「ねぇ、お姉さん達のパーティに同行してくれないかな?」   作:なごりyuki

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残響

 

 

 

 

 歌劇場内へと踏み込んだローザ達は、メインホールに向かう通路というか、空間を遮断するように展開された封絶結界に行く手を阻まれた。

 

 さらに、その結界の壁となるべく配置、或いは召喚されたのであろうネクロゴーレムまで相手せねばならなかった。

 

「死ぬほど邪魔くせぇな、コイツ等……!」

 

 大戦斧を振り回してネクロゴーレムを薙ぎ倒すカルビが、獰猛だが冷静な声で言う。

 

 ネクロゴーレム共の姿は、エルンの町で戦ったゾンビ共を寄せ集め、さらに歪な人型にしたような、不定形で冒涜的な姿をしている。

 

 その巨体は確かに脅威だが武器の類は持っておらず、戦い方も極めて単純な暴力。戦闘力自体はそこまで高くない。

 

 唸りを上げるヴァーミルの戦鎚が。雷を纏うシャマニの長大な蛇腹剣が。爆炎を纏うカルビの大戦斧が。冷気の渦を巻くネージュの大槍が。チトセが操る式神の狼達が。

 

 豪奢で広大なエントランスを埋め尽くす、巨体のネクロゴーレムの群れを粉砕していく。清廉として重厚な大理石の床、壁、天井などが、その戦闘の余波で陥没し、亀裂が入る。生々しい破壊の余韻。

 

 この戦況に加わっていないウルズは、多数の空間ディスプレイを両手で操作しながら結界を解呪しようとしている。

 

「それにしても頑丈な封絶結界っすねぇ……。ディスペルできる気配がしないっすよコレ……」

 

 忙しなく視線と両腕を動かし、結界に対して魔術的な干渉を続けているウルズが弱気な声を漏らす。とにかく集中している彼女をカバーしているのがローザとエミリアだ。

 

「でも、観客の避難が終えているのは救いでしたね……!」

 

 ウルズのぼやきに応じながら、背後から近づいてきたネクロゴーレムを魔導ショットガンの氷結弾で吹き飛ばす。

 

「いついかなる時でも、人命よりも最優先されるものなどありませんわッ!」

 

 その後ろから更に2体のネクロゴーレムが突進してくるが、これはエミリアが大盾を盛大にぶん回して殴り飛ばしてくれる。

 

「頼りになるっす、ローザさん! エミリアさんもっ! 流石はうちの推し冒険者……!」

 

 チラリと視線だけで振り返ったウルズが弾んだ声で言ってくれるが、状況は良くなっていない。

 

 こうして足止めを食らっている以上、メインホール内で歌姫マリヴェルを殺害するための時間稼ぎに付き合わされている証なのだ。相手の思惑通りに動かされているということに、ローザは歯噛みする。強張った表情のエミリアも焦れている。

 

 このまま時間を稼がれ続けるのは不味い。

 だが、相手が用意していたネクロゴーレム共は、かなり厄介だった。

 

 魔導ショットガンの氷結魔法弾をまともに食らい、身体を凍りつかせて転がっていくネクロゴーレム。だが、すぐに氷解。魔力攻撃に対する対抗力が高いのか。

 

「MUOOooooooaaaAAAAAA……!!」

 

 凍らされた腐肉が、また別の腐肉が塗膜によってコーティングして再生。むくりと起き上がってくる。

 

「このネクロゴーレム共、アタシの炎があんまり利かねぇ……!」

 

「ウスノロの癖に再生に特化してるわ……! 手間が掛かり過ぎる……!」

 

 鬱陶しそうにカルビとシャマニが喚く。

 

「数が多くて埒があかないわね……」舌打ち交じりにネージュが鼻を鳴らし、肩越しにギギネリエスに冷たい一瞥をくれる。

 

「ネクロマンサー。貴方が役に立つべき場面っていうのは、こういう時じゃないのかしら?」

 

 大槍を振るうネージュの冷ややかな声に、ギギネリエスがワザとらしい困り顔を浮かべて、おろおろと周りを見回す。明らかな演技。揺るがない余裕の証拠。

 

「そうは言われてもねぇ……。見てわかるだろう? このネクロゴーレム共は雑魚の寄せ集めだが、極端な再生能力と魔力レジスト効果を付与してある。普通のネクロゴーレムなら、俺の死霊魔術で魔力粒子化して吸収してやるところだがねぇ。それも出来ないんだよ」

 

 上っ面だけの申し訳なさそうな、やけに悠長な声音。次の瞬間には、暗い冷静さがその声に灯る。圧倒的な強者が、弱者の細工を揶揄するような笑み。

 

