透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
最初の方に葉隠さん視点があります。
サブタイトルをつけるなら「39.5 透明少女の六月模様」。
話は少し遡る。
6月上旬の終わり際、雄英高校の昼休み。
私――葉隠透は妹を交えたランチタイムを終えて、三奈ちゃんと野暮用を済ませてから教室に戻ろうとしていたところだった。
「葉隠さん」
「――ん?」
「あれ、心操じゃん。C組の」
A組教室最寄りの階段を上がった先で待ち構えていたのは、妹から話をよく聞いている男の子。
その彼から何やら話があるようで、呼び止められた。
「葉隠――あー、妹さんのことでちょっと……」
「霞の? いーよ。あっちのほう行こっか」
妹のことと言われれば話を聞かざるを得ない。
三奈ちゃんは「先、戻っとくねー。ごゆっくりー」と言い残していき、二人で
さてさて何を訊かれるのか。
私も心操くんとお喋りしたかったからちょうど良かった。
「いや、大したことじゃないんだが、その……」
「なになに?」
ふむ、なんだか私が持つイメージと違う心操くんの姿だ。
彼はもっと堂々と、あるいはふてぶてしい感じで、こうやって言いよどむようなキャラではないように思う。
しかしこれは『妹から聞ける心操人使』という人物像によるギャップなのだ。妹のフィルターがかかっている。
もしかしたら妹の前では格好つけてる可能性もある。
妹も彼の前では見栄を張っているようだし、お互い様なのか。……お似合いカップル。
「普段の誕生日プレゼントって、どんなのを贈ってるのか、教えてもらいたい、です」
「あー」
なるほどなるほど。
難しいよね、ちょうどいい感じのプレゼント。男女間ともなればなおのこと。
「同級生同士だとお菓子を奢ったりが多かったかな。クレープとか人並みに好きだよ」
学生のお財布事情的に負担にならない程度が望ましい。
「仲の良い友達からはなんか欲しがってた本とかグッズとか貰ってたかも?」
その辺は
かといって図書券やギフトカードの類では、流石に楽しくない。
んー、妹のことを考えると……
「誕生日に限らないけど、私はリボンとか髪飾りを贈ってるね。霞の必需品だから。日替わりしてるでしょ?」
「うん」
「高いのも安いのも、私がこれいいなって思ったら贈ったりしてるから、値段は気にしなくていいと思う。なんだったら手作りしてもいいよね」
「なるほど……」
得心がいった表情で頷く心操くん。よしよし。
「助かった。ありがとう。葉隠――さん」
「なんかギクシャクした喋り方だねぇ。タメ口でいいよ?」
本人もなんだかしっくりこない感じである。
同学年だから私はフツーに喋る気満々なのだが。
「いっそ体育祭前に宣戦布告しに来た感じで」
「勘弁して」
彼が言うには「葉隠の姉という意識が強すぎて同い年感が薄い」とのこと。
なるほど。じゃあ、
「お姉さんと呼んでくれてよいよ」
お義姉さんと呼んでくれてもよいよ。
「丁重にお断りします」
「残念ー」
ふふっと冗談を交わして、ようやく彼も肩の力が抜けたご様子。
「そしたら私からもちょっと訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「? どうぞ」
それじゃあ遠慮なく。
「――付き合ってる子がいるって噂は本当?」
「はい? ――え? ………………あー」
うん、だいたいわかった。
「いない、よ。そんな時間無いし」
「だよねー」
私もそうだと思って訊いたのだった。いれば妹が黙っちゃいない。
三奈ちゃんが小耳に挟んだ噂話なのだ。普通科の心操には彼女がいる、という。
眉唾にもほどがある話なのに、えらく確信をもって囁かれていた、らしい。
「変なこと訊いてゴメンネ」
「いや……この感じ、葉隠の姉だなって思ったよ」
「なんてこった」
どういうこった。
同じ日の放課後、私は職員室へ戻ろうとする相澤先生を途中で捉まえて、今日も妹たちの特訓があることを確認すると、そのままC組の教室へと足を伸ばした。
「こんにちはー」
「葉隠? ――って、おねーさんじゃないっすか」
やあやあ、お邪魔します。
