我が名はマルコ。不死鳥のマルコではない。   作:ゆーりふり

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実はここ数日の更新内容が不評だったらどうしようとビビッて感想が読めていませんでした。
普段は滅茶苦茶感想を楽しみにしているんだが時々この謎メンタルに陥る。

それはそれとして最終話のサブタイはやっぱこれだよなぁ。


陰の実力者に勝ちたくて

「……っ!! なんてバカ魔力なのかしら!」

「お前らのご主人様に比べたら可愛げがあるだろ!」

 

 ブシン祭の試合会場では一進一退の攻防が続いていた。

 魔力制御に於いては上を行くイプシロン。対するマルコ・グレンジャーは七陰であるイプシロンでさえ目を剥く異常な量の魔力で彼女を攻め立てていた。

 

(先ほど主様から施された治療、アレがさらに魔力量を増大させている……!)

 

 七陰であっても経験のない陰の叡智を二度授かるという奇跡。内包する魔力は七陰第一席であるアルファさえも凌駕しているとイプシロンは感じ取っていた。

 

「非力な女の子を虐めてるみたいで気分悪いなっ!」

「お優しいですこと! そのまま手足の一本でも切り落とさせていただけたら感謝の念に咽び泣いてしまいそう!」

 

 ジミナ・セーネンもといシャドウとの戦いでボルテージの上がっているマルコ・グレンジャーは絶好調だった。魔力差による頑健さもあってイプシロンは決定打を与えられずにいる。

 

「今はお前なんかに構ってる暇はないんだよ!」

「それが舐めてると言っているのよ!」

 

 マルコ・グレンジャーがそう勘違いして拙速を選んで単調な攻めを展開した瞬間を狙い撃って、剣の間合いの外から放たれた斬撃が彼の肉体を切り裂いた。

 

「いってぇ……!」

「あら、存外に血の赤もお似合いですね」

 

 七陰でもイプシロンのみが扱える魔力斬撃の射出。

 シャドウすらも認める絶技によってマルコの横腹が大きく裂かれ決着が付くかに思えた。

 

「紅の騎士団所属だからな。……素晴らしい技だが剣に纏わせて放つ斬撃に比べれば軽い」

「魔力による治癒っ!? 何時の間に習得を」

「どこかの誰かさんが二度も体験させてくれたお陰でね」

 

 拙い練度ではあるが、膨大な魔力が技量を補い肉体を修復していく。

 飛ぶ斬撃は繊細な魔力制御を要求されるが故に、大量の魔力を込めて威力を底上げすることが難しい。身体能力で上をいく相手に、二度目は対処されるだろう。回復能力まで有したマルコ・グレンジャーを倒すには急所へ致命的なダメージを与えるしかないが、殺害を禁じているイプシロンには本当に打つ手がなくなりつつあった。

 

「……騎士様、野蛮な戦いはここまでにして優雅に紅茶でもいかが?」

「騎士だって野蛮になりたいことはある。今日は紅茶よりもトマトジュースを浴びたい気分だ」

 

 マルコ・グレンジャーのぶん殴る宣言にイプシロンは遅滞戦闘に持ち込むことを決めた。

 幸いにも、まだ周囲では逃げ惑う観客が残っている。彼らを上手く使って立ち回れば時間を稼ぐことはできる。回復を終えて突っ込んでくるマルコ・グレンジャーの斬撃を受け止めながら、そう考えていたイプシロンは違和感に気付いた。

 

(なぜ片手で剣を振るっているの?)

 

 先ほどまでは両の手で握っていた剣をなぜか片手持ちに変えている。

 剣のサイズ的にも、サブウェポンを用いない戦闘スタイル的にも意味のない行為のはずだ。

 訝しむイプシロンに対してマルコはタックルするかの如く距離を詰め、イプシロンの肉体に手を翳した。

 

「マズッ……!」

 

 なにをされるのか理解したイプシロンは慌てて回避行動を取ろうとするが、マルコの方が一手早かった。

 

「きゃあっ!」

 

 マルコ・グレンジャーが翳していた手を握って放った拳はイプシロンの腹に突き刺さり、彼女を吹き飛ばして会場の壁へ激突させる。

 

「そのボディスーツと剣。素材が何か知らないが魔力で形成しているんだろう。悪用されないよう特定の魔力波長以外には反応しないようにさせておくべきだったな」

 

