「ねぇ、お姉さん達のパーティに同行してくれないかな?」   作:なごりyuki

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剣 <サニア視点>

 

 住んでいた大陸北部の町が魔物の群れに襲われ、私は家族を失った。

 逃げ延びた私と同じ孤児たちは、5、6人いた。

 

 他に生き残った町民達も、もしかしたらいたのかもしれないが、そのときの私には見つけることができなった。

 

 何かを、誰かを注意深く探すような余裕は、そのときの私には無かった。この世界に放り出された私の手の中にあったのは、護身用の短い剣だけ。

 

 父と母が持たせてくれたものだった。

 

 魔物から私を逃がすため、身を挺してくれた両親。その後姿が私に生きることを促した。両親の姿を思い浮かべながら、他の孤児たちを守らねばならないと思った。

 

 今にして思えば、あの奇妙な使命感は、私が私自身を支える為につくりだした脅迫的な観念だったのかもしれない。

 

 孤児となった私達は生きるために身を寄せ合って、最寄りの村を目指して歩くしかなかった。森と荒れた平野を、数日かけて歩いた。

 

 だが、無防備な私達を、この世界は見逃さなかった。

 

 野盗に襲われたのだ。

 女の孤児を狙った、3人組の男達。

 

 このときだった。

 

 私が、私よりも幼い者達を護るために、初めて人を斬ったのは。

 命を奪う感触。他人の血液の温度。ぬめり。匂い。暴れる鼓動。

 

 今でも夢に見る。

 そして目覚めるたびに思う。

 

 私は、自分が生きるために生き残ったではない。

 誰かを守るために生き残ったのだと。

 

 私の命には使い途があり、私には役割があるのだと。

 

 剣を忘れた日は無い。誰よりも多くの魔物を討つべく、愚直に剣の腕を磨いてきた。愚鈍なほどに、自らの剣技を高めることを考えてきた。

 

 己を練磨し、自らの“役割”を果たすことこそが、私の命題だった。

 

“剣聖”。

 

 いつしか私は、そのような通り名で呼ばれるようになっていた。

 

 そんな称号めいたものなど、私には要らなかった。周りからの評価も、名誉も、栄誉も重要ではなかった。

 

 冒険者としての私が、この世に求められる力を発揮できればよかった。魔物を討ち、脅威に曝されている者達を護るという力を。

 

 私という人間が在るべき場所と、在るべき目的。

 私の存在意義であり、この世界における私の立ち位置。

 

 それが、冒険者という枠組みの中だった。

 

 クラン『正義の刃』に所属してからも、私は変わらなかった。寧ろ、己の在るべき場所、在るべき理由が明確になった。

 

 部隊の仲間達よりも、私は常に前に出て戦った。

 

 私の剣技がそうさせた。私と共に並んで戦える者が、クランにも殆どいなかった。他の部隊長たちでさえ、私と共闘することは苦労していた。

 

 確かに、私は強くなったのかもしれない。だが私の剣は、魔物を討つことに傾倒し過ぎて、他者との協力することには不向きだった。

 

 クラン内部でも、私は孤独ではなかった。声を掛けてくれる者もいるし、親しみと敬意を向けてくれる部下もいる。

 

 だが私は、戦場では常に独りだった。

 

 6番隊の隊長を任されていながら、私は他の隊員と連携して魔物との戦闘にあたることは殆どない。

 

 私は常に一人で前に出る。突出する。それでいいと思っている。私は、誰かにカバーされる必要性を感じていない。私の命に、庇われるほどの価値は無い。

 

 最も危険な場所には、私が剣を携えていくだけでいい。

 

 私の後方に控えている優秀な部下たちが、守らねばならない人々を適正に避難させ、治療を施し、庇い、安心を与えてくれる。私は、部下達を信じている。

 

 私はただ、魔物を相手に独りで剣を振るっていればいい。

 部下達の思慮深い力が遺憾なく発揮されるよう、剣を振るえばいい。

 もしも私が魔物に敗れても、死ぬのは私だけだ。

 

 今も私は、独りで剣を振るっている。

 

 エルンの町。北防壁。

 そこに迫る人造アンデッドの群れ。

 

 

「AAA亞亞亞亞亞ァァァ――……」

「OOO乎乎乎乎乎ォォォ――……」

「UUU宇宇宇宇宇ゥゥゥ――……」

 