ヒーロー科の放課後の始まりは、普通科よりも遅い。USJ事件の後はしばらく短縮授業だったけどすっかり通常日程である。欠けた授業時間は夏休みの始めに全体補習で埋め合わせるらしい。
そんなC組教室に残っている生徒はまばらで、C組委員長の女子は問題集を開いていたところだった。
「
「ちょっと訊きたいことがあってねー」
よっこいせ。彼女の前の席に座らせてもらって、目の高さを合わせる。
彼女は妹と違って
さて、
「心操くんに付き合ってる子がいるって噂話、流したのはC組でしょ?」
それを確認しに来たのだ。
「そうっすよ」
平然と彼女は答えた。なんだその件かという態度だった。
「えっ、もしかしておねーさんも心操狙いっすか!?」
「いや、そうじゃないけど」
さすがに妹相手に横恋慕しない、というか、彼と接点全然無いし。
「あー、焦ったー」
「ここに来る前に心操くん本人に聞いてから来たからなんとなく事情は察してるよ」
胸を撫で下ろす彼女。ついに話がヒーロー科まで届いたのか、としみじみ呟いている。
霞からも体育祭の後に注目を集めていたことは聞けていた。その対応策だったのだろう。
「この写真を見せて『二人は付き合ってる』って話にしたんですよ」
「――えっ、この距離感なの!? 肩並べて、顔寄せ合ってるじゃん!?」
「はい。こっちもおねーさんに訊きたいぐらいっすよ。ほんとに付き合ってるわけじゃないんですよね?」
「…………本人に訊いたら違うって答えるねぇ」
見せてもらった
霞は透明化しているから見えないけれど、眼鏡もあるから見慣れない人でも顔を寄せ合っているのはわかるだろう。
……いやマジで顔近いな。透明慣れしてないとわかりにくいかもだけど。
まあうん、これなら粉かけようとする人も追い払えるわ。
「おねーさんは、葉隠と心操がくっつくのはどーなんです?」
「アリアリの大有りよ。C組のみなさんは?」
「
なんかえらく具体的な割合が出てきた。
てか8割が焦れている。尊いってなんだろう。
「まあ二人の気持ち優先だけどね。霞はともかく」
「あー、大丈夫っすよ。あの二人、ちゃんと両想い――でしょうから」
「そう? ならいいんだけど」
「……まあ、ヒーロー科編入が決まるぐらいはしないと、二人とも真面目だからなぁ。今はまだその時ではない、って感じで」
「そうだねー」
「心操に会ったってことは誕生日プレゼントの相談っすよね」
「うん」
かくかくしかじか、と彼と話したことを伝える。
妹の誕生日はC組全体でのイベントごとにするつもりなのだと委員長の彼女は言った。
「普通科って地味なんで、自分たちからやること探したり作ったりしたほうが楽しいんすよ」
文化祭についても既にアイデアを募っているそうだ。
テスト後には出し物を決めて、夏休み中には準備に手を付け始めると。ほえー。
「まずは期末テストをやっつけなきゃっすけどね」
「……難しい問題やってるなぁ」
「これは応用の応用だけど、多分テスト出ますよ」
「む。あとで霞に教えてもらっとこ」
七月に入り、いよいよ期末試験が迫ってきた。
テスト前の日曜日、私――葉隠霞は今日も今日とて姉と二人で勉強タイムだった。
「お姉ちゃんは八百万さんたちの勉強会、行かなくて良かったの?」
「いーのいーの。私に教えるのは霞が一番
そりゃあ中学時代から、下手したら小学校から姉の勉強は見てきているわけで。
それでも、ヒーロー科の座学科目なんかは、私はむしろ姉から教えてもらう側である。
(――あ、そのためでもあるのか)
霞も一緒に行くなら行こうか? と言われて、それは流石に……と私が断ったのだった。
中間試験同様に特別編入カリキュラム生はヒーロー科の試験を受けられる。香山先生からも「言わなくてもいいでしょうけど、二人は必ず受けてね」と言われていた。
「むぅ。責任もって姉の成績を上げねば……」
「赤点回避で充分じゃないかなー。それより演習試験の方が怖いよー」
「んんー、前情報通りに対ロボだとしてもどうせ何かしらひねってくるよねぇ。そもそもガラッと変えてくるかもしれないし」
「ロボ相手でもまあまあ不安だよ……」
大きく溜め息を吐く姉。気持ちはわかる。
どこまでいっても破壊力とは縁遠い
「コスのグローブに装甲でも追加する? 試験にはもう間に合わないか」
