個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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脱稿



★深淵はこちらを見ている。

 

エンデヴァーの炎を纏った拳が頬を掠めた。

 

身を翻して避けたものの、次はその丸太みたいな足が僕を狙って繰り出される。手を叩いてエンデヴァーから遠い位置にいたヒーローと場所を入れ替えて距離を取るも、それを見越していたとしか思えないスピードで振り返った彼の豪炎が俺めがけて飛んできた。たまらず位置を近くの枯葉と入れ替えるがエンデヴァーは僕を狙って攻撃を繰り出し続けてくる。

 

現状を考えると本当にこのバカをなんとかしたい。俺が言うのも筋違いかもしれないけど、こいつ執念化け物すぎるだろ。どういうメンタルで俺のこと焼こうとしてんだ。

 

普通にお前はまだ間に合うぞ! みたいなこと言いながら殺意マシマシなの矛盾してるんだけど。僕ならそれ受けても生きてられると思ってる? ハハハ、頭おかしいんか。

 

……いや、マジでどうしよう。マジでぶち殺してやりたくなってきてるんだけど。でもそんなことしちゃダメなんだよね〜……はてさてどうしたものか……荼毘くんと入れ替わったらいいような気もするけどなんかあの子今ちょっと落ち着いてるもん。逆に怖いんだけど。なんなんだ……?

 

「舞妓……! まだ遅くない……! この手を取れ!」

「お前の燃えたぎった手なんてとったら燃えるわ馬鹿が」

 

こういうさぁ、余計なお世話っていうよりもこう、人の善性を信じ切ってるようなのマジで腹立つんだけど。僕が目の前でラスボス先生ぶち殺したのもしかして見てなかった? なんか原作よりもAFOにボコボコにされてたせいで見えてなかったとかなのかな? いや、知らんけど。

 

僕がこれだけ多くの人間を手にかけて、まだ戻ってこれると思ってるのってどういう神経してたらそんなふうに思えるんだ。僕のことどんだけ善性の塊だと思ってるの? 僕のこと勘違いしすぎでしょ。僕がみんなの前で猫被ってたこと理解してないのかな? それともまだ僕が操られてるとかって可能性に縋ってるのか? そこまで縋ったって僕が自分の意思でみんなのことを欺いて敵連合で人を殺してたんだって言ってんだろうが。

 

そもそもラスボス先生をぶち殺した時点で、君たちのその考えの全てを否定することができる。僕は、自分の、自らの意思でラスボス先生を殺した。これは嘘も、偽りもない事実だ。

 

だから、操られてなんてない。なんで好き好んで一生牢屋の中に入るって手を握る必要があるんだ。僕は緊縛プレイで喜ぶタイプの変態ではないんだけど。

 

エンデヴァーからの烈火の如く激しい攻撃を掻い潜りながら攻撃の糸口を探してみるけど……これダメそうですね。なんかここにきてエンデヴァーさん覚醒してますわ。

 

そもそも最後の方はラスボス先生もエンデヴァーさんのこと認めてたしね。そりゃ、そんな奴が芯から本気で僕のこと狙ってるんだから僕が上手く捌けないのもおかしな話ではない。……まぁ、その気になれば四国とかまで飛ばすことはできるけどね。それしたら荼毘くんブチギレパーティーで僕は結局のところ炎の個性を相手にしなくちゃいけなくなる。それならどっちみちってやつだ。

 

「だーっ! マジでめんどくさいな! しつこい男は嫌われるぞ!」

「悪いが執念が俺の原動力でな!!」

 

こいつの厄介なところは腐るほどあるがその戦闘力……とりわけ攻撃力だ。ラスボス先生を一度再起不能にまで追い込んだという事実は伊達じゃない。マジで攻撃力が段違いだ。僕じゃなくてもこんなの受けたら死ぬだろ。なに? 殺す気? 僕のこと殺す気? 助けるって殺して止まったらお前の魂は救われる的なやつですか? 冗談っすよね?

 

「本気で邪魔! 俺の邪魔すんなって言ってんだよ!! エンデヴァー!!」

 

荼毘くんの位置を捕捉して手を叩いた。入れ替えたのは僕と荼毘くんの位置。これで僕は戦線から離脱して、かつ、荼毘くんに全てを任せつつエンデヴァーを止めることに成功したのだ。完璧な判断だと言ってくれてもいいんだよ?