「……くく。まぁ、もうちょいと俺の力を解放できるようにしてくれるんなら、状況を打破してやるよ? この窮屈な魔術拘束を解いてくれ。そうすりゃ、10秒足らずで全部片付くと思うんだがねぇ」

 

 大盾を構え直したエミリアが一瞬、ギギネリエスを睨む。だが、睨み切れていない。

 

 今まさに命の危機にあるマリヴェルこそが、エミリアと旧知の仲なのだろうとはローザも察していた。マリヴェルを救うために有利になるならば、何だってしたいというのがエミリアの本心だろう。

 

「貴方の戯言に付き合う愚かな人は、此処には居ませんわよッ……!!」

 

 ギギネリエスに縋りつきそうになり、それを堪えたというような目つきのエミリアが、再び突進してきたネクロゴーレム2体を大盾の乱打で弾き飛ばす。

 

「エミリアさんの言う通り、こんなとき冗談きついっすよギギさん……。そんなことしたら、うちらの言うコト聞かないでしょ」

 

 汗をびっしょりと掻いて空間ディスプレイと格闘するウルズも、疲れたような声で続いた。だがそれは、ギギネリエスとの交渉には付き合わないという明確な意志表示だった。

 

 ローザが持ち込んでいる強力なマジックキャンセラーを使用できない理由も、ギギネリエスを拘束している特殊魔導具の機能を阻害するからだ。

 

「貴方の拘束をどこまで緩めて、貴方の力をどこまで許可するかは、私達ではありませんからねぇ~。余計なことは考えず、大人しくしていて下さいな。さもないと……」

 

 狼の式神の群れを使役し、ネクロゴーレム共を押し返していたチトセ。彼女が言いながら、ギギネリエスが拘束されている棺型の檻のそばにすっと寄ってくる。ほんわかとした普段の雰囲気からはかけ離れた、ゾッとするような眼差しだった。

 

「おぉ、怖い怖い。分かってる。そう怒らないでよ。言ってみただけだよ。いい子にしてるさ」

 

 対するギギネリエスは半笑いで両手を挙げる。殺気に等しい威圧感をぶつけてくるチトセを恐れるどころか、穏やかに笑いかける。聞き分けの無い観光客の風情。

 

「でもまぁ実際のところ、俺は十分に役に立ってるだろう?」

 

 拘束されて磔にされたような姿勢のギギネリエスが、ローザとエミリアを一瞥してから半笑いで顎をしゃくった。その空間ディスプレイを見てみなよ、というふうに。

 

「貴族の観客共には一切の負傷者を出さないように立ち回ってやがるのも、ヤツを動かしてる連中の注文なんだろうよ」

 

 再び近づいてきたネクロゴーレムを魔導ショットガンで吹き飛ばしながら、ローザは目を向ける。

 

 ウルズが展開している、一際大きな空間ディスプレイ。そこに映し出されているのはアッシュの視界であり、アッシュの聴覚が捕らえた音声が再生されている。

 

 分割されたヤツの自我による、劇場内の中継だ。

 

 ネクロマンサー達が其々に持つという特質。ユニークスキルとでも言うべきその力を活用したギギネリエスは、自分の意識と精神を分割し、それを死体に籠めて遠隔で操ることができるのだという。

 

『とはいえ、これも俺のスキルの一端でしかないよ。俺はネクロマンサーの中でも、かなり特殊でねぇ。本来の俺のスキルは、もう少し繊細なんだが……、まぁ、そのへんの詳しい説明はまた今度にしようか』

 

 これは暢気な物言いのギギネリエスの説明だったが、扱う死霊魔術と、それを応用する魔術的な精密作業においては、やはり相当なものだった。

 

 死体に分解されつつあったアッシュとの感覚同期。

 

 死体=アッシュ。彼に接続しているギギネリエスの視界と聴覚。それを、ウルズが扱う空間ディスプレイに接続することにより、リアルタイムでローザ達が視聴可能にしたのだ。

 

 おかげでローザ達は、ネクロゴーレム達との戦闘の最中であっても、封絶された劇場内の状況を知ることができている。まだ歌姫マリヴェルが無事であることは、希望と冷静さをローザ達に与え続けてくれているのも確かだった。

 

 ローザが横目で見た空間ウィンドウの中では、アッシュもサニアも、そしてルフルも、無事だ。『鋼血の戦乙女』メンバー、セツナという女性剣士も健在。

 

 ――だが、つい先ほどまでは本当にピンチだったこともローザ達は知っているので、その窮地を救ってくれたギギネリエスの存在には感謝すべきなのだろう。

 