「……グローブを用途別に使い分ける案は頂きます」
「あ、
「いちおう要る。……霞、他にどんな武器持ってんの?」
「秘密」
言うてガチの金属製の暗器は持ってないです。
(せいぜい分銅付きワイヤーぐらいかな……)
実用品というより若気の至りとか趣味の延長とかそういうのである。口笛の練習とか。
ふと、そういえば、
「相澤先生はどうしてんだろ……」
「相澤先生? 捕縛布以外ってこと?」
「うん。ポーチの中身とか、サイドアームの気配がする」
少なくとも捕縛布の使い方でナイフの扱いが入っている。
巻き取れない、引き戻せない緊急時には咄嗟に断ち切る必要があるので必須スキルなのだ。
「まあ受験の時のロボなら素手でもなんとかなるでしょ。センサーは強化されてそうな気がする」
「ありそう。ちゃんと身を隠さないと見つけてきそうだよね」
試験というなら抜け道というか、解答があると信じたいところだ。
「三日間の筆記試験の翌日に、ヒーロー科は演習試験だっけ」
「うん。霞は?」
「筆記試験はおんなじ。三日目の筆記試験後に特編生向けの演習試験だって」
「おや。三日目なんだ」
「ヒーロー科の演習試験にリソースを割きたい感じかな。まあ
筆記試験同様、演習試験も用意されていた。
こちらも希望者は受験可能、と言っても筆記試験よりも必修扱いで受験推奨だった。
「それこそ入試みたいな対ロボ戦やるんじゃないかな?」
「むむむ……。霞たちがロボ相手やるなら、私たち違うコトやらされるんじゃ」
「ありそうだなー……。まあ気にし過ぎても仕方ないよ。まずは筆記、筆記」
そして期末試験を迎え、筆記試験を無難にこなし、特別編入カリキュラムの演習試験の時間がやってきた。
「えーっと……」
演習試験開始前、模擬市街地演習場の道路上。
私は一人、配られたタブレット端末の画面を確認していた。
体操服にゼッケンを着けた格好で、眼鏡を外し、普段とは違う頑丈なレザーグローブをはめて、来たる戦闘に備えている。
指ですいすいと操作する画面の隅には試験開始のカウントダウンの表示がある。残り2分。
タブレットに表示された演習場の簡易マップには自分の位置のマークと、すぐ近くに青色の点があった。
(青は置かれている
模擬市街地に入る前、演習試験の事前説明では「入試のような対ロボット演習だが、それに他の要素を追加している」と伝えられていた。
その一つが演習場各地に設置された箱だ。箱の中には武器などの装備品やサポート科の生徒が作ったサポートアイテムなどが入っている。
そこまで数は多くないらしいが、必ず一人一つは拾えるように配置されているとのこと。
試験の開始地点は、入試と違って演習場の入り口から移動用ロボットに運ばれた場所からなので、もしかしたら生徒に合わせて設置されているかもしれない。
「んー、見える範囲は広がらないのか」
道路や建物のシルエットなんかは見えるのだが、広域にしても丸く区切られた範囲はそのままで、その中にだけ青い点が表示されている。
他に表示されるはずの敵ロボと、スコアアイテムは未表示だ。
今回の演習ではロボットを倒す以外にも回収して得点できる要素がある。
(戦闘に向かない人向けの救済措置……なんだろうけど、戦闘を避ける動き自体も見られそうな気がする)
入試での受験生と特編生では、人数の桁が二つ違う。一つの演習場に居る生徒数も全く違う。
本来入試でやりたいはずの、きめ細やかな審査が可能な人数なのだ。
「それにしたって、ゲームが過ぎる気もするけど」
なんとなく『バトロワ』系の気配がある。PvPではなくPvEだけど。
試験時間ごとにエリア制限とか掛かってくる可能性がチラついている。
後から聞いた話。
演習場に落下傘降下させる案もあったらしい。
雄英教師、時々物凄くノリが軽い。
3、2、1――
カウントがゼロになり、演習場に試験開始のブザーが鳴り響く。
私は早速マップの青点に向かっていき、ほどなく雄英が用具入れにも使っているコンテナボックスに似た箱を見つけた。
OPENと記されたボタンを押すと、プシューッ、と大袈裟な音を立てて蓋が開く。明らかに演出用だ。
「ああ、やっぱり」
箱の中には捕縛布が入っていた。
正確には相澤先生が使うものとは違う、やや薄くて軽い、いわば初心者用で、最近の放課後訓練で心操くんと私が使っているものだった。
