戦艦レ級になりまして。   作:灯火011

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お酒の力と、深海と

 酒盛りというものはどうしてこうも楽しいのだろうかと思う。アルコールの効能によって酩酊する脳味噌の快楽たるや、実に心地よいわけで。

 

「……んぉ」

 窓からは明かりが差し込んでいる。酒瓶は床に転がり、開いた缶詰と空き缶が炬燵の上に乱雑に置かれていて、なんというか嵐の後のようだ。

 

「……頭イテェ」

 

 というわけで、酒盛りの夜が過ぎてみれば、気がつけばご覧の有様でございます。深酒はするもんじゃない、と思いながらも毎回深酒してしまうのは仕方ない。と、尻尾になにやら違和感がしたので視線を向けてみれば、おっちゃんの頭は私の尻尾の上にあった。むしろ尻尾そのものは抱き枕にされている。

 

「まぁ、悪い気はしねぇが」

 

 尻尾に抱き着き、すやすやと穏やかに眠るおっちゃんにそんな感想が湧き立つ。ふむ……もしかしてこれが、いわば女になった事によって生まれた母性的な感情かね?

 

「冗談。んなわけねぇわ」

 

 言いながら、おっちゃんごと尾っぽを軽く動かして、無理やり引っぺがした。軽くゴロゴロと部屋の隅に転がっていったけれどまぁ、海の男だ。多少乱暴に扱っても大丈夫だろう。

 

「つーか不思議だな。レ級だったら尻尾の先端に武器が有るハズだけども?」

 

 私の尻尾の先端は、ただ、生物的な口があるだけ。のっぺりしてなんというか。

 

「気持ち悪いな。なんか」

 

 というか目が覚めたら腹が減った。朝飯でも作るかね。ということでひとまずは、空き缶類片付けてしまおうかと腰を上げた時だ。何やら、窓の外からがやがやと声がする。

 

「ん?なんだ?」

 

 昨日の事もあるので、小さく、ちらりと窓から外を伺った。

 

「げ」

 

 窓の外にあったのは、幾人もの人々の姿である。老若男女問わず、軽く数十人は居るだろうか?しかも何か装束を着込んでいる。

 ……これはなんか嫌な予感しかしねぇ。おっちゃん起こしとくか?

 

「いや、無理か」

 

 軽くふっとばしたのに起きないんじゃあ、なかなか目覚めさせんのは難しいだろう。んー……とはいっても、なんか別になだれ込んでくるってわけじゃないっぽいし、やっぱ、飯食おう。頭が回らん。とりあえずは味噌汁と米で簡単に作ろう。

 

 

 レ級と長谷川らが寝ていた頃に時は遡る。役所勤めの近藤は、とある人物に連絡を入れていた。

 

『なるほどな。兄キんとこに件の新生物が』

 

 それは、本島の中央に勤める弟、浩平だ。

『昨今話題の新生物を見つけたら連絡を本庁に上げる』

 これは役所の人々の最重要の指示となっている。近藤も例に漏れず、その指示をしかりと厳守していた。ただ、その最初の一報を実の弟に入れる辺りはまだ気遣いをしていると言ってもいいだろう。

 

「正確には長谷川の兄さん家だがな。あの独り身の兄さんに嫁が出来たと島中ではこの話題で持ちきりだよ」

『ははは!長谷川の兄さんか。女っ気なかったもんなぁ。しかし、となると少し上に報告するのは気後れするな。島中にその話題が広がるってことを察するたぁ、長谷川の兄さんになついてんだろ?』

「ああ、その通りだ。だからお前に連絡したんだよ。話の通じる上役に旨い事伝えてくれんかね?これで海上封鎖も解除。島の皆も漁にも出れるだろ?」

 

 数秒、電話越しの会話が途切れる。近藤弟の短い溜息から、再び会話が続けられた。

 

『任された。長谷川の兄さんのためなら一肌脱ぐわ。伊野口のおっさんに連絡して、穏健派のルートで大臣まで話を上げる。ま、長谷川の兄さんには貸し一つだな』

「おう、今度旨い刺身でも送る。頼んだ。で、俺の書いた似顔絵の画像はメールで送ったが、見れてるか?」

『見れてるよ、兄キ。なるほどねぇー、下手な絵だが判るぜ。なかなかの別嬪さんだ。肌の色と尻尾が……人間じゃねぇって如実に語ってるな』

「だろう?」

『……長谷川の兄さんの好みが、こんな娘だったとはねぇ。変わり者だとは思っていたけど』

「違いないわな。島民は皆人魚様だ人魚様だ婚姻だ婚姻だとお祭り騒ぎだよ」

 

