もしも奇跡のグラオザームがフリーレンに『クリスマス終了のお知らせ』の幻惑魔法をかけていたら 作:シャブモルヒネ
原作:葬送のフリーレン
タグ:クリスマスネタパロディ メタ知識あり 巨人の星 ブレンパワード ゴジラVSアウラ予告編
女神の石碑。
その正面で、一人の少女が小さな手を合わせて微笑んでいた。
「不可逆性の原理。時間は決して巻き戻らない……」
華奢な体躯。清楚な衣装で身を包み、すれ違えば誰しも振り返るような可憐な容姿をもっていた。……ただしその頭に二本の角さえ生えていなければ。
魔族なれど異名なし。
無名の大魔族ソリテールがそこに居た。
「これは過去編よ。原作でいうところの第116話から第118話あたりのエピソードにあたるわ」
「……何を言ってるんだ、ソリテール?」
背後から現れたのは3人の魔族。
血塗られし軍神リヴァーレ。
奇跡のグラオザーム。
終極の聖女トート。
グラオザームは能面のような顔つきのまま僅かに首を傾けた。
「あなたはもともと奇妙な研究に没頭する変わり者の魔族でしたが……奇行に磨きがかかったようですね」
「いいえ、私は新たな知見を得ただけ」
ソリテールは調子を崩さない。
含みのある笑みを浮かべたまま指を夜空に指し示す。
「私はね、上位世界の知識を得たの」
「……なんですか、それ」
「日本という国。小学館。週刊少年サンデー。私たちの世界とは文字通り次元の異なる上位世界……未だ解析はできないけれど、その膨大な情報から私たちに向けられる何者かの意思を私は受け取ったわ」
「というと?」
「私たちはクリスマス企画を始めなければならない」
「??」
「あのー、さっぱり意味が分からないんだけど」
褐色肌の乙女トートは唇を尖らせるが、ソリテールはにべもない。
「トート。あなたは帰りなさい」
「え。どうして?」
「どうせ帰ると決まっているのだから帰りなさい。一発ものの短編に余計な描写を入れている余裕はないの。ほら、帰って帰って」
「ちょっと何言ってるか分からないなぁ」
「俺は、戦えると聞いて来た」
「はいはい、リヴァーレお爺ちゃんは戦いましょうね」
「……ソリテール。その『クリスマス企画』とやらは魔王様のご意思なのですか?」
「いいえ、グラオザーム。でもこれは必要なことなの」
「ふむ……」
「俺は勝手に踊るだけだ」
「どうぞリヴァーレ、あなたはそれでいいわ」
「私は?」
「トートは帰って」
「そればっかり。私なんのために呼ばれたの?」
「もう。巻いていかなきゃいけないのに。仕方ないから原作通りに説明するけど――」
~説明中~
「――ふ~ん……。馬鹿馬鹿しいから、私帰るね」
トートは帰った。
「ふう。これでノルマ達成ね」
「何がなにやら分かりませんが……」
「これはね、グラオザーム。無数に並列化された可能性の一つなのよ。二次創作におけるコメディ化。分からなくても無理はないわ。私だって上位世界の住人たちが何を望んでいるのかなんて理解できないもの」
「まあいいでしょう。それが魔王様のご意思に沿うなら従います」
「そうこなくちゃ。じゃあ作戦を話すわね。といっても内容は原作とほとんど変わらないわ」
「さっきから言っているその『原作』とは何なんですか……?」
「気にしないで。とにかく、あなたに楽
@
気がつけば、フリーレンは不思議な部屋にいた。
大きなテーブル、豪勢な料理が並んでいる。
自分は来客を待っている。
周囲を見回してみた。
派手な飾り付け……色とりどりの星や玉が付けられたもみの木が目をひいた。あれはそう、確かクリスマスツリーというやつだ。そのはずだ。
ローソクの灯。ぼんやりと周囲を暖めている。
サンタクロースの赤い靴。童心を呼び覚ましてくれる。
電飾の明滅。テーマパークにいるようで気分が盛り上がってくる。
いや、嘘だ。
ぜんぜん盛り上がってこない。
むしろ独りでクリスマスを過ごしているという現実に胸が押し潰されそうになってくる。
「あれれ、どうして誰も来ないのかな」
