なんかたまたま開いた配信で友達が言霊がどうのとか言ってるんだけど

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 異世界であるということは、どんなに無理な状況にも合理的な説明が与えられる土壌があるということ。

 大抵は魔力だ何だのと不思議な力が用意されていて、作者がいくらでも辻褄合わせをできるようになっているものです。どんな負傷でも治せる! だったり、戦闘中では人外の膂力が! といったような。


 そこで、もし、そうやって不思議な力を使って面白い娯楽を提供しようとするのが作者のみならず、個々のキャラクターまでもがそのように動きたがるとしたら。私は気になってしまいました。

 というわけで、初投稿です。

 難しい理論を捏ねくり回したり、落ち込んでいたり。そういう真面目な描写は読み飛ばしてくださっても構いません。
「このままじゃ俺は面白くない!」とそのキャラクターが気づいた時点から、そいつは分かりやすいバカに豹変するでしょうから。

 よくわかんないですけど、たぶん急にLet's fucking goooooooooo!!!!とか叫び出したりするんじゃないですかね、初めて生理がきた感想とかで。TS主人公なのでね。


 この物語、鍵を握るのは個々人の価値判断です。
 演者としての自覚と、力もつ者としての義務、そして。


異世界系配信者@覇権コンテンツまで

「お、初見さんいらっしゃーい」

 

 聞き取りやすい、青年の声だ。

 

「いまね、条件の確認をしてるとこ。()()めっちゃすごくて、上手くやれば何でもできそうなんだよね」

 

 閑静な部屋でひとり、朗らかに語る彼が指をさした。

 その先には床があって、敷物があって、他に何もない。

 

「えーー……っと、」

 彼は指パッチンをする。

「前略、その絨毯の上に出現する。……うん、成功」

 

 条件を満たす。その姿は、まるで詠唱を果たした魔法使いのような。

 

 現実にアニメみたいな派手な演出は起こらない。ただ忽然と、彼の指し示す先に物体が現れた。

 バッジだろうか。小指大のそれは、今あらわれたもの含め計五つ部屋に転がっている。

 

「バッジは五回やってもまだ成功する、んだけどね。さっきカバンも出したんだけどさあ……」

 指パッチンの音。

「前略、そこに出現する」しかし、何も起こらない。「……ほら、これは失敗するんだよね。最初の一回しかできなかった。なんでなのかなぁー」

 

 男は頭を抱えて寝転がる。

 

 バッジが五個に、大型のカバンが一荷、一日分を超える食料とその包装、同様に水が入ったペットボトル数本。

 どれも彼の出現させたもので、数十分前まではこの世界に存在していなかったもの。

 

「とりあえず、言霊って呼んでるんだけど、この現象。言葉にすれば願いは叶う! ってね。正確には、言葉にせずとも指パッチンみたいな合図でも十分だし、願いは必ずしも叶うわけでもないのが問題だけど」

 彼はもう一度、指パッチンをしてみる。

 バッジがさらにひとつ、視線の先にあらわれた。

「これさぁ〜、物理法則をガン無視できてるわけじゃん。絶対 ポテンシャルは高いんだよね。発動条件を明確にさえすればマジで何でもできそう」

 

 好きな物体を出現させられるということ、実はそれだけが言霊の効果ではない。

 

 “初見さんいらっしゃい”の言葉から見て取れるように、彼には見えている。配信のコメントが、つまりは現代日本のインターネットに接続されているのだ。

 これも彼が言霊で叶えたこと。

 

 地球と、ここ異世界。

 世界と世界を繋ぐ程の大きな大きな力が、言霊にはある。

 

「……なんだけど、なんだけどなあ」

 

 彼はため息をついた。目線が下を向く。

 

 喉まで出かかった棘をおさめて呑み込み、彼は心のうちで呟くのみに抑えた。

 

 

 こんなこと、やってられない。

 

 

 この場にこそ自分ひとりしかいないが、自身が配信されていることは知っている。きっと、多くの観客がいるだろう。

 不特定多数の前だ、失態は晒せない。心中にあるこの怒りも悲しみも、表に出したところで面白くなるとは思えない。

 

 望んで選んだ立場でないことなど、了承どころか返答すら訊かれずに連れてこられた独りぼっちの新天地であることを、口に出して何の得があろうか。

 

 前を向かなければならない。

 いま、必要なのは明るさと、分かりやすさ、そして何よりもユーモアだ。

 

「…………あっ、もしかして!」

 

 エンターテイメントにSOSはいらない。

 

「うまくいかないのは、俺が面白くなかったからか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――配信者は面白い。なにせ親しみがある。それに比べて、芸能人や動画投稿者なんかはクソだ。人の形をしただけのコンテンツでしかない。

 

