女神の使徒になった概念的TSは色々と目に毒である(異論は認める)   作:葛城

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これにて完結


エピローグ

 

 

 

 時は少し流れ、まだまだ吐息の一つ一つが白く色づく深夜。

 

 王都を少し離れた外にて、魔法の光に照らされた彼女とエヴァは……優しく振り続ける雪の中で、別れの挨拶をしていた。

 

 

「なにも、こんな夜更けに去らんでもよいではないか」

「挨拶は済ませましたし、湿っぽいのは好きではありません」

「それにしても、帰るといったその日の夜とは……ずいぶんと、慌ただしく去るのじゃな」

「お別れは、スパッと済ませた方が良いのです。縁が有れば、また会えましょう」

 

 

 まあ、別れの挨拶とは言っても、そう大そうな事ではない。

 

 元々、所用が済めばここを去る事は各所に伝えていた。オリバー夫妻とて例外ではなく、そちらには先日、挨拶は済ませている。

 

 お別れとして贈り物を手渡した際、こんなに早くと夫妻は驚いていたが、王都を去ること事態はそこまで驚いてはいなかった。

 

 それよりも、子供たちが寂しそうにしていたのが……で、だ。

 

 

「しかし、本当に良いのじゃな? 廃業手続きその他諸々、全部こっちでやっておくが、やっぱり無しってのは出来ぬぞ」

「構いません。王都へ戻るにしても、かなり先になる話ですから」

「あ~……所用が無い限りは、もう戻ってくるつもりは?」

「当分は、ありません」

 

 

 キッパリと言い切られたエヴァは、苦笑した。

 

 

「なんじゃ、ここが嫌になったか?」

 

 

 その言葉に、彼女も苦笑を零した。

 

 

「住み心地は悪くありませんけど、これ以上そちらのゴタゴタに付き合う義理はありませんから」

「うっ、それを言われると……すまぬ、これ以上は言わぬ」

 

 

 気まずそうに視線を逸らすエヴァ……とはいえ、彼女が苦言を零すのも致し方ないことであった。

 

 というのも、現在の王都……というか、王城内の勢力図は日に日に変化している。

 

 理由は、ダフネ王女が復活し、継承者争いに参加したから。

 

 王女とはいえ、上に兄弟がいるのにそこまで変化するのか……それは、ダフネ王女の資質……すなわち、『スキル』と呼ばれている先天的能力が関係している。

 

 

 ──『スキル』。

 

 

 言うなればそれは、魔法とは根本から異なる、その人だけが持つ特有の魔法であり、鍛練や勉強では絶対に身に付かない固有の能力だ。

 

 このスキルというのはだいたいが特殊な代物である事が多く、魔法の範疇を超えたモノもあれば、あまりに地味すぎて当人すら気付けない……という程度もある。

 

 極々稀に、後天的にスキルを習得する(あるいは、持っていた事に気付く)こともあるが、基本的には生まれ持った能力の一つとして扱われている。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 そのスキルを、ダフネ王女は持っているわけだが……これこそが、王位継承に参戦表明しただけで勢力図が変化する理由である。

 

 つまり、この国にとっては非常に有益で、王位継承権が低くとも王位に就くべきではと後押しされるようなスキルというわけだ。

 

 詳細は3人から語られていないし、『見てもいない』ので、彼女には分からない。

 

 知れば新たな問題を引き起こしそうだし、知らない方が良いよと3人の目がものがたっていたので、あえて聞こうとは思わなかった。

 

 ただ、見当は付く。

 

 知られると色々な意味で問題を引き起こす類であるならば、おそらくは『王位に就くと、自国に何かしらの有益な事象を起こす』といった感じなのだろう……っと。

 

 

「ところで、最後に一つ聞いておきたいのじゃが、良いか? 別に、答えなくても構わんぞ」

「なんでしょうか?」

 

 

 それじゃあ……といった感じで去ろうとした彼女の背に、待ったが掛けられた。

 

 

「ワシが言うのも何じゃが、お主は凄い魔法使いじゃ。正確には測れぬが、ワシよりも高位の魔法使いなのじゃろう」

「……? はあ、ありがとうございます?」

「じゃから、気になっておったのじゃ。お主、なんで魔法を使わぬのじゃ?」

「……???」

 

