフェルだったが……少しすると『まあお主なら何があったとて死ぬ事は無いだろうがな』と警戒が馬鹿馬鹿しくなったのかすぐにいつも通りに戻った。
女神の祝福を受け、自身が護っているのだから、死ぬ事は無いだろうと。
そしてムコーダもまたその様子を見て「何が起こっても大丈夫だろう」と慢心し、先に進もうと足を進め、そして……。
極光が部屋を包んだ。
「うわっ!?」
『なっ!? これは……転移か!?』
そう気づくや否や、フェルは咄嗟にムコーダに対して結界の魔法を張る。
……しかし、次の瞬間、浮遊感がムコーダの身体を襲った。
「えっ!?」
光に眩んだ目を開くと、そこは……。
「う、うわあああああああーーーーーッ!?!?」
ムコーダは、空に投げ出されていた。
「……うん?」
「……どうしたの、先生」
所変わって、とある森の中。フリーレンとフランメがそこに居た。
彼女達は、修行を兼ねた旅の途中にてたまたまその森にある街道を通っている最中であった。
「いや、何か声が聞こえた気がしたんだが……」
ズドォン!!
「な、なんだ!? 隕石か……!?」
唐突に、森に衝撃音が鳴り響き、木々が揺れ動く。
しばしその場で警戒する二人だったが、しばらくしてフリーレンはフランメに問いかける。
「……行ってみる?」
「そうだな……」
迷った末、魔族かもしれないと思ったフランメは弟子であるフリーレンと共に、音のした方向へ向かう事にした。
念の為、だまし討ちをする魔族である可能性も踏まえて、ひとまずは急いで声のする方向へと向かう事に決め、弟子と共に歩き始めた。
「……ん?」
「はぁ、助かった……フェルの結界が無かったら死んで……はっ!? 人!? すみません!! 私、怪しい者ではなくて!! 道に迷ってしまって……はおかしいか、とにかく怪しい者では無いんです!!」
そして出会ったのが、ムコーダであった。
余程不安だったのか、両手を上へ向け、無手であることをアピールしつつ、目尻に涙すら浮かべ、情けなくまくしたてる男性。
「……警戒をして損した」
「あー……うん、とりあえず魔族じゃ無い事は分かったから落ち着け」
怪しい者かどうかはともかくとして、魔族の特徴である、角が無いし、ここまで無様にアタフタ慌てふためく演技が出来るような魔族なんて居る筈無い。
「ま、魔族……?」
「……うん?」
しかしその後の男の様子は無視できない反応だった。
「まさかお前、魔族を知らないなんて言うんじゃないだろうな」
「え~っと……何の話ですか?」
フランメは驚愕した。まさかこの世界に、魔族の存在を知らないような人間が居るとは思ってもみなかったからだ。そして、その原因をすぐに推察し……もしかすると、魔族の中に『記憶を消去する魔法』なんてものを持っている魔族が居るのかもしれない、と考えた。
「なあアンタ……どうやってここに来たのか、説明できるか?」
もし本当にそうならば、説明できない筈である。そう考えてそう問うも、男は落ち着いた様子でこう答えた。
「どう……ええと、ダンジョンでトラップにかかって、物凄い光に包まれて、そしたら、私だけこの森に投げ出されてしまって……今に至ります」
「……はあ?」
記憶を失っている、という訳ではない。しかし魔族の事は知らない。そんな事があるんだろうか? もしかすると、魔族の事だけ記憶から消去する魔法?
「そのダンジョンってのはなんて所だ?」
「ええと…………ってとこですけど。あっ、でも最近見つかったばかりのとこで……っていう国の近くで遺跡発掘作業中に偶然見つかったとかで……」
やはり嘘を言っているようには見えない。しかし、今度は逆に、フランメにも知らない国名とダンジョンの名前を提示してきていると来た。
フランメは頭痛を覚えるような錯覚に陥りつつ、会話を続けていく内に、とある仮説へと辿り着く。
「あんた、名前は?」
「む、ムコーダです」
「そうかムコーダ。単刀直入に言うぞ。……多分お前は私達にとって異世界人だ。お前が言う国にもダンジョンにも、私達には覚えが無い、聞いたことも無い」
「……え」
――ええええええっ!?
男の悲鳴が森にこだました。
その後は、ムコーダが持つ世界への常識と、フランメ達が持つ世界への常識のすり合わせをした。その結果、やはりムコーダはここではないどこか、外なる世界からやってきた異世界人であるという事が殆ど確定する。
「心が無い人の形をした魔物? 人類の天敵? そんな世界が……」
「魔族が存在せず、魔物は死んでも塵にならず、肉が食える……そんな世界が」
最終的に行きついた結論が同じはずなのに、二人の顔色は真逆だった。
片や、そんな危険な生物がそこらじゅうに居る世界に来てしまったと絶望する男。
片や、そんな理想的な世界が存在し、その世界からやってきたという男が目の前に居るという事実に目を輝かせる女。
「……で、どうするの、これから」
そして、驚きはしつつ、冷静にこれからの事について考えようとするエルフの少女。
「……ハッ!? そうだ、あの人達ならもしかしたら……!!」
そう言いだすと、ムコーダは突然「ステータスオープン!」と唱える。
すると、目の前に半透明の、ぼんやりと輝き、宙に浮かび、何かしらの数字や文字が書かれた板のようなものが浮かび上がり、驚く二人をよそに「良し、ちゃんとネットスーパーも使えるな……!」と言いながら操作するムコーダ。
板の形状が変わり、何やら食べ物等が描かれている。それを操作すると……。
ポスンッ!