 魔力で以って形を保っているのなら、魔力で以って崩せる。

 マルコ・グレンジャーはイプシロンのスライムボディスーツへと多量の魔力を流し込み、制御を乱すことでスーツと剣を破綻させて防御を崩した。

 

()()に頼りすぎだぜシャドウガーデン」

 

 皮肉を込めてイプシロンへ言い放ったマルコ・グレンジャーはシャドウを追うか観客たちの避難を援護するか迷いながらも観客席へと目を向ける。

 

 そこへ魔力の斬撃が殺到した。

 

「……見たか?」

「なにをだよ」

 

 土煙を上げる壁から出てきたイプシロンのボディスーツは完璧な状態で元通りになっている。

 制御を失って零れたのかマルコ・グレンジャーの足元に()()ほど落ちているが戦闘に支障はなさそうだ。

 そして、手に持つ得物は剣から形を変えていた。

 

「見てないのなら、九割九分殺しで許してあげる」

「それすぐに死ぬやつな」

 

 身の丈に迫る漆黒の大鎌を振り回しながら歩み寄ってくるイプシロンの殺気は先程までが可愛く見えるレベルに増大している。

 そして、マルコ・グレンジャーへと近付く陰の数はひとつではなくなっていた。

 

「剣以外に鎌、弓、槍、鞭……クソデカチャクラム? 思いのほか芸幅が広いな」

 

 イプシロンを含めて七人。

 一人はフードから金髪が覗いているのでアルファ。他のメンツは誰か分からないがデルタという獣人は居なさそうだとマルコは判断した。弓とチャクラムを持っている人物はイプシロンと同等の魔力を放ち、他の三人もそれに追随する技量であるのが見て取れた。

 

「遅くなってごめんなさい、イプシロン」

「……人柱にされたのかと焦りました」

 

 七陰が四人。そしてナンバーズが三人。

 武闘派のナイツ・オブ・ラウンズを相手取る以上の戦力でシャドウガーデンはマルコ・グレンジャーと相対する。

 

「卑怯とは言いませんよね、騎士様?」

「生憎と俺が興味のある女性は世界に一人でね。気持ちに応えられず申し訳ない、お嬢様方」

 

 互いに挑発し合いながら武器を構える。

 だが、包囲連携でマルコ・グレンジャーを打倒しようとしていたシャドウガーデンの足はそこで止まった。

 

「お前らのご主人様が勝手に寄越したもんだ。そっちこそ卑怯だなんて言わないよな?」

 

 マルコ・グレンジャーの持つ剣が強く発光する。

 しかし、それは以前にアルファたちが見たものとは明らかに異なっていた。

 

「通常の魔力圧縮ではなく、内側に向けて爆発させた魔力によって全方位から超圧縮した魔力剣。名前を付けるなら『爆縮(インプロ―ジョン)』かな」

 

 シャドウによって行われたのは傷の治癒だけではなかった。

 この世界の人間は根本的に魔力の圧縮と爆発を体内で制御できるようには作られていない。シャドウは悪魔憑きになっていたアルファを実験体とすることで己の肉体を適したものへと改造した。

 それと同じ改造がマルコ・グレンジャーには施されている。 

 

 これまでとは全く異なる()()()()()

 あまりの圧力の高さに込められた魔力は熱さえ孕んで刀身を熔かしていく。

 魔力と金属が綯い交ぜになった発光する剣ではなく、魔力を鋳型に押し込め鍛えあげて作られた蒼の魔剣。

 スライムの九十九を上回る純度百パーセントの魔力塊。

 

「お前たちは強い。だが、断言できる」

 

 ――当たったら死ぬぜ?

 

 ブシン祭会場が蒼の魔力に染まった。

 

――――――

 

 その後、俺は見事にシャドウガーデンの連中によってボコボコにされた。

 

 ――戦いは数だよ兄貴。

 ――当たらなければどうということはない。

 

 これら屈指の名言が真実であることを痛感させられたよね。

 一撃必殺と言って差し支えない『爆縮』によって生成した魔力剣だが、巧みな連携によって一発も当たることはなかった。シャドウガーデンの連中はアルファが矢面に立って驚異的な剣技で俺の剣を捌きながら、残りの連中が俺の後ろを取って只管にチクチクと小ダメージを与えにきた。

 『爆縮』した魔剣はビームサーベルのようなもので当たった箇所が熱で蒸発するのだが、アルファの剣も相当な魔力量を圧し固めていたのか一瞬で削り切るには至らず、消し飛ばした端から再生成され千日手になり、結局最後まで隙を見せることはなく連携を崩すことができなかった。

