オセオンから帰国した上鳴達を待ち受けていたのは、冬休み返上で行われる補習地獄だった。
急遽組まれた那歩島・オセオンでの活動の為に前倒しされた座学の
他の面々がインターンに赴いたりしている間、上鳴達は学校に缶詰になる事を余儀なくされていた。
「「うわーん!!」」
上鳴と葉隠は声を揃えて泣いた。面倒臭かったのと、トレーニング時間が減るからである。葉隠は新技を耳郎のバフ無しで安定して使える様にしたかったし、上鳴にも試したい術が山ほどあった。
だが、幾ら二人が泣いて喚いても、相澤達が容赦する事など絶対になく。
「やれ」
「「はい……」」
肩を落とした二人がメソメソしながら、山積みになったプリント課題に手をつけ始める。
それを、耳郎は少しムスッとして、緑谷は苦笑いしながら見ていた。
それから一時間後。
「できたー」
「嘘だろ!?」と葉隠。
上鳴の先生は医者だ。それも、アメリカの名門医大に現役で合格したスーパーエリート。そんな人間が十年間、国の指導要綱をガン無視して、とにかく知識を詰め込みまくった結果爆誕したのが上鳴だ。
上鳴の学業成績は学年で見ても三本の指に入る。八百万、上鳴、飯田が学業三強だった。雄英高校の一般入試主席は伊達ではない。
「流石だね」
緑谷にキラキラした眼差しを向けられ、上鳴も悪い気はしなかった。
「言っても、お前だってあと三問じゃんか」
上鳴が緑谷の手元を覗いてそう言うと、耳郎と葉隠がヒソヒソと話し出した。
「何であの二人はあんな頭いいの……? 勉強いつしてるの? まさか、授業だけとか言わないよね?」
「普段の知性*1からは想像できないんだよね、上鳴の学力って」
緑谷は予習復習で授業効率を最大化しているが、上鳴はノー勉である。
「お前ら〜聞こえてるからな〜?」
上鳴は「ぐぬぬ」と唸る二人を見て無性に意地悪をしたくなった。
「あーあ。せっかく色々と教えようと思ってたのに……緑谷、さっさと終わらせろ。先にグラウンド・ゼロに行って練習しようぜ」
「そんな爆心地みたいなグラウンドないよ」
そうは言うが、緑谷の手は淀みない。程なくしてプリント課題を終えて、筆記用具を速やかに仕舞い込んでしまう。
耳郎と葉隠げ恨めしそうに自分を見ながら唇を尖らせているのを見て、上鳴は気分良く言った。
「精々頑張れ。先に行く」
そうして、緑谷を連れて更地と化したグラウンドβに向かった。
──ガラガラと音を立てて扉が閉まった後、葉隠が小声で言った。
「……もう行ったかな?」
「大丈夫そうだね」
「後は緑谷くんに頑張ってもらお〜!」
隣に座っていた葉隠が大きく伸びをすると、肩からバキバキという音が聞こえた。凝っているのだろう。
耳郎は思わず葉隠の双丘を凝視してしまったが、かぶりを振って邪念を祓った。
「それにしても、舐められてるね。ウチらがいつまでも後ろをついて回るだけな訳ないのに」
「予習復習反復! ヤオモモ塾に通う私たちに隙はないのだ!」
バカでも敵は殺せるが人は救えない。最強と呼ばれる男の隣に立つというのなら、教養も必要だ──というのは八百万の弁だ。
特に上鳴はその辺りが抜けていそうに見えて全く隙がない。善院尚哉という男の指導力の高さが、上鳴を高水準な男へと仕立て上げていた。
「とにかく早くしろ。時間がないんだろ?」
補修監督である相澤が頬杖を付いて言うと、葉隠がポケットから必勝と書かれた鉢巻を取り出して額に巻いた。
「こっからラストスパート! 終わらせたら速攻で寮だよ、響香ちゃん!」
「はいはい」
相澤の欠伸を合図に、二人はこれまで以上に集中して課題へと向かい始めた。
一方、上鳴はグラウンドに着いて早々、緑谷から曖昧な質問をぶつけられていた。
「全因解放のコツぅ?」
「うん……イマイチ感覚が掴めてなくて……」
そうは言ってもなぁと上鳴は腕を組んで唸った。緑谷の力と上鳴のそれとでは、原理も何もかもが違う。自分のコツを教えたところで混乱させてしまうだろう。
何より、上鳴は緑谷なら自分より余程簡単に扱えると思っていた。個性に対する知識や発想力は緑谷に軍配が上がる。使えない原因があるとするならば、それは──
「歴代が