 

 人間の死体と魔物の死骸を縫合して造り出されたのだろう。奴らの姿は不調和で、歪で、ちぐはぐだ。

 

 オーク種の魔物の腕を移植されたのだろう狼男のゾンビが、その異様に肥大化した腕を振り回して迫ってくる。

 

 両肩口から巨大な蜥蜴の頭が生えている大熊のゾンビが、咆哮をあげながら地面を這うように進んでくる。

 

 身体中からゴブリンの上半身が突き出しているオークのゾンビが、雄叫びをあげて突撃してくる。

 

 他にも、奇怪な姿をしたゾンビ達がまだまだいる。

 

 おぞましい姿形をしているゾンビの群れと、茜色の混じり始めた空のコントラストは気が滅入るほどに不吉だった。

 

 だが、私は恐れることも怯むこともない。

 

 私は独りで、並み居るゾンビ達の群れを迎える。死肉と害意で編まれた濁流のなかに踏み入る。ゾンビ達は私を圧し潰すべく殺到してくる。

 

 それでいい。私は剣を振るった。

 

 ゴブリンの上半身を体中から生やしたゾンビを真横に両断しつつ剣を引き、近くにいたオーク腕のゾンビ2体を袈裟斬り、逆袈裟斬りにしながら身体を翻す。

 

 同時に、獣人のような大型ゾンビの頭から股までを縦に斬り分けて蹴倒した。その勢いで横合いに踏み込み、リザードマンに似たゾンビを十字に斬って捨てる。

 

 足元に積み重なるゾンビ共の肉片を踏みしめながら、更に斬った。

 

 達人の流麗な剣捌きは舞踏のようだと喩えられることも多いらしいが、私の剣は違う。

 

 私はただ、斬る。

 斬る。斬る。斬る。斬る。

 斬って、斬って、斬って、斬る。

 ただただ、斬る。酷然と斬る。

 容赦と呵責なく、斬り続ける。

 間合いに入ったゾンビを斬る。

 十字に。袈裟に。逆袈裟に。或いは微塵に。

 

 それだけ斬っても、私の手の中にある剣は鈍らない。

 剣身に刻まれたルーンには、暗銀の輝きが宿っている。

 私の魔力の色であり、私の命の色であり、私の使命の色だ。

 私の魔力を通された剣は、切れ味を増幅させていく。

 

 私の斬撃は、私そのものだ。

 私と一体化し、私の存在によって発生する、銀の一閃。

 

 私は独り、ゾンビの群れに私という斬撃を刻み、断ち割っていく。

 

 「す、すげぇ!」

「あれだけの数を、たった一人で……!」

「俺達のために、ゾンビを引き付けてくれてるのか!?」

「流石は“剣聖”だ……!」

「いけるぞ!」

「あぁ! 俺達には“剣聖”がついてる!」

「“剣聖”に続け! ゾンビ共を駆逐するぞ!」

 

 お互いを鼓舞しあう声は、私の後方からだ。

 

 私がこの戦場にきたとき、彼らはゾンビ達を正面から必死に食い止めつつも、追い込まれていた。だが今では士気を取り戻しつつある。

 

 それが私の活躍によってだとは思わない。寧ろ――。

 

「盾を構えろ! 他の冒険者を援護する!」

「負傷者は下がらせて、結界と治癒の準備を!」

「残りの者はサニア隊長に続け!」

「ゾンビ共を掃討するぞ!」

「一匹も町に近づけるな!」

「応!」「応!」「応!」「応!」

 

 私の後方を力強く支えてくれる『正義の刃』の隊員たちこそが、この戦場の風向きを真に変えてくれている。

 

 彼らは、同じ戦場にいる他の冒険者たちを即座に支え、柔軟で迅速な協力体勢を構築してくれる彼らこそが、クラン『正義の刃』の体現者だ。

 

 だが、冒険者たちの戦線が持ち直した要因は、私達のクランだけではないだろう。ゾンビの群れを相手取り、正面から粉砕しているパーティがいた。

 

「っていうか……っ! こんな数のゾンビ、どこに潜んでたのよ……っ!」

 

 群がってこようとするゾンビの濁流を、ローザが魔導ショットガンで破壊している。

 

「そりゃあ、後ろで手薬煉を引いてるヤツがいるんだろうぜ」

 