 

 質問の意図が分からず首を傾げれば、「すまぬ、質問の仕方が悪かったのじゃ」エヴァは苦笑と共に話を続けた。

 

 

 その話はというと、だ。

 

 曰く、『魔法使いと呼ばれる者たちは、高位に成れば成るほど、様々な事を魔法で対応するようになる』らしい。

 

 

 理由は様々だが、一番の理由は、魔法の行使に身体を慣らすため。もちろん、限度はあるけれども。

 

 要は、反復練習みたいなものだ。

 

 車に例えるなら、マニュアル車のクラッチ操作を行う際、ワンテンポ置いてから意識してぎこちなく行うのに対して、熟練者はほとんど無意識かつスムーズに行う……といった感じだ。

 

 魔法もまた同じく、魔法の行使に慣れるのは大事である。

 

 体内の魔力をくみ上げ、必要な術式を唱え、補助具などを使って、必要な分を変換する。神秘的な力であっても、変わらない。

 

 言葉にすると想像し辛いが、やっている事は、そういう事なのだ。

 

 その点に関して、実はエヴァもまた日常的に魔法を使っている。

 

 本を手に取る時、食事をする時、歩く時、荷物を整理する時、書類を作る時、数え上げればキリがなく、ささやかではあるけど日常的に魔法を使い続けている。

 

 そう見えないのは、それだけエヴァの魔法操作が巧みであり、注視しても気付かせないレベルに魔法を操れているに他ならない。

 

 そんなエヴァだからこそ、彼女の在り様が不思議でならないのだという。

 

 

「結局、終始バタバタしていてゆっくり話す機会を逃したワシの落ち度じゃが……神眼を持つほどの魔女が、ずいぶんとチグハグな魔法の使い方をしているのか、気になっておったのじゃ」

 

 

 何事も、土台や順序というモノがある。

 

 ハンドルを握った事がない者がいきなり大型車を動かせないように、魔法の世界でも、素質だけでいきなり魔法を扱えるわけではない。

 

 加えて、魔法というのもまた、本質は変わらない。

 

 使わなければ鈍るし、魔力もまた同様。肉体とは鍛え方が違うけれども、何もしなければ、緩やかに衰えていく一方なのだ。

 

 過去に金メダルを手にしていた選手でも、まともにトレーニングもせずに5年10年と時を過ごした後で、同じ動きを出来るかと言えば想像しやすいだろうか。

 

 

 もちろん、例外はあるけれども……それでも、エヴァは不思議でならなかった。

 

 

 なにせ、『神眼』という、エヴァですらお目に掛かった事がない代物をその身に宿しているのに、それを維持する努力をまるでしていない。

 

 ソレを忌み嫌っているのならばともかく、今も明かりの魔法を使っているし、これまでの応対を考慮すれば、別にそういうわけでもなさそうだ。

 

『神眼』のコントロールを失う様子も、それが衰える様子もなく……なのに、だ。

 

『アイテムボックス』の魔法まで……これをちぐはぐと言わず、どう言い表せれば良いのかエヴァには分からなかった。

 

 

「……ちぐはぐに、見えるでしょうか?」

「言い方を変えれば、中途半端に見える」

「否定はしませんね」

 

 

 明け透けのない感想に、彼女は苦笑を零し……改めて、エヴァへと瞑った眼を向けた。

 

 

「心配してくれて、ありがとうございます。でも、その必要はありません」

「衰えない体質なのか?」

「おおむね、そんな感じです。この身体は、人のソレとは違いますので」

「……人として、生きていきたいのか?」

 

 

 神妙な様子で尋ねるエヴァに、「そこまで、思いつめるような感じではありません」彼女はフフッと笑みをこぼした。

 

 

「ただ、普通に生きているだけです」

「普通?」

 

 

 首を傾げるエヴァに、彼女は頭上にて輝く光球を指差した。

 

 

「暗いから、明かりを点けています。でもそれは、私のためではありません。夜道を明かりも無しに1人で歩いている女なんて、怪しくて怖いでしょう?」

「ふむ、怖いのう」

「親切にされたら、お返しをします。困っている人が居たから、出来うる範囲で手を貸します。何もかもに手を貸せば、結局は相手のためにはならないので、そこまではしません」