 しばし笑い合う2人。朗らかな雰囲気が続くかと思っていたのだが、近藤弟の次の言葉で、その雰囲気は少し引き締まる。

 

『しかしだな兄キ。海へはまだ、出る事は叶わないぞ』

「ん?なんでだ浩平。新生物がこちらの味方なら、これで解決じゃないのか?」

『それがな。昨日の夜、新しい情報が上から回ってきてな。恐らく兄キんところには数日以内に正式に行くと思うんだが……』

 

 浩平が言うには、新生物は一体だけではないらしい。確認されたのは5匹。それが、未だ海のどこかに存在しているらしく。

 

『新たな新生物が見つかってな。5匹。その5匹のために、護衛艦が一隻やられて海の底に沈んでる。イージスじゃなかったのと人命が失われなかった事は幸いだ。レーダーには映らんし、急に水底から来るっていう神出鬼没っぷりで対応のしようが無いらしい』

「そうなのか」

『ああ、しかも今のところ、兄キんところの近くで最後の発見報告があるから、余計に島の漁はできねぇよ』

「……そうか」

『件の観光船からの情報、あとは今話に聞いた長谷川の兄さんの船。それに送ってもらった写真。兄キんとこの新生物の危険性は低く見積もれる。そいつだけなら海上封鎖は解かれるだろうけど』

「そうだな。ただ、その護衛艦を沈めた5匹がいるかぎりそうはいかない、か」

『そ。ってことで、まだまだ海上封鎖は続きそうだわ。嫌んなるね』

「島の周りだけでも、自衛隊さんの協力でなんとかならんかね。島の人々の生活は、漁で支えられてるのはお前も知っているだろう?」

『もちろんなんとかしたいけど、こっちも情報が錯綜していて正直手は出せない領域にあるんだ。唯一頼りになる自衛隊も護衛艦の件と事後対応で手一杯、周りをみりゃあ新生物を保護しろだの環境団体愛護団体が五月蠅くて寝不足気味だ。全く嫌になるわ』

「ご苦労さんだな」

 

 どうやら本庁も大変らしいと知った近藤兄は、これ以上の交渉は無駄と判断して溜息を吐きながら、弟を労う。しかし、そうなると島民の不満がどんどんと溜まることだろう。何とかせねばな、と近藤兄は思慮を巡らせ始めたその時、弟が再び口を開いた。

 

『まぁ、ただ。俺も島育ちだから漁に出れないってのが死活問題だってのは判ってる。可能な限り伊野口のおっさんも動いていてくれてるから、兄キ、なんとか島民のことは頼んだぜ』

「難しいが、やるしかないか……。何か、糸口ないもんかねぇ」

『都合よくそんなもんがあったら、こんな事態にはなってないだろうよ……と、待てよ?糸口か』

 

 思わせぶりな浩平の言葉に、近藤は少し期待を持ってその言葉の続きを待つ。その予感は当たったようで。

 

『なぁ、そういや兄キ。島の伝承の後半部分って覚えてるか?』

「後半……あー、島の神社の石碑の裏の奴か」

『そうそう。人魚様が島の男と結婚した後の話。あれって今の状態と似てないか?』

 

 近藤はああ、と納得するように頷いた。実は島の伝承には続きがある。

 

 前半部分は島でも良く知られていて、人魚様が男と婚姻し、島は栄えたという物だ。今の新生物の状況がよく似ているからこそ、島民は人魚様と騒いでいる。

 しかし後半部分は、神社に昔から鎮座している石碑の、その裏に古文体で書かれているものだ。

 過去の学術研究の際、歴史的にも、その後半部分はフィクションであろうというのが結論付けられたため、島民でも近藤より若い世代にはあまり知られていない。

 

