「ねぇ、お姉さん達のパーティに同行してくれないかな?」   作:なごりyuki

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騒々しい御嬢様

 

 

 

「もっちろん私はぁぁ! ローザさんが御無事であることを信じておりますのよォォ! 」

 

不機嫌で不安そうな、だが、瑞々しくも張りのありまくる大声を出している彼女は、絢爛豪華な黒いドレスと漆黒の重装鎧を組み合わせたような装備だった。

 

だが、兜はしていない。ダンジョンの暗がりに素顔を晒している。トロール製の魔法灯に照らされた顔立ちは、ゴージャス系の美人顔と言えばいいのだろうか。

 

 彼女の美貌には遠慮の無い高貴さと華やかさがあり、緋色の瞳には磨き抜かれた宝石にも似た煌めきがあった。

 

目が覚めるような紅の髪を、豪奢な縦ロールにしているのも印象的だ。

 

身長もあるし、体格もいい。着込んでいる重装鎧の形状やサイズからしても、胸や尻だって立派で、顔立ちと同じくゴージャスかつ筋肉質な体つきをしているのが窺える。

 

「そう!! つまぁぁり! この私からの信頼に応えることこそォォォ、今のローザすわぁんの義務でしてよぉぉ!!」

 

力強くも華やかな大声を発する彼女が手にしている武器も、なかなかインパクトがある。無骨で頑丈そうな鎖がグルグルと巻かれている楕円形のあれは、盾……だろうか。

 

ただ、大きい。ちょっと大き過ぎる。 

 

大の男がすっぽりと隠れるぐらいの漆黒の盾だ。さらに盾の前面には、茨と薔薇を模して意匠化された魔法陣が描かれていた。

 

細かな文字と紋様が大胆かつ精密に、絢爛かつ威風堂々と絡み合い、深紅の薔薇が象られているのだ。

 

 まるで名高い絵画のような貫禄を醸し出しているが、あれは絵画などでは決してない。重厚な武具だ。魔法陣が描かれているところを見るに、魔導武具の類だろうか。

 

 幅もそうだが厚みも凄そうな彼女の盾だが、その縁には『握り』の部分が複数あって、更には太くて凶悪な金属のトゲまで備え付けられている。明確に殺傷を目的とした形状をしているのでかなり禍々しい。

 

 荘厳ささえ漂う重装鎧のドレスを纏い、黒く巨大な鉄塊を手に練り歩いてくる彼女の存在感はかなり攻撃的だ。だが、それでいて野蛮さや下品さではない、ある種の優雅さと気品を帯びている。

 

「さぁ!! お元気な姿を、早く私に見せに出て来やがれですわぁぁぁぁあーーー……」

 

「エミリア! こっちこっち! っていうか、もっと声のボリュームを下げてよ!」

 

 紅の髪を縦ロールにした女性に向けて、ローザが手を挙げて振って見せる。

 

「――……ほ?」

 

 エミリアと呼ばれた紅髪縦ロールの彼女も、ローザの存在に気付いたようだ。

 

「見ィィつけましたわよおォオオ! ローザさん!!」

 

 彼女は大袈裟な程に肩をいからせ、また大声を張り上げた。

 

「まぁぁったく世話の焼けるひとなんですから貴女というひとはもうホントゥに! この私が一体どれだけ歩き回ったと思っていますのぉ!?」

 

 仲間であるローザの無事を確認したことで、やはり安心したからだろう。

 

 エミリアと呼ばれた彼女は、今までの不機嫌さと不安を露わにしたような渋い表情から一変し、高飛車な爛漫さを弾けさせるような笑顔になった。

 

「でもォ、今回ばかりは特別に許して差し上げましょう!! 険しくも遥かなる“淑女道”を歩む私は、月が輝き星屑が瞬く夜空よりも寛大で美しィィィ心の持ち主ですもの! サッチャワンダフルな私のこの慈悲深さに、咽び泣いて感謝するといいですわ!」

 