 大戦斧を豪速で振り回るカルビが、6本足の虫にも似たゾンビ3体を豪快に割断して焼き尽くす。

 

「……なら、この村をゾンビが襲う理由は?」

 

 横合いから襲い掛かってきた四足獣に似たゾンビ3体を、ネージュが大槍での突きで即座に貫き、凍りつかせて吹き飛ばした。

 

「どんな悪だくみが裏にあろうともォォォ……!!」

 

 吼えるエミリアは大盾をグォォォン!!とぶん回し、背後から躍りかかってきていた下半身が大蛇のゾンビ2体を殴り飛ばして粉砕した。

 

「ヌォオーーッホッホッホッホッホォォンンヌゥゥアッ!! こぉぉぉんな貧弱なアンデッド風情などォォ、こぉぉの私の敵ではありませんことよぉぉぉォォァァ!!」

 

 彼女達の戦いぶりが、この戦場に新しい流れを与えつつあるのも間違いない。

 

「すげぇぞ……! あそこのパーティ!」

「あの大盾を振り回してるデカ女、やべぇ!」

「戦斧と槍の方もとんでもねぇぞ!」

「魔導銃を使ってるヤツもいるじゃねぇか!」

「何だよあのパーティ……!?」

「乳でっけぇ!」

「どこ見てんのよ馬鹿っ!」

「そうよっ! しっかり前衛しなさいよ!」

「俺達も負けてられねぇ!」

 

 エルンの町はアードベルから離れた辺境付近であるため、ローザ達のことを知っている冒険者達は殆ど居ないようだった。

 

“トラブルメーカー”として恐れられているローザ達だが、今は他の冒険者達との共闘にも馴染んでいる。

 

 だが、あのアッシュという少年の姿が見えない。逃げ出したのではないだろうが、前線に出るのではなく、治癒術士として負傷者の治癒に回っているのか。

 

 押し寄せて来るゾンビ共を斬り続ける私の脳裏に、あの少年の言葉が意識の隅を過った。

  

 “微力ではありますが、僕にできることなら助力は惜しみません。”

 

 あの言葉を口にしたときの彼の眼差しが、どこか私に似ていると思った。寂しげに澄んだ彼の瞳に、自らを何らかの“役割”に埋めていこうとする意志を感じたのだ。

 

 だが、町長に向けられていた彼の穏やかな表情には、私のように使命感によって自らの在り方を定めている雰囲気がなかった。

 

 あのアッシュという少年の利他的な姿勢や態度には、どこか、自分自身を否定するような暗いニュアンスが漂っていた。

 

 自らの意志を“役割”で覆う尽くすことで、無私の貢献と善意を証明しようとするように。それは他方から見れば、“自己の消滅”という意味合いを帯びるだろう。

 

 そういった種類の破滅的な献身と覚悟を、あのアッシュという少年は既に自分の中に育み、よく馴致させているふうだった。

 

 私はあのとき、彼の態度に反発を覚えた。

 

『5等級』である彼を弱者だと侮るつもりは決してない。だが、自己犠牲の決意とは、相応の実力が伴ってこそ意味を持つのではないかと。

 

 両親を見捨てて逃げるしかなかった私のように、そもそも力が無いのならば、助力の実践など不可能ではないか。

 

 「……我ながら、下らない反発ですね」

 

 私は口の中で呟きながら、躍りかかってくるゾンビ8体を一撃で両断した。その肉片が湿った音を立てて地面に落ちる。積み上がる死肉。有毒な血液が足元に波を作っている。

 

 かなりの数を斬った。私は視線を巡らせる。状況は悪くない。

 

 戦力的には、もともと防壁の守備についていた冒険者に加えて、さらに非番とされていた冒険者たちも駆けつけている。

 

 ローザ達と『正義の刃』のクランメンバー達の活躍もあって、戦況は冒険者優位に傾こうとしているのも明らかだった。ゾンビの数は未だに多いが、掃討は時間の問題だ。

 

 そう楽観して、油断していたわけではない。

 だが、気付くのが遅れた。先手を取られた。

 

 ゾンビの群れを断ち割って突出していた私に、凄まじい速度で詰め寄ってくる影があった。

 

「シシシシシ……ッ!!」

 

 歯の隙間から息を吐き出すような笑い声。

 同時に打ち込まれてくる、凄まじい斬撃の密度。

 

「……っ」

 