「な、なんだ!?」
「良し! 問題無く使える!」
突然、ムコーダの目の前に茶色い箱が現れ、ムコーダは歓喜しながらその箱を開く。
「……すん……お菓子?」
そこからは、フリーレン達が(この時代ではまだ)見たことの無い、甘い香りを放つお菓子が、綺麗な包装や、白くて綺麗な箱に包まれて現れた。
ムコーダはそれを、手ごろな岩の上に並べると、今度は手を合わせ、どういうわけか祈り始めた。
「おい、さっきから何をしてるんだ……?」
というか、コレは一体何なんだ、お前は今何をしている? 質問が絶えないが、ムコーダは聞く耳を持たない。というか、持つ余裕が無い。
それはそのはず、今ムコーダが頼ろうとしているのは……。
「……ッ! つ、繋がった!! 神様!! 聞こえますか!? ムコーダです! ここにあるの、全部差し上げます! だからどうか助けて下さい!」
神……ムコーダから見て、彼らですらどうにも出来ないならもう諦めるしか無いだろうと思わざるを得ない程の相手だったのだから、その連絡が出来ないかもしれないとあっては、慌てざるを得なかったのだ。
「……か、神、だと?」
コイツ、恐怖でおかしくなってしまったのかと、フランメは本気で目の前の男を心配し始めた。しかし、どうも狂っているというよりかは本当に誰かと話しているかのような……。
「あの、大丈夫?」
流石に不憫に思ったフリーレンがそう声をかける、次の瞬間。
バシュッ!
……ムコーダの目の前にあったお菓子の数々が、何の前触れもなく、突然綺麗さっぱり消えてしまった。
「……は!? 消えた……!?」
「……あっ! す、すみません、今のは……一から説明すると長くなるので、簡単に説明すると……異世界で私がお世話に……いや、信仰している神様達に祈りと供物をささげる事で、助けてもらおうとしたんです」
「……はああ??」
混乱ここに極まれりである。
「(魔力も感じなかった。魔法が使われたなら分からない筈がない。だが、実際に……と言う事は、魔法ではない、なにか別の……つまり……)本当に、神が……?」
「あ……え~っと」
ここに来てようやっと、ムコーダは慌てるがあまり、あまりにも浅慮な行動をしていたと自覚する。もし、この世界で神様というものが宗教戦争に発展するぐらい重要なもので、その神と直接やりとりが出来るなんて知られたら、とんでもない事になるのは想像に難くない。
その難くない想像すら出来ない程に慌てていたのが今のムコーダだった訳だが。
「……今の、忘れて下さい……ってのは駄目ですか?」
「いやいやいやいや……」
無理だろそれはと二人は高速で手を振った。
ですよね~とムコーダは肩を落とし、しかし、異世界の住人なんだし別にいいかと思い直し、悪い意味で吹っ切れ、話せることは全部話してしまう事にした。
「……はあ、まあ、とにかくアンタがぶっ飛んだ存在というのは分かったが」
とりあえず、あのまま森に居ても仕方ないという理由で三名は次の街への街道を歩きながら、ムコーダの話を聞いていた。
ムコーダが持つ「『
「神様達に現状も説明しました。私が従えている従魔達にも、この事を伝えて下さったそうです」
「神の祝福を受けた魔物とか考えたくもないけどな……いや、異世界なんだし何でもアリか……で?」
「……で……あ~……えっと、帰る手立てなんですが……出来れば、お二人に協力してもらえたりなんかしないかな~……なんて」
「私達の?」
話から察するに、神様達がどうにかするんだと思っていたフリーレンは意外そうにそう尋ねる。
「ハイ、というのも、どうやらこっちの世界に別の世界の神様が直接干渉するのは、神様達同士のルール? に抵触する恐れがあるらしくて」
「ふ~ん? 面倒なんだね、神様っていうのも」
「それで私達の協力ってのは?」
「あ、はい。神様が干渉するのはダメらしいですが、単にこっちからあっちに帰る分には何の問題も無いらしく……その為には、優れた魔法使いの手を借りて、あちらの世界へ帰る為の魔法を使う必要があるらしく……二人には、そんな魔法使いに心当たりとかがあれば教えて欲しいなと思、って……?」
そう言いながら二人の顔を見ると、何故か二人はニンマリと顔に笑みを浮かべていた。
「ほ~? 優れた魔法使い、ねえ……?」
「ムコーダ、それなら貴方は運が良い。私と先生はその優れた魔法使いだと思う」
「えっ!?」
そんな都合のいい事があるだろうか、というのもそうだが、二人の恰好を見てあまり魔法使いには見えなかったので、二重の意味でムコーダは驚いた。
「で、では……もしよろしければ、私が元の世界に帰るのを手伝っていただけませんか?」
「いいよ。その代わり……さっき出してたあの美味そうな菓子を私にも食わせな! それが条件だよ」
「……私、じゃない……私達、ね」
「そ、そんな事で良ければ是非!」
こうして、異世界人ムコーダと、優れた魔法使い師弟、フランメとフリーレンは出会い、少しの間旅を共にする事となったのだった。
続きはちょっと期間空くかも