「断じて違う!! って」
上鳴は眉間に皺を寄せた。
「なら、シンプルにお前の頭が硬いんだな」
コツン、と上鳴に額を叩かれて緑谷は仰け反った。
「個性の解釈が浅いから組み合わせらんねぇんだ。“噴流紫煙”はかなり良い線行ってたがよ、アレも所詮は良い線止まりだ。何でか分かるか?」
「出力もそうだけど変速使用時の制御力とか浮遊があんまり活用できてないし黒鞭の応用力も下がるし発勁は」
「それは技としての欠点で、全因解放の話には結びつかねぇよ」
「え、えぇ!? 違うの!?」
「根本的な考え方だな──まぁ、俺ならどうするかって話からしてもいいか。お前なら改良しようとしてる内に自分の答えを出せんだろ」
上鳴は地面に文字を書いて講義を始めた。
「先ず、お前が全然使えてない力を列挙してやる」
指で硬い土を削って、つらつらと書いていく。
一つ目、ワン・フォー・オール。
二つ目、変速。
三つ目、発勁。
四つ目、浮遊。
それを見て緑谷が言う。
「ワンフォーオールは確かにまだ僕の体だと無理しても八割程度しか使えないっていうかこれはもう時間を掛けるしかなくて」
「ちげーよタコ」
緑谷の脳天へ手刀を落とす。頭が割れる様な痛みに襲われた緑谷の視界が涙で歪んだ。
「そうじゃねぇよ。初代の“譲渡”と“ストック”のこと言ってんの」
「……ぇ?」
痛みが消し飛ぶほどの衝撃があったのだろう。緑谷は目を丸くしてから、すぐにぶつぶつと考え込み始めた。
そして、考えの根幹から破壊された様な感覚を覚えたのは緑谷だけではなかった。
『盲点だったさ』
『確かに、考えたこともなかったよ』
『ワンフォーオールは力を培い繋げる力だが、元を正せば二つの個性』
『その機能は失われていない──が、それ単体では何も……いや。そうか』
『私たちを組み合わせるんだな』
歴代の継承者達が裡側で意見を交わし合っている。上鳴には聞こえない。しかし、因子の活性化と緑谷の独り言を聞いていれば何となく想像が付いた。
だから、話を続けた。
「強化されてんのはワンフォーオールその物なんだろ? 渡す力も、溜める力も、等しく拡張されてる筈だ。無理矢理誰かに力を渡せるなら、渡し方を荒っぽくすればダメージを与えられる筈だし、溜め込める力の種類だって増えてるかもしれない」
「じゃあ……発勁で生み出したエネルギーを溜めて……任意のタイミングで引き出せる様にすることも……」
「悪くない発想だな」
上鳴はニヤリと笑って、話を続けた。
「俺の呪力は元を正せばストレスって言う、外圧を受けた分だけ身体能力を強化する個性だったらしい。でも、それだって解釈を深めて圧縮訓練を行えば……純粋な破壊のエネルギーとして、アウトプットできる様になる」
上鳴は指先に雷光を集めて弾けさせた。
発勁を使えば、それと似たことが緑谷にも出来るかもしれない。風圧以外の遠距離攻撃手段を獲得できれば戦闘は劇的に変化するだろう。
そして、普段から発勁を溜め続けられるなら、戦闘時に隙を作ることもない。常時フルパワーで戦う事だって難しくない筈だ。
「で、変速な。制御が変なんだよ。普通は細胞単位で個性の付与なんて最初からできねーよ。俺だって無理だったんだぜ?」
「そうなの?」
「おぉ、大分苦労した。マスキュラーと殺し合ってなかったら無理だったろうな……でだ。使ったら自動的に細胞に効果が働くの、ハッキリ言って意味わからんから切れ。触れた対象にだけ使える様に制御しろ」
『難しい事を簡単に言うよね、彼』と六代目が緑谷に囁く。
原理的には煙幕と同じだ。ワンフォーオールの力で強化され、出力を操る弁が壊れている。だから変速の効果対象を選べない。
「難しく考え過ぎんなよ。エアフォースを使う時、指だけ出力を上げてんだろ? それと逆のことすんだよ」
「分けて考える……出力を落として使えば、確かにいけるのかな」
「そうそう──まあ、変速はいい。最悪今のままでも十分切札になる。問題は浮遊だ」
『私か……確かに応用がない個性だからね』
七代目が肩を落とす。そんな事ない! と言いたい所ではあるが、未だに緑谷も“浮く”以外の活用方法を見出せていない。