 私は下がりつつ剣で応じた。

 斬撃と斬撃がぶつかり合って、空間に無数の火花が散る。

 その明滅の向こうに、私は黒い影の姿を見据えた。

 

 完全な人型のゾンビだった。引き締まった身体を、黒い細身のボディアーマーに包んでいる。

 

 顔全体は仮面にも似た防具で覆われているが、目の部分には穴などはない。その代わりに獰猛な牙を生やした口の造形がある。

 

 大陸東部の海を渡った島国には、“鬼”という強大な魔物がいるという。私も文献でしかその姿を見たことがないが、あのゾンビの姿は小柄な黒い鬼といった風情だ。

 

 黒鬼ゾンビが手にし、私に打ち込んでくる武器……野太刀というのか。長過ぎる刀剣だ。反りが浅いので、もしかしたら打刀というのかもしれない。

 

 だが、私の印象に最も残るのは、あの髪だった。

 少しくすんだような灰色の髪。

 瞬間的に脳裏を過る。苦笑を浮かべるアッシュの表情。

 彼の灰色の髪――。

 

 ……いや、今はどうでもいい。

 私は余計な思考を振り払う。

 

 黒鬼ゾンビは自分の体よりも長い刀剣を縦横無尽に駆使して、私に斬撃の雨を浴びせかけてくる。

 

 極まった技によってしか成し得ない、重心の移動や呼吸、手首の返し方、踏み込みから、凄まじい速度で、容赦なく、精密に、必殺の斬撃が放たれてくる。

 

 強い。私は純粋にそう思った。

 一対一の剣闘で私は守勢に回っている。

 

「剣聖が押されてるぞ!」

「なんだ、あの黒いヤツ……!」

「援護できるヤツは居ないのか!?」

「駄目だ! 実力が違い過ぎてカバーができねぇ!」

「ぐぁああッ!」

「痛ェェ……ッ!!」

「狼狽えるな……っ!」

「周りのゾンビ共を先に潰せ!」

「負傷した奴を下がらせろ!」

 

 他の冒険者達の怯むような声も届いてくる。私は防戦に追い込まれている。死。死がそこまで迫っている気配を肌に感じた。だが、恐怖はない。敗北するつもりもない。

 

 黒鬼ゾンビの斬撃を弾くのではなく押し返し、私は前に出ようとした。同時だった。

 

「どけどけェ!!」

「邪魔よ……!」

「“淑女道奥義”ィィ!! エキゾチィィィック・プロテインボンバァァーー・ストォォォォォムッ!!」

 

 ゾンビ共の群れを薙ぎ倒し、カルビとネージュ、それにエミリアが、黒鬼ゾンビの横合いから突進してきた。彼女達の背後につく位置で、ローザが何らかの魔導具を取り出している。

 

 あれは恐らくは、ゾンビなどのアンデッドに対して有効な効果を発揮するものなのだろう。

 

 それを察したのかどうかは分からないが、少なくとも警戒はしたようだ。黒鬼ゾンビは、ぐるんっ! とローザ達の方を見てから、私との打ち合いを放棄して跳び下がる。

 

「キキキ……シシシ……」

 

 私の剣の間合いの外に出た黒鬼ゾンビは、長刀の切っ先を下げつつ、また数歩だけ下がった。

 

 間合いを測っているのか。頭を上下させずに足裏を滑らせるような歩法は、意志を持たないゾンビというよりは、戦いを知り尽くした剣豪さながらの玄人臭さだった。

 

 だが、あの黒鬼ゾンビも、横合いから迫ってきたローザ達のことを警戒すべき相手だと認めているようだった。

 

 間合いを離し、私とローザ達の双方を視界に入れる位置で、長刀の切っ先を下ろす構えを取っている。迂闊に攻めてこない。ただただ人を襲うだけのゾンビとは、明らかに違う。

 

 「おい大丈夫か? 剣聖サマよぉ」

 「ここは共闘しましょう」

 「私達が力を合わせれば、10億人力ですわッ!」

 「いや、それは流石に言い過ぎだよ……」

 

 私の傍に駆け寄ってきたカルビ、ネージュ、エミリアも、各々の武器を構え直しつつ、黒鬼ゾンビを見据える。最後にツッコみを入れたローザも、魔導拳銃を右手に握っていた。

 

 彼女達は、私をフォローするために駆けつけてくれたのだ。

 

