個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第32話

 轟音を響かせて、僕の放り投げたロボットがスタートゲートに直撃した。

 予想外の出来事に急激に血の気が引いていくのを感じながら身を翻した。

 

『やばくねぇぇ!? ってのは冗談で、ご安心をだぜリスナー! こんなこともあろうかと、体育祭で使用する特設スタジアムは実験も兼ねて、そのほとんどが耐久性、耐火性等、各種優れたレジスト処理が施されているぜ!』

『何に使うんだと思っていたが、役に立つものだな……』

 

 煙が晴れたスタートゲートは、その上にロボットを横たえつつも健在であった。

 プレゼントマイクの高笑いが響く。

 よ、良かった。あれが崩落してたら、大変な事態になるところだった。一体どれほどの怪我人が出ていたことか想像するだけで恐ろしい。

 

『ああ! 0()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()大丈夫なように設計してあるって話だ! だから安心————』

 

 それは、プレゼントマイクが得意気に話す最中のことだった。

 カッと、まばゆい光がロボットの隙間から溢れ出した。かと思えば、先ほどのものとは比べ物にならないほどの轟音が、スタジアムを塗り潰す。

 

 この場において情緒は不要だ、簡潔に言おう。突然ロボットが爆発した。

 観客席に被害はないようだが、直撃のダメージも相まってか、スタートゲートがガラガラと崩落していく。

 

『な、なにぃー!?』

『おい、爆発したぞ、おい……!』

『ヤベェって! 三年ステージのセメントス! 来てくれ、至急だ!?』

 

 立ち上る土煙に最悪の予感を感じつつ、スタートゲートに向かって全速力で駆ける。氷に取られる足はなかなか前に進んでいないようで、もどかしさを増幅させる。

 

『えー、たった今、競技用の0Pロボの調整に携わったサポート科の3年のリスナーからお便りが届いたそうだぜ! サンキューな! なになに? 『芸術は爆発だ』? 頭どうなってんだまじでぇ!?

 

 プレゼントマイクの悲鳴を聞き流しながら、ようやくスタートゲートへと辿り着けば、そこは地獄の様相を呈していた。

 トンネル状のゲートは、見る影もなくがれきの山へと変わり果てている。どうやら生き埋めのようになってしまっているらしい生徒の姿もちらほらと散見された。耐火処理とやらがうまくいっているのか、ロボットの爆発による火が一切回っていないことだけが、唯一の救いだと言えるだろう。

 

「くそっ、こんなっ……!」

 

 手前から一つ一つがれきをコース外へと投げ飛ばしつつ、一人一人引きずりだしては、重傷者には治癒魔法を施し、足元に並べていく。

 想定していたよりも、ずっと生徒の数が多い……! おかげで、一人一人にかかる重量的な負荷は比較的に少ないのか、重傷者はそれほど多くないのが、不幸中の幸いと言うべきか。

 

 けれど、それだって限度がある。もって20分と見ておくべきだろう。

 気が遠くなるほど大きなスタートゲートを前に気圧される。

 

 これを、()()()……!

 

 

「落ち着きなよ、ウサト」

 

 この場には似つかわしくない明るい声が、鼓膜を震わせた。

 

「この辺のおっきいやつ浮かしちゃうね!」

 

 一部のがれきが浮かび上がる。

 

「それじゃ、あたしはそのがれきを回収しようかな! イバラ! けが人の救助お願いできる!?」

「言われずとも、ですよ。拳藤さん」

 

 巨大な手と、無数の植物のツタがのび、がれきとけが人を回収していく。

 

「どいつもこいつも、無茶苦茶しやがってぇ!!」

「マジで嫌なやつばっかだな! A組の奴はよぉ!」

 

 ロボットの装甲部分のがれきが吹き飛び、中からけが人を背負った切島くんと鉄哲くんが飛び出してくる。

 

 

「みんな……どうして……!?」

 

「「「困ってる人を助けるのが、ヒーローだから(です)」」」

 

 まっすぐと放たれたその言葉に、思わず言葉を失ってしまう。

 

「ウサトはいつも一人で背負おうとしすぎなんだよ。たまには頼ってくれてもいいんじゃない?」

 

 葉隠さんが、足元の既に怪我が治っている人たちをどかしながら、声をかけてくる。地味だけど、治療のしやすさが段違いだ。

 少し泣きそうになってしまうのを袖で拭ってごまかしつつ、全員に声を掛ける。

 

「ありがとう! みんな!」

「ま、B組(うちら)はやばそうになったらそっこーさいならするんだけどね」

「突然のビジネスライク!?」

 

 

『さぁ、第二関門に多くの生徒が足を止めるなか、先頭をひた走る轟! ここまで独走を貫き、ついに最終関門に突入だ! そして、ここでアナウンスだぜ! セメントスがあと5分ほどで到着する! ただし、一位がすぐそこまでやってきているため、ゴールの位置を急遽変更するぜ! スタジアム前にゴールテープを設置するから、それを切ればゴールだ! スタジアムのリスナー、ソーリーな!』