 

……なんかさっきから空中で浮きながらこっちを観察してくる荼毘くんちょっと怖かったもんね。最初からこっち来ないとかどういうつもりなんだって感じだし。そもそも君がエンデヴァー抑えてくれてる前提で動いてるからね? こっちは。邪魔しないで欲しいもん。こんな加齢臭男にさぁ。

 

さて、ここで荼毘くんに代わるだけだと誌面映えもしないし、エンデヴァーの顔も曇らないので、ここで曇らせる為にもしっかりと大事な言葉をかけてあげましょう。僕は君と違って声をかけられるんだよ〜ってところを見せてあげるのがポイント。

 

いいですか? 皆さんにレクチャーです。敵連合のみんなはある言葉をかけてあげるといい顔をします。

 

呪いの言葉です。

 

「燈矢! あと任せた!!」

 

本名+僕の代わりを頼むって呪いの言葉ですね。こうすることでエンデヴァーとは違って僕は君のことをちゃんと見ていたよって証になるんでみなさんいい顔してくださいね〜♡ お、エンデヴァーもいい顔してるじゃん。なんか嫌そうな顔してるね♡嫌そうな顔しても一緒だからね♡ 君とは違って僕はちゃんと見てあげることができたから、君は何も轟くんのことしか見てなかったかもしれないけど、僕はちゃんと彼のことを見守ってたから、君と生きた時間よりも、君を恨んでる時間のほうが長い燈矢くんの、本当の心の拠り所になったのは僕だからね♡ わかったらちゃんと苦しもうね♡ 苦しんで苦しんでいい顔してね♡

 

「……お前、本気で悪い男だな。そうやって俺たちのこと誑かすのやめた方がいいぞ」

 

蒼炎で身を焦がして、最早誰なのかもわからなくなった黒焦げの男が、辛うじて本人だとわかるダミ声で、嬉しそうに返事した。それ、僕に命令されて喜んでるのかお父さんとやれるのが嬉しいのかどっち?

 

荼毘くんの炎柱が立ち昇った。それが荼毘くんの怒りを燃料にした片道切符……自分の恨みだけを燃料にして焚き上げているものだって僕にはわかる。可哀想だね。

 

わかるよ。自分のことを見てくれない……子どものことを見てくれない親ってやつはカスだよね。僕はそんな親になるくらいなら死を選ぶよ。そもそも、子どもを傷つける親なんて存在しない方が。普通にプラナリアとかと存在価値トントン、むしろプラナリアは理科の教科書で出てくるから格上。

 

総じて子どもを泣かせる親はカスです。そんな親に焦がれてるんだから荼毘くんは滑稽だ。可哀想だよね……生まれる時代じゃなくて親を間違えたんだもんね……可哀想〜。

 

でもその可哀想なところこそが彼の魅力なのだ。可哀想な目にあってる方が僕としては可愛いよ♡

 

「よし。それじゃあ……」

 

やっと自分のために動けると地面に着地して目標を探そうと『サーチ』をつけた瞬間だった。

 

風がゴウっと吹いた。

 

周りの炎が巻き取られて柱のようになっていく、そして、その炎の渦が、

 

僕目掛けて突進してきた。

 

「え!? なに!?」

 

咄嗟に手を叩いて回避する。意味がわかんないんだけど。なんで急にぶつかってきたの? なに? 風?

 

「あれが轟たちのことを苦しめてるヴィランっすね!」

「……………………あー、居たね。君みたいなの」

 

夜嵐イナサ。仮免試験だけの使い捨てキャラにしてはすごいビジュアル凝ってる子。と思ったらこの場にも応援でやってくるんだったね。そういうの忘れてたよ。君の存在ってあんまりよく覚えてないんだよなぁ〜、エンデヴァーファンだったけど無下にされて勝手にイラついてたお気持ち表明厄介元ファンみたいな子だっけ? ぶっちゃけ曇る顔もそんなに映えない端役だね。興味あんまり湧かないから帰ってもらってもいいんだよ?

 

「あんたを止める為に来ました!! 士傑高校一年! 夜嵐イナサっす!!」

「デクと死柄木がオリから離れた模様!! 事態はカオスだ!! 「トガ」と「舞」を封じつつ!! 全遠距離攻撃を舞に集中させろ!!」

 

あー、そっか。本来ならここはラスボス先生がみんな相手にする予定だったのか。だからみんな僕相手に遠距離個性打ってきてるのね? だるすぎるんだけど。士傑のOB・OG含めて強い個性がうじゃうじゃ……相手にすんのやってらんねぇ〜!

