「ねぇ、お姉さん達のパーティに同行してくれないかな?」 作:なごりyuki
俺は後悔していた。
もっと早く、このダルムボーグでの捜索を打ち切るべきだった。
ネクロマンサーの賞金額を目当てに、ダルムボーグを訪れる冒険者の数も増えてきた。そろそろ潮時だろうって話を、数日前にリーナ達としたところだった。
クランを組んでいた他のパーティ連中にも、ダルムボーグの捜索は打ち切ろうと提案した。だがそこで、話の流れがちょっとだけ変わった。
“有名クランも幾つかダルムボーグに出張ってきてるし、やっぱりネクロマンサーが潜んでるんじゃねぇのか。なら、最後まで粘ってみようぜ”
“流れにノッている今の俺達なら、マジでネクロマンサーを見つけて、ぶっちめることができるはずだ。これが最後チャンスだろ”
そんなふうに思ってたヤツが、クランの中でも半数近くを占めていたからだ。
だが、気持ちも分かる。
クランを組んで戦力を底上げした俺達は、十分に装備は整えていたし、メンバー同士の連携も悪くなかった。実際、かなりの数の魔物も狩った。
実際のところ、まだまだ俺達には余裕があった。実力もついてきている感覚もあった。このまま勢いにのってネクロマンサーを捕らえて、上級冒険者になってやる。
そんな野心を、この冒険活動の最中には俺も燃やしていた。
賞金首のネクロマンサーには、不気味な噂も幾つかある。
100年以上、手配書の姿のままで生きているとか。表には姿を見せていないだけで、数々の凶悪犯罪、大量失踪事件の裏側で暗躍しているだとか。
だが、このネクロマンサーは元4等級の雑魚冒険者だったっていうし、噂が独り歩きしているだけで、実はたいしたことないんじゃねぇかとも思っていた。
他のネクロマンサーを何人も殺しているそうだが、3億の賞金を思うと、それがどうしたという感じでもあった。
――だが、大間違いだった。
ネクロマンサーを捜索している途中、クランを組んだパーティの1人から、ある人造アンデッドの話は聞いたことがあった。
ネクロゴーレム。
ネクロマンサーが死体を寄せ集めて作る怪物で、製作者が籠めた魔力量によって強さが決まり、ある程度の命令を遂行させるだけでの知能を付与できるとか。
力のあるネクロマンサーは、それぞれに自家製のネクロゴーレムをアイテムボックスに収納して、持ち歩いているのだそうだ。
アイテムボックス類の魔導具には、いくつかの制限と原則がある。
生死に関わらず、人間や動物を収納できるアイテムボックスの類は、製造自体が厳しく禁止されている。
その使用がバレれば重罪だが、そもそもネクロマンサーたちにとって、そんなことは関係ない。
ヤツらは独自に改造を施した違法アイテムボックスを大量に所有し、そこに無数の死体を収納して持ち運んでいるらしい。
時と状況に応じて、その死体を自らの武器や防具として扱い、或いは、商品として売りさばくのだ。
その手の話は、もちろん俺だって聞きかじっていた。
ネクロマンサーが違法な魔導具を使うことぐらい、予想もしていた。ネクロゴーレムについても、俺は特に危険視はしなかった。
そんなモン雑魚だろ、雑魚。どれだけ死体が集まったところで、ノロくて脆くて相手にならねぇよ。デカブツの魔物でも、俺達は苦戦することなく戦って、何匹も狩ったじゃねぇか。
俺がそう言って笑い飛ばしたのは、つい二日前。そして、実物のネクロゴーレムどもの襲撃は、いきなりだった。
ダルムボーグの商館前の広場で、俺達がちょっと休憩していたときだ。
廃墟の建物が崩れる轟音が、彼方此方から聞こえてきた。
遠近からも、他の冒険者の悲鳴。戦闘の気配。
何かが起こった。俺達のクランに動揺が走ったのと同時に、俺達が休んでいた広場の足元から、ネクロゴーレム共が姿を現したのだ。
怨怨怨怨怨怨怨怨……――。
亜亜亜亜亜亜亜亜……――。
畏畏畏畏畏畏畏畏……――。
いや、姿を現すと言よりも、ボコボコボコボコ……!と地面から這い出してきた。罅割れて荒れまくった石畳を乱暴に押し退けて、湧いて出てきたという感じだった。
多分だが、ネクロゴーレムを収納したアイテムボックス系統の違法魔導具が、この広場に仕掛けられていたのだろう。それも複数。
明らかな罠だった。
俺達は取り囲まれていた。
