ハンターを轢き逃げするのが大好きな一般転生生肉の話

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モンハンワイルズ記念


吾輩はブルファンゴである

吾輩はブルファンゴである。名前はまだ無い。

元々日本と呼ばれる国で働いていた一般人だった吾輩だが、目が覚めればいつの間にか木々が生い茂る森の中。

混乱しながらもそろりそろりと少し歩いたことで体への違和感。二足歩行から四足歩行への変化。

四苦八苦しながら近くの水場で自身の姿を確認し、ようやく現状が把握出来た。

 

猪。水面に移るは毛むくじゃら。日本に多く住む畑を荒らす害獣、猪。そう、あの牡丹鍋の猪になっていたのだ。牙が長すぎる気もしたが、野生の個体を見た事のない吾輩はそういうものかと受け入れた。

 

夢と疑いながらもこれからどうしようかとウロウロと四足歩行の練習をしていると、ズシンズシンと大きな足音のような地響きが伝わってきた。

こっそりと物陰に潜み、その方向を伺うとそこには巨大な竜がいた。

赤い鱗に巨大な翼。前腕、前脚のないワイバーンのそれ。

その姿には見覚えがあった。吾輩がそれなりにやり込んでいたゲームの看板モンスター。よく新モンスターやらの当て馬にされたりクソモンス扱いされる竜。

 

火竜リオレウス。

 

どうやらここはモンスターハンターの世界のようだ。

驚いてはいる。恐怖も感じている。だがそれ以上に混乱している。

そして自身の姿。

モンスターハンターには猪は存在しない。言い変えよう。通常の、地球に実在する猪はこの世界には存在しない。だが、似たような種族は存在する。

それは…走る生肉ロケット、ほぼ全てのハンター達からヘイトを向けられる圧倒的な存在。

 

吾輩はブルファンゴであった。

 

 

 

 

 

 

まず吾輩が始めたのは四足歩行に馴れる事だった。これが意外と難しい。歩いては走り歩いては走る。その繰り返し。道中で見掛けたケルビをお手本にさせてもらい、どうにか違和感の無い所に持っていくことは出来た。

因みにもうこの状況が夢では無いということは分かっている。最初は夢から覚めようとありとあらゆる手段を使ったりもした。元の世界に帰れるかの不安で埋め尽くされそうにもなったが、何もしなければ現状何も変わらない。その為の生存戦略。人間の頭脳を活かす時である。

 

といっても吾輩は特別な何かをすることはない。というより出来ない。吾輩には土地勘がない。無闇に移動すれば他のモンスターのテリトリーに侵入してしまい、生肉に変えられてしまう可能性がある。

吾輩が雑食で助かった。ゲームでのブルファンゴは草食種に該当していたが、地球の猪と殆ど食性は変わらない様である。地面をホリホリして出てきた虫を食べたり、アオキノコや特産キノコを貪り食らうことでなんとか過酷な日々を乗り越えた。

 

だがそんな生活は当然の如く終わりを迎えた。

単純なことである。

資源が尽きたのである。

近場のキノコは全て食べ尽くしてしまい、掘っても掘っても虫が出てこない。出てくるには出てくるが腹を満たすには足りえない。

要は遂に拠点移動の時が来たのだ。

 

当然手が無いので少しばかり貯めていた食料を腹の中に詰め込み移動を始める。

そろりそろりと物陰から物陰へと隠れながら移動する。肉食の大型モンスターに見つかれば…否、小型モンスターであろうと見つかれば即生肉にされてしまうだろう。吾輩は非力なのである。慎重に越したことは無い。

道中出会ったケルビの群れに合流し、少し離れた場所から後を追う。ケルビから胡乱な目で見られるが気にしない。何度かケルビ達が吾輩を追い払おうと攻撃してきたが決死の威嚇でケルビを退けた。

吾輩の作戦。それはケルビに着いていき他のモンスターのテリトリーに入らないように移動し、もしもがあればケルビを生贄にする作戦だ。

 

推測にはなるがケルビは他モンスターのテリトリーを理解しているだろう。被食者であるケルビらが他モンスターのテリトリーを犯すとは考えづらい。

それに最悪ケルビ達の食べかすを貪れば飢えることは無いだろう。猪にプライドは無いのである。

 

 

 