悶々とする緑谷に、上鳴はセブンと戦って気づいた事を共有する事にした。
「お前、浮遊の原理は把握してんの?」
「原理……?」
「麗日の“ゼログラビティ”みたいに重力を相殺してんのか? それとも、重力の向きを変えてんのか? はたまた重力以上の別の力で浮いてんのか?」
考えた事が無かったと言えば嘘になる。
しかし、分からなかった。そのどれかに当て嵌まるのかそうでないのか、調べようがないからだ。
「志村菜奈の個性を使ってきたセブンは、呪力で強化した上で反転で個性の性質を変えてきたんだけどさ……強化反転された浮遊は、周囲に下方向への圧力として働いてたぞ」
上鳴はその答えをセブンを通して知っていた。
「つまり浮遊は上方向へのサイコキネシス的な力!!」
「その通り。お前が目指すべきは──」
「力の向きを操れるかどうかだね!!」
「……いいんじゃない?」
上鳴はもう少しで緑谷が完成するという確信を得た。その全因解放がどれ程の物になるのかは分からない。だが、そこから繰り出される必殺の一撃は、きっと自分の想像を超えていく。
「良い」
これだから、緑谷は見ていて飽きない。
上鳴はスキップしたくなるのを抑えながら、自身の訓練に没頭していくのだった。
訓練が終わったのは日が傾き始めた頃。
最後まで顔を見せなかった耳郎と葉隠に、上鳴は表情を翳らせていた。
「……俺が意地の悪いこと言ったから」
「ち、違うと思うよ!! うん!! 本当に!!」
緑谷に肩を叩かれて慰められるが、上鳴の気は晴れない。人の心が分からないのをここまで疎んだ事はなかった。
しかし、いや、だからこそ。よく考えてみろと自分に言い聞かせてみる。
──緑谷がいるじゃないか。
「まあ、いいか」
上鳴は切り替えた。二人に嫌われるのは確かに辛い。でも、死んだ訳ではないのだ。別の道を歩くというのなら、それを見送るくらいはできる。
「何か悲壮な覚悟してるよね!? いい訳なくないか!? 耳郎さんと葉隠さんだよ、入学してから一番付き合い長いんだよ!?」
「でもお前いるし」
「それは本当にまずい!! もしも二人に聞かれたら」
刹那、緑谷は話の途中で赤と青の光を纏い、上空へ飛んでいった。
「何だ急に」
緑谷の危機感知が反応した事など、上鳴は知る由もない。
「“まあ、いいか”って何の話?」
寮へと続く道に耳郎と葉隠が立っていた。
二人揃って眉間に皺を寄せ、口を一文字に結んでいる。
「いや、初めてお前らが来なかったからさ……」
そこまで言ってから気付いた。続きの言葉は何なのだろうと。
失望や苛立ちとは違う。不安や孤独も近い様で遠い。その感情を言葉にする方法を、上鳴電気はまだ知らない。
珍しく言い淀む上鳴を見て、二人が言う。
「補習長引いちゃったからね〜 明日は頑張るよ!」
「二倍やるからいいでしょ」
そして、上鳴の隣に立った。
「帰ろ?」
「帰るよ」
「──そうだな。帰るか」
細かい事を気にしても仕方がない。
上鳴は今度こそ切り替えて、帰路に着いた。
他愛もない話をしながら寮まで戻る。
「「メリークリスマス!!」」
出迎えてくれたのは切島と芦戸。二人ともサンタクロースの格好をしていた。
いや、切島と芦戸だけではない。サンタの格好をした級友達が慌ただしくフロアを行き交い、パーティーの用意を進めていた。
「メリー、クリスマス」
上鳴は困惑した。
「クリスマスは三日前……」
クリスマスはもう終わっていた。
それに爆豪が異を唱える。
「テメェらが帰ってくんの遅れたからだろうが!! 誰のせいで予定変えたと思ってンだァ!?」
「爆豪お前……めちゃくちゃ気合い入ってんじゃんか」
髭まで付けているのは飯田と爆豪だけだ。
こういうイベントに積極的に参加するタイプではない筈だが、どういう風の吹き回しなのか。
「付けられたんじゃマネモブに!!」
その答えこそ、マネモブだった。
「物間のこと言ってるのは何となく分かんだけどさ」
人の真似をするモブ、略してマネモブ。マネキンみたいなモブではないのは分かり切っていた。
しかし、何故物間? それに、最近は人をモブ呼ばわりしなかったのに、余程腹が立つ事でもあったのだろうか?