よし、と頷いて首に巻いて、付属のナイフを腰に。再度地図を見る。
「来た来た」
マップには試験開始まで表示されていなかった赤い点が表示されていた。
索敵範囲とでも呼べばいいだろうか、表示範囲の端のほうから赤い点の群れがやってきている。
微妙に大きさが違うのは点数の違いだろう。入試で言う1ポイントから3ポイントの一団だ。
「よし、やるか」
独り言が多いのは緊張か、気合を入れるためか。
ともあれコンディションは悪くない。
精一杯頑張らせてもらおう。
特別編入カリキュラム、1学期末演習試験。
試験時間は30分。模擬市街地演習場にて行われるそれは入試のような対ロボット戦闘をメインとした実技演習試験である。
受験生は各演習場にて輸送ロボによって運ばれ、分散した指定位置から試験開始となる。これは演習場入り口からいきなり始まった入試とは大きく異なる点の一つだ。
仮想
さらに違うのはロボットを倒す以外にも得点要素が用意されており、スコアアイテム――
タッチ後にも加点要素があり、指示された操作を行うことでさらに追加の点数がある。タッチし続けたり簡単なパズル問題などが表示されるそうだ。
最後に、演習場には受験生を助けるサポートアイテム類が入った
学校の演習用備品の武装やサポート科生徒が作成したオリジナルアイテムが入っていて、サポート科製のアイテムだった場合、試験後に使い心地などの感想を伝えてもらえると嬉しいとのこと。
その他、アナウンスなどもあるため、配布のタブレットは手放さず身に付けておくこと。
以上が、事前説明で伝えられた大まかな試験内容である。
試験開始から十分弱。
(うん。順調)
私は敢えて完全透明化はせず、
正面戦闘と言えれば格好がつくのだが、戦術としてはやはり奇襲、バックアタックがメインだ。
ロボが見た目よりも脆いのは変わらずで、相澤先生との戦闘訓練を思い返せばロボの動きは鈍重と言っても過言ではなかった。
物陰から不意を突いて、群れを作るロボたちを捕縛布でまとめて縛ったり、体勢を崩したところを急所狙い。あるいは完全に捕縛しきるとロボは動きを止めてくれた。この辺は人工知能の判断なのだろう。
その捕縛布の扱いも、完璧とまではいかないが上々だ。
動きながらだとまだ厳しいが、足を止めての不意打ちでなら成功率は9割ほど。
この場合の成功とは、狙ったところに狙ったとおりに放って捕縛できたこと。
(でも、自分でできる程度に、だからまた相澤先生に怒られるかもなぁ……)
脳内イメージでは既に叱咤が浮かんでいる。もっと挑戦しろと。
そうは言っても、捕縛布を使ってる時点で結構頑張っているつもりなのだ。
楽をしたければ捕縛布付属のナイフを使いたいぐらいなのだが、こちらは捕縛布を切るためだけに使うことと注意書きが添付されていたので自重する。
「――――お」
ミニマップに
路地にひっそりと置かれた
今回は撃破ポイントを稼ぐつもりだからスルーしたけれど、あちらはあちらで面白そうである。
路地から道路を窺う。寄り道してる間に供給品箱の近くにロボット集団がやってきていた。
(ひの、ふの、みの、四。いけるね)
指差し数えて、一息、気合いを入れる。
「――ふっ!」
捕縛布を構えて放った。ロボ2体に巻き付けて動きを止めておく。
残る2体のうちの1体目掛けて飛び出し、勢いそのままの飛び蹴りで頭のようなパーツを潰す。
続いてもう1体がこちらを捕捉しきる前に飛びついて、首のようなパーツの隙間に腕を突っ込んでケーブルを引っこ抜く。よし。
捕縛布で雑に縛った2体も急いで処理して、掃討完了。
慣れてしまえばちゃんと倒せるようにできている敵ロボットなのだ。
(でも、カメラ周りの色が違うロボが混ざってるんだよなー)
おそらく赤外線センサーかなにかで私を見つけられるタイプだ。
完全ステルスはここぞの場面に、きちんと相手を見て使おうと心に留めておく。
それはさておき、
「アイテムはなにかなー」
周囲の安全を確認してボックスオープン。大袈裟な音を立てて開いた箱の中を覗き込む。
中にはストレート型の警棒が2本入っているように見えた。伸縮しないシンプルなタイプ。
(ん! 充分、アタリの部類!)
