目岩ファミリー全員無事前提 「水木家による探偵事務所(専ら怪異退治)との遭遇」(https://syosetu.org/novel/332959/1.html)から続きました 夏休みの宿題を初日で終わらせた帰宅部でひとりぐらしの利守は、暇を持て余し「そうだ、バイトしよう」と決めてアルバイト求人を検索したが……
pixivより転載

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【ゲ謎×結界】夏休みのバイトは水木探偵事務所による怪異退治のお手伝いです

 大して友人のいない独り暮らしの男子高校生の夏休みは、暇である。

 特に初日で宿題を終わらせてしまった帰宅部の僕の場合、やることがなかった。

 ならば帰省すればいいのでは? という問いかけは愚問だ。僕は実家にいたくなくて家を出たのだ。

 さて、ならばどうするか。

「『夏休み 短期バイト』っと……」

 スマートフォンでアルバイト探しである。今の世の中はこの薄くて小さい板があれば大体何とかなる。検索エンジンをスワイプしながら、僕は夏休みいっぱい暇を潰せるアルバイトを探したのだった。

(割の良いのはもう塞がってるよなぁ)

 そう思いながらアルバイト情報サイトのページを繰る。僕としては暇を潰せればそれでよかったので特別割の良いものは求めていなかったが。できれば面白いアルバイトが良い。洒落怖のリゾートバイトのようなものはさすがにどうかと思うが……そんなことを考えていると、ある記事が目についた。

『探偵事務所 事務手伝い募集』

 探偵事務所がアルバイトを募集しているのは少し面白かった。ただ、備考欄に気になる一文がある。

『霊感のある人大歓迎』

(胡散臭い……)

 探偵事務所の事務手伝いという仕事で、なぜ霊感が必要とされるのか。僕が胡乱に思いながらスワイプしかけたところで――ふと、その事務所のアドレスと名前に気付く。

 僕はスマートフォンを片手に、机の抽斗を引っ張った。

 中には、先日、友人と一緒に行った肝試しでもらった名刺が入っている。

 そこに記されたアドレスと、そのアルバイト募集の記事のアドレスが一致していた。

「……」

 僕は無言で、そのアドレスに電話をかけた。

 電話に出たのはうつやかな声の女性だった。

『はい、水木探偵事務所です』

「あの、アルバイトを募集していると――」

 

 名刺は名前のところしかよく見ずに抽斗にしまっていたが、よく見ると僕の自宅から事務所はさして離れていなかった。

 小さなビルに「水木探偵事務所」と看板がかかっていた。随分古びたビルである。昭和の香りが漂って来た。

 僕が階段を上って、インターホンを鳴らすと中から「どうぞ」と女性の声がする。僕はそれに素直に従った。

 従った結果、ガラスの灰皿が吹っ飛んできた。

 悲鳴を上げるより先に咄嗟に結界術を発動できたのは、自分でもできた反応だったと思う。顔の前に展開した結界に弾き飛ばされた灰皿を手で受け止められたのも。

 危うく顔が割れるところだった。僕が咄嗟に文句を吐けようとする前に怒声がした。

「アンタらのせいで離婚沙汰よ!」

 ……僕の見間違いでなければ、そこで怒鳴っていたのは頭に角の生えた女性だった。比喩ではない。本当に生えている。座っていただろうソファから立ち上がって、向かいに座る灰色の髪の男性に指を突きつけている。白髪の男性もいるようだった。灰色の髪の男性は落ち着いていた。

「私共は仕事をしただけですので。あとは鬼族同士でお話し合いになってください」

「このロクデナシども! いつか地獄に落ちたらいい!」

「――ははっ」

 男の声が低い。

「いつか堕ちてみたいものですね」

「これ水木」

 そこではじめて白髪の男が声をかけたが、女性は「もういい!」と鞄を片手にこちらに来た。そう言えばここは出入り口だ。僕が咄嗟に避けると女性は鼻息荒く出て行く。乱暴に扉が閉められた。