上鳴が首を傾げていると。
「アーッハッハッハッハァ!! よく似合ってるじゃあないか!! もしかして天職!?」
本人がサンタ衣装を着て現れた。
「クソがァ! テメェ、覚えてろよ……!」
「手柄を譲ったお礼を土壇場で保留にして正解だったよ!! 最高だ!! 君のコスチュームにするといい、きっと子供達も喜ぶんじゃないかなダイナマイト!! アッハッハッハッ、はぅあ!?」
話の途中で拳藤の手刀がカットイン。
意識を飛ばされた物間が退場する。
「相変わらずアサシンみたいなヤツだな拳藤は……」
濁流の様に流れ込んできた情報を処理し切れない。
こういう時に上鳴がする事は決まっていた。
「どういうこと?」
上鳴は近くに居た尾白に尋ねた。
「実は──」
那歩島で起きた事件のあらましと、爆豪の覚醒を聞いた上鳴は「ふむ」と頷いてから、爆豪の髭を毟り取った。
「テメェ何で強くなったこと言わねぇんだぶっ飛ばすぞ!?」
「話すも何もお前日本に居なかっただろうが!! 頭沸いとンのか!?」
上鳴は爆豪と揉み合いの末、明日の朝イチにグラウンド・ゼロでタイマンする約束を取り付けた。
破らせない為に
「いやあ。明日もいい一日になりそうだぜ」
「好きだねぇ」と葉隠。
「補習遅れたら怒られんだから程々にね」耳郎が釘を刺す。
上鳴がニコニコしたまま頷くと、通りすがりの砂藤が大皿をみせて言う。
「上鳴、唐揚げ食うか?」
「食う! 何だよ砂藤お前、料理も出来んのかよ!」
綺麗に盛り付けられた唐揚げを一つ摘み上げ、上鳴は口に放り込んだ。
味付けは醤油、生姜、ニンニクという王道。サクッとした衣の下から、噛めば噛むほど口の中に広がる鶏の旨味──上鳴は普通に泣いた。
「うめぇ……うめぇなぁ……俺、林間合宿で攫われて良かった……」
心からの言葉だ。しかし、側から聞いていたら普通に笑えない類のジョークである。砂藤達は頬を引き攣らせた。
「まあ、お代わりもあるからな。他にも色々ご馳走用意してっからよ。腹一杯食いな」
「天晴れだ砂藤力道。俺は生涯、モグ、お前を忘れること、ングッ、ない、モグ、だろう。モグ」
上鳴は砂藤に胃袋を掴まれた。その証拠に、唐揚げへ伸びる手が止まらない。喋りながら咀嚼を繰り返している。
「行儀悪いよ」
「アンタまだ手洗ってないでしょ。腹壊すからやめな」
葉隠と耳郎に嗜められても上鳴は食べる事を止めなかった。
「反転モグモグ術モグ式使えばングッ、食中毒の原因になる細菌は全部消せるから大丈夫」
「それを使うなって言ってんの!!」
「やだよ。使わないと慣れないだろ。春先までには
「だからって」
これ以上は平行線かに思えたその時だ。葉隠がロビーから割り箸を持って戻ってきた。
パキンと割ってから唐揚げを取って、上鳴の口元へ近付ける。
「あーん」
「んぐ」
確かにこれなら手は使わずに済む。口をモゴモゴさせながら上鳴に葉隠に礼を言い、勝ち誇った様に耳郎を見た。
「……ッ!」
──あ、なんかやらかした。
上鳴の脳内CPUが火を吹いた。
分からない。飯を食べさせて貰っただけで、何故、耳郎が悲しそうな顔をしたのか。
それでも必死に考えて結論を出した。
「ちょっと借りるぞ」
「はえ?」
葉隠から割り箸を借り、唐揚げを一つ掴む。
上鳴はそれを耳郎の口元に持って行った。
「あーん」
──耳郎も腹減ってたんだな。
全く違う。上鳴はそれに気付けない。しかし、行動は全くの不正解という訳でもなかった。
耳郎は遠慮なく唐揚げを頬張り、舌鼓を打ちながら葉隠を見た。
視線が交錯する。
火花が散っている様に見えたが、最後は二人とも肩の力を抜いて笑った。
「変なの」
上鳴はそのまま箸で唐揚げを食べ続けていた。
──それから上鳴は大皿の唐揚げをペロリと平らげると、洗面所で手を洗ってから級友が一堂に会するロビーへ戻った。
「上鳴テメェ明日の朝刊乗ったぞゴラァ!」