 無論、へらへらとしたこの男に素直に礼を述べる気にはならないが、有用性という観点で言えば、今は無くてはならない戦力だ。

 

 そして、このギギネリエスによって企みを崩さて、アッシュ達と睨み合う者たち。

 

 モッグス=バシュカ――偽名。レーヴェスと呼ばれるネクロマンサー。

 彼が引き連れるアナテという黒ローブの少女。

 歌姫エリシアの事務所の社長、ケイス=オーダー。

 

 この3人が今回の黒幕だということは、もうローザ達も把握している。

 

 メインホールの舞台上では、サニアと黒フードの少女との戦闘が再開される。セツナとアッシュが、レーヴェスというネクロマンサーを追い詰めようとする。

 

 ルフルが歌姫エリシアの盾となり、庇うように抱き寄せながら3体の重装人形を展開していた。ルフルが纏う魔力の微光が、赤黒く澱んでいるのが分かった。

 

 分割されたギギネリエスの自我が、アッシュの内部で起動。そのアッシュを人形として操るルフルの意識にも、ギギネリエスの精神が入り込んでいるからだ。

 

 空間ウィンドウの向こう、アッシュとルフルの口からは、同期されているギギネリエスの声が出続けてベラベラと喋り続けている。

 

 そしてローザ達の傍で磔にされているギギネリエス本体は、分割した己の精神と自我を操り、リモートで編み上げられた高位精神魔法と死霊魔術によって、舞台上にいる者達を掌握している。

 

 やはりと言うか何と言うか……。ネクロマンサーとしては、舞台上にいるレーヴェスというよりも、ギギネリエスの方が格上なのだ。

 

「メインホールの様子は見ての通りだよ。俺の支配下にあるから心配はいらない。ほら、ご覧よ。見えるだろ? 歌姫のことも、人形遣いのルフルちゃんが身を挺して死守してくれてる」

 

 まるで世間話のような口振りには、自分の生命にさえ執着しない者にしか纏えない貫禄がある。式神の狼達を操りながら、険しい目つきのチトセが黙る。黙るしかないという風に。

 

「このまま黒幕を捕まえれば最高だが、逃走まで追い込んでもOKなんだろう? 都市のお偉いさん方としては、まぁ、それで十分だってことも分かるよ。いつだって人命が最優先だ。体裁を保つためにもねぇ」

 

 空間ディスプレイを眺めるギギネリエスが喉を鳴らして笑ったとき、舞台上の状況が大きく変わった。

 

 レーヴェスが、ケイスを人質にとって、黒ローブの少女がサニアとの戦闘を再開したのだ。

 

 次に、急に明るくなって媚びを売るようなレーヴェスの声も届いてくる。「私と共に来ませんか?」という、ギギネリエスに向けられた裏切りを誘う声。必死な取引。

 

 空間ディスプレイを通じて、ネクロゴーレム共との戦闘の中にあるローザ達にも舞台上の様子が窺える。戦闘とは違う緊張が全員に走る。

 

 だが、半笑いのギギネリエスは取り合わない。

 呆気ない交渉の決裂。続いて、そのすぐ後だった。

 

 レーヴェスが黒フードの少女を捨てていくと宣言。さらに直後には、人質にしていたケイスの背中と首の中間あたりに、禍々しい装飾のナイフを埋め込んだ。

 

 ここにきて仲間割れか。ケイスの絶叫。魔法円に包まれて姿を消すレーヴェス。

 

 空間ディスプレイを一瞥したヴァーミルとシャマニが顔を歪め、迫ってくるネクロゴーレム共を押し返しながら舌打ち。

 

「くそったれ……! 最初から逃げ道を用意してあったのかよ!」

 

 大戦斧を振り回しながら、またカルビが喚く。

 

「相手がネクロマンサーなら、どんな手を使っても不思議じゃないわ」

 

 大槍の冷気と共に、ネージュも低い声を放った。

 

「急送型の転移魔法には、出力先が設定されてる筈っす!」ウルズが冷静に言ってから、耳元に通話用魔法円を展開する。

 

「敷地外の冒険者全員に通達っす! 襲撃の主犯、モッグス=バシュカが逃走。捜索と追跡をお願いするっすよ!」

 

 指示を出すウルズの背後。迫ってくるネクロゴーレム4体。ローザが魔導ショットガンの連発で2体を吹き飛ばす。咆哮を上げたエミリアが残りの2体を砕いた。

 

 ネクロゴーレム3体を始末したヴァーミルとシャマニも、耳元に通信用魔法円を展開する。

 