 自分自身に酔っ払っているかのような口振りのエミリアは、悠然とした足取りで歩いてくる。そして左手だけで巨大な盾を引き摺るように持ちながら、空いている方の右手の甲を顎の下にそえた。更に、傲然と胸を反らして笑い声を立てた。

 

「オォーーーーーーーーーッホッホッホッホ!!」

 

 まさに『御嬢様の高笑い』といったふうのポーズと笑い方だった。その自信に満ちた表情や言動が、とにかく彼女に似合っている。

 

 エミリアは笑い声を立てながら巨大な盾を片手で引き摺っているが、やはりあの盾の重量は凄まじいのだろう。

 

 引き摺られている盾と床が擦れて火花が散っている。ゴリゴリガリガリズズズズズギャギャギャガガガゴゴゴゴ……ッ!! といった音も、かなり物々しい。

 

「ドゥオォーーッホッホッホッホォォ!! モォーーッホッホッホォォンンンヌゥ!!」

 

 やたらと力の入った『御嬢様の高笑い』を維持したままのエミリアは、器用にダンジョン通路を歩いてくる。その高笑いが最高潮に達しようとしたときだった。

 

「ンヌォーーッホッホッホヴッッ!!? ゲッホゲホ!! ゲホゴホッホポッ!! ォエ゛ッ!!」

 

『御嬢様の高笑い』を維持することに全力を尽くし過ぎたのか。途中で激しく噎せかえり、咳き込み、えづいて、涙目になっていた。

 

 その自由過ぎるエミリアの振舞いに、アッシュは殆ど圧倒されてしまう。

 

「ンンン゛ッ! ンン゛ッ!」と喉の調子を整えるエミリアが歩み寄ってきたところで、眉を下げたローザが「前から言いたかったんだけどさ」と軽く笑った。

 

「エミリア、その笑い方やめた方がいいよホント」

 

「ど、どうしてですの? このノーブル感の溢れるラグジュアリーな笑い方は、私《わたくし》にぴったりでしょう? それに、笑うことは健康に良いんですのよ? 冒険者は身体が資本ッ!」

 

「いや、そんな最終的に噎せるような笑い方、逆に体に悪そうじゃん……」

 

 この緊張感のない言葉の遣り取り自体が、彼女達が互いの無事を喜んでいる証なのだろう。

 

「あら、まぁ……!」

 

 怪訝そうな顔になったエミリアが、アッシュのことに気付いたのはその時だった。

 

 彼女はアッシュを見て、とんでもない衝撃を受けたように目を見開いてから、盾を引き摺っていない方の右手で口を抑えた。

 

「やだ、超好み……ッ!!」

 

 そう溢したエミリアの頬は紅潮し、彼女の緋色の瞳も、何故か潤むように揺れている。今にも泣き出しそうな目つきになったかと思えば、物凄い剣幕になってローザにずんずんと詰め寄った。

 

「ぁ、あのっ、ローザさん! 此方のミラクルチャーミングな御方は!? 可及的速やかに私にも紹介してくださいましッ!!」

 

「ちょっと落ち着いてよエミリア……」

 

 鼻息を荒くしているエミリアに迫られたローザは、逃げるように上半身を逸らしながら「まぁ、エミリアの通信用の指輪は壊れてたみたいだし、伝えるタイミングも無かったもんね」と軽く頷いた。

 

「彼は、治癒術士のアッシュ君。ついさっきダンジョン内で会ってね。私の怪我を治してくれたんだよ。腕もいいし、回復役として同行を依頼させて貰ったんだ」

 

「あの、初めまして。アッシュ=アファブルです。さきほどローザさんから依頼を受け、こうして同行させて頂いています」

 

 頭を下げたアッシュの視線を受け止めたエミリアは、一瞬だけ怯むように頬を赤くしてから、逃げるようにアッシュから目を逸らした。

 

「うぉやっべ……好きになっちゃいそう……っ」

 

ボソッとした呟きだったのでよく聞こえなかったが、エミリアはすぐにアッシュに向き直った。

 