おかしいな。
こんなはずじゃなかったのに。
「ちゃんと皆に招待状を送ったんだけどな……」
遥か彼方から声が聞こえてくる……
『フリーレンがクリスマスの招待状? ははは、これは傑作ですね。ははは……』
『それで? ハイター様は行かれるんですか?』
『クリスマスケーキを食べにどうして大陸の北までフリーレンを探しに行かなきゃならないんです? というか手紙届いたの今日ですし……。そもそもですね、フェルン。私は史上最も魔族を殺したフリーレン、それ以外のフリーレンにはまったく興味がありません』
また別の場所からも声が……
『なあアイゼン師匠、フリーレンからクリスマスの招待状が来てただろ? 行かなくていいのか?』
『シュタルク、お前のほうが先約だったからな』
『わあーい! エルフなんか止めとけ止めとけー!』
(……フリーレン、俺はもう老人だ。遠出できないと言っただろう。お前が他種族に配慮できるようになるまで俺は心を鬼にするからな……)
……
「なんだろ、今の声」
かっちかっちと壁時計の音だけが響いている。
「まいっか。とりあえずケーキ食べよ」
と、ドアがノックされる。
ザインだった。
「おお、フリーレン。ここだったか」
「あ、ザインか」
「今日の昼間、お前にハガキが来てたんだ。ハイター様とアイゼン様からだぞ。それじゃ」
受け取って、読んでみる。
――フリーレン。今日はこのハイター、命をかけて酒を浴びるように飲みたいと思います。お酒のないクリスマスパーティになんて参加しませんからね。
「……なにこれ? 次はアイゼンのだけど」
――メリークリスマス! ……こんな言葉はドワーフには不要だ。俺とお前の間で交わされる言葉はこれ一つ。『借した金返せ』
「???」
なんだろう。
何かがおかしい。
どうやら私はハイターとアイゼンにクリスマスパーティの招待状を送っていたらしい。
そして来なかった。
それだけの話だが、随所に違和感があった。
まず目の前にある豪勢な料理と巨大なクリスマスケーキ、これを用意したのは誰だろう?
面倒くさがりの自分がこんな手間をかけたものを作るわけがないし、買うにしてもそんな路銀を余らせるような金銭管理はできた試しがない。
そしてクリスマス。
自分はそんな宗教行事を率先して行うようなエルフだったっけ。
大体この手元のハガキだってそうだ。
自分は招待状なんて書かない。
いちいち他人を呼んだり呼ばれたりなんてしないからだ。顔を見たくなったら10年後や20年後にでも気が向いたときに会いに行けばいい。
「なんだろ、なーんかおかしいなあ……?」
@
「……ねえ、グラオザーム」
「なんですか」
「私たちの想像以上にフリーレンは薄情だったみたいよ。クリスマスパーティにハブられた程度では何も感じない。どうやら喪女の孤独耐性を甘く見すぎていたようね……」
「またわけの分からないことを言わないでください。全てあなたの発案なんですから」
「う~ん、困ったわ。上位存在によるとこの巨人の星メソッドは灰色の青春時代を送った者には相当効くはずなんだけど……。とりあえず続けてみましょうか」
「はあ。いいですけど、本当にコレ効くんですか……?」
@
バァン!
大きな音を立てて扉が開かれる。
「あれ、ゼーリエ? どうしたの?」
「フリーレン、お前に電報だ」
「電報……? 神話時代の連絡手段かな?」
「いいから受け取れ。話が進まない」
「うん。……話? え?」
ゼーリエはいつの間にか居なくなっていた。
手元には電報とやらだけが残っている。
読んでみる。
――ザンネン ユケヌ。
はて、と首を傾げてみる。
「だからなに?」
クリスマスに会えなかったからなんだと言うのか。
次の月に会うのではダメなのか。
次の年に会うのではダメなのか。
もし誕生日ぐらい大切な日だというのならそれこそまた次の年に祝えばいいし……3年後でも、5年後でも、10年後でもいいじゃないか。
今日このときではなければいけない理由なんてない。
バァン!
