ハイドラ様企画、【C103】Ave Mujica突発合同に出させていただいた作品です。

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私が私であるために

ただ、あの時見たライブが忘れられなくて。

吹奏楽部のコントラバスに声を掛け、それの縁を辿ってドラマーとの連絡も取った。

幼馴染をギターで雇い、身投げしようとしていた彼女の心の叫びを以て、バンドは完成した。

 

しかし、長くは続かなかった。

家の没落、それに伴ったゴタゴタ。

何もかもがうまくいかなくなって、続けられなくなって。

別れを告げようと決心した。

自ら始めたのだから、蒔いた種ぐらいは摘まなければ。

 

『燈はお前を待ってたんだよッ!』

 

知っている。

寂しそうな顔をしていた。

彼女も、悲しんでいた。

 

『待って、ちゃんと話し合おう?』

 

事態が分からないなりに、落ち着けてくれているのはありがたい。

が、正直言って早く済ませたい。

あること全てを話すわけにはいかず、彼女らを巻き込むわけにもいかない。

 

『...本当に、辞めちゃうの?』

 

そんな顔をしないでほしい。

私が悪いのだからそんなことを言う権利なんてないけれど。

だから。

 

『燈は特に練習しなければならないのに、今まで何をやっていたんですの!?』

 

このバンドに戻る意思がないことを伝えた。

彼女を当てつけにしてしまった事は悪いと思っているが、これ以上事態が悪化する前に、彼女らとの縁を切らなければいけない。

 

『私は、バンド...楽しいって思ったこと、一度もない』

 

幼馴染の助け舟か、本心か。

その一言で、スタジオ内の空気が冷え切った気がした。

 

 

「...っ」

 

忘却を肩書きに据えた私が忘れられない、在りし日の記憶。

忘却と花ばかりに、過去に縋り音楽を奏でている。

お為ごかしと罵った彼女と同じことをしている気がする。

 

「...いや」

 

いや違う。

音楽は道具だ。

復活、復権のための道具。

ただ作り、奏で、手っ取り早く名を知らしめるための、道具。

感情なんてない。

ただ、成り上がるための。

 

「祥ちゃん、今ちょっといいかな?」

「...?あぁ、初華。なにか?」

 

幼馴染、三角初華が声を掛けてきた。

今はバンドのリハーサル中だったことを忘れていた。

 

「新しい曲の歌詞なんだけど、見てもらってもいい?」

「あぁ、分かりましたわ。それにしても、随分と早いですのね」

 

初華は優秀だ。

曲を渡せばそれに沿った歌詞がすぐに出てくる。

決して便利な機械と思っているわけではないが、それにしても仕事が早い。

 

「...初華?どうしました?」

「えっ?」

「いえ、視線を感じるような気がしたので。勘違いでしたらすみません」

「ううん、大丈夫。それで、どうかな?」

「えぇ、これならすぐに制作に取り掛かれそうです。明日か明後日...皆様、予定は?」

 

各々休憩しているメンバーに問う。

 

「私は、いつでも」

「明日はいつでも、明後日は15時以降であれば。その前はサポートが入っているので」

「あたしもいつでもー。でも決めててくれた方が助かるなぁ」

「私もいつでも平気だよ」

「それならば、明日にしましょう」

 

はーい、と少し間の抜けた返事を横目に、初華のノートを仕舞う。

 

私は成さねばならない。

このメンバーと、この曲で。

このバンドで、すべてを手に入れるために。

 

「では、リハーサルを続けましょう。『黒のバースデイ』」

 

 

 


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