「ディバイン………バスター!」
なのはの砲撃が、周囲を巻き込みながら直進する。
相変わらずの威力に圧倒される。
楽しかった旅行も終わり、俺たちはいつもの毎日に戻ってきた。
フェイトとの一件があってから、なのはは今まで以上に魔法の練習に打ち込むようになった。
俺を背中に乗せた状態での射撃、ミラージュハイド中の攻撃魔法など、以前は難しいとしていた技能はすでに身についており、フェイトとの再戦に向けて順調に準備が進んでいる。
レイジングハートが提案した一通りのメニューをこなし、一休みしている時のことだった。
突然なのはは俺を抱きしめ、ミラージュハイドを発動した。そして何もない空間に向かってバインドを生成する……設置型の拘束魔法もあるのだと知った。
一体どうしたんだと思い口を開いた瞬間、なのはは指を立て「しーっ」とした。
一人の男性がトラップにかかったのは、その直後のことだった。
「……あなたは誰?」
なのはは二重・三重にもバインドを補強し、男を強力に拘束する。
その男はなのはと同じように魔法の武器と思われるものを握っており、彼もまた魔法使いの一人であることは間違いない。
レイジングハートが砲撃モードになった。なのはは魔力を込めて、ディバインバスターのタメに入る。非殺傷設定を変えていないことは明らかなので、俺は特に止めることをしない。
状況的に、この男がこちらの命を狙っている可能性も大いにある。こんな山の深いところで音もなく近寄ってきたのだから、敵であると見做すのは当然のことだ。少々荒っぽいが、倒してしまってから話を聞く方が安全だろう。
以前俺は「魔法を使えなくする方法」を聞いたが、その回答をレイジングハートが出してくれた。曰く、非殺傷設定で攻撃魔法をぶつけてしまえばいいらしい。物理破壊を伴わない魔法は、その対象の魔力にのみ損害を与えるため、一定以上のダメージを入れれば結果的に魔法の力を奪うことになるそうだ。
「ま、待ってください!」
その時、女性の声とともに何もないところにモニターが現れた。
あまりにも突然すぎて、俺となのはははっとする。
「私たちは時空管理局です。今日は、ジュエルシードのことについて調査に来ています。お二人に危害を加えないことはお約束します。お話だけでもさせてもらえませんか?」
「……は?」
唐突に出てきた意味不明のワード。胡散臭さに俺は思わず聞き返した。
「そちらのクロノに代わって、先ほどの非礼は謝罪します。しかし、ジュエルシードはとても危険なロストロギアです。どうかご協力いただけないでしょうか」
女性はモニター越しに頭を下げてきた。
どうも話についていけない。時空管理局って何ぞや? そもそもこの人は誰?
「えっと、俺は吉村嶺人っていいます。こっちは高町なのはです」
「……失礼しました。私は時空管理局の『リンディ・ハラオウン』という者です」
リンディと名乗った彼女は、俺の目からすると悪い人ではないように見える。
うーん、なんとなく信じてもいい気はする。というか、信じないと話が進まない。
こんな謎のテクノロジーで連絡を取ってくるような組織である以上、相当な戦力があることは容易に想像がつく。敵か味方かもわからない段階で不興を買うのは得策ではない。
なのはは何も言わず、俺の発言を待っている。少し考えてから、俺は口を開いた。
「わかりました。協力します」
「ありがとうございます。クロノ、案内してあげて……あの、ごめんなさい。そろそろバインドを解除してもらってもいいかしら?」
「ああ、忘れてました。なのは、解除できる?」
なのはは俺の言葉を受けて、クロノと呼ばれた男性を解放した。
あくまでも俺の指示にしか従わないらしい。
「はぁ。説明もなく近寄ったこちらに非があったことは認めるが、さすがに手荒すぎるだろう」
「クロノが設置型に引っかかるなんて、珍しいわね」
こうしてみると、男性は意外と若いというか幼かった。
それでも俺たちよりはるかに年上だが、まだ中学生ぐらいだろうか?