 

「俺の邪魔すんなって言ってんだけどな……」

 

個性の大河を避けながらため息をつく。僕今君たちに構ってあげてる暇なんてないんだけど。僕の魂が壊れるか壊れないかの話なの。わかってんの? 僕の魂を賭けた縛りなの!

 

「AFOはもういない! 個性を奪われる心配もない!! だから総員全力でぶつけろ!!」

 

……あ、なるほどね。ラスボス先生じゃなけりゃ死ぬと思ってるんだ。ラスボス先生じゃなければなんとかなると思ってるんだ。

 

この世界が量より質だって知らないの?

 

「うっざいなぁ……殺すぞ?」

 

雄英高校ヒーロー科なら知っている。この拍手の音の意味を。いや、君たちも知ってるんだろうね。情報共有くらいなら受けているだろうから。というか、雄英高校体育祭は見てるか、当たり前に。

 

でも本当の意味でこの拍手の意味を知っている人間はいないでしょ? 知ってるのは夜嵐イナサとか、僕と一緒に仮免試験を受けたことのある人間だけかな? 僕のこの拍手の意味がわかってる人間は少ないよね? わかってるならノコノコと姿見せないもん。僕の前にさ。

 

場所を入れ替える。対象は夜嵐イナサの横、みんなの遠距離攻撃が入れ替わり先の相手にぶち込まれるのを横目に夜嵐に蹴りを放った。

 

「全員せめて入れ替えられる対策はしてこいよ。耳郎響香1人のほうがまだ厄介だったぞ」

 

お前が軸だろ? 風の牢に個性を乗せるなんて芸当そう簡単にはできないもんな。なら、お前を壊していくのがベスト。

 

「お前たちは知らないよな。AFOじゃなけりゃ勝てるなんて言ってるお前たちじゃわからないよな」

「僕が君たちのことをどれだけ理解しているのか。君たちじゃどれだけ手の届かない場所にいるのか。わからないもんな」

「なら教えてやるよ。お前たちじゃ、俺には勝てない!!」

 

黒閃。呪力と拳がコンマ0秒で衝突することで起こるこの攻撃は、僕の調子がいい時に頻発する。ただ、領域じゃなけりゃ必中ではない。これ必中にできるやつなんて知りません。というかいないんじゃないですかね。いたら僕はそいつには勝てません。多分。

 

僕がこの世界で負けるとしたらハイスピード・スーパーパワーみたいな基礎の化け物くらいなものだ。お前たちみたいに個性に頼ってる奴には負けない。

 

個性を存分に使って敵を、ヒーローをちぎっては投げしていく。怪我しても相手に押し付ければいいだけだから僕は無傷で、みんなは怪我していく。その怪我が、その顔が、ラスボス先生を見ているような目に変わっていく。本当に最高だね!!

 

でも悪いけど邪魔するなよ。僕は今、本気で時間がないんだから。

 

「ハハッ! 死ね! ゴミ共!!」

 

殺す。邪魔だから、相手にならないから、僕の目の前に姿を現したから。だから殺す。それ以上でも以下でもありはしない。僕が殺すと言ったら殺す。邪魔をするなら親でも、なんでも殺す。僕の存在定義のために。

 

モジャモジャ先輩の顔面(だと思われる部分)に拳をねじ込んだ。次にその後ろに隠れていたヒーローの頭を掴んで地面に叩きつける。殺すためなら、手段は問わない。

 

そうしてゴミ掃除をしていたから、邪魔をする塵芥を相手にしていたから、気づかなかった。

 

「舞妓、お前が苦しんでいたことに気づけなかった。それは俺たちも謝罪の念が絶えない」

『オ前ガクレタ優シサハ、マダ皆ノ中ニアル』

 

その声を聞くまで、頭の中から完全に消えていた。

 

そうだ、ラスボス先生に致命傷のような一撃を与えたのは何もエンデヴァーだけじゃない。

 

『オ前ノ心ニアル闇モ、俺タチデ喰ウカラ』

「帰ってこい! 舞妓!!」

 

その闇の化身は、確かに、この世界最強の攻撃力を有した──。

 