長さは70センチほどで、グリップの太さも竹刀程度で握りやすい。
軽く素振りをしてみると、少し重心が独特で、グリップにスイッチ類があることに気づく。
――これサポート科製のアイテムだ。
よく箱を見てみると、破損対策でラミネート加工されたマニュアルに、知っている名前が書かれていた。サポート科1年、青堂電気くん。*1
「ってことは!」
マニュアルにかぶりつく。
そうだ! やっぱりこれ、私が彼にお願いしていた
ひゃっほう! という歓喜の叫びを内心になんとか留めて、マニュアルを読み下す。ふんふむ。
(スイッチで弱・中・強の威力の調整。ただし、強は一発、せいぜい二発で
弱なら十数回は使えるが、バチっとする程度。中でびりっと。
強設定では人の頭や心臓には当てないこと、と赤文字で警告表示されていた。
強度には拘ったので単なる棍棒としても使えるはず、と。
グリップにトリガーボタンがあり、スイッチをオフにしておけば誤爆の心配もない。
(欲しかった攻撃力と、常用できる手持ち武器。ありがたい)
ほぼ私の注文通りだ。惜しむらくは使い切りで、バッテリーを交換する機構まで作れなかったところだろう。2本入っているのは二刀流をさせるためだけではあるまい。
予備のバッテリーなんかがあって交換できればもっとガンガン使っていけるだろうけど、今後の改良に期待である。
スタンロッドを入手して数分、試験時間が折り返した頃。
『任意の追加課題が発生します。クリアすると加点があります』
演習場の
何事かとタブレットを見ると、ミニマップに新たにマーカーが表示されている。
――指定されたスコアアイテムを回収せよ。
ふむ、と広域地図に切り替えると、索敵範囲外に今までなかった数字『1』が表示されていた。
(1とな。順番指定のスタンプラリーみたいな感じかな?)
任意とは言え、やれと言われたからにはやるべきだろう。
編入志望の私たちは積極性を見せなければならない。
(よし)
地図と方向を確認し、走り出した。
道すがらの仮想敵は辻斬り程度に狩っていく。透明化も駆使して移動優先。
あまりに生き生きと警棒を使っていると、捕縛布を教えた相澤先生からにらまれそうな気がするが、いかんせん棒術にはそれなりに自信があるから仕方ない。
指定された地点に到着し、そこには予想通り
タッチすると決済音のようなSEと『合計十秒間待機させてください』とのタスク表示が出て、そのまま待つと追加の加点がされたらしきSEが再び鳴る。
そしてこれも予想通り、次はこっちと言わんばかりに地図に新たな数字『2』が示されていた。
(ちょっと遠い。走らせたいのかな)
試験時間もあと十分程か。スタミナの心配をするにはちょうどいい頃合いだ。
演習場を横断、あるいは縦断するように駆け抜ける。すると、
(――私以外の戦闘音)
それが聞こえてきた。そしてその音の原因は、すぐに目に入ってきた。
「心操くん!」
「葉隠か」
地図上の『2』の数字は、敵ロボの赤点に重なっていた。
その場所で、心操くんがロボットを正面から殴り倒していたのだった。
いや、素手ではない。私と同じように首には捕縛布を巻き、そして片手には武器――トンファーを持っている。
学校備品武装のトンファー型警棒で、実は以前彼に軽く手解きをしたことがあった。
トンファーは握ってパンチやガードをするだけで、ある程度意味を持たせられるのだ。
パンチの打撃を棒の刺突に変えることで一点への破壊力を増せるし、直接腕でガードするよりも安心できる。
巧く回転させてリーチと遠心力を、などと使いこなすとなると話は別ではあるが、徒手空拳にプラスするには邪魔にならない武器。受け売りだけども、私はそう考えていた。
それはそれとして、トンファー捌きが様になってる心操くん、カッコイイな――
閑話休題。
「心操くんも追加課題、ここ?」
「ああ。葉隠もか」
「うん」
どうやら同じ追加課題が出されて、同じ場所に来たようだ。