 

 結果はタイムアウトによるドロー。

 

 王都全域をシャドウの魔力が包み込み、全てを破壊する光に呑まれた。

 まあ消し飛んだのは空を覆っていた暗雲だけで王都の被害自体はアイリス様、ベアトリクス様との戦闘による余波のみとなっている。

 

 VIP席でオリアナ国王を刺殺したのはローズ王女だった。

 その行為にどんな目的があるのか定かではないが、ドエム・ケツハットは自国の王の遺体を回収することもせず逃げるようにオリアナへ帰国した。

 ローズ王女はシャドウと同様に指名手配され、その行方は杳として知れない。

 

 アーティファクトまで持ち出し、ベアトリクス様と二人掛かりであったにも関わらずシャドウに一蹴されたアイリス様は表情に暗い影を落としている。

 王都は壊された町の復旧が必要だし、王城ではシャドウガーデンへの対処について重鎮たちが忙しなく話し合っている状態だ。

 

 俺はシャドウを相手に互角に戦って見せたとかいう理由で欲しくもない勲章を授与された。

 互角ではなく舐めプ相手に一矢報いた程度なので複雑な心境だ。

 

 そんな俺はいま、アイリス様と共にベアトリクス様のお見送りに来ていた。

 

「あまり気を落とさないことだ。人の力が及ばぬ存在はこの世に多い」

「大丈夫です。私に立ち止まっている暇はありませんから」

 

 ベアトリクス様の気遣う言葉にもアイリス様の反応は暗い。

 

「そうだ。ベアトリクス様、ひとつ頼みを聞いていただけないでしょうか」

「うん? 私にできることならなんでもいいよ」

 

 なんでも?

 いまなんでもって言ったよね?

 

「実は私は両刃の剣よりもベアトリクス様のような反りがある片刃の方が性に合っているんです。ですが、質の良いものは王都周辺では手に入らなくて。腕の良い鍛冶師や武器商人の伝手があれば頼らせてもらえませんか?」

「ああ、確かに君の扱う剣術であれば刀が合っているな。わかった、良いものがあれば見繕って送ってあげる」

「ありがとうございます!」

 

 どうせ『爆縮』したら壊れるんだから上質な武器なんて要らないだろと思われるかもしれないが、強欲の瞳のように魔力が使えない状況がまた訪れるかもしれない。信頼できる武器の入手はシャドウに勝利するためにも必要不可欠だ。

 

「君も私に似たエルフを見掛けたら教えてほしい」

「はい、分かりました」

 

 似ているランキング二位のアルファのことは伝えていない。

 ブシン祭会場で戦っているときはベアトリクス様との関係を尋ねるような状況ではなかった。

 ミツゴシ商会でアルファらしき人物を見掛けたこともなく、恐らくベアトリクス様が王都をどれだけ探し回ったとしても会うことはできないだろう。ルーナさんもニコレッタのことを教えてくれない以上、アルファのような他のメンバーの所在も黙秘すると思われる。

 王都では引き続き俺がベアトリクス様とアルファを会わせる方法を模索して、彼女には他の場所を探してもらう方が効率はいいだろう。

 

「……マルコ」

「はい、なんでしょうかアイリス様」

 

 ベアトリクス様が去っていくのを手を振って見送っていると、どこか険のある声でアイリス様が俺の名を呼んできた。

 

「あなた、本当は私よりずっと強かったのですね」

「失礼を承知で言うなら、確かに今の私はアイリス様よりも強いです。ですが、あなたを超えたのはここ最近の話です。アイリス様に追い抜き返される可能性だってあると思ってますよ」

 

 魔力量が多いに越したことはないが、見合う技量がなければ宝の持ち腐れ。アイリス様が更に技を磨けば、優れた魔力量も合わさって一気に実力を高めるだろう。

 

「お世辞が上手いですね」

「ゴリラ扱いしている相手にお世辞言うと思います?」

「ふふ、絞首刑と火炙りのどっちがいいです?」

 

 花が咲いたと見紛う笑顔をアイリス様が浮かべる。

 俺のウィットに富んだジョークで元気を取り戻してくれたようだ。

 

「受勲された騎士を処刑しないといけないだなんて悲しいわね」

「あの、ジョークですよね?」

「マルコ、私って冗談が嫌いなの」

「不肖マルコ・グレンジャー。アイリス様の忠臣として今後もお供していく所存です。ですので、どうかご勘弁を」

 