「ヒンメルはもういないじゃなーい!」
「次はアウラか」
じゃじゃーん! という効果音とともに現れたのは、推定年齢500歳以上にしてド派手なコスプレ衣装を着こなした大魔族。肩と背中とおまけにヘソまで丸出しにしたボディライン丸わかりのぴっちりバニーガールめいた服とプリーツのきいた白いミニスカートを年甲斐もなく身にまとい、ふふんと笑みを浮かべて仁王立ちしていた。
「ふっふっふ、私はかの有名な七崩賢、アウラ・ザ・ギロチン!」
「お前そんなキャラだっけ」
「ヒンメルはもういないじゃない! 何故ってあなたが50年も放置していたからじゃない。人間の寿命は短いって知っていたのに気持ちを伝えるどころか会いもせず……もうヒンメルとは永遠にクリスマスパーティできないじゃない!」
「あ、うん」
「ふっふっふ。ハイターもアイゼンも来なかったじゃない。それも当たり前じゃない。クリスマスは人間同士でやるものじゃない。あなたがこれだけの支度をしていても誰も来ない……それは皆があなたを人間関係を疎かにする薄情な魔法オタクだって知っていたからじゃない!」
「いや別に支度してないけど。あと魔法オタクじゃないし」
「オタクはクリスマスしないじゃない!」
「こいつ面倒くさいな……」
「なんならどうかしらフリーレン? オタクはオタク同士、イケメンVtubaerのクリスマス生配信で投げ銭コメントしようじゃない? 『彼氏になってえええ』『耳が孕むうううう』ってね!」
「お前そんなコメントしてたのか」
「さあ、魔法以外取り得のない魔法オタクのために乾杯よ! メリークリスマス! ふっふっふ……メリークリスマスじゃない!」
「言ってて悲しくならない?」
@
「グラオザーム」
「なんですか」
「このアウラは出来損ないよ。本人も地獄で泣いているでしょうね」
「あなたの発案ですよね?」
「魔族は過去を振り返らないわ。次のメソッドに行きましょう」
@
バァン!
「今度は誰……あっ」
ふあさっと前髪をなびかせる好青年をフリーレンは知っていた。
魔王討伐の功労者、自称イケメンの銅像狂い……ヒンメルが堂々と立っていた。
「ヒンメルがいるじゃなーい!?」
さすがのフリーレンも目を見開いて驚いた。
ずっと会いたかった男がそこに居た。
つい数週間前の本誌で会っていたような気もしたがそこはまあいいだろう。とりあえず感動しとけとばかりに肩を震わせておく。
「ヒンメル、久しぶりだね……」
だがヒンメルは一言も喋らなかった。
それどころかぴくりとも動かない。まるで電源の入っていないロボットのようだ。
不思議なところは他にもあった。なぜか名無しの少女魔族を肩車している。
「おかあさーん」
フリーレンには見覚えがあった。
かつてどこかの村長をずばっとヤっちまったボロ服の魔族だ。
「おかあさーん。ふふ、まるで魔法のような素敵な言葉……」
意味が分からない。
分からないのでとりあえず無視しよう、とフリーレンは思った。
「ヒンメルどうしたの? 来れないって電報だしてたよね?」
バァン!
腐敗のクヴァールがあらわれた!