 

 プレゼントマイクのアナウンスが入ると、葉隠さんと、切島くんが立ち上がる。B組の拳藤さん、塩崎さん、鉄哲くんが走り出して、既に1分近く立っている。これ以上は、間に合わないという判断なのだろう。

 

「わりぃウサト! 協力できるのはここまでだ! セメントス先生も来てるらしいし、お前も早く来いよ!」

「ここまでありがとう! 勝てよ! 体育祭!」

 

 走り出す切島くんの背中に、激励の言葉を送っていると、足を止めた葉隠さんに、思い切り背中をはたかれる。

 

「私も、自分の足で、この第一競技を勝ってみせる。だから、ウサトもこんなところで諦めないで。絶対、勝って、そこで決着をつけよう! 私が君に勝つって宣言したのは、正々堂々の勝負でだよ!」

「葉隠さん……」

「最後までできなくてごめん。でも、待ってるから」

 

 それだけ言うと、葉隠さんは駆け出してしまった。ほとんど溶けた氷の上を走っていく体操服は、かつて見たそれと比べて格段に早く小さくなっていく。

 

 その背中をみて少し笑うと、僕はもう一度がれきに向かって振り返った。

 皆の協力もあって、残りは元の総量の10分の1程度になっている。それにしたって大変な長さだが、ここまでくれば怖くない。恐らく、レースには間に合わないだろうけれど……。

 

「それにしても、君が残るとは思わなかったな」

 

 僕はちらりと横を見る。そこには、拳を固めながらがれきを睨む麗日さんの姿があった。

 

「いいの? 確か、大事な大会だって……」

「そら、あかんよ。あかんけど、しゃーないやん。いろんな大切なものがあって、それでも、全部は選べへん。ここで、この人たち見捨てていったら、私の目指したヒーローやなくなってしまうもん

 

 手が白くなってしまうほど強く握りこんだまま、彼女はだから、とつなげる。

 

「だから、あと二年。残りの二年で、絶対絶対すごいヒーローになんねん」

 

 そういうと、彼女はがれきを浮かせて、後ろへと運ぶ。

 吐き気が酷いのか、えずきそうになりながらそれでも作業を続ける彼女に治癒魔法を施しつつ、僕もけが人の救出を再開した。

 

 大切なもの。

 その意味を、相澤先生に問われてから、ずっと考え続けていた。

 少なくとも、今の僕に、葉隠さんや麗日さんのような何かがあるとは思えなかったから。

 大切なものって、なんだったのだろう。あの世界のみんな? それとは少し違う気がする。

 別に、あの世界にいたからとか、優しくされたからとか、そんなことじゃなかった気がするのだ。

 何が違うんだ。それがわからない。僕が大切にしたかったものは、どうしてここにはないのだろう?

 

 そのとき、外からけたたましい爆発音が聞こえてきた。

 

『後方で大爆発!!? なんだあの威力は!? 偶然か故意か____』

 

『A組緑谷、爆風で猛追!!』

 

 ばっと、麗日さんが振り返った。その唇は、わずかに震えている。

 

 レースが終わろうとしている。いや、もう関係ない話だ。とにかく今は目の前のがれきを……。

 

君たち

 

 不意に後ろから声がかかった。

 振り返れば、そこには息を切らせたセメントスの姿があった。

 

「よく、ここまで頑張ってくれた。ここからは、私たちが作業を行う。君たちも競技に戻りなさい」

「ですが……」

「さっき君が助けた子で救護者は最後だ。その精神は重要なものだが、競技をまっとうするのもまた、君たちの務め。精一杯励むといい。……今回は残念だったが、次からは気を付けるように」

 

 セメントスに促されるまま、ゲートを出れば、もう、緑谷くんが特設ゴールの手前まで来ていた。

 

『さァさァ! 序盤の展開から誰が予想できた!? 今、一番にゴールテープを切ったその男! 緑谷出久の存在を!!』

 

 決死の表情で、ゴールテープを切った緑谷くんのその姿を、麗日さんがまぶしそうな、それでいて少しだけ、寂しそうな表情で見つめていた。

 

 僕は、馬鹿か。

 小難しいことばかり考えて、勝手にもやもやしていた。

 違うだろ。

 ダメだろ。これは。

 助けてくれた人にそんな表情をさせちゃうのは。

 

 緑谷くんに声を掛けようと手を伸ばす麗日さんの手を掴んで止める。

 

 これを起こしたのは僕だ。だから、僕が責任を持つべきだ。

 

「諦めるのは早すぎるぜ、麗日さん」

「え……?」

「君は勝たせる。どんな手を使ってもね……!」

 

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