 ……やがて「さて」と立ち上がる男性2人。そこではじめて、人が駆け寄って来た。ショートヘアの美しい女性だ。年の頃は20代だろうか。

「大丈夫ですか!? 灰皿当たりませんでしたか」

「当たりかけましたが未遂です、でも入っていいかどうかはもう少しタイミングを見て欲しかったですね……あ、と、僕アルバイト志望の」

「あぁ、君か!」

 そこでようやく僕の存在に気付いたらしい灰色の髪の男がソファから立ち上がって振り向く。あの、子どもの姿をした怪異を説得して浄化した男だ。どうやら僕のことを憶えていたらしい。僕としては明るいところで見ると、彼が思ったより強面の印象を受けた。恐らく左目の傷と欠けた左耳のためだろうが……顔立ち自体は整っていると思う。少なくとも僕と彼が並んで立ったら彼の方が振り向かれるだろう。ぼ、僕だって悪くない顔だし……と内心で強がっていると、白髪の男が立ちあがる。思ったより背の高い彼も見覚えがあった。肝試しの際、間流のことを知っていた男だ。彼は僕を見てあまり良い顔をしなかった。そんな彼に構わず、灰色の髪の男は笑って言う。

「夏は忙しいからイチかバチかで募集をかけたんだが……君が来てくれて嬉しいよ。異能者なんだったね」

「折角もらった名刺を活かしたくて」

 ポケットから取り出した名刺をちらつかせながら、僕はふと疑問に思う。

(探偵事務所に忙しい季節とかあるのか……? いや待て、さっきのはどう見ても人外だったし……そう言えばそもそも怪異退治してるっぽかったし)

「ところで本来は事務仕事を手伝ってもらうつもりだったんだが、異能者の君なら話は別だ」

 僕を先程鬼の女性が座っていた席に勧めた灰色の髪の男は、にっこりと笑った。

「給料は弾むから、現場仕事に出る気はないかな」

「はい? 現場って、浮気の写真撮影とかですか」

「そっちはいいや。あの〇×ビルで見た君の動きを見て――」

 

 そして現在、僕は白髪の男――ゲゲ郎と共に「現場」に出ている。

『ギャァッ!!』

「墨村、足場」

「はい」

 東京とは思えない森の中、ゲゲ郎は動きにくそうな着流しのまま縦横無尽に動き回りがしゃどくろをしばいていた。僕はと言えば、その後方に控えてそのゲゲ郎の足場を組んでいた。中学生の時に裏会の夜行の仕事の手伝いをしたこともあったので、こういうことは慣れたものだ。妖怪の類にも慣れているので、恐怖心は起こらない。

 本来事務手伝いだったはずの僕のアルバイト内容は、水木探偵事務所の力仕事担当の手伝いとなってしまった。

(水木さん、笑顔でゴリ押ししてきたよな……昭和のパワハラを感じる)

「墨村」

「あ、はい、足場ですね」

「そうではない。もう終わった」

 名を呼ばれ顔を上げると、ゲゲ郎の足元からがしゃどくろだったものが霧散していった。

「人はおろか妖怪も襲っていたから、仕方ないの。さて、帰るぞ墨村」

「わかりました」

 頷いて、さっさと山道を先導するゲゲ郎の跡をついていく。裏会は山にあったがさして山道に慣れている方でもないから、足早に歩くゲゲ郎の跡をついていくのは何気に大変だ。それでも恐らく人間の僕に合わせてくれているのだろう。草を掻き分ける僕に、ふと、ゲゲ郎は振り向かずに言う。

「間流の結界師じゃったな、お主」

「えぇ」

「間流の結界師は、神佑地である烏森の番人だった。しかし、6年前に烏森は封印されたと言う話がこちらにも流れて来たが――何かあったのかの?」

 この時の僕は、どういう顔をしていただろう。多分、微笑と言う名のポーカーフェイスをしていたと思う。

「さて、なんででしょうね。『なぜか』6年前に急激に弱体化しまして……おかげで番人の必要がなくなって助かりましたけどね」

 その僕の言葉に、ゲゲ郎は振り向いた。よくよく見ると赤い目が、僕を見た。

「ふむ。まだわしらに全てを語る気はないか。まぁ、初対面も同然だから当然じゃな」

 そう言って、ゲゲ郎は再び歩き出す。僕たちはそのまま、会話らしい会話もなく森の外を目指した。

 

 言う訳にいかないのだ。

 言えば、母の犠牲が無駄になる。

 僕はそれだけは避けたかった。

 

 さて、事務所に帰って来た僕らは、まず事務の岩子と所長の水木に服に引っ付いたオナモミを取られることになる。

 

 

 

 


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