 「助かりました。礼を言います」

 

 私は彼女達と並び、剣を握り直す。黒鬼ゾンビは、まだ動かない。

 冒険者とゾンビ達が周りで戦う喧騒のなか、私達は睨み合う。

 

 1秒。2秒。3秒……。

 

「作戦って言うほどのものじゃないんですけど」

 

 ローザが、私達だけに聞こえる程度の小声で言う。

 

「……あの黒いゾンビが接近戦を仕掛けてきたタイミングで、これを使います」

 

 黒鬼ゾンビの存在感に気圧されているふうのローザが、左手の中に握っていた魔導具を見せてくれる。

 

「『マジックキャンセラー』ですか。……なるほど。効果は期待できますね」

 

 クラン内でも魔導具を扱う部署があり、そこで見たことがあった。

 

 ゾンビは自立した生物ではない。実体は魔力を供給されて動く傀儡だ。つまりは、魔術的な遠隔操作の類になる。

 

 故に、ゾンビは自存できない。

 

 死体が動き出すのは、女神の奇跡が起こした蘇生や復活とも違う。あのゾンビ共を衝き動かしているのは魔術的な活性であり、編み上げられた魔法による現象なのだ。

 

 ローザの持つ『マジックキャンセラー』シリーズなら、魔力効果を強制的に打ち消すことで、効果範囲にいるゾンビを行動不能にできる可能性は高い。

 

 だが、こうしたディスペル系統の効果を持つ魔導具は強力ゆえに、並みの冒険者では扱いきれない代物だということも、私は知っている。

 

「魔力消耗も甚大だと聞きます。……貴女は耐えられますか?」

 

 「いや、流石に連続使用は無理です。でも、ああいう強力なゾンビを狙い撃ちにするなら、出し惜しみはしませんよ」

 

 微かな笑みに冷静さと覚悟を漂わせたローザが、静かに言い切る。彼女がパーティメンバーから一目置かれる理由が、なんとなく私も理解できた。

 

 カルビ、ネージュ、エミリアの3人も、私と目を見交わした。彼女達もローザの案を信頼しているふうだった。

 

 「キキキキ……」

 

 黒鬼ゾンビが下がるのを止め、野太刀の峰を右肩に乗せるように持ち、身体を此方に倒して前傾姿勢になる。私達めがけて飛び込んでくるつもりか。

 

 だが、そうはならなかった。

 

 黒鬼ゾンビがまた、ぐるんっ!と首を回した。

 

 誰かがこっちに向かってくるのが、私にも見えた。

 

 あれは――。

 

「チョリ――――スッ!!」

 

 間延びしつつも切迫した、軽いノリでありながらも真剣な声が飛んでくる。

 

「サニアーー! 大丈夫ぅーー!?ちゃんと生きてるーー!?」

 

 黒鬼ゾンビが向き直った先には、暗黄を基調にした魔術士装束に、騎士風の防具を合わせた女性がいた。

 

『正義の刃』アードベル支部。6番隊副隊長、ルフル=ラブラフ。彼女はかつて、私と共に生き延びた孤児の1人である。

 

 さきほどの通信で聞いた通り、彼女は数人の神官を連れていた。

 

 エルンの町の神官は、修行の一環として冒険者に同行することのない、教義主義的な職業神官だ。彼らは本来なら戦場に出向くことなどない。

 

 だが、この非常時に戦ってくれている冒険者たちに、治癒魔法を提供すべく駆けつけてくれたのだ。

 

 その神官達に混ざり、杖を手にしたアッシュの姿も見えた。そのアッシュのことを、黒鬼ゾンビが凝視していることに私は気付く。

 

 次の瞬間だった。

 

「キシシ……ッ! 忌死死死死死――……ッ!!」

 

 黒鬼ゾンビが身体全身を震わせるように笑いながら、長刀の切っ先をアッシュに向けて駆けだした。その笑い声には、入り組んだ感情が形を成さないまま暴発したような、暗い情熱が籠っている。

 

「忌忌忌忌ッ! 死死死死死――……ッ!!」

 

 黒鬼ゾンビは、アッシュと同じ灰色の髪を振り乱しながら、どこまでも不吉に笑い、叫んで、アッシュに迫っていく。

 

 まるで、久しぶりに出会った友人を迎えに行くかのように。

 

 

 

 






 
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