全ての始まりはあの子との出会い。
私の勘違いであの子を──燈を突き飛ばしてしまうという、とても失礼な初対面から燈が書いた歌詞を知りボーカルが欠けていた私のバンドへと誘って。
それからはすべてが新鮮で真新しく、キラキラと輝いて見えた。
ある時はカフェでバンド活動の話をして、ある時はカラオケで『どりんくばー』というものに触れて画期的な機械だと目を輝かせて、みんなの歌を聞いて私も歌ってみたり。
大きな屋敷に住みお嬢様学校の月ノ森に通い礼儀正しい振る舞いをしているだけの生活では決して体験できないような、そんな美しく楽しい日々。
それが、ずっと続くと思っていた。
「今日は話があってきましたの」
燈と出会いそれまでの日々が突然変わったように。
終わりというものは当たり前に続くはずだったもの全てを壊してしまう。
燈を、みんなを傷つけたくなかった、それでもこれだけが最善のやり方だった。
「燈はお前を待ってたんだよ」
立希さんのそんな言葉が強く、そして痛く胸に響く。
ごめんなさい、なんて謝ることの出来る発言ではないし謝ってどうにかできることを口にした訳でもなく、ただ冷たく返すしか出来ず。
「私は……バンド楽しいと思ったこと、ない」
私にだけ罪を背負わせないようにするために睦が俯きながらそう言って。
それを最後に私たちのバンドは一度きりのライブを終えてすぐに自然と解散してしまった。
燈は何も悪くない。
あなたのせいでバンドが壊れたわけじゃない。
すべて、私の身勝手が起こしたこと、だから自分を責める必要はあなたにはない。
それでもあなたはきっと自分のせいだと強く思ってしまう、花びら一枚すら大切にするあなたなら、そうするのでしょう。
だからあなたを応援しようと、新しいバンドを見に行った。
そして、それが本当に燈達との別れ。
「おや、遅かったですがなにかトラブルでも?」
これまでを思い出すのを途中でやめて控え室にある更衣スペースから顔を出せば少し時間が経っていたようで既に準備を終えて待機している海鈴さんがこちらを向いて大丈夫かと聞いてくる。
「いえ、少し考えごとをしていただけですので……それより、他の皆さんは」
「最後の調整をしにステージ裏にいます」
「あなたは行かなくても?」
「やる曲なら既に頭に入れてるので問題ありません」
なんて会話を当たり前のようにたんたんと口にするあたり、さすがはプロと遜色ない、私が見込んだベーシスト。
本番で如何なるトラブルが起きても、動じることなく対処する、そんな自信すら持ち合わせてそうで。
「話してたらもう時間ですね、行きますか」
「えぇ、今宵は……いえ、今宵も私たちのステージを作り上げましょう」
皆さんが待機しているステージ裏に行くとスタッフに用意させた仮面が置いてあり、既に先に待機していたメンバーはそれぞれの仮面を付けて最後の仕上げまで済ませている。
「お待たせしました、さぁ行きましょう」
仮面を取り顔へつける。
燈とやっていたバンドは既に無くなってしまい、あれからもバンドを復活させようとしてきたメンバーを冷酷に突き放し。
もう二度と戻れないあの頃との決別を、弱い自分はもういないと、周りを巻き込むぐらいなら自分だけが汚れたっていいと言い聞かせ。
あの時の選択は、誰かを恨めば変わるものでは無く。
ステージに立つのはこれまでの私じゃない、生まれ変わった者。
「ここからが本当の私、ですわ」
恐れを、愛を、死を、悲しみを、そして忘却を恐ること勿れ。
それが私たちの、私の本当の姿。
燈にはきっと届かないかもしれない、届いたとしてもあなたに見えるものは豊川祥子ではなくオブリビオニスだと思うけど。
あなたに少しでも私の想いが届くのなら、許されるのならば、それが言葉じゃないとしても。
踏み外して崩れてしまった互いの道は交わることはきっとないでしょう、それでも。
あなた達の歩みを私はずっと見守っていますわ。
どれだけあなた達を忘却しようとも、あなたは私の大切な──
『お友達』ですので。
決別しましょう、燈。
「──ようこそ、AveMujicaの世界へ」
お幸せに。