そんなこんなで数週間に渡り、大型モンスターと遭遇する事は一切なく平和にファンゴ生を謳歌していた。

ブルファンゴに転生し、一時はどうしたものかと思っていたが意外とどうにでもなるものである。

 

そう考えていたのが祟ったのか、遂に平和なファンゴ生は崩されてしまった。

 

『グギャアァァァッ!!』

 

周囲の空気を揺るがす咆哮、すべて焼き尽くさんと燃え盛る業火。

陸統べる女王、雌火竜リオレイアがその巨体で荒れ狂う。

 

それをたった一人で、リオレイアと比べると爪楊枝のような細く小さな太刀でそれを迎え撃つのは吾輩がこの世界で最も警戒する人間。モンスターハンターと呼ばれるゲームの主人公も属する狩人(ハンター)

その狩人が今、吾輩の目の前で激闘を繰り返している。

 

否、激闘などでは無い。一方的な蹂躙であった。

金獅子と呼ばれる古龍級生物の装備を全身に身に付けたそのハンターは、リオレイアから放たれる攻撃を全て見切り、打ち返し、流す。例えそれが咆哮であっても居合でリオレイアを斬り落とす。

 

悲鳴をあげるリオレイア。それを見て恐怖を感じた吾輩はその場からこっそり立ち去ることを決意する。

 

そろりそろり、狩人とリオレイアの動向を確認しながら後退りする。

見つかれば終わり、いや、こちらに気づいてもターゲットでない吾輩は見逃される可能性もある。

 

待て、暫し見続けて気付いた事がある。ハンターの装備、もしや火事場力ではなかろうか?

火事場力というものは、体力が少なくなると火力が大幅に向上するガチ勢御用達の火力補助スキルである。

 

つまり今現在の狩人の体力は僅か…一撃でも喰らえば1乙となる…

 

 

瞬間、吾輩に電流走る!

ここで後ろから突進したらおもろいやろなぁ…

 

 

既に吾輩は無意識に走り出していた。考えるより先に身体が動いていた。紛れも無くそれはヒーローになる瞬間。気分は姫を助ける勇者だった。

 

リオレイアが大技の体勢をとる。それに合わせて狩人も太刀を鞘に収めて抜刀の構え。緊張が走る場に吾輩は全力で力強く参加する(ダイナミックエントリー)

 

「ぐはっ!?」

 

狩人に突進。不意を付かれた狩人は呆気なく吾輩の突進に吹き飛ばされる。その刹那、放たれたリオレイアのサマーソルトが狩人を穿つ。

信じられないモノを見るかのような驚愕に染まる目。怒りに憎悪を孕んだその感情。

まるで湧き水のように溢れ出す快感。ドバドバと溢れ出すアドレナリンで高揚感が爆発する。

 

たっのしーーーーッ!!

 

狩人の顔を見たか?あのリオレイアを一方的に蹂躙するまでにどれ程の修練を要したか、想像に固くない。それを部外者である吾輩が一瞬で踏みつぶすその快感。

まさに愉悦。まさに外道。

地面に叩きつけられた狩人はピクリとも動くことは無く、突如現れた獣人のアイルー達が狩人を連れ帰った。

吾輩、アンチや荒らしが無くならない理由が少しだけ分かった気がする。

 

『グギャア』

 

背筋に冷や汗を垂らす。すっかり忘れていた。狩人を轢いたことで調子に乗っていた。

 

この場は未だ、女王への謁見の間であったことを…

リオレイアが吾輩を一瞥する。認識した、されてしまった。

 

わ、わぁ…

 

吾輩の語彙力が消失する。小便を撒き散らしながらンゴンゴと鳴く。

 

『グギャァァアッ!!』

 

さらにそこへ王の帰還。リオレウス。

ボロボロになったリオレイアを見て憤怒する。

 

そこで吾輩は死期を悟った。ブルファンゴの本能に負け、突進してしまった吾輩はこのリオ夫妻に美味しい生肉にされてしまうのだと。

 

『ギャア』

 

リオレイアがリオレウスに鳴く。

 

『ギャスギャス』

 

『アギャ?』

 

『ギャオスアギャス』

 

『ギュウ…』

 

何処かそれは、説得するかのような、宥めているかのような雰囲気。吾輩困惑。

 

そのままリオ夫妻は踵を返して飛び立っていった。

 

助かった…のだろうか?

吾輩は産まれたてのケルビのように震えた足でそそくさとその場を去るのであった。

 

 


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