 王都のメインストリートで土下座する受勲騎士。

 刮目して見よ世界。

 これがミドガル王国騎士の誇りだ。

 

「マルコ、無力な私に本当に付いてきてくれる?」

「勿論です。その無力感、私も日々痛感しています。ミドガル王国と民のため、どうぞ私を好きにお使いくださいアイリス様」

「今なんでもするって言いましたね?」

「言ってませんが」

 

――――――

 

 アイリス様と別れて街中を歩く。

 シャドウの魔力によって王都が包まれる光景を見た民衆の中には不安を抱く者も多く、騎士が巡回を強化して安心させてやらねばならない。

 破壊された街の復興にも人手が必要で、その裏で悪事を働こうと考える者も少なくない。

 今も王都の裏路地を中心に見回っていて、次はどちらに向かおうかと考えて歩調を緩めると、すぐ後ろを付いてくる人の気配を感じた。

 

 それが誰であるのか、何故かすぐに分かった。

 

「振り返らないで」

「ニコレッタ……」

「振り返ったら、私は姿を眩ますわ」

「顔を見ちゃあダメなのかい?」

 

 背中に微かな重みが掛かる。

 マント越しであるはずなのに、背に当てられた彼女の額から熱が伝わってくるのを感じた。

 

「人目がある往来ではダメ。私の生存とあなたとの関係は誰にも気付かれる訳にはいかないの」

 

 それはディアボロス教団に情報が漏れることを危惧してのことなのだろう。

 

「だから、ミツゴシ商会まで会いに来て。時々なら顔を見せるから」

「毎日でも行くよ」

「……ダメに決まってるでしょう」

 

 少しだけあった間は呆れによるものだろうか。

 

「我慢できる気がしないなあ」

「ミドガル最強の騎士様にそんな暇はないでしょう。今のあなたには守らなければいけないモノが沢山ある」

 

 確かに俺は出来るだけ多くのモノを守りたい。

 紅の騎士団の一員として守るべき責務がある。

 けれど――。

 

「俺がどれだけ両手を広げたところで然程大きくはないさ。どうしたって零れるモノが出てくる」

 

 初っ端から一番大切な君を守れなかったのが俺だ。

 だからこそ、もしも次があったのならば。

 

「なにかを選ぶ必要があるのなら俺は君を選ぶ。ひとつでも多くに手を伸ばすんじゃなく、二度と離すことがないよう両の手で君を抱き締めたい」

「聞きようによっては国家への背信とも取れる言葉ね」

 

 確かに、アイリス様にお供すると誓った舌の根も乾かぬ内にこんなことが言える俺は酷い男なのだろう。

 

「前にミツゴシ商会で会ったとき、全部捨てて一緒に世界を旅でもしないかって聞いただろ。本心だよ。君のためなら全て捨てられる」

 

 貴族の地位も家族も。

 騎士の誇りも忠誠も。

 周囲からの信頼さえも。

 

「俺は君を護れる男になりたいんだ」

「ふふっ。女心の分からない朴念仁だったのに、どこでそんな口説き文句を覚えてきたのかしら」

「君の居ない社交界だよ。あれは退屈な時間だったなあ」

 

 背中に掛かっていた重みと伝わってくる熱が消える。

 

「……教団を滅ぼす日まで、あなたは待っていてくれるかしら」

「幾らでも。それに言ってくれれば手伝うよ。これでも結構強くなったんだよ、俺」

「それは私たちの為すべきことよ。あなたは騎士として私たちが手を伸ばせない人たちのことを守ってあげて」

「君がそう言うのなら、騎士の務めを果たすけど……」

 

 遠ざかっていく気配を確認してから振り向く。

 綺麗なブラウンの髪を靡かせて雑踏に消えていく人影を見つめながら胸に手を置く。

 

「まだ、足りない」

 

 シャドウとシャドウガーデンが居ればディアボロス教団を倒すための戦力としては充分なのかもしれない。だが、万が一が起きないとは限らない。

 その時、絶対に彼女を守り切るために俺にはもっと力が必要だ。

 

「俺は強くなりたい」

  

 陰の実力者を名乗るあの男――シャドウに勝てるほどに。




これにて本編(第一部?)終了でございます。
約一か月間、皆さん読んでいただき、ありがとうございます。
続きはもうちょい原作が進んでから書きたいなーとか思ってたりします。
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