部屋に入るなり、昭和の不良みたいな台詞を吐きながら峰田が飛び掛かってきた。上鳴はそれを優しく受け止めて、肩に座らせる。
尚も興奮が収まらない峰田は顔を真っ赤にして吠えた。
「何をアオハルしてんだお前ェ!! オイラは聖夜を性夜にするなんて許さねぇからな!!」
「セイヤセイヤと何を言ってんだお前は。確かにクリスマスは聖なる祭りではあるけどさ」
「性なる祭り!? お前まさかこの後さんッ」
そこから先は言わせねーよと芦戸が割り込む。
「拳藤お願い!」
「任された」
B組最強女子、拳藤の手刀が煌めく。
「ケンドウ=サン!? ケンドウサンなん、アパ──ッ!?」
峰田の意識は鮮やかに爆発四散。そのまま上鳴の肩から墜落するかと思われたが、峰田の足は上鳴の腕をガッチリとホールドしており、落ちる気配は無かった。
それを見ていた瀬呂が言った。
「コアラみてぇ」
「こんな可愛くないコアラいないよ」芦戸が痛烈に非難する。
このままというのも面倒だったので、上鳴は早々に峰田を起こす事にした。
「起きろ」
ショック療法である。電撃を流し込んで強制的に峰田の意識を起こす。
「ハッ!? ……あれ? 何でオイラは上鳴の腕にしがみ付いてんだ?」
哀れ──峰田の記憶は消し飛んでいた。
実に好都合だった。上鳴視点、よく分からない理由でキレた峰田は面倒臭い。わざわざ思い出させても七面倒なだけだ。
「何でもねーよ」
そう言って峰田を下ろしてから、耳郎と葉隠が座っていたソファの端にどかりと座り込んだ。
「峰田の奴は何なんだ全く……なぁ?」
「「ソウダネ」」
「急にカタコトになってどしたん?」
耳を真っ赤にした耳郎と葉隠に目を逸らされ、首を傾げる事になったが、上鳴は直ぐに二人を意識から外した。
目の前に並べられた大量のご馳走に目が釘付けになっていた。
「もう食っていい?」
上鳴は近場に居た飯田に尋ねた。
「もう少しだけ待ってくれるか? 相澤先生がそろそろ来る筈なんだ」
──相澤先生がクリスマス会に? 妙だな……学生の集まりに顔を出すタイプじゃないと思うんだが。
爆豪という前例があるから、何か心境の変化でもあったのかもしれない。
いつの間にか垂れていた涎を通りすがりの切島に「汚ねぇから拭けって!?」とティッシュで拭われつつ、上鳴は相澤の到着を首を長くして待った。
それから十分。上鳴にとって人生で最も長い時間が過ぎた頃、寮の扉が開いた。
「悪い、待たせた。もう始まってるか?」
「相澤先生ー!!」
「待ってました!!」
「俺も居るぞ」
「ブラキン先生!!」
「待ってました!!」
ABの両担任がロビーに入ってくる。
その背後に小さな人影が三つ。
「「エリちゃん!」」と緑谷と麗日が真っ先に駆け寄る。
サンタクロースの格好をした壊理が「とりっくおあ、とりーと?」と首を傾げている。
残る二人は──
「ジュリ男にアンナさんじゃん。久しぶりだな」
雄英で保護されているジュリオとアンナだった。壊理やクラスメイトと同じようにサンタクロース衣装に身を包んでいる。
しかし、アンナはともかくジュリオの様子がおかしかった。
「えらい縮んだな」
ジュリオの身長が随分と縮んでいたのだ。二十代半ば過ぎといった風体だったが、今は上鳴よりも幼く見える。
しかも、それだけではない。上鳴では治療し切れなかった身体の欠損部位が、元通りになっていたのだ。
「エリお嬢様のおかげです」
相変わらずの静かな口調。
だが、ジュリオの身に何があったのかを簡潔に説明していた。
「アンナさんは元に戻したら暴走のリスク高そうだもんな……先にジュリオを巻き戻して、対応出来るようにするのが楽か」
「ジュリオならエリちゃんの個性が暴走しても止められますから」
上鳴の言葉に補足するアンナの顔は楽しそうだった。
「昔を思い出すね。ジュリオ」
「……揶揄わないでください」
二人が幸せそうならいいか。
上鳴は口元を緩め、無意識の内に骨付きチキンへと手を伸ばしたのだった。