「ねぇ、お姉さん達のパーティに同行してくれないかな?」   作:なごりyuki

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新しい出会い

 

 

 

 千年ほども昔、この大陸各地には幾人もの“魔王”と呼ばれる者達が居た。

 

 この“魔王”とは魔族の王ではなく、強力無比な古代魔術を操り、悪逆非道を極めた人間の王達のことだ。そして、この魔王を打倒するために立ち上がった者達のことを、今では“勇者”などと呼んでいる。

 

 この“魔王”と“勇者”達の激しい戦いが、大陸の彼方此方で続いた時代――“勇者革命時代”こそが、大量の魔物を抱えたダンジョンを幾つも生むことになった。

 

 強大な古代魔法を極めた魔王達は、勇者達との戦いに備えるための手段を選ばなかった。

 

 自らが持つ強大な魔力を用いて、それぞれに異世界への扉を開いた魔王達も現れた。この世界だけでなく、異界の生物さえも奴隷として徴兵し、優秀な戦力として補充するためだ。

 

 現在まで使われている“メートル”、“グラム”など単位や、建築や農業、工業技術、それに生活様式や法律、税などに関わる制度なども、魔王達が『チキュウ』という異世界から取り入れたものだと言われている。

 

 異世界の技術や知識、思想をすら手にした魔王達は、順調に異世界生物たちを改造し、洗脳し、強化し、兵器として作り変えていった。

 

そして、この非人道的な魔法技術をさらに向上させるため、軍属の研究施設や基地を数多く拵え、整備を押し進めた。

 

 魔王達は豊富な戦力を確保することに成功したものの、その悪辣で残虐な行為が、勇者達の正義感と士気に火を点けることになる。

 

 多くの民と力を合わせた勇者達は、抵抗を続けて反撃に移り、最終的には各地の魔王達を討ち倒すことに成功。こうして革命戦争は一応の終わりを迎えた。

 

 だが戦いは終わっても、魔王達が建設した軍事施設、研究施設などが全て破壊されたわけではなかった。

 

打ち捨てられたそれらの跡地は長い時を経て、今では冒険者の活躍の場――つまりは、ダンジョンや遺跡になっている。

 

 難関と言われる“トロールダンプ”も、そういったダンジョンの1つである。

 

 ある魔王が扱った次元魔法と転移魔法などにより、トロール達は別世界からこの世界に招き入れられた。トロール達の住まう世界に繋がる魔法門を、魔王が開いたのだ。

 

 この魔法門を維持し、トロール達を兵士として徴兵し、洗脳するための地下軍事施設が整備されたが、これも戦争が終わると同時に放棄されることになった。

 

 当時の勇者達も、出来る限りはこういった軍属施設を破壊して回ったが、広大な大陸に散らばる軍産物の全てを処理するのは不可能だった。

 

 こうして勇魔戦争時代を生き残ったトロール達は、自分達を支配し、管理していた地下軍事基地を逆に乗っ取り、造り変えていった。

 

 また彼らは独自の建設技術や鍛冶技術を持っており、トロールダンプ内の広い地下通路にも石畳が敷かれて舗装され、岩肌が露出する壁面にも壁掛けの魔法灯ランプが備えられている。

 

 一説によるとトロール達は、人間が暮らす地表に攻め入るための前線基地として、このダンジョンの整備を進めているのだという。

 

 魔王戦争が終わって数百年近く経った今もなお、トロールダンプの最深部はトロール達が住まう別の世界と繋がっていて、このダンジョン自体が、係争地の狭間に立つ砦のようなものだという説もある。

 

「……怪我をされているのは、左腕だけですか?」

 

 そんなトロールダンプの地下9階層の薄暗がりのなか、アッシュは手にした杖の先に明かりを灯しながら、一人の女性冒険者に治癒魔法を施していた。

 

「うん、取りあえずは腕だけかな……。ありがとう」

 

 岩壁に凭れて座っている彼女は、大人びた美人顔に人懐っこい笑みを浮かべ、深く頭を下げてくれた。

 