「ヌンン゛ン゛ッ!! ンンン゛ぅんッ」

 

 また力強く咳払いをしてから背筋を伸ばしたエミリアは、胸を張り、漆黒の重装鎧の一部であろうドレススカートの裾を右手で広げるように持ち、そして片方の足を引くようにして、アッシュに礼をしてくれた。

 

 あの動作は、カーテシーというものだろうか。

 

 もちろん、エミリアは左手で大盾を持っているので、スカートの裾を持っているのは右手だけだ。だが、それでも十分に優雅であったし、このトロールダンプの薄暗さを払いのけるような華麗な高貴さを醸し出していた。

 

「名乗るのが遅れましたわ」

 

 貴族。

 その言葉が、アッシュの脳裏に浮かんだ。

 エミリアが顔を上げて、口許に薄く笑みを湛える。

 

「私はエミリア=アイゼンローズ=レア……――、いえ」

 

 続けかけた言葉をそこで切ったエミリアは、緩く首を振って言葉を継いだ。

 

「……エミリア=アイゼンローズと申します。アードベルでは私の事を“薔薇の女王”、“紅玉と螺旋の星”、“真なる淑女”などと呼ぶ声は多数ありますが、仲間であるローザさん達からは、親しみを込めてエミリアと呼ばれていますわ」

 

 穏やかで艶のある声で言うエミリアは、その緋色の瞳に深い輝きを灯している。そのエミリアの隣では、唇をへの字に曲げたローザが半目になっていた。

 

「……や、あのさエミリア、アッシュ君に恰好つけたい気持ちは分かるよ? でも、そんな大袈裟な称号というか、二つ名みたいなので呼ばれたことないじゃん……」

 

 半目のままでローザが指摘すると、エミリアは泰然とした笑みを浮かべたままローザを一瞥しただけで、特に反応を返さずにやり過ごそうとしていた。

 

妙な具合に沈黙が訪れる。

否定しないところを見るに図星なのだろうか。

 

 ただ、エミリアがどのような二つ名で呼ばれていたとしても、そもそもアッシュには思い当たるものがない。

 

ローザのことも知らなかったし、彼女達の仲間であるらしい、カルビやネージュといった名前もだ。

 

 誤魔化し切れなかった不自然な静寂をそっと手で退かすように、エミリアは思慮深げな表情を浮かべた。

 

「アッシュさんは治癒術士ということですが……、なるほど……、確かに、私達のパーティで治癒魔法を扱えるのは、粗忽で粗暴で粗野で野蛮で無分別で無思慮で無知蒙昧《むちもうまい》な暴れん坊のカルビさんだけですものね……。彼女と分断されている現状では、他の治癒術士の方が同行してくれるのは有難いですわ」

 

 言いながら、熱の籠った眼差しをアッシュに向けて来ていたエミリアは、そこで力強い頷きをローザに返した。

 

「えぇ、それはもう、此方のアッシュさんの同行は絶ッッ対に必須! 水や空気と同じく、もう必要不可欠とも言っても過言ではないでしょう!」

 

「いえ、それは過言では……」

 

 アッシュが控えめに訂正を求めたとしたところで、「まぁ、カルビがどうこうっていう話は置いておくとしても」とローザが肩を竦めた。

 

「アッシュ君の治癒魔法の腕は本物だよ。怪我を治して貰った私が保証する」

 

「……お、お役に立てるよう、最善を尽くします」

 

 信頼の籠ったローザの言葉に、アッシュは後ろめたさと息苦しさを覚えながら頷く。そんなアッシュの心の動きを見透かしたように、頭の中で声が響いてきた。

 

 ――お前は無意味だ。

 ――お前は無価値だ。

 

 だが、聞こえないフリをする。

 余計なことで気を散らすべきではない。

 

 今のアッシュが優先すべきことは何か?

 冒険者として果たすべき“役割”は何か?