「ふむ、道理じゃな」

「傲慢で、うぬぼれで、何様なのでしょう。でも、深く情を掛ければ、その分だけ贔屓ひいきをするようになってしまいます」

「……それの、何が悪いのじゃ? 大なり小なり、誰しもが意識せずにやっている事じゃろう?」

「悪くはありません。ただ、私自身が傲慢なだけです」

 

 

 キッパリと、彼女は言い切った。

 

 

「私が、私を、ちょっとずつ許せなくなるだけです。結局、自分のワガママで誰にも与えない、ただそれだけなのです」

「……ふむ」

「何時かは、開き直れる日が来るでしょう。でも、それは今じゃない。何時になるかは分かりませんけど、私の中で折り合いが付けられるまでの時が流れたら……」

 

 

 そこまで話した辺りで、彼女は小さく首を横に振った。

 

 そこから先の言葉は、まだ早い……そんな言葉が脳裏を過った……のかは、彼女自身にも分からない事ではあったが。

 

 

「それでは、エヴァ様。また、縁に恵まれましたら、お会いしましょう」

「そうじゃな、また機会があれば、会おうぞ」

 

 

 とりあえず、再開を嫌がるわけではない……そんなニュアンスを滲ませて、彼女は緩やかに……深夜の帰路に着いたのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、その背中が暗闇の向こうへと遠ざかり、頭上に輝く明かりも微かに見える程度になるまで、見送った後。

 

 

「……あの~、そこの人」

「ん?」

 

 

 背後から声を掛けられたのは、さあ明日も仕事だから帰って寝よう……と、踵をひるがえした時であった。

 

 見やれば、そこには……美男美女を見慣れたエヴァから見ても、これはと思わず二度見してしまうような、夜をそのまま象ったかのような黒髪が艶やかな美少女が居た。

 

 

 ……だが、しかし。

 

 

 その少女は、不思議な事にパンツ一枚だった。

 

 そう、パンツだけ。まだまだ寒い季節だというのに、パンツだけ。

 

 胸当て(要は、ブラジャー)に当たる物は何も無く、浮浪者や孤児……にしてはあまりに肌が身綺麗な事もあって、一瞬ばかり、エヴァは眼前の光景を理解出来なかった。

 

 

「知っていたらで構わないのですが、先ほどここらを……そうですね、胸がデカくて腰が細くてケツがヤベー感じの美人な姉ちゃん、通りませんでしたか?」

「え……あ、ああ、うん、通ったぞ。というか、少し前に見送ったばかりじゃな」

 

 

 だから、なのか。あるいは、少女の雰囲気がそうさせるのか、分からない。

 

 不思議と、エヴァは……眼前の少女に対して、隠しておかなければならない事など何もないと思ってしまい、本来ならば黙っていなければならない情報を口走っていた。

 

 もちろん、エヴァはそれを理解していた。

 

 理解していたのに、どういうわけか、その事への驚きの類は何一つ無く、当然の事をしたまでとすら思っている己を、これまた不思議な事に……疑問を抱かなかった。

 

 

「えぇ……しまった、出遅れてしまった……」

「……その、寒くはないのか? これでも羽織るが良い」

 

 

 それよりも、なんだかションボリと落ち込む、その姿がどうにも落ち着かなくて、気付けば己が着ているローブを、ふわりと被せていた。

 

 

「おお、温かい……人の優しさが五臓六腑に沁み渡る……!」

「ワシが言うのも何じゃが、こんな夜更けにどうしてそのような恰好で? 見回りはされておるが、1人で出歩いて良い時間ではないと思うのじゃが」

 

 

 当然と言えば当然の疑問に美少女は、ん~、とあごに手を当てて考えた後……ぴん、と指を立てた。

 

 

「博打で、お財布の中がスッテンテンになりました。予定では、馬車の一台や二台は購入出来るはずだったのに」

「えぇ……」

「着ている服やら胸当てやら、靴も取られちゃいまして……さすがに、パンツだけは勘弁してもらいました」

「おまえ……もうちょっと、後先考えた方が良いと思うぞ」

「マザーにも時々言われます……まあ、私ってば分体ですので、文句は本体に言えって感じですけどね」

「……???」

「それじゃあ、エヴァさん! 御親切にどうも、このローブはありがたく頂戴致します」

「え、あ、うん、どうぞ、風邪を引くでないぞ」

 