「まだ遠くには行っていない筈だ! アルキス、オルキス、リエラの3人は空からの捜索を……!」

 

「捕まえたレイダー共の拘束は十分に気を付けて……! あと、クラン『正義の刃』の隊長格を応援に寄越して! サニアが負傷したわ! 今は男とか女とか、そんなのは無視よ!」

 

 冷静に指示を出しながら、更に迫ってくるネクロゴーレムを粉砕して吹き飛ばすヴァーミルとシャマニ。それに続き、チトセも耳元に魔法円を展開。艶のある彼女の声は、式神達を操りながら引き締まる。

 

「機械獣たちを無効化する魔導具を所持している様子だからぁ~……! 機械術系統の魔導具の類、武具を扱う際は注意を~……!」

 

「あぁ、そうそう! 捜索する際は高度を上げて飛行しない方がいいっす! うちらの鎧の機能を停止させられちゃうと、真っ逆さまっすからね……!」

 

 そう続いたウルズの指摘は、同じクランのメンバー達である、アルキスやオルキス、リエラに向けられたものに違いなかった。

 

『了解したわ……!』『ん~、了解』『了解です』彼女達からの即応。目まぐるしい状況の変化は、ローザの目の前でも。

 

「おっと! 手応えありっす! 劇場内の結界のディスペルまで、……あと10秒! これで、歌姫さん達も脱出できるっすよ!」

 

 ぺろっと唇を舐めたウルズが、自身の周囲に展開している空間ディスプレイの群れを手早く操作する。メインホールへ続く広大な通路に蓋をするように展開されていた結界が、間違いなく薄れてきている。

 

 そこでローザは嫌な予感がした。

 

「あぁ~……その、なんだ、ウルズちゃん。頑張ってるトコと悪いんだけどねぇ。レーヴェスの奴も、この結界が解呪されちまうのは織り込み済みだったみたいだよ?」

 

 まるで劇でも鑑賞しているような調子で、ギギネリエスが長閑に顎を擦っていた。

 

「最初から、ケイスとかいうオジサンは始末するつもりだったんだろうねぇ。時間を稼ぐための捨て駒にすれば、口封じもできるってワケか」

 

「え、どういうことっすか……?」

 

 苦労して劇場内の結界を消滅させたウルズの表情が、その達成感から一変して泣きそうに歪んだ。空間ディスプレイに映る景色を横目で見たからだ。

 

 ローザも息を呑む。エミリアが唾を連続で飲み込んでいる。ヴァーミルとシャマニ、カルビとネージュも、ネクロゴーレム共を難なく粉砕しながらも、何となく状況を察したようだ。

 

 ローザ達がいる広大なフロアが振動している。

 

 大理石の床も壁も、天井の証明もビリビリと震え、グラグラと揺すられ、バキバキメキメキと亀裂が入っていく。フロア全体が傾く。崩壊の予兆。何かとてつもなく巨大なものが、この劇場内で発生して動きだしたという気配。濃密なプレッシャー。

 

「うちの頑張りを無意味にするの、まじで勘弁して欲しいっすよ……」

 

 文句を溢すウルズ。半泣き。

 空間ディスプレイの1つに、その理由が映し出されている。

 

 ルフルとマリヴェルを抱えた、アッシュの視界。メインホールから出たところだ。通路を駆けて、外へ向かっているのが分かる。セツナという女性剣士に抱えられた、負傷した様子のサニアの姿もある。

 

 アッシュ達が何かから逃げているという気配は、ローザ達のいるフロアの振動と共にビリビリバチバチと強烈に伝わってくる。

 

『UUUUUUUUUUUUUUOOOOOOOOOOO――!!』

 

 アッシュ達を追い立てているのは、軟体動物的なネクロゴーレムだ。まるで無数のゾンビで編まれたスライム。あの形状では巨大だと形容するよりも、膨大な量が溢れていると表現した方がいいかもしれない。

 

 まるでゾンビの濁流。腐肉の大行軍――劇場の外へと向かっている。

 

「まさか、アードベル市内にネクロゴーレムを流し込む気なの……」

 

 無意識のうちにローザは呻いていた。

 

「取り敢えず、俺達も退散した方がいいよ? このままじゃ生き埋めになりそうだ。まぁ歌姫が無事なら万々歳だ、めでたしめでたし……、と言いたいところだけどねぇ。あの厄介なネクロゴーレムを何とかしてからになりそうだぉぴょっ……!?」

 

 落ち着いた調子だったギギネリエスが、急に変な声を上げる。

 

「貴様に言われるまでもないッ! おのれ……!」

 