破壊の権化だ。

 

深淵暗躯(ブラックアンク)! 光明(バルドル)!!」

「…………ッ!!」

 

影の塊に押しつぶされて、目の前が暗転した。

 

 

  × × ×

 

【ホークスside】

 

遠距離からの攻撃、士傑の加勢によるヒーローたちからの一斉攻撃。多勢に無勢もいいところの中で、最後のダメ押しとばかりに叩き込まれた常闇くんの攻撃は、ヒーローたちに勝利を確信させるのには十分なものであった。

 

それはそうだ。切り札を切って、攻撃を無効化するような化け物や、オールマイトのような超人でもない限り、この攻撃は決定打だ。見ればわかる。この攻撃をもしエンデヴァーさんや全盛期のオールマイトさんが食らっても十分なダメージになると予想がつく。端役なら戦線離脱だ。

 

しかし、

 

「……痛いじゃないか」

 

男は立っていた。

 

血に塗れ、腕を失い、足をぐちゃぐちゃに曲げていて、背骨も折れている。見ているだけで死に体なのがわかる。それでも、その男は立っていた。

 

何故、どういう原理で立っているのかなんてわからない。普通に考えたら死んでたっておかしくない、いや、死んでいるかもしれない。なら、何故? どういう原理で彼は立っているんだ。子どもでも分かる原理だ、背骨を折って、足を無くしたら人は立ってられない。そんなの当たり前の話だろう。どうして、この男は……。

 

「あ゛〜……クソ、僕じゃなけりゃ死んでるからな?」

 

体を伸ばしながら彼は愚痴でも言うみたいに呟いた。その体を押さえつけるはずの常闇くんは動けていない。余りにも酷い衝撃で止まってしまっている? ……いや、違う。

 

彼の体が治癒していく。ボコボコと、千切れた手足が再生していく。足が再生していく。背骨が戻っていく。なんだ、どうなっている?

 

「何が起こってる……?」

「ん〜? あぁ、これ? 反転術式さ。超再生って言われたほうがわかる? 踏陰〜、これ、普通に人に打つのやめときな? 僕だから生きてるだけだぞ」

 

初お披露目だっけ? なんて言いながらケロリと彼は笑った。その顔には今自分がしたことをおかしなことだと微塵も感じている様子はない。『超再生』……? 確かにAFOはその個性を持っていなかった。それは、この男が譲り受けたからだとでもいうのか。

 

……違和感はあった。確かに彼がどう考えても腕を無くしたと思えるタイミングは何度もあった。その度に腕を回復させていたそれは、『超再生』……? いや待て、ならおかしい。超再生は、確かに強力な個性ではあるけれど、ここまでの効力は持っていないはずだ。そのはずだ。

 

「今のは効いた! やるじゃん踏陰」

「……ッ!」

「じゃあこっから俺の番な? 悪いけど急いでんだわ。ほんとごめん。前みたいに組み手とかしてやりたいところなんだけどさ! ちょっと予定が入っててネ!」

 

パンッ! と音が鳴って、常闇くんは消えた。

 

次に彼を見たのは完全に伸びてる姿で──。

 

「ごめんねホークス。こいつほったらかしにしたら流石にケアしきれないや」

 

ズルズルと首根っこを掴んで常闇くんを引き摺りながら、ユズは……いや、舞は常闇くんの作ったクレーターから登ってきた。なんともないような顔をして。さっきまで風が吹けば死んでしまうような体をしていたくせに。

 

「……なんなんだお前」

「なんなんだ、かぁ……」

 

常闇くんを放り投げて彼はヒーローたちに向かう。誰もが怯えている。それはそうだ。理由があるならわかる。再生することも個性を植え付けられていたのなら理解もできよう。俺たちだってヒーローだ、理屈のあることは理解ができる。じゃあ、じゃあなんだ? 再生の理屈はわかったけど。

 

あんなにボロボロになって笑いながら立ってたのは理屈じゃなくて、ただ、本性で……?