「なるほどのう……家族や友人同士が集まって楽しく会食するのがクリスマスか……。メリクリじゃのう……」
「お前は呼んでないんだけど」
「くく……招待した友人が来ないのはさぞ辛かろう? 地獄から
「こいつ最悪なんだけど」
クヴァールの開発した貫通魔法。ぼっちのやせ我慢を貫通するのはもちろん恋人がいない劣等感さえも刺激し、精神を直接破壊する魔法だ。
「『
しかしフリーレンには通じない。
「ほう……驚いたな、ゾルトラークが効かないとは。ずいぶん煽られ慣れているみたいだのう」
「クヴァール。お前の魔法は強すぎたんだ。インターネットが普及されてから、日本中の2ちゃんねらーはこぞって誹謗・中傷・対立煽りを研究した。わずか数年で
「ほう、スルーできるのか」
「『
「フ、フリーレン……儂の魔法を……」
「おかあさーん」
「ヒンメルが居るじゃない……。こういうときどんな顔をしたらいいか分からないじゃない……」
「あ~もう、うっさいなあ~害獣ども。しっしっ」
フリーレンも少しずつではあるがこの摩訶不思議な現状を受け入れつつあった。
ここはおそらく、夢なのだ。
変なことが当たり前のように起きている。
だから自分も好きなようにやっていい。見たいものだけ見て、ウザいものは排除してみようと思う。
まず始めに、と隣のピンク頭に向き直る。
「アウラ、ゴジラを倒してこい」
「え……そんなの無理……あっちょっと
きゅいんきゅいんきゅいん
アウラはドアから出ていった。
おそらく太平洋あたりに向かったのだろう。
「クヴァール。お前もどっか行け」
「来たばかりの老人にひどいのう……。覚えているか、フリーレン? お前が儂に招待状を出してくれたことを……」
「出してないって言ってんでしょ。ボケたかジジイ、また封印するぞ」
「辛いのう、辛いのう……」
クヴァールは肩を落として去っていった。
「さて、最後は」
フリーレンの冷たい視線にボロ服魔族がびくっとのけぞる。
「うっ……。お、おかあさーん」
「私はお母さんじゃない」
「ミレニアム級の喪女ですもんね」
「ゾルトラー」
「ちょ、待ってください。私を排除したらヒンメルはバグりますよ」
「普通に喋れるじゃん」
「ヒンメルが私を肩車しているのはオーガニックな定型文を完遂させるために必要な要素だからです」
「何言ってるか分からない。ほい、ゾルトラー、」
すると突然、それまで棒のように突っ立っていたヒンメルからブレンなパワードが溢れだしてきた。
「な、なんだ? この、げっっそりする感覚は!」
「あ、ヒンメルが喋った」
「クリスマスプレゼントだろ!!」
「わ。なに?」
ヒンメル、動いたと思ったらマシンガンのように喋りだす。
「悪いようにしないなんてずっと言ってきたじゃないか! だけどいつもいつも裏切ってきたのがママンだ!」
「ちょっ、え? ままん……?」
「27歳と28歳と29歳のときと、30歳と31歳と32歳のときと……!」
「ヒ、ヒンメル?」
「33歳と34歳と34歳のときと、35歳と36歳と37歳のときと……!」
「あの」
「38歳と39歳と40歳のときと、41歳と42歳と43歳のときと……!」
「こわ……何なの?」
ヒンメルがバグってしまった。
雑な展開にフリーレンは慄いた。唾を飛ばしながらひたすら年齢を並べていくヒンメルの顔は鬼気迫るものがある。こんな顔、見たことがないとフリーレンは思った。まるで何十年も抱えてきた恨みを吐きだすような表情を向けられてしまっては、いくら夢の中とはいえフリーレンも穏やかな心地ではいられない。
「あーあ。始まっちゃいましたね」
溜め息を漏らしたのは、肩車されている魔族の少女。
魔族のくせにどこか悲しげに眉根に皺を寄せている。
「これはバグではありません。勇者ヒンメルの嘆きなのです」
「……どういうこと?」
「ヒンメルは、ずっと待っていたんですよ」
「何を……?」
「まだ分からないんですか?」
61歳と62歳と63歳のときと……
64歳と65歳と66歳のときと……
『待っていた』
『ずっと』
それはつまり、今数えられている年齢分だけ何かを待っていたということだろうか。
67歳と68歳と69歳のときと……
70歳と71歳と72歳のときと……