「……言われてみれば」

『一度、神主のおっさん……しばらく会ってねぇから名前失念しちまった。に、話を聞いてみてくれよ。この状況を打破する鍵になるかもしれないからさ』

「伝承だぞ?何か役に立つか?」

『今はどんな情報でも欲しいだろ?兄キ、何かわかったら連絡よろしく頼むぜ』

「判った。明日にでも神木の親父に聞いてくる。そっちもよろしく頼むぞ」

『おう、任せとけよ、兄キ。伊野口のおっさんとはマヴだからな』

 

 電話が切れる。時間を見れば既に丑三つ時に差し掛かろうとする時間だ。

 

「話しすぎたか。明日も早いし、寝るとするか」

 

 と、その時。窓の外で何かが動いたような気配がした。間髪入れずガラリと窓を開けてみたのだが、近藤の目の前に広がるのは、街灯がわずかに照らす島の街並みに、月明かりに照らされた大海原。

 

「気のせいか。ま、泥棒なんてこの島にゃおらんわな」

 

 ざざ、と波音が聞こえる。きらきらと輝く白い波間に、深く、黒が染み出していた。

 

 

 暖かい味噌汁を口に含むと、二日酔いの体がふわり、と芯から温まっていく。序に、米から炊いた粥もずるりと口に含めば、なるほど、腹が減っていたのだろう。口の奥から唾液が溢れて来ていた。

 

「我ながら旨いこと出来たもんだ」

 

 おっちゃんは一人暮らしではあるけれど、地味に鰹節や昆布なんかがしっかりと揃えられていて、飯の出汁には事欠かない。今日は軽い合わせ出汁。心底ほっとする。

 

「に、しても起きないね」

 

 おっちゃんは未だに爆睡中だ。毛布を掛けてやってはいるけれど、風邪をひかないか少々心配だ。それに、未だに家の周りには人の気配がびんびんにある。がやがやと、ざわざわと、明らかに人の雑音であろう音が耳に入ってくる。

 

「昨日のおっちゃんら来ないかね」

 

 多分、あの人らが来ればこの事態もひとまずは落ち着くだろうにね。……と、いうか、多分、十中八九昨日、私が姿を見られたからだろうけど。田舎故に噂の巡りは早いと言うわけだ。

 

「……なら、いっそ顔だけでも出しとくか?」

 

 ちらっと顔見せすりゃあ騒ぎは落ち着くかもしれない、と思ったが、同時に嫌な予感が漂う。

 

「いや、それは多分、外堀が埋まるな……」

 

 おおよそ、婚姻的な意味で。むしろ昨日のおっちゃん達に嫁ムーブをかましたわけで、外堀は埋まり尽くしたと言っても良いのかもしれない。

 

「うーん、どうすんべ。住む場所が出来るのはいいけれども……」

 

 このおっちゃんの嫁ねぇ。確かにさ、嫁みたいな事をしてもらわんといかん、とか言われてたが。いざ目の前にしてみると、なかなかこれは覚悟がいるなぁ。

 

「……迷う理由もないか。実際、行く当てねぇし」

 

 結局は、この先どうするか、だ。身分証は見ず知らずの私の姿。写真も全部それ。強いて言えば、一度、もともとの家族には会ってみたい所だね。と、考えながら食ってたら朝飯が消え失せていた。我ながら相当腹が減っていたらしい。一応、鍋に残りはあるけれどあれはおっちゃんの分だから、手を付けるわけにもいくまい。ふむ。

 

「で、外の喧騒は相変わらずか」

 

 今一度窓をちらりと覗いてみるけれども、やっぱり人だかりが見えているわけである。まぁ、ひとまずは、食器を片づけて落ち着こうじゃないか。

 

 

 朝の6時前。島にある神社の応接間では、近藤が神主の神木と相対し何やら話し込んでいる。どうやら長谷川と人魚についての話らしい。身振り手振りを交えながら興奮気味に語る近藤を、神主である神木は冷静に見ていた。

 

「まさしく、伝承である人魚、そのものですね」

「その通りです神木様。青白い肌、巨大な尻尾、そして美しいお姿。間違いないとこの近藤確信しております」

 

 近藤力作の、しかし拙い似顔絵を差し出しながら、間違いないと、興奮気味語る。加えて、昨日弟から聞かされた情報もいくつか話してく近藤のその白熱ぶりに押されてか、2人の間に置いてある茶は既に冷め始めていた。

 