心の準備も隊列もクソもない、いきなりの戦闘開始だ。おかげで俺達の味方は、どいつもこいつも後手後手になった。
碌な戦闘準備ができていなかった。俺もバフ系統の魔法をしようにも間に合わなかったし、オリビアにしても、神官が扱う結界魔法を展開する暇がなかった。
ネクロゴーレム……。
死体で編まれたゴーレムども。
見た目は相当ヤバい。おぞまし過ぎる。
それにデカい。体格はトロールを越えてる。
俺は土系統の魔法を得意としているし、地面の土くれや瓦礫なんかからゴーレムを作り出して操ることだってできる。
だから何となく分かるが、あのネクロゴーレムの規模は尋常じゃない。
正直な感覚で言えば、今の俺は死ぬほどビビってる。
信じられなかった。
あれだけのデカさ戦力を持たせたゴーレムを、広大なダルムボーグ全体を戦場にできるほど数で展開するなんて、尋常じゃない。化け物だ。
戦慄で痺れる俺の頭のなかで、ネクロマンサーの首にかかった賞金の3億という数字が、絶望的な説得力を帯びてきていた。
だが、現状に打ちのめされている場合じゃない。
俺達は今、まさに敵の真っただ中なんだ。
やるべきことなんざ一つしかない。
前衛のリーナとロイドが、ネクロゴーレムを相手取っている。
その間に、俺も詠唱を速攻で終わらせる。防御のための土魔法だ。
地面の石畳と土くれを触媒にして、3体のゴーレムを作り出す。
デカさはロイドと同じくらいだ。もっとデカくしたいが、やり過ぎると魔力切れで俺が死ぬ。
とにかくこの3体で、俺は神官のオリビアを守らないといけない。
前に出ているリーナの剣技は冴えているし、大振りの両手剣を装備したロイドも善戦している。ネクロゴーレムを正面から相手取って、なんとか押している。
流石だ。3等級冒険者の中でも、あの2人の実力はかなり高い。
とはいえ、あのネクロゴーレムは厄介だ。
奴らは死体の寄せ集めだが、その死体が防具やら武器やらをゴチャゴチャと付けているから、ただの腐肉の塊じゃない。金属交じりだ。おかげで硬そうだし、攻撃も重そうだ。
それにあの見た目も最悪だ。
正面からやり合うには、精神的な負荷もかなりキツイ。
実際、リーナの表情は強張っていて大量に汗を掻いているし、ロイドも既に息を荒くしている。余裕はない。俺も心臓が痛い。
ただ、俺達以外のパーティの状況はと言えば、もっとヤバそうだ。
いや、ヤバいというか、もう半壊状態になっている。
俺達よりも右に陣取っていた6人組のパーティが、払い除けられるようにして吹っ飛ばされ、蹴散らされたのが見えた。邪魔なゴミでも退かすように、ネクロゴーレムがグォングォンと腕をぶん回したのだ。
あれぐらいでは誰も死んでいないだろうが、吹っ飛ばされて地面を転がった冒険者達は、そのまま立ち上がるなり逃げだした。
これは勝てないと分かったからだ。
気持ちは分かる。
でもよ、我先にと逃げるんじゃねぇよ。
クランを組んだ仲間だろうが。
逃げて行こうとする冒険者の数人と、一瞬だけ目が合った。だがすぐに逸らした。奴らは俺達を見捨てて、囮にでもする気か。ふざけやがって。
そんなふうに、他所のパーティを責めている場合でもなかった。
来る。あの6人を一遍に払い飛ばしたネクロゴーレムが、ドゴンドゴンと地面を蹴り砕きながら「怨怨怨怨ォォォ……!」なんて不気味に呻き、こっちに突っ込んでくる。
その狙いが、神官服を着たオリビアなのは明らかだった。治癒術士や神官を優先的に狙うよう命令されているのだろう。
特に神官は、アンデッド系に強烈な効き目を持つ聖術なんかを習得していることも多い。ネクロマンサーが厄介がるのも理解できる。
オリビアは自分が狙われていることに気付いて一瞬だけ怯んだが、すぐにネクロゴーレムを睨み返して詠唱に入った。
すげぇ胆力だ。流石に厳しい修行を積んでいるだけはある。頼りになるぜ。
だが、オリビア一人では対処は難しい。
前衛のリーナとロイドは、まだネクロゴーレムと交戦中だ。
苦戦中と言ってもいい。2人に助けは求められない。
なら、俺だ。俺が動くんだ。
まずは俺のゴーレムを壁に使った。3体の土のゴーレム。そいつらをネクロゴーレムに突貫させて、同時に俺は風魔法を詠唱する。