 

 そのことだけを考えればいい。

 今のアッシュは、ローザ達の回復役なのだ。

 後衛として、彼女達の傷を癒すことに集中する。

 それだけだ。

 

 アッシュが一度だけ深呼吸をした、その直後だった。

 

「あ、あの……、少し質問させて頂いてもよろしいかしら?」

 

 ダンジョン通路の見回したエミリアが、何かに気付いたようにローザとアッシュを交互に見た。

 

「アッシュさんの御仲間は、えぇと……、何処にいらっしゃいますの? 見たところ、アッシュさんはお一人の御様子ですけれど……」

 

 エミリアはそこで、大袈裟なぐらいハッとした顔になる。

 

「ま、まさかアッシュさんも、あのシャーマンの所為でお仲間とはぐれてしまったとか!?」

 

 自分で言いながら深刻な表情になったエミリアが、「んふぅう~……!」と息を吐きながら目をきつく閉じた。

 

 それから額のあたりを手でおさえ、ゆるゆると首まで振ってみせる。アッシュの身に起きた悲劇を逞しく想像して、大袈裟に嘆くかのようだった。

 

「ダンジョンで1人きりになってしまい、きっとアッシュさんも心細かったことでしょう……!?」

 

「いえ、あの……、僕はソロなので」

 

 そうアッシュが応じかけたものの、大真面目な顔になったエミリアの「でも、もう安心ですわ!」という力強過ぎる声に遮られてしまった。

 

「こうしてアッシュさんと私は、ラブラブハッピー&デスティニーな出会いを果たしたのですから!」

 

 エミリアは巨大な盾を引き摺っていない方の右手で、自分の胸の前で握り拳をググっと作ってみせる。それは、命を懸けた重大な誓いを立てまいとするような、勇ましいポーズだった。

 

 そのエミリアのポーズに呼応したのか。彼女が手にしている大盾が淡い光を纏い、ザァァァ……と何かを周囲に発生させた。華々しく優雅に、そして艶やかに舞い散るそれは、魔力光が象った薔薇の花弁だった。

 

「この私が、何としてもアッシュさんをお守りして見せますわッ!!」

 

 魔力の光でキラキラと輝く薔薇の花弁で自分自身を演出したエミリアは、自らの決意を高らかに宣言してみせる。ただ、そのエミリアの横では、やはり半目になったローザが眉をハの字にして、すっぱそうな顔をしていた。

 

「ねぇ、エミリア。そうやって無駄に魔力を使うのやめなよ」

 

「問題ありませんわ! 私、魔法はコレと自己強化しか使えませんもの!」

 

「いや、まぁ、知ってるけどさ……。魔力量って、集中力とか精神力にも関わるから、無駄にしないに越したことはないって」

 

 果たしてローザの意見はエミリアに聞こえていないのか。或いは、耳には届いているが、脳に届いていないのか。アッシュに微笑みかけてくれる彼女は、さらに滑らかに舌に回転させていく。

 

「こう見えて私、防御を軸にした戦い方には自信がありますの。ですから、どうかアッシュさんも、安心して私に身を任せて下さいまし。そっ、それから、えぇと……ッ! ではッ、その信頼の証として、アッシュさんには私のことを“エミリアお姉さま”と、親しみを込めてお呼びになってもろて!」

 

 喋りながら興奮気味な早口になりはじめたエミリアは、途中から鼻息を荒くしながらアッシュに詰め寄ってくる。

 

 小柄なアッシュよりもエミリアの方が遥かに身長もあるし、鎧を着込んでいる分だけ横幅も厚みもあるので、かなりの迫力だった。

 

「い、いえ、エミリアさんとはお会いしたばかりですし……。普通に、エミリアさんと呼ばせて頂きますね?」

 

「ンンンまぁ!? そんな他人行儀なことを仰らないでくださいまし! アッシュさんがお仲間と合流できるまでは、私のことを本当のお姉さんだと思って、存分に甘えてくれても構いませんのにッ!」

 

「はいはい。エミリア。アッシュ君が可愛いのは分かるけどさ。ちょっとストップストップ」

 