 桃色がかった髪の毛をボリュームあるツインテールにしている彼女は、高身長でグラマラスな身体を黒いボディスーツで包んでいる。その上から防護用のジャケットコートを羽織っていて、動き易さを重視した装備だった。

 

 ダンジョン探索に手慣れている風でもあるが、年齢は20歳前後だろうか。少し前に16歳となったアッシュより年上なのは間違いなさそうである。

 

 アッシュが彼女と出会ったのは、ついさきほど。

 

負傷していた彼女が岩壁にもたれて呼吸を整えているところを、アッシュが偶然にも見つけて声をかけたのだ。

 

他の冒険者と関わることに積極的ではないアッシュだが、それでも治癒術士の端くれである。負傷した冒険者を見て見ぬふりはできなかった。

 

「魔法薬での応急処置をしっかりしてくれていますし、すぐに治せると思います」

 

 彼女の傍にしゃがみこんだアッシュは、彼女の左腕に右の掌を翳し、展開していた治癒魔法の術陣を維持しながら頷いてみせる。

 

「いや~……。キミが治癒術士で、ホントに助かったよ」

 

彼女は安心したような苦笑を零したが、すぐに顔を歯を食いしばった。

 

「ぃたたた……」

 

 トロールからの攻撃を受けたのだろう。彼女の左腕は、肘と手首の中間あたりでボッキリと折れている。ボディスーツが破れたところからは、筋肉が裂けて骨が見えている状態だ。

 

ただ、大きな負傷ではあるものの、その出血はもう止まっている。

 

 アッシュと出会う前に止血用の魔法薬を使ったからだと、彼女自身が教えてくれた。

 

「では、まずは痛みを和らげていきます」

 

 アッシュの編んだ治癒魔法円から漏れる翡翠色の微光は、周囲の岩壁や地面を優しく照らしながら、女性冒険者の左腕の損傷を癒し、再生させていく。

 

 アッシュからの治癒を受ける彼女は、肩から少し力を抜くようにして目を瞑り、「ほぅ……」と息を吐きだした。

 

 痛みが引いたからだろう。岩壁に凭れた彼女の呼吸に、かなり余裕が出てきたのが分かった。それから10秒ほどの沈黙を挟んでから、彼女はゆっくりと目を開いて口許を緩めてみせる。

 

 「……こうやって助けて貰ってるのに、まだ名乗ってなかったね。ごめん。私はローザ。ローザ=エタンセル。これでも一端の冒険者のつもりだけど、今日は不慮のトラブルに巻き込まれちゃって」

 

 肩を竦めるようにしてアッシュに向き直った彼女の首には、冒険者の認識プレートが下がっている。彼女のプレートは銀で、2等級を表す紋様が刻まれていた。

 

 つまり、ローザの冒険者のランクは『2等級・銀』。上級冒険者だ。確かな実績がなければ決して認められないランクである。

 

 彼女はダンジョン内で負傷しても落ち着いているし、よく見れば彼女の装備も並のものではないことに気付く。

 

 ローザは盾や鎧などの防具を身に着けてはいないが、彼女の着込んでいるボディスーツとジャケットには精緻な魔法紋様が薄い青色で描かれている。

 

トロールの攻撃は防ぎきれなかったようだが、それでも強力な耐魔法や耐刃、耐衝撃が付与してあると見て間違いない。

 

岩肌にもたれて座る彼女の左肩にも、大型の魔導銃が立てかけてある。何度か実物を見たことはあるが、ローザの持っているような形のものを見るのは初めてだった。

 

「なかなか珍しいでしょ? ショットガン、ていう種類の銃なんだよ。コレ」

 

 珍しそうなアッシュの視線に気付いたローザは、自分の肩越しに大型魔導銃を一瞥してから、再びアッシュに向き直った。

 

 「こんなトコに居るっていて言うことは、キミも冒険者なんだよね? 名前、教えてよ」

 