心操くんの方がやや近い位置だったので、先に露払いをしてもらったカタチになった。
先着の心操くんに箱をタッチしてもらうと『合計三十秒間待機させてください』と出た。私もタッチすると二つ同時でも問題無く処理される。追加タスクも同じ三十秒待ちだ。
「次は3番目かな?」
「そうだな。……確かここは……」
タッチの差で先に地図を確認した心操くんに続いて私もタブレットを持って確認する。
表示された『3』の地点は二人とも同じ場所で、そこまで遠くはない。模擬市街地大通りの、交差点を曲がった先ぐらいだ。
演習場の別地点からやってきた心操くんには心当たりがあるようだった。ふむ。
何はなくとも立ち止まっている時間が惜しい。二人して駆け出す。
ほどなく交差点に辿り着き、曲がれば目的地はすぐそこ、というところで、
「ちょっとここでストップ」
心操くんから待ったがかかった。
建物の影から窺うように、道路の先を見る彼に
「――なるほど」
道の先には巨大なロボットの姿。
入試でのゼロポイントが私たちを待ち構えるように徘徊していた。
目標地点を守るように。まるで
「…………んー」
同じ演習場で同じ追加課題。合流できるように二つ目の段階で同じ目標地点。
(私と心操くんでチームアップして、あのゼロポイントを倒せってことだよね)
正確にはゼロポイントではなく、今回は倒せば得点になる。
点になるということは、今回は打倒すべき相手だ、ということだ。
ヒーロー科は体育祭の時点で既に仮想敵のロボットを障害物扱いにしていた。
そのレベルに達しているか、試されている。
「心操くん」
「うん」
言葉少なくとも、役割分担から作戦は決まった。
私と心操くん、二人ともが相澤先生から捕縛布を習っているけれど、捕縛術としての練度が高いのは先生から直接の薫陶を受ける心操くんだ。
「――――」
徘徊する巨大ロボットの背を追いかけ、私はそのままゼロポイントを追い抜き、その前に姿を見せた。
『ターゲット、
当然、ゼロポイントは現れた私に反応し、攻撃しようと動き出す。しかしながら、その動作はとても遅い。
右腕に相当するロボットアームを振り下ろして殴りつけてこようとするその動きを確認しつつ、ワンステップして避ける。
パンチが路面を派手に叩き、砂塵を巻き起こす、が、あくまで余波。体勢を乱さないよう受け流した。
ゼロポイントも攻撃失敗がわかっていて、次は左腕を振りかぶっている。
(――カメラ周りが違うタイプ)
体育祭で見たものとの違いに気が引き締めつつ、私は完全
『――――! ターゲットロスト――
一瞬、仮想
やはり完全透明状態の私を感知するセンサーを持っているようだ。
(予想通り――――ならば)
閃きが脳裏を走り――私は咄嗟に完全透明化を解除した。
『―――
現れた私の姿に、カメラアイが再び瞬く。
視覚センサーのモードチェンジの瞬間、ロボットの動作が処理落ちのように止まっていた。
――二度の静止、その隙を心操くんは逃さない。
ロボットの背後から放たれた捕縛布が、三重四重に絡まっていく。
「葉隠!」
力強い心操くんの声は、しっかりと捕縛布がかかったことを伝えてきた。
「流石!」
無理やり動こうとする巨大ロボット。しかし、複雑な絡み方をさせた捕縛布はもがく力を逆に利用して締まっていく。
「――――ふっ!」
次は私の番だ。片手で捕縛布を一本放ち、――全力で跳ぶ!
ビルの高さほどもある巨大な仮想
――って、思ったより高く跳んじゃった!?
ロボットの上半身のどこかに跳び付くつもりが、全力で跳んだ結果、目の前にはロボットの顔(のようなパーツ)があった。
――躊躇する暇はない。
ベルトに差してある未使用の電磁ロッドを抜いて、こちらを見つめる――としか表現できない――カメラアイに渾身の力で突き立てた。
ぐしゃり、と角膜のようなカメラカバーを突き破る確かな手ごたえに、トリガーボタンを押し込む。
――バリバリバリッ!!