 ぐいぐいと迫ってくるエミリアからアッシュが後退りかけたところで、ローザが間に入ってくれた。

 

「最後までアッシュ君の話を聴きなって……。アッシュ君はソロなんだよ。一人で此処まで潜って来たんだよ」

 

 再びローザが説明してくれたので、アッシュも頷いて続いた。

 

「えぇ。ですから僕は、自分の仲間とすれ違いになる心配もありません。ローザさん達と一緒に、セーブエリアまで同行させて頂きます」

 

「……えゅ? しょ、そ、ソロ……?」

 

 エミリアは不可解な現象を目の当たりにしたような顔になって、ローザとアッシュを見比べた。だが、すぐに体ごとアッシュに向き直ってきた。

 

「つまぁぁり! 今日中にでも、アッシュさんが私達のパーティに参加して下さる可能性があるということですわねッ!?」

 

 声をひっくり返して叫ぶエミリアの緋色の瞳には、まるで新種の花を見つけた乙女のような、キラキラとした輝きが宿っていた。

 

「い、いえ、僕は……」とアッシュは応じようとしたが、それよりも先に「や、話を前に進め過ぎだって」と、すかさずローザが割って入ってくれた。

 

「アッシュ君への同行依頼料も、あとで相談するっていう約束なんだから。まぁ、そのまえに……」

 

 言葉を切ったローザは表情を引き締めて、魔導ショットガンを持ち直した。そのまま背後を振り返り、次に通路の前にも目を向ける。

 

「この3人での、初共闘になりそうだけど」

 

 ローザの声には緊張感と、冷静さを保つための余裕があった。彼女の雰囲気が、茶目っ気のあるお姉さん風味なものから、上級冒険者のものへと変わる。

 

 ダンジョンの通路を流れる空気もまた、重く沈んでいくのが分かった。アッシュ達を包んでいる暗がりも深みを増し、濃厚な敵意を届けてくる。

 

 通路の前と後ろを、アッシュも順に見遣った。複数の気配が近づいてくる。足音。呼吸。金属が擦れ合う響き。低く唸る声。どれも人間のものではない。

 

「……挟み撃ちにされたっぽいね」

 

 小さく舌打ちをしたローザに続いて、エミリアが不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「まったく、私とアッシュさんが大事なお話をしている最中でしたのに。空気の読めない魔物どもです」

 

「あのさエミリア……。言うか言わまいか迷ったんだけどさ。さっきエミリアが大声で笑ってたのが聞こえて、トロール達が集まって来たっていうパターンじゃないの? これ」

 

「あぁ。なるほど」

 

 高貴な美貌に憂いの色を浮かべたエミリアは、自らに備わった絢爛な魅力を嘆くように俯き、右手で頬に触れた。悩み多き乙女のように、「ほふぅん……」などと、溜息まで吐いている。

 

「シャイニングでマグニフィセントな私の気配に、トロール達もどうしようなく惹きつけられ、恋焦がれるような思いでこの場に集まってきてしまった……、ということですわね?」

 

「……違うよ、エミリア? 全然違うよ?」

 

「じゃあどういうことですのっ!?」

 

「さっきみたいな笑い方は、やめた方がいいってことだよ」

 

 軽口めかしたローザは、もう一度、ダンジョン通路の前と後ろを睨むように見比べた。

 

「“大階段”までは、もうちょっとなんだけどな~」

 

 ローザが溢す声と重なって、ズシ……ッ、ズシン……、ズシ……ッ、という重く低い足音が、確かな輪郭と存在感を伴って響いてきた。

 

 それに合わせて、岩の壁にかけられたトロール製ランプの魔法灯も、ゆらゆらと揺れた。ダンジョンの広い通路を満たす暗がりが、その明かり揺れに合わせて不気味に蠢く。

 

「Gurururu……」

 

 暗がりの向こうからだ。獰猛な呻き声と共に、トロール達の姿が浮かび上がってきた。

 

 

 









 5話まで読んでいただき、ありがとうございました!
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