「すみません、艦長。攻撃は無いだろうと油断していました……急に気配が感じられなくなり、焦ってしまった部分もあります。まさか、あそこまで完全に消えるとは」
「そうね。あの魔法、隠密系ではかなりのものじゃないかしら」
雑談をしながら、彼は魔法陣を起動した。しばらくしてから俺となのはの肩にポンと手を置いて、そして……意識がふわっと飛んだ。
非日常の世界へ、どっぷり浸かってしまうことになりそうだ。
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ワープした先は異様な空間だった。
巨大な建造物の内部と思われるこの場所は、お世辞にも居心地がいいとは言えない。
若干の揺れを感じる。先ほどリンディが「艦長」と呼ばれていたことを考えると、ここは船の中だろうか。それにしては外が暗い。昼か夜かさえもわからず気味が悪い。
「ようこそ、『アースラ』へ」
俺が戸惑っていると、リンディが声をかけてきた。
「ここはどこですか?」
「次元空間の狭間。地球の外、と言えばわかりやすいかしら」
「……でも、宇宙ではない」
「ええ、そういう物理的な意味ではないわね。まぁ、このあたりを話すと長くなってしまうから、それはまた今度にしましょう」
そう言って、リンディは俺となのはを先導するため歩き出した。
二人で頷きあってからその後を追っていく。
歩いている間、俺はいろいろと考える。考えても無駄だと思うが、これは癖のようなものだ。
ここまで大掛かりなものが存在する以上、彼らの言う「時空管理局」の存在は疑いようもない。言葉の意味からして、それは時空を束ねる警察のような組織であるのだろう。
リンディはジュエルシードについて話を聞きたいと言った。彼らもアレを集めているのだろうか。もしかすると、願いを叶える力を危険視しているのかもしれない。
案内されたのは、和室のようで和室ではない変な部屋。俺となのはが入ったのを確認してから、後ろにいたクロノが扉を閉めて去っていく。
手招きでソファに座るよう促されて、俺となのはは緊張しながら着座した。
「まずは、話を聞いてくれてありがとう。単刀直入に言うわ。あなたの持っているジュエルシードを、私たちに引き渡してほしい」
リンディが話しているのを、なのははどうでもよさそうに聞いている。
今日も俺がやり取りする方がよさそうだ。
「その目的を教えてください」
「わかった」
当然、この質問が来ることはわかっていただろう。
リンディはモニターのようなものを起動させて、説明を始めた。
ジュエルシードという物体は、正式には次元干渉型エネルギー結晶体というらしい。
合計21個存在するこのアイテムを、時空管理局は「ロストロギア」に指定している。ロストロギアというのはいわば危険な落とし物のようなもので、リンディたちはこれを回収する任務を命じられてこの地球へやってきたのだそうだ。
ジュエルシードは、使い方によっては世界を消滅させられるほどの力があるという。これによって引き起こされる「次元震」は地球のみならず他の次元世界を崩壊に導く可能性すらあり、そしてその危険度はジュエルシードの個数に応じて指数関数的に跳ね上がっていく。
説明を聞いて、俺はフェイトのことを思い出した。
フェイトの母はジュエルシードを大量に収集している。こんな危険なものを、一体何のために集めようというのか。まさか、本当に世界をぶっ壊すことが目的なのか?