激しい音のスパークに、ビビりそうになる気持ちを抑えて、
(もういっちょ――!)
私はさらに捕縛布を投じた。
振りかぶったところで心操くんの捕縛布で縛られたロボットの左腕を支点に、振り子のように空中をスイング。首尾よくロボットの背後に回り込んで取りついた。
首のような間接パーツの隙間目掛けてロッドを突き刺しトリガーオン、バリバリとダメ押しの一撃を入れる。
二発目で取説通りにバッテリーは空になったが既に効き目は充分で、巨大なロボットは力なく崩れ落ちようとしていた。
「おおっと……!」
自らロボットの身体を蹴って宙に跳び、
「…………はぁーーー」
大きく息を吐く。
私の背後では、巨大ロボットが地に沈む音が響いていた。
(緊張した……!)
都合3回、連続で捕縛布の扱いに成功した。
全て移動用ではあるが、我ながらよくできたと褒めて欲しい。
目標物を縛り上げる技術は相澤先生直伝の心操くんが上達していて、それを見取り稽古している私は結構見劣りするレベルなのだ。
それでというわけではないが、一人でよく練習しているのは移動補助としての捕縛布の扱いで、今回の役割分担もそういう理由である。
取得していたアイテムも理由の一つではあるが、もし心操くんが私の電磁ロッドよりも威力のあるアイテムを持っていたら借りていただろう。
「無事か?」
「うん」
後ろからの心操くんの声に振り返りつつ答える。
ゼロポイントを縛った捕縛布をナイフで切り離していくらか回収してきた心操くんの姿。よく見ると首に巻いている捕縛布の量が結構減っている。
お互いの無事を確認して、目標地点への移動を開始した。
「囮役をやってくれるのはわかってたけど、なにをやったんだ?」
「ああ。仮想
試験用の仮想敵と言うだけあって、戦闘ロボとしては余計な機能というか、
フェイントに引っかかるし、本来持っているであろう情報処理速度よりも反応が鈍い。
生徒や受験生の相手なのだからそういうセッティングになっているし、今回は私対策の――ある種の設問として立ちはだかったのだ。
「透明化に反応して、わざわざ視覚センサーの切り替えをしてたんだよ。だから私の方も切り替えて処理落ちさせたの」
とある漫画で読んだ、照明のオンオフで暗視の切り替えを強いて負荷をかける戦術の真似事だ。
実際にロボットが処理落ちをしていたのかはわからない。ただカメラ周りの色が違うロボットがそういう反応をするというヒントは拾っていた。
「――っと、これだね」
「葉隠からどうぞ」
「一緒でいいでしょ」
3番目の宝箱に到着した。
遠慮しあうぐらいならと同時を提案し、二人でタッチ。
「――うぇ!?」
「まじか」
表示されたのは「1分以内に『4』の地点に向かえ」という
ここに来て新手の課題に面喰らう私たち。
すぐにマップを確認する。今居る大通りを真っ直ぐ行った先だ。二人で走り出す。
距離だけならそこまで慌てる必要はない、が、
「まあそういうことだよねぇ!」
わらわらと現れる敵ロボットの群れ。さっきまで道路の先が見えていたのに。私たちを待ち構えている。
「移動優先だよな!」
「そうだね!」
方針を確認する必要すらなかったが、半ば
大物を倒したことに安堵して緩む間もなく、まだ試験中だということを思い知らされる。
――と、気合を入れ直した私と心操くんだったが、いまさら普通のロボットに
捕縛布をロープ代わりに跳び上がって、ロボットの群れを飛び石に。
無事、1分以内というタイムリミットに間に合わせた。
近くのロボットだけ軽く処理して、箱をタッチ。
そして表示される「向かってくる敵ロボットを3分間排除し続けろ」という追加課題。
「拠点防衛はゲームが違う!」
とは、少し混乱した私の台詞。むしろ「期末試験はロボ無双」という前情報に回帰しているのだが。ゾンビ相手のシューターゲームが想起されていた。
マップには課題に従って殺到してくるロボットたちと守るべきエリアが表示されている。
3分間という時間も今までの課題に比べれば長いが、そもそも残りの試験時間自体が5分を切っていた。