俺が編んだ土のゴーレム達は、すぐにゴミクズみたいに跳ね飛ばされて粉々になった。だが、それでいい。この時にはもう、俺はオリビアを庇う位置に出ていた。
「オリビア! 下がれ……ッ!」
そこら中にネクロゴーレムが居る状態で、いったいどこに下がるんだよという話だが、とにかくオリビアは詠唱を続けながら頷いてくれた。
オリビアの位置と入れ替わる形になった俺は、杖を突き出す。
土魔法のゴーレムを操って身を守りながら、強力な風魔法を詠唱する。これが俺の必殺のスタイルだった。魔力の消耗も早いが、それなり有効で強力な戦法だ。
この時も上手くいった。
俺が発動させた風魔法は、使用回数も3回が限界の大技だ。威力には自信がある。暴風の塊を発生させてネクロゴーレムを包み、風の刃がヤツをバラバラに切り裂いた。
ここまでは良かった。
問題は、バラバラになったネクロゴーレムの中、というか、崩れていく無数の死体の隙間から、細い何かが、ビシュルルルルーー!!っと伸びてきたのだ。
人間の腕と虫の脚を足して割ったような、節くれだった細い管だった。先端が尖った触手と言っていいかもしれない。
その触手は、とにかく凄い勢いだった。
めちゃくちゃ疾い。避けられない。
オリビアに警戒を促す間もなかった。
伸びてきた触手は、全部で7本。
俺は右肩にその1本を食らう。
衝撃。肉と骨が穿たれる感覚。
「ぐぁ……!」
吹っ飛ばされて、地面に転がった。
土埃の匂いがした。右腕が動かない。
だが、痛みはない。かなり痺れている。
これ、俺の右肩どうなったんだ?
でも待て、そうじゃない。
俺の肩よりも、もっと先に気にすることがある。
俺は無事だった左手をついて体を起こす。
オリビアの方を見た。
息が詰まって血の気が引いた。
6本の触手が、オリビアの身体を貫いている。
首の下あたり1本。胸に3本。
左肩と右脚に、それぞれ1本ずつ。
オリビアの頭は無事だが、それでも致命傷だ。
「……か、は……っ」
驚いたような表情のオリビアは、触手に貫かれている自分の身体をゆっくりと見下ろしてから、一瞬だけ顔を歪めて、「げ、ほっ……!」血の塊を吐き出した。
夥しい出血で、オリビアの白い神官服が血の色で染まっていく。みるみるうちに真っ赤になる。足元にも血溜まりが出来ていく。
俺は動けなかった。頭の奥が痺れていた。
ただ、しくじったということだけは分かった。
「オリビア……ッ!」
そう叫んだのはリーナだった。
声も出せないままで硬直していた俺の代わりに、すぐにリーナが駆けてきてくれた。「くそっ……!」短く呻いたロイドが、ネクロゴーレムを1人で引き受けている。
リーナは手にした剣で、オリビアを刺し貫いていた触手を横からぶった切った。
触手はビチビチビチっと気色悪く跳ねながら、オリビアの身体から這い出すように抜けていく。
その触手を踏み潰しながら、リーナは崩れ落ちるオリビアの身体を横抱きに受け止めた。
「此処から離れよう!」
焦った顔のリーナが叫んだ。それが誰に向かっての叫びなのか判然としなかったが、多分この場に居る全員に向けてだ。
今回の冒険をしているあいだ、オリビアは俺達のクランの回復の要だったし、解毒も止血も任せていた。
攻撃的な魔法はほとんど扱えないオリビアだが、他者を強化する魔法が得意だったし、魔物を弱体化させる魔法や結界に関しても達者だった。
実力のある神官であるオリビアは人当たりもいいし、とにかく彼女が居ることで、クラン全体に安心感のようなものが生まれていた。もちろん、他のパーティにも神官はいたが、その神官たちも、オリビアを頼りにしているふうでもあった。
そんなオリビアがやられたという絶望と失意は、広場で残ってなんとか応戦していた他のクランメンバー達にも、瞬時に広がった。
怯えと怯み、諦めと恐怖が吹きだした。
今までネクロゴーレムと交戦していた者の多くが、わっと逃げ出しはじめる。
俺は視線だけを動かして広場を見た。
死んでるヤツは? まだ居ない。倒れてるヤツもだ。良かった。いや、良いのか。分からねぇ。どうでもいい。
ただ、どいつもこいつも、撤退しようとしている。俺達を置き去りにして、逃げ散ろうとしている。ネクロゴーレム共は、そんな冒険者を追撃しようとしている。
――これ、逃げ切れるのか?