 口許に笑みを湛えたローザから真っ直ぐに尋ねられて、アッシュは一瞬だけ怯んだ。

 

アッシュは今までのソロ冒険活動のなかで、ダンジョン内での他の冒険者との接触を避けてきた。寧ろ、他の冒険者の目を出来るだけ避け、息を潜めるようにして探索や採取を行ってきた。

 

 それが自分には相応しいと思っていたからだ。

 

 だから、他の冒険者から好意を持って名を聞かれることなど、初めてのことだった。だが、ここで名乗り返すぐらいの礼儀はアッシュも持っている。

 

「……僕は、アッシュです。アッシュ=アファブルといいます」

 

「アッシュ君か。うん。よろしく。私のことは、ローザでいいから」

 

 そこまで言ってからローザは、なんとなく居心地が悪そうな上目遣いになってアッシュを見詰めてきた。

 

 「今更と言うか何と言うか、お互いに名乗ってから変なこと訊くんだけどさ……。アッシュ君て、私のこと知らない感じ……?」

 

 それは確かに奇妙な尋ね方だった。ただ、ローザの声音には「有名人である自分を知らないとは何事か」といったような、自意識過剰な傲慢さは全く無い。

 

 中にはそんなことを言ってくる冒険者もいるかもしれないが、少なくともローザの問いかけには、そういった意図はなさそうだった。

 

 どちらかと言えば肩身が狭そうというか、治癒魔法を施してくれたアッシュへの感謝と共に、思わぬ親切を受けて困惑しているふうでもある。

 

 「えぇと、はい……。すみません。世間知らずなもので……」

 

 アッシュは視線をさまよせつつ、少しだけ頭を下げた。

 

 “有名な冒険者の名前ぐらいは知っておいた方がいい”という、あのリーナの言葉を思い出した。確かにその通りだと実感する。

 

「いやっ、そんな謝って貰うことじゃないんだよ!」

 

 慌てたように手を振ったローザも、ちょっと気まずそうにポリポリと鼻の頭を掻いた。

 

「私って、ダンジョン内で他の冒険者と顔を合わせると、厄介そうに見られることが多くてね~。こんな風に純粋に助けて貰うことって、ほとんど無かったから。ちょっと不思議な感覚でさ」

 

 ローザは喋りながらも視線を周囲に巡らせている。ダンジョン内の通路は静かなもので、まだトロールが迫ってきているような気配は無い。通路の向こうには薄暗がりが広がっているだけだ。

 

 周りにトロールがいないことを確認していたのだろうローザが、そこで「……あれ?」と何かに気付いたように呟いた。

 

 「あのさ、質問ばっかりでゴメンね。これも今更なんだけど、アッシュ君のパーティは?」

 

 「あぁ、それは……」

 

 「もしかして私を治療しに来てくれたせいで、自分の仲間と逸れちゃったとか?」

 

 申し訳無そうな表情になったローザが、心配そうに言ってくれる。彼女への治癒魔法円を展開したままで、アッシュは首を振った。

 

 「いえ、違いますよ。僕は一人ですから」

 

 「ぅえっ」

 

 岩肌にもたれ掛かったままのローザが、目を丸くしてアッシュを凝視してくる。彼女は不可解なものを眺める顔つきだった。

 

「一人って……。もしかしてソロで潜って来たの? 此処まで?」

 

「えぇと、はい、一応」

 

 アッシュが控えめに答えると、僅かに身を引いたローザは困惑顔になる。

 

 「よく9階層まで潜ってこれたね、アッシュ君……」

 

 しみじみとした声を溢したローザは、「この子もしかして馬鹿なのかな?」という目をしていた。どう応じるかアッシュは迷い、微苦笑を返す。

 

 「僕は、その……逃げ足が速いんですよ。トロールの気配には近づかないよう、こそこそしながら降りてきたんです」

 

 「いや、いくら逃げ足が速いって言っても、トロールから逃げ続けて此処まで降りてくるなんて、絶対に無理でしょ……。私だって死ぬ気で逃げてきたのに……」

 