「そして、長谷川さんでしたか。彼が、その伴侶として選ばれた、ということですか……ふぅむ……素直に信じろ、と言われましても難しいですが……」

 

 千早は場の落ち着きを取り戻すように、茶を口に含む。椀をゆっくりとテーブルに置いてから、視線を近藤に向けてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「近藤さんのお顔を見れば、嘘ではないと判ります。そうですか、人魚様、合瀬を行ったと」

「その通りです。しかりと懐かれていた、もっと言えば、惚れられているとみて間違いないと思われます」

 

 近藤は落ち着きを取り戻そうとして、冷たくなった茶に口を付ける。合わせて、神木も茶に手を伸ばしたが、冷えた茶のせいか眉間に皺が寄った。

 

「新しい茶を淹れてまいりましょう」

 

 そういいながら神木は、一度席を立ち応接間から姿を消した。手持ち無沙汰になった近藤は、ふと、部屋に飾ってある額縁に目が行く。例の伝承が古文体で書き写されたもので近藤には読むことが出来ない。その隣には、おそらく炭で描かれたであろう女性の絵が飾られている。

 

「……不思議な絵だな」

「どうされましたかな?」

 

 丁度その時、茶を持った神木が応接間に戻ってきた。近藤は絵を指さしながら、アレはどういう絵なのだろうかと問うと、神木はああ、と頷いた。

 

「あれは、人魚様の絵になります。ざっと100年は経っていますね」

「100年ですか。初めて見ました」

「最近まで本殿に仕舞われていたものです。件の学術調査の際に持ち出されまして、それから応接間に」

「なるほど」

 

 その絵は、明らかな波間の上に立つ6人の女性そのものだ。ただ、顔などは簡略化されていて表情や人物を特定できるものではない。

 

「と、まぁ、話を戻しまして。その人魚様…の、役所としての外への対処は今どのように?」

「それはこちらで進めさせて頂いております。ひとまず、本島出身の代議士である伊野口(イノグチ)、あとは弟から各所に連絡をして頂いている所です。島中では民間にはまだ、といいたいところですが……」

「噂として広まってしまっていると」

「ええ。狭いコミュニティで話題性もない島ですからね。こういうことがあると、どうにも手に負えんのですよ」

「よく存じておりますよ。先代の神主も学術調査の結果が出る前に、伝承は嘘だった、と話が広がったと嘆いておりましたから」

 

 今度は熱い茶を2人は啜る。ほう、とため息を吐くと、仕切り直しとばかりに神木が姿勢を正した。

 

「一つお願いがございます。近藤さん。何かの縁でありますし、人魚様にお目にかかりたいのですが」

「問題ございません。実は今日は、そのためにお伺いしたと言っても過言ではありません」

「左様でしたか。では、日取りの方は近藤さんにお任せ致します。ぜひ、よしなに」

「ええ。勿論です」

 

 今度は近藤が襟を正し、神木の目をしかりと見た。

 

「実はこちらから一つお願いがございまして」

「はい」

「伝承の後半部分。あれを詳しくお教えいただきたいのです」

「……ふむ。かまいませんが。あれは偽書だと認定されたものですよ?」

 

 不思議そうな神木。首を傾げた彼に、近藤は表情を硬くしながら口を開いた。

 

「実は今だ漁の許可が出ていませんで」

「それはまたなぜですか?長谷川さんのところの人魚様。近藤さんの口ぶりによれば、彼女こそが噂の新生物だったと認識したのですが」

「それが、他にも出たらしいのです。しかも、この島の近くで。ですので、どういう取っ掛かりでもよいので、何か糸口を見つけたいのです」

 

 沈黙が流れる。気まずそうな表情を浮かべる近藤に、少し視線を泳がせながら腕を組む神木。先に口を開いたのは、神木の方であった。

 

「承知しました。が、伝承の一部は門外不出となっておりますので、いくら近藤さんの願いとは言え叶えられぬものがございます」

 

 そうですか、と近藤が口を開こうとした瞬間だ。

 

「しかし」

 

 かぶせる様に神木が言葉をつづけた。

 

「人魚様にお会いさせていただければ、包み隠さずにお話をさせていただきましょう」

「本当ですか!?」

「もちろんですとも。現状、漁に出れぬというのは島にとっての死活問題。何か解決の糸口になればこそ、この神社と伝承を守ってきた意味にもなりましょう」

「感謝致します」

 