 

「この世界が産んだ化け物だよ」

 

笑顔を崩さない。彼はどこまでもこちらを、値踏みして。

 

事態は。

 

「……ハハ、いいね。よく来てくれた」

 

最悪だ。

 

「散らして、マキア」

 

…………ヒーローではなく、君にとって。

 

「……? マウントレディ?」

「主は!! 俺を置いて行った!! 主の後継は!! ここにはいない!!」

「なんだ……?」

「主は!! 俺を見捨てた!!!!」

 

ギガントマキアの拳が舞へと向かう。まさに岩山でも飛んできているのかと思うほどのその拳が、弾け飛んだ。

 

「……はっ、心操か。随分と、粋な真似をするじゃないか」

「おぉ……! お、おぉ……!!」

「ごめんねマキア。俺あんまりお前に構ってあげてる暇ないんだ」

 

拳を、何かと入れ替えた。見えなかったが、あれは……小石か? 小石程度のものと、拳を入れ替えたのか。そんなことが、そんなことが罷り通るのなら、俺たちの首だって何かと入れ替えられたら終わるじゃないか。

 

……いや、確か舞妓がミルコを後押ししてハイエンドとやり合った時、そこに残っていたのは首のちぎれたハイエンド脳無の死体の山だった……それに聞いた話だとあいつは入学試験の時にロボットの頭とマンション一棟入れ替えたって。なら、その気になったら俺たちのことなんていつでも。

 

「ごめんだけど、言うことの聞けない犬はいらない。殺処分だ」

 

次に首と足元の石が入れ替わった。何故、足元の石だとわかったのか。それは、彼のすぐ足元にマキアの顔が来たからだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「しゅ……」

「聞き分けのないワンちゃんはダメだよ? 来世はいい犬になろうね」

 

聞こえてないか、と言って彼は頭の上に乗っかったままの心操くんたちを見る。その目には、何の感情も残っていない。

 

「次から次へと……切島が次の相手か?」

「……お前、どうして……」

「……? 何への疑問だ? 今疑問に思うようなことがあったかな?」

 

切島くんと自分の場所を入れ替えて、呆然としてる心操くんを蹴り飛ばして彼は首を傾げた。誰も残っていない首の上であぐらをかきながら不思議そうに尋ねる。

 

「なんでお前はここまでするんだよ!」

「なんでって……これは俺の復讐なんだって話、もうしたろ?」

「でも……! おかしいじゃねぇか! お前は人に優しくて、情に熱い漢のはずだ!!」

「それがお前の見てる俺?」

 

笑顔じゃない。不思議そうな顔。なんでわからないんだろうって、子どもが初めて足し算を習ったときに、隣の席の子がわからなかったときのような、なんでわからないんだろうって心底そのことが理解できないような顔で、首を傾げる。

 

「人の見え方なんて多面的だ。お前の前にいる俺、敵連合にいる俺、ヒーローとしての俺、ヴィランとしての俺……見え方なんて多面的で、それが普通だ」

「でも、お前たちだろ? 俺が一面的なことしか考えられないようにしたのは。俺が無個性であるということだけで今まで虐げてきたじゃないか」

「自分は違う? ヒーロー科A組は違う? それも多面的だ。それに、そんなこと言ったって仕方ない。どこまでいっても俺たちは平行線だ。俺は、俺のことを多面的に見てくれた弔くんたちと共に往く。この道だけが俺の往く道だ」

 

その目にはもう、誰も映っていない。

 

誰も、彼の手を取れない。

 

「イラつくんだよお前ら全員。なんで当たり前のように俺が善人だと思ってんの? 性善説信用しすぎだろ、孟子とか最近読んだ? 俺は性悪説信者だから。まぁ、本格的な話をし始めると違うんだけど……そこら辺は大学とかで学習してくれ、生きてたらさ」

 

彼はもうどこまでも深い闇でしか生きられないから。

 

「残ってるのはヒーローがたくさんと、残党かな。まぁ、なんだっていいさ。ぶちのめすのは変わらない」

 

ギガントマキアの頭の上で彼は大きく腕を広げた。誰も、彼に攻撃できない。誰も、彼を攻撃できない。

 

怯えてしまっているから。恐れてしまったら、もう。誰も────。

 

「続きをしよう。俺の言う通りにさせてくれないんだろう? ヒーロー。その中でも鷹見啓吾は仁を殺してくれた借りがある。死ぬほど痛い目を見せてから殺すから覚悟してくれ」

 

どこまでも残忍に堕ちたヒーローの卵は、この世の全ての悪を煮詰めたように、黒く姿を現した。

 

 

 

 

 

 





誕生日を祝っていただきありがとう。生まれ変わった気持ちでやっていきます。目指せ今年完結。

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