 眉根を寄せたローザが呆れたように言ったところで、アッシュは翳していた右掌の魔法円を解いて、ゆっくりと立ち上がった。

 

「これで傷の治療は終わりました。……腕に痛みは残っていませんか?」

 

 話をしているうちに、アッシュはローザの左腕の治癒を終わらせていた。

 

 「えっ、もう?」という表情になったローザが「ぅ、うん」と頷いてから、立ち上がったアッシュを横目に見上げた。

 

彼女は右手でショットガンを掴み、左腕を曲げたり伸ばしたりしながら立ち上がる。

 

 「凄い……。こんな短時間で完璧に治して貰ったの、初めてだよ」

 

 目を丸くしたローザは自分の左腕とアッシュとを見比べ、感嘆の声を漏らした。

 

 「そ、そうですか?」

 

 「そうですかって……。王都の高位神官たちだって、ここまで治すにはもっと時間が必要だって。それに、何か体も軽くなったような気もするし」

 

 力の籠った声で言うローザは、治った左腕からアッシュに視線を移し、じっと見つめてきた。薄暗いダンジョンの中でアッシュの正体を確かめようとするかのような、慎重な眼差しだった。

 

 「ねぇ、アッシュ君てさ、もしかして凄腕の医術魔導師だったりするの?」

 

 「ぃ、いえ、そんな大それた職位ではありませんよ。僕は5等級の治癒術士ですから」

 

 「えぇっ!? 5等級!?」

 

驚愕したローザが身体を仰け反らせた。

 

難関ダンジョンと言われるトロールダンプだが、実は3階層と4階層は比較的安全な階層である。

 

森海や山峡での魔物討伐で窮地に陥った場合と違い、冒険者パーティが壊滅的なダメージを受けたとしても、すぐに“セーブエリア”まで逃げ帰ることができるからだ。

 

そのため、1体でもいいのでトロールを狩って儲けたいと思う冒険者達が通う階層でもある。

 

だが、すぐにセーブエリアまで逃げ帰ってこれない5階層以下に潜っていくのは、ほとんどが上級冒険者パーティである。

 

「……いや、嘘だね。さすがに信じられないかな~」

 

ローザも訝しがるような半目になって、アッシュを更に凝視してきた。

 

「5等級の冒険者がソロで、トロールダンプの9階層まで降りてくるなんてさ。そんなの聞いたことないもん」

 

 半目のローザは腕を組み、緩く首を振ってみせる。ローザの口振りは5等級冒険者を見下したものでは決してないものの、アッシュの等級を疑っているのは間違いない様子だ。

 

 「ごめん。アッシュ君の認識プレート、ちょっと見せて貰ってもいい?」

 

 「え、えぇ。どうぞ」

 

 頷いたアッシュは、自分のローブの胸元に下がった認識プレートを外した。それから、ほとんど警戒するような目つきになっているローザに手渡す。

 

彼女の手に渡ったアッシュの認識プレートは銀色で、やはりそこには5等級を表す紋様が刻まれている。

 

 「うわぁ、ホントだ……」

 

 手渡された認識プレートとアッシュの顔を何度も見比べるローザは、まるでオバケと出会ったような顔になっている。

 

「もう1回言うけど、よく此処まで潜ってこれたね……」

 

 「逃げ足が速いことが僕の取り柄なので、ソロで潜る方が気楽と言うか……。引き返すタイミングや稼ぎの取り分で、揉めることもないですから」

 

 曖昧に答えながら、アッシュはローザから認識プレートを受け取り、周囲を見回す。

 

 ダンジョンの真ん中で長話をするのは褒められたものではないが、薄暗がりの通路は静かなままだった。フロア自体が広いせいかもしれないが、まだ周囲にトロールの気配は無い。

 

 今のうちに、というわけではないが、アッシュも気になっていたことを尋ねることにした。

 

 「あの……。ローザさんも、お一人で此処に潜られたんですか?」

 

 アッシュがローザを見つけたとき、彼女も1人きりだったのだ。

 