そう思いながら、オリビアが死にかけていることを忘れようとしている自分に気付く。駄目だ。現実逃避はやめろ。魔法薬で治療だ。なんでもいい。とにかく、治療をはじめないと。
だが、今は無理だ。こんなネクロゴーレムだらけの場所じゃ、何もできない。
オリビアを治療するにも、先に逃げねぇと。そう思った。
リーナは俺を見ていた。顔を強張らせたリーナは、自分の腕の中のオリビアを見ようとしない。俺は頷きながらリーナから目を逸らす。ロイドを探す。
「うぉおおおおおっ……!!」
さっきまでリーナとロイドが交戦していたネクロゴーレムは、今はロイドが1人で引き受けてくれている。
ぜぇぜぇと息を荒くしたロイドが、両手剣をぶん回しながら吼えている。両手剣で動きを牽制し、ヤツの攻撃を危ないところで躱し、なんとか引き付けてくれている。
だが、ロイドだってそろそろ限界だ。もう長くは続かない。いくらロイドが力自慢とは言え、あのネクロゴーレムを1人で相手にし続けるのは無理だ。
ロイドだって、弱くは無いのだ。
獣系のデカい魔物を相手にして、軽くぶった切って見せるだけの腕があるし、度胸もあるし、土壇場のスタミナも半端じゃない。優秀な戦士なのだ。
だが、相手にしているネクロゴーレムの性能がおかしい。
ゴーレムを扱う俺だから、余計に思う。戦慄する。
何なんだよ、あの俊敏でしなやかな動き。あのデカさと数を維持したら、もっと愚鈍になるだろ、フツー。それにパワーも凄ぇ。並の魔物よりよっぽど怪力だ。……やってられねぇ。
「ロイド、下がって来い!」
俺は無意識に叫んでから、呪文を詠唱していた。右肩に激痛が走って、一瞬だけ詠唱が途切れた。だが、泣き言は言っていられない。身体に力を入れて唱え直す。
こっちを一瞬だけ振り返ったロイドは、跳び下がって、ネクロゴーレムから距離を取った。
その間に、俺はネクロゴーレムを再び暴風で包み込んだ。
風魔法は強力だが、魔力の消耗が激しい。やべぇ。目が回りそうだ。クラクラしてくる視線の先で、俺の魔法がネクロゴーレムをバラバラのグシャグシャに引き裂くのが見えた。
「気を付けろ!! 触手みてぇなモンが飛んで来るぞ!!」
また、あの触手攻撃が来る。そう思ってロイドに叫び、俺も身構えた。
オリビアを横抱きにしているリーナは、自分の体を盾にしてオリビアを守る様な半身の姿勢を取った。
ただ、今度の触手攻撃は来なかった。
その代わり、もっと最悪なことが起きつつあった。
俺の魔法が斬り潰したネクロゴーレムの破片を、――いや、破片と言うよりも、正確には無数の死体の残骸だが、それを他のネクロゴーレム達が取り込み、より巨大化しようとしている。
おまけに、広場の外からこっちに向かってくる、新しいネクロゴーレムまで登場してきやがった。
逃げて行った冒険者を追って、何体かのネクロゴーレムがこの広場を離れたのは確かだ。
だがそれでも、巨大化しつつあるヤツと合わせて、今の広場には全部で5、いや6体のネクロゴーレムがいやがる。
冗談じゃねぇ。
唇を噛んだリーナが息を震わせている。
強張った目をしたロイドが、奥歯をギリギリと噛んでいる。
俺は荒い息を絞って何とか立っている。
誰も何も言わない。
他の奴らは、もう逃げたのか。
やけに静かだ。空が青い。
広場には暢気な風が吹いてきている。
埃っぽい風が、口の中で血と混ざった。
くそったれ。
こんな筈じゃなかったんだよ。
でも戦うしかねぇ。分かってる。
でもよぉ……。
リーナとロイドが前衛で時間を稼いで、オリビアが補助魔法で戦線を維持、仕上げに俺が魔法をぶち込む。これが俺達の必勝パターンだっただろ?