 怒気を漲らせたヴァーミルが、ギギネリエスを磔にした棺型の拘束具を乱暴に持ち上げたからだ。そのついでのように、魔力の籠められた大戦鎚を片手で振り抜き、ネクロゴーレム3体を一挙に殴り飛ばしている。

 

 壁をぶち壊して別フロアまで撒き散らされるネクロゴーレム。『UUUUUU……』『亜亜亜亜亜亜亜……』『忌忌KIKI……』再生して起き上がってくる。腐肉の人形ども。

 

「あんなものを市街地に放つワケにはいかないわ……!」

 

 ギリギリと歯を剝いて狂暴な顔つきになったシャマニが、再び通信用の魔法円を展開。モッグス=バシュカの追跡に代わり、バーキャス歌劇場の敷地内にいる者全員で、巨大なネクロゴーレムの討伐を指示。

 

『付近住人の避難誘導を冒険者ギルドに要請』『拘束したレイダー共も安全な場所へ移動』『観客であった貴族達も、より遠くへ誘導』アルキス、オルキス、リエラからの応答。

 

「ちょ、っと……、おっ、おいおい……! 俺はデリケートな死体なんだ、もう少し優しく運んでおくれよ……っ」

 

「よく動くその口を閉じておけよ、腐れ外道!」

 

 演技なのか本気なのか分からない、ギギネリエスの焦った声。それを一喝したヴァーミルが、ヤツを拘束している棺を引き摺るようにしてフロアを飛翔。本格的な崩落が始まる前に撤退。それにローザ達が続く。

 

「思ったより大事になりそうだな。やってられねぇよ」

 

「つくづくトラブルに愛されてるわね、私達」

 

 通路を走るカルビとネージュが、顔を歪めて言い合う。既に疲れた声。だが、彼女達が操る荒れ狂う炎と氷は、追い縋って来ようとしているネクロゴーレムを圧倒。

 

 その間に、ウルズとチトセが殿の位置へ。彼女達が使役している式神の狼、猛禽機械獣の群れが奮戦。再生しようとしているネクロゴーレム共の足止めに。ローザ達の脱出を助けてくれる。

 

「結局、化け物退治が仕事になりましたわね……」

 

 エミリアが前を見据えながら言ってくる。マリヴェルの名を口には出さず、どこまでも私情を出さない。エミリアなりの、“冒険者”としての矜持なのだろう。

 

「こういうトラブルとの付き合い方も、この業界で生きるための技術のうちだよ」

 

 だからローザも、エミリアを並走しながら“冒険者”として応じる。ドライに。だが仲間として頷く。

 

「特大のゾンビの塊なんてさっさと片して、歌姫さんを安心させてあげようよ」

 

 軽口めいた口調で言いながら、ローザは少しだけ笑みを作る。知人の身を案じ続けている今のエミリアの心情に、少しでも寄り添いたいのは本心だった。その想いが通じたのか。

 

 並走していたエミリアが、頷くように目を閉じた。それから目線を返してきて、口許を僅かに緩めてくれる。

 

「……えぇ。私達なら、図体がデカいだけのゾンビの寄せ集めなど敵ではありませんわッ!」

 

 大袈裟な程の自信。ようやく、いつものエミリアが戻ってきたという感じがした。そのときだった。撤退しようとするローザ達に、通話用魔導具からの音声が入る。

 

『さっきの指示は俺が受ける。3番隊隊長の、ジュード=フォルエンだ。警邏隊の何人かを連れて、敷地内に向かっている』

 

 クラン『正義の刃』、隊長格のメンバー。ローザ達は警備任務に入る前に一度、彼とは顔を合わせて挨拶を済ませてあった。大柄だが童顔で、快活そうな人物だったと記憶している。

 

 確か彼は、後々になって警備役に参加してきた冒険者たちを指揮する形で、歌劇場の周辺地区を警備していたはずである。だが先程のシャマニの指示を受けて、こちらに向かってきてくれているようだ。

 

『サニアが負傷したと聞いた。歌姫の安全が最優先なのは理解している。状況によっては、特別警護役は俺が代わりに引き受けるぞ』

 

 ローザはこのとき、ジュードの声音に微かな違和感を覚えていた。通話用魔導具から聞こえてくる彼の声が、妙に平坦に聞こえたのだ。

 

 彼の話し方自体は落ち着いているし、緊急時の彼の声音とは、いつもこんなものなのかもしれない。そもそも、そんなことを指摘している場合でもなかった。

 

『とにかくだ。彼女の……、サニアのカバーに向かいたいが場所が分からない。教えてくれ』

 

 

 

 

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