 

 何を言っているのか分からず首を傾げているエヴァを他所に、美少女は朗らかに笑うと、外へ……彼女が消えた、暗闇の向こうへと駆け出していった。

 

 

「……あれ、名前を名乗ったか、ワシってば?」

 

 

 そのまま、あっという間に姿が見えなくなったのを見送ったエヴァは……何が何だか分からない一時を振り返り……困惑に首を傾げるばかりであった。

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………行きも静かではあったが、帰りもまた静かだ。

 

 

 行き先は、自宅。

 

 

 あの男の母親が眠る地へ向かう前に、一旦自宅へ戻ると決めたからで……彼女たち以外には誰も居ない、静まり返った夜道の途中。

 

 ここから先は、エヴァたちも知らない、1人の使徒と、誰にも見えていない書物の雑談。

 

 

『……薄々察してはいましたけど、貴女って大概頑固な御方ですね』

 

 

 傍目には、独り言を呟いているようにしか見えない……しかし、そうではない。ちゃんと、そこには居るのだ。

 

 そして、不可視モードを続けている賢者の書からの評価に対して、彼女は……あえて、否定はしなかった。

 

 

『いったい、何が楽しいのですか? まるで仙人、世捨て人のような生活を送って、寂しくはないのですか?』

「寂しい……それは、否定しません」

『でしたら、もう少し外へ出てみれば良いのでは?』

「それは、早いと思います。少なくとも、今はまだ」

 

 

 けれども、否定すべきところはちゃんと否定する。

 

 

「外には出ます。いえ、出るべきなのでしょう。きっと、この世界には私の力を必要としてくれる者が大勢いると思います」

『それは、まだ早い、と?』

「短い間ではありますけど、王都で過ごしてみて実感しました。良くも悪くも、今の私は注目を集めてしまいます」

『そりゃあ、そうでしょうね』

 

 

 ジロリ、と。

 

 

 おそらく、賢者の書が人の形を取っていたら、その視線は……ローブで隠された、彼女の胸部に向けられていただろう。

 

 女神より与えられた美貌(そりゃあ、そうだろう)もそうだが、なんと言っても目立つのはそこだ。

 

 良くも悪くも、恵まれた容姿は人の注目を惹きつける。特に、女の場合は男の比ではない。

 

 今回は王都の、それも王の目と耳がある場所だったので、その手の問題は起きなかったが……これが辺境の町とかだったなら、間違いなくちょっかいを掛ける者が続出しただろう。

 

 ……いくら賢者の書からのアドバイスがあったとはいえ、だ。

 

 肌を見せる衣装を着ることを承諾した理由の一端に、そういう計算を働かせていたのは……まあ、暗黙の了解みたいな話であった。

 

 

「思ったままに動くだけで、そうなりました。きっと、長く過ごせば過ごすだけ、新たな騒動を私は起こしてしまうでしょう」

『う~ん、それはちょっと悲観的では?』

「いいえ、むしろ、楽観的に考えておりました。こうして穏やかにお別れが出来たのは、人に恵まれたからだと思います」

 

 

 だからこそ──彼女は、微笑んだ。

 

 

「ちょっとずつ、です」

『ふむ?』

「ちょっとずつ、進んで行こうと思います」

 

 

 なにが……とは、賢者の書は尋ねなかった。

 

 

『……気の長い話ですね』

「優柔不断で、すみません」

『なんの、その程度……女神様のお休みタイムに比べたら、瞬きよりも短い時間ですよ』

 

 ──まあ、ゆっくりやって行きましょう。今は、何をやっても効果は薄いでしょうし。

 

 

 その言葉を、賢者の書は言葉にしなかった。

 

 

『せっかくです。貴女がどのように納得するのか……それを見届けるまで、御同行させていただいても?』

「ええ、構いませんよ」

 

 

 ただ、少しばかりの間……こうしてウジウジと足踏みを続けている臆病者を、一歩引いて眺めているのもまあ……悪くはないなあ、と思ったのであった。

 

 




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