どんどん吊り上っていく年齢に、嫌な予感があった。
ヒンメルが死んだのは何歳だったのか。
それまで待っていたのは誰だったのか。
そんなこと、他ならぬ自分自身が一番よく知っていた。
「73歳と74歳と75歳のときも、僕はずっと……待ってた!」
「何を……」
「フリーレン、君をだよ」
50年間――
それは人間にとってどれだけ永い時間だっただろう。
「ごめんね、ヒンメル」
「いいさ。……フリーレン」
「うん。分かってる」
本物のヒンメルならきっとこう言うだろう。
真っすぐに、杖を天へと向けた。
「撃て」
攻撃魔法を解き放つ。
虚構の天井を突き破り、世界全体に亀裂が走った。
「……やっぱりお前か、グラオザーム。こんな幻惑魔法をかけられるのはお前ぐらいだ」
突然のシリアスじみた展開にグラオザームは困惑した。
おかしい、これはコメディではなかったのか。
メタ知識を持っているはずのソリテールに助言を求めようと目を向けたが、
「……いない」
すでに離脱した後だった。
彼方より声が反響する。
「ふふ……。こうなってしまってはぶっ飛ばされて夜空の星にされるのがコメディもののお約束。そうならないためには黒幕めいた捨て台詞を響かせながら姿を消してしまうのが一番なのよ……なのよ……なのよ……」
「どうやら君は置いていかれたようだ、グラオザーム」
正面にはヒンメル、そしてフリーレン。ハイターもいる。
さすがの七崩賢も勇者パーティの三人を同時に相手すれば無事ではすまない。
「困りました。どうやら奥の手を使わなければならないようですが……原作にない描写をしてしまうと後で原作に刺されるようですし……ま、コメディ化しているなら死なないでしょう」
「勇者ヒンメル斬りーっ!」
「なんですかその適当な技名は~~っ」
きらーん。
夜空の星になった。
「ふっ。勇者といえど原作に無い技は出せないのさ」
さて、とヒンメルは振り返る。
フリーレン、ハイター、そして戻ってきたアイゼンに向けて、爽やかに笑みを浮かべた。
「……みんな、今からパーティをしないか?」
「ここで?」
鬱蒼とした森の中。月明かりは頼りない。
ここにはグラオザームの幻影にあったような飾り付けられたクリスマスツリーもないし、サンタクロースの人形も赤い靴も電飾の明滅も見あたらない。
けどね、とヒンメルは旅の荷袋を漁りだす。
「ここには君たちがいるじゃないか」
取りだしたのは、ぺらぺらの干し肉。
「これが僕たちの七面鳥ってわけさ」
「なんとも淋しいメニューですね」
ハイターも荷物を漁る。
「やっぱりお酒がないと始まりません」
「生臭坊主め」
アイゼンは即席の焚火をつける。
「どうした、フリーレン。座らないのか?」
手が差し伸べられる。
火はゆっくりと燃え、その暖かさに誘われるようにフリーレンも車座に加わった。
「こういうのも……いいかもね」
「だろう?」
簡素な木のコップに酒が注がれていく。
全員が目を合わせ、一斉に掲げた。
「今日という夜に、乾杯!」
夜は更け、星たちは闇夜を照らす。
冒険者たちのかけがえのない一瞬を優しく見守っていた。
@
「――で、大丈夫、グラオザーム?」
「ええ、もう平気です。……ソリテール、一つだけ聞かせてください」
「なあに?」
「あなたが語った上位世界の法則によれば……今回のようなふざけた舞台設定で私たち魔族陣営が勝つことは初めから不可能だったのではないですか? あなたほどの大魔族がそれに気付かないとは思えません」
「そうね。確かに私はすべて分かったうえでこの茶番劇に参加した。……何故だと思う?」
「さあ」
「私の目的はこんな小さなifストーリーの結末なんかにはないわ。これはただの足がかり。もっと多くの上位者たちから存在を肯定されることにより並列化された別世界に私という存在を拡張しようとしているの」
「分かるように言ってください」
「ミームになるのよ、グラオザーム。私という存在は小説になり、イラストになり、解説動画にとりあげられて……いずれは小学館公認のスピンオフ企画の主人公となり、不滅の存在へと至るのよ。……ねえ、とっても素敵な野望だって思わない? だからあなた、私をもっと書いて、描いて、増やしていってちょうだい? 約束よ」