それを、戦闘不能のオリビアを守りながら、あと6回やれってか?
できるかボケ。
無理に決まってる。
ネクロゴーレム共だって、順番に、1体ずつ相手になってくれるなんて、そんな優しい気遣いなんてしてくれるワケがない。ハンデをお願いしますなんて頼める相手じゃない。
当たり前だが、ヤツらは一斉に動いて俺たちを潰しにくるはずだ。
俺は、視線だけでオリビアを見た。
リーナの腕の中のオリビアの目が、あの優しい翡翠色の瞳が濁り始めている。ヒューヒューと細い息を漏らしている。弱々しく掠れた吐息が、いつ途絶えるかも分からない。
その瀕死のオリビアと、ネクロゴーレム囲まれている俺達の間に、そこまで差は無いように思えた。
俺達は全員、風前の灯火だ。
絶体絶命ってやつだ。
俺は死ぬのか。
死んで、あのネクロゴーレム共の一部になるのか。
やめろよ。ふざけんな。
冒険者になってからは、死ぬ覚悟は常にしているつもりだった。
だが、そんな最期はまっぴらだ。
足掻いてやるぜ。
俺は、まだギリギリで折れてない。
心の半分では諦めているが、もう半分で抵抗する意思は残ってる。
俺は杖を握り直して、唾を吐いた。ヒビの入った眼鏡を指で押し上げる。右肩が痛ぇ。鼻から大きく息を吐いたロイドが、俺の隣に並んできた。
位置的に、俺とロイドで、オリビアを抱えるリーナを庇う恰好になった。
俺は、肩越しにリーナを振り返る。
オリビアを抱えて逃げろ。そう言い掛けた時だった。
呆然とした表情のリーナが目を見開いて、俺とロイドの間から、何かを見つけたというか、何かに気付いたような顔になっている。
おいおい。今度は一体何だ?
またネクロゴーレム共が、今以上に俺達を絶望させるようなクソッタレで最悪なサプライズをぶちかましやがったのか?
そんなふうに内心で毒づいたのと、ほぼ同時だったろうか。
鋭い何かが、刹那的に、途方もなく激しく振るわれるような気配、風を切る音を聞いた気がした。
俺とロイドは前を向いてから、硬直してしまう。
……あぁ? おかしいだろ?
ちょっと目を離した間に、ネクロゴーレムの数が6体から4体に減ってやがる。
いや、正確にいえば、立っているのが4体だけだ。
あとの2体は既に無数の肉片になって地面に散らばっていた。
その肉片の1つ1つが、またゾンビともスケルトンとも言えない姿のままで、もぞもぞウゾウゾと動いて立ち上がろうとしているが、そんなものはどうでもいい。
白と黒の短剣を手にしたアイツは――。
ばらばらになったネクロゴーレムの肉片と、ドス黒く、ドス赤い粘液が広がる石畳の上に、非現実的なほどの威圧感と静寂を湛えて、そこに立っている。
いつの間に現れたんだ。
あの灰色の髪に、野暮ったい灰色のローブには見覚えがある。
あり過ぎる。というか、知ってるヤツだ。
アッシュ。5等級の、あの雑魚――。
「ぁ、アイツ……、何で、ここに……?」
ぽかんとした顔になったロイドが、妙にフワフワとした声を漏らす。
そのロイドの隣で立ち尽くしながら、俺も心の底から同じことを思った。
今回も最後まで読んで下さり、ありがとうございました!