私も心操くんも体力を絞り尽くす勢いで仮想敵ロボットを狩り続け、3分を越えて試験終了のブザーが鳴るまで、ロボット無双をやりきったのだった。
「お疲れ様ー」
「お疲れ」
試験終了後、開始前と同じように輸送用のロボが迎えに来て、演習場入り口からバスに乗り換えた。
バスは既に他の演習場を回ってきており、ほとんどの受験生が乗り込んでいた。
皆、体操服が擦り切れたり砂埃で汚れたり、それぞれ試験をこなしてきたとわかる格好をしている。
車内は緊張感から解放された試験後の空気に満ちていて、雑談でとても賑やかだ。
「ここを開くと試験のログが見れるよ」「あ、これか」「楽しかったねー」「最初は怖さが先に来たけどね」「どんなアイテム拾った?」「サポートアイテムめちゃくちゃ面白かった」「それな」「物資を漁る楽しみ」「テーザーガンは弾数が少なくて」「電磁ネットも」「EMPグレネードは爽快」「羨ましい」「レーダー強化パッチとかあったよ。ロボの視界とか表示されるの」「別ゲー始まるじゃん」「実際、ロボに見つからずにスコア回収しろ、って任務貰った」「任務て」「地下街の入り口から始まったから、マジでそんな気分なんよ」「わたしも同じ追加課題だった。ロボから逃げて回収だけやってたから」「私も全部じゃないけど、
聞こえてくる内容も、結構興味深い。
私は戦闘メインで
タブレットで自分の試験ログを確認してみると、全体地図なんかも表示できた。しかしどうやら私たちの演習場には聞こえてくるほどの
(やっぱり、入試のやり直し、みたいな感じなのかな)
そもそもどうして期末試験で入試のような対ロボット戦闘をやらせるのか、というと、一学期の間の授業でどの程度入試から伸びたのかを測るためだと思われる。
入試では受験生の数の多さもあるし、紛れが起きやすい。
授業のみならず体育祭や職場体験も経てから、あらためて生徒のポテンシャルを見ることは一定の合理性があるだろう。
なお、実際の今年のヒーロー科1年生はそういう段階を飛ばした期末試験を受けることになる。
それで本来消費するはずだった試験用ロボットの使い道や、例年なら採用しづらい試験内容を盛り込んだり、サポート科の評価試験も便乗したりとした結果なのだった。
「…………」
「心操くん? 何か気になることでもあった?」
隣に座る心操くんがタブレットで試験ログをじっと眺めていて、なんだか感慨深げなその様子に私は声をかけた。
彼は「ああ……」とやはり噛みしめるように呟いて、
「俺、ちゃんと戦えたな、って」
そう言った。どこか遠くを見るような、昔を思い出しているような表情だった。
個性が通じないと諦めた、合格できなかった入学試験。
私は事故みたいな失敗をした入試だったけれど、心操くんにとってはずっと心残りだったのかもしれない。
「おめでと」
「ありがとう」
私が小さく祝福すると、心操くんは微笑んだ。とても晴れやかに。
うん。その顔を見れただけでも、私は雄英に入って良かったな、と思えた。
ここすき、お気に入り登録、感想、評価、本当にありがとうございます。
期末試験のような何かをお届けしました。
文字数のかさみっぷりに書きながら何度か「もういっそ、無事期末試験をクリアしたの一文だけでもいいんじゃ?」と自問しながらも、オマージュを入れたりMy設定・解釈をお出しするのも二次創作の楽しみだし、と開き直らせてください。
きっと なにかの 布石になるから。……なるといいなぁ。
次話はようやく夏休みに突入する予定です。
お読みいただきありがとうございます。ずっとお待ちいただいている皆様にも重ねてお礼を申し上げます。
そういえばサポート科の彼こと【青堂 電気】くん。オリキャラです。
個性は『発電』。
生体活動で発電でき、たくさん動くと大きく発電できる。
しかし今の発電力では、A組の上鳴くんの放電の電力に大きく劣ることを痛感し、体育祭の騎馬戦後、ヒーロー科編入を諦める踏ん切りをつけました。
今作時空の最終決戦時には、上鳴くんや吹出くんの後ろで発電用のバイクを漕ぎながら個性でも発電して手伝っていると思います。