「いやいや、そんなワケ無いって」ローザは眉を下げて、小さく苦笑を漏らした。

 

「私は4人パーティで潜って来たの。まぁ、トロールダンプに潜るにしては、それでも少ない方かもしれないけど」

 

「では、そのお仲間の3人は……?」

 

 言いながら、アッシュがもう一度だけ周囲に視線を巡らせようとしたところで、ローザが一つ溜息を吐いた。

 

 「私がアッシュ君と会う、ほんのちょっと前のことなんだけどね~」

 

 ボリボリと頭を掻いたローザは、面倒そうに唇を尖らせる。

 

「ダンジョンの通路が崩落したって言うか、崩落させられたと言うか」

 

「えっ、崩落ですか……?」

 

「うん。そこで仲間の1人と逸れて、あとの2人が崩落に巻き込まれちゃってさ」

 

「えぇっ!?」

 

 ローザの悠長な態度と、語られた深刻な事態には随分とギャップがあった。驚いたアッシュは身体を強張らせてしまうが、「あぁ、大丈夫大丈夫」とローザが手を振った。

 

「通信用の魔導アイテムで確認したけど、3人とも、ほとんど無傷でピンピンしてるからさ。崩落に巻き込まれた2人の方は、ここより下層に落ちちゃったから、まぁ……、合流するまではちょっと時間が掛かりそうだけど」

 

 ローザの話によると、つい先ほどまでローザ達のパーティは、トロールの集団と戦闘中だったそうだ。

 

そこに別のトロールの集団が加わって来たのだが、その中にシャーマンが居たのが不味かった。

 

 トロールのシャーマンはあろうことか、地下ダンジョン内だというのに、威力の高い爆発系魔法を繰り出してきたしい。

 

 それが原因になった。

 

 魔法の衝撃に耐えきれなかったダンジョン通路の地面が、ローザの仲間の2人を巻き込んで下層へと崩れ落ちたのだ。その際に通路の岩壁まで大きく崩れてきて、もう1人の仲間とも分断されてしまったのだという。

 

 突如としてパーティから孤立してしまったローザは、咄嗟に逃走を選んだ。新たなトロール達まで湧いてきて、囲まれそうになったからだ。

 

 さきほどのローザの左腕の傷は、この時にトロール達から逃げようとしたときに、投擲されたトロールの斧棍棒を躱しきれずに受けてしまったものだった。

 

 傷を負いながらも何とかトロール達から逃げ果せたローザは、ダンジョンの通路に座り込み、魔法薬で傷の応急手当をしながら仲間の無事を確認した。

 

その少しあとにアッシュと出会い、今に至るということだった。

 

「そう言えば先ほど、ダンジョン内が少し揺れたような気がしましたが……。あれはシャーマンの魔法だったんですね」

 

「多分そうだと思う。結構派手にやってくれたからさ~」

 

 またガシガシと頭を掻いたローザは、「あぁ、そうそう」と何かを思い出したように、少しだけ真面目な声になった。

 

「腕を治して貰ったお礼はちゃんと払うから、そこは心配しないでね」

 

 ショットガンを肩に担ぐようにして立つローザは、茶目っ気たっぷりに片目を瞑ってみせる。可憐さと下品でないワイルドさが同居した彼女の姿には、颯爽とした格好良さがあった。

 

 「いえ、お礼なんていいですよ」

 

 「そういうワケにいかないよ。私がモヤモヤしちゃうんだって」

 

 冗談めかしたローザの口振りには、必要以上の焦りや危機感といったものが無かった。

 

 それでいて、アッシュと会話をしながらも常に周囲に視線を巡らせて、警戒を怠っていない。落ち着き払っていて、こういうトラブルにも慣れている様子だった。

 

「さて、と……。私はこれから、仲間との合流地点まで移動するつもりなんだけど」

 

 自身の装備や残りの弾薬を手早く確認したローザは、そこでアッシュに向き直った。

 

「もし良かったらさ、私と同行してくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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