 2人はそう言いながら、握手を交わした。

 

 

 どうしたもんかねぇーと、居間でおっちゃんの寝姿を眺めていたら、家のドアが叩かれる。なんだべ、ついに誰か家に突入してくんのかしら?と軽く警戒していたところ。

 

「近藤です。長谷川さん、起きておりますか?」

 

 どうやら昨日顔を合わせた、役所の近藤さんがドアを叩いたらしい。なるほど、それならばと代わりに声を上げておこう。腰を上げて、ドアの前まで移動する。そして外行きの顔をしっかりと作ってから。

 

「お世話になっております。長谷川様はまだ寝ておりますが、何か御用でしょうか?」

 

 鍵を開けて、小さく開けた隙間から外を伺ってみれば、間違いなく昨日のおっちゃんが立っていた。と、同時に、その後ろには多数の野次馬。気のせいじゃなく、あれが人魚様!?とかざわめきが聞こえてきて、思わず頬が引き攣った。

 

「ああ、これは人魚様。左様でしたか。実は、人魚様にご紹介したい人物がおりまして」

「わたくしに、ですか?」

「はい、よろしければ、お話を聞いていただければ幸いなのですが……」

 

 ふむ。まぁ、私は全然問題ないけれどね。ただ、今のおっちゃんの姿は見せられたもんじゃない。酒飲んで爆睡中だ。下手に部屋にいれるのは辞めておいた方がいいだろう。

 

「かしこまりました。ただ……少々お待ち頂いてもよろしいですか?」

 

 ちょっと眉間に皺を寄せて、困った顔を浮かべておこう。なんにしてもひとまずはおっちゃんを叩き起こして、顔を洗わせなきゃいかん。

 

「勿論です」

「では、少々お待ちください。……あと、できれば人払いを」

 

 近藤さんから視線を少し外してから、野次馬の方を見る。色白いぞ、だとか、あれが長谷川の嫁か、などなどまーた好き勝手言っている人らの姿が見える。流石に、この状態が長く続くことは避けたいと思うわけだ。

 

「ああ、これは失念しておりました。ただ、実は彼らも関係者でありまして」

「ご関係者?近藤様の、ですか?」

「私のと申しますか、人魚様の、と言ってよいでしょう」

 

 ふむ?人魚様……ってことは。

 

「わたくしの関係者、ですか?」

 

 思わず口から感想が出てしまった。関係者ねぇ?そんなもん、この体には無いはずなんだけれども?

 

「ああ、困惑させてしまって申し訳ありません、人魚様。正確に言えば、神社の氏子なのです」

「神社の?」

「はい。その神社というのが、この島に残る人魚伝説の人魚様とそのご眷属を祭った神社なのです。つまり、そういう意味での関係者、という」

 

 はぁーん。なるほど、なるほどね。なんとなく理解は出来た。人魚伝説だっけ?あれを、この島では信仰しているということなのだろう。まー……ここまできたら、御輿に乗るのも一興ってことで。

 

「そういうことなら、かまいませんが」

「誠に、感謝致します。ところで、長谷川は今どちらに?」

「ああ……」

 

 ちらりと部屋の中に視線を向ける。あの酔っぱらいをどう起こしたもんかね。とりあえず今は……誤魔化しておこうか。

 

 外行の顔で、微笑みを作り直してから、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「昨晩から少々、(酒盛りで)()()()()()()しまいまして……。(深酒しすぎて)()()()()()のか、ぐっすりと」

 

 そう言うと、近藤さんの顔が驚きに染まる。目が点になるとは、まさにこのことって感じだ。

 

「……さ、左様でしたか。では、そ、そう、で、すね。……長谷川が気が付きましたら、私近藤まで連絡を頂ければと」

「承知致しました。では、急ぎ起こしてまい」

「いいえお気遣いなく、人魚様。急ぎではありませんから。それでは、また後程」

 

 ドアが閉まる。そして、その向こう側では近藤さんの『一度解散してください。後に、またご連絡いたします。後程皆様は神社に』という声が聞こえてきた。これでひとまずは、喧騒から離れられたと言ってもいいだろう。よしよし、とりあえず食器を洗うとしますかね。

 

 ……にしても近藤さん、何をあんなに驚いてたんだろう?

 

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