「……ジュエルシードを集めている人がいるんです」
「それは本当?」
「ええ、目的はわかりませんが」
リンディは驚いたようで、一度視線を外した。そして指先でもう一つのモニターに文字を打ち込んでいく。部下に向けて、何か指示をしているのかもしれない。
「なのは、どうする?」
「わたしはどっちでもいいの。もう願いは叶ってるから……」
ぎゅっと俺の手を握る。
「わかった。じゃあ、ジュエルシードのことはこの人たちに任せちゃおう。リンディさんも、それでいいですよね?」
「ありがとう。今後、散らばったジュエルシードの回収は時空管理局が全権を持ちます。そちらのデバイスを少し借りてもいいかしら。ついでといってはなんだけど、メンテナンスもしておくわ」
なのはは黙ってレイジングハートを渡した。
待っている間、俺たちはアースラの中を案内してもらうことになった。
スタッフの人々は、すれ違うたびに物珍しそうな顔で俺たちを見る。なんだかくすぐったい。
「これは何ですか?」
俺は一つの装置を指さした。
その機械は、複数のコンピュータのような装置につながれている。
「それは魔力測定装置よ。回収したロストロギアの危険度を判定したり……今は、隊員の疲労度を測るために使うことが多いかしら。魔力が枯渇すると大変だから。試しに触れてみる?」
リンディに勧められて、俺は測定装置の中心部に手を置いた。
一瞬、身体がピリッとした。奥底に眠る力が引き出されるような感覚。
「……あら、珍しい」
数秒間の後、機械の上部が淡い白色に光った。
「これで終わりですか?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっと意外な結果だったかも。ふふっ」
リンディは薄く笑って、俺の手を取る。それを見たなのはがむっとする。
いやいや、そういう意味ではないから。
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ジュエルシードの取り出し作業を終えて、レイジングハートがなのはの元に返却された。何か状況が変わった場合に連絡を取り合うことを約束した後、俺たちは海鳴に帰される。
「……あー、やっぱり地球が一番だ」
人生の中でこんなコメントをする日がくるとは思わなかった。
不思議と周りの風景が今までよりきれいに見える。太陽は偉大だ。あんな環境で長期間生活しているアースラクルーの人たちはすごい。俺にはとても耐えられそうにない。
アースラにおいて、なのはは終始つまらなそうにしていた。しかし、ジュエルシードの問題から解放されたこと自体は嬉しいようで、機嫌は悪くない。
「これで、二人の時間を奪われなくて済む。わたしはそれが一番なの」
ニコニコと笑いながら、俺に向けてそう言った。
もちろん、俺もそうなることが一番だと思う。なのはにはなるべく平和に日々を送ってほしい。だから、リンディたちがジュエルシード絡みの問題をすべて引き受けてくれたことは、非常にありがたいことである。あっちで勝手に解決してくれれば最高だ。
……だけど、そううまく行くだろうか。これで万事解決とはとても思えない。
頭によぎるのは、やはりフェイトのこと。時空管理局に目をつけられる形となった彼女は、今後どうなるのだろうか。母のためにジュエルシードを集めることは何があってもやめないだろう。だが、事情を知らない者からするとそれは単なる「犯罪行為」であり……
「疲れた」
「にゃ、疲れたよね。おうちに帰ろっか」
なのはは俺を乗せて、夕日が眩しい空へと飛び上がった。
その時、自分の指先が白く光っていることに気づく。
「……魔力資質、ねぇ」
リンディの言う「意外な結果」。それは、僅かながらも俺の身体に魔力が流れているということ。彼女はあの後、魔法の資質は『リンカーコア』の有無が左右すると話していた。それを持つ人間自体、地球においてはほとんど存在しないらしい。しかし、現実として目の前にいる子供は二人ともリンカーコアを持っている。その状況が意外であり、面白いと彼女は感じたのだ。
だからといって、俺は特に嬉しくならなかった。なぜなら、その後なのはも同様に魔力測定を行ったからだ。なのはの持つ魔力は……俺の数万倍レベル。「測定器が壊れるかと思ったぐらい」とリンディが目を丸くするほどの力を持つなのはを、圧倒的弱者である俺が助けることができるシチュエーションなんて存在しないだろう。そんな中途半端な力、無いのと一緒である。
そもそも、力の源流があるからといってどう使えばいいのか。俺にはレイジングハートがない。力だけ持っていても、それを活用できるものがなければ無用の長物だ。
「はぁ~」
微妙な気分と一日の疲れが合わさり、俺は大きなため息をついた。