 薄暗い室内、過激な思想、机上には空のペットボトルが列をなす。

 大学に進まず、しかしながら社会に出るわけでもなく。今日も一日を部屋の中だけで過ごす、とある男がいた。

 

 ――配信者は失態を隠しきれない。いつかはアクシデントに見舞われて、必ずどこかでボロがでる。だから面白い。だから人らしい。

 

 彼のパソコンには、開かれた動画配信が四つ。

 時折それぞれの話題に沿ったコメントを書き込んでいる。

 

 ――対する奴らはどうだ。編集で失敗をなかったことにできるのは卑怯だろう。有名人は皆、配信をしろ。十時間くらい連続でな。

 

 顔には歪な笑みが貼り付いていた。

 

 自室に引きこもって、勉学に手をつけないどころか、ネット上ですら人との交流をほとんど取らない。

 強いて言うなら、配信にコメントを書き込んで――十回に一回ほどだろうか――配信者に拾ってもらって反応をされるぐらいのとても薄いコミュニケーション。

 無為徒食の男。

 

 こんな男にも、昔は友達がいた。

 高校時代にひとりだけ、まわりを笑わせて楽しむことを生きがいにしていた人物。何度も話しかけてくれて、友達にしてくれた人。

 長身で、顔立ちが整っており、なぜ自分なんかが何度も一緒に遊んでいたのかいまだに不思議なくらいの人格者。

 しかし、卒業とともにSNSのアカウントは全て削除したので、いまやその人間とも連絡は取りあえない。

 

 卒業式を終えて家に帰り、スマホを投げ捨て、こんなものはいらない! 人間関係など、恥が増えるだけだ! と叫んだ。

 以来、外出したことは一度たりともない。

 

 彼はひとりぼっちだった。インターネットが存在することで、ギリギリ生き永らえているような、そんな孤独の中にいた。

 

 

『はい! じゃあ朝配信はここまで! 今日は……18時、かな? そのくらいからもう一回、配信枠を取りまーす! では、おやすみなさーい!』

 

 現在時刻は朝の10時過ぎ。昼夜逆転した人間の多いゲーム配信者界隈の例に漏れず、そのストリーマーはこれから睡眠をとるらしい。

 

 ひとつ、配信が終わってしまう。新たなライブを探さなければ。

 

 彼は処理しきれないぐらい沢山の情報を浴びつづけていたがった。そうして頭を何かでいっぱいにして、ずっと嫌なことから目を逸らしてきたからだ。

 はじめは二つの配信で充分だったのが、いつしか三つ同時に見れる余裕が生まれ、今では四つ必要になっていた。

 

 みじめだ。心に滲んで浮かび上がってくる本音に蓋をして、何か新しい情景を探す。

 幸い、有志の手によってさまざまなサイトでの日本語配信の視聴者数をランキング形式で一括で比べられる環境が用意されているので、楽しそうなもの探しは手軽にできる。

 

 そうしていると、やがて、ひとつ 目に留まった。外配信だ。

 

 屋外で行われる配信はそこそこ珍しい。外出していると長時間の配信もしづらいし、面白い瞬間とそうでない瞬間のムラができやすい上、近場のヤバい奴が映り込みにくる可能性もある。

 さらには、そんな配信的悪環境をものともせずランキング上位に入り込んでくるほどの人気者であるはずなのに、全く知らない、聞いたことすらないチャンネルであると来た。

 

 最高に面白そうだ。

 ほかの配信を閉じて、それ一つに集中するかどうかを考えるほどに。

 

 チャンネル名、異世界系配信者

 配信タイトル、“異世界日記#4”

 

 配信者界隈の空気感にそぐわない、異彩を放つチャンネル名とタイトル。賑わうコメント欄。存在しないBGMと、代わりとばかりに溢れかえる人々のざわめき。映るのは異国の風景。中央で相対するふたりの男。大きな声で笑う、長身で、顔立ちが整っており、なぜ自分なんかが何度も一緒に遊んでいたのかいまだに不思議なくらいの人格者。

 

『はっはっは! これが言霊の力なんだよねえ!』

 指パッチンの音。

『これで俺の勝ちィ!』

 

 集中するため他の配信を閉じようとしていた手が、あんまりにも驚いたものだから誤ってブラウザそのものを削除してしまった。

 

 ――…………え? え? は?

 

 デスクトップには、催眠で混乱する中で為すがままにされて尊厳を失う女性を描いた、成人漫画の一コマが表示されている。

 混乱して、現状を理解できていない、呆けた表情だ。

 

 ――どういうこと? ほんとに、どういうこと? なんかたまたま開いた配信で友達が言霊がどうのとか言ってるんだけど。




 まえがきで「演者としての自覚と、力もつ者としての義務、そして。」とか書きましたが、続きはありません。万が一続くようなら、この間抜けな男をTSさせます。

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