ずるいでござる!それがしもチンチンほしいでござる! 作:アサルトゲーマー
がつん。
大槌が振るわれる。
赤く焼けた鋼から火花が散り、熱された空気が立ち上る。
刀鍛冶の仕事場で、あたごは大きな金槌を振るう。金床の上で真っ赤に焼けた塊を、叩いて伸ばして折り畳む。いわゆる『
「次は手前を叩け」
「はい、父上!」
そして先手を指示する、いわゆる頭としての役割を持つのが『
彼は焼けた浅黒い肌を持つ、筋骨隆々とした大男であった。頭は娘と同じく黒髪だが、短く刈り上げていて印象はまるで違う。そして眉間に刻まれた深い皺。彼の眼光は鋭く、ただ座っているだけでも威圧感を覚えるほどであった。
剛の指示に従い、あたごは金床に置かれた塊を叩く。何度も、何度も。その度に響く音の残響は清く、その塊が丁寧に伸ばされたことを証明するかのように澄んでいた。
「無理はするな」
剛はそう言って、息の上がり始めたあたごを注視する。
「まだまだ、この程度!」
そう言って笑うあたご。額に浮かんだ汗が、彼女の頬を伝った。
「そうか」
剛はそれだけ言うと、再び視線を手元に戻した。その表情からは何を考えているのかを読み取ることはできない。
しかしあたごは、父を知っている。口下手で、不器用で、愛情深き人。眉間に刻まれた深い皺からは到底想像もできないだろうが、彼が口にした言葉には愛情が多分に含まれていた。
だから、こうして父の手伝いをしたくなる。
「よし、次だ」
「はい!」
父の助けになりたい一心で、あたごは再び鎚を振るい始める。
鍛冶場で行う、口下手な父との対話の時間。彼女はこの瞬間が好きでたまらなかった。
ばしゃ、と水の跳ねる音。
鋼の鍛錬が終わった後、あたごは決まって水風呂に入る。父に入れと言われているというのもあるが、暑いのは得意ではないのだ。
はふぅ、と熱を吐き出すように息をつく彼女。汗を流してさっぱりしたところで湯船に浸かる。じんわりと染み渡る冷気が心地よい。ざぶんと頭まで沈めると、火照っていた身体も落ち着いてくるような気がした。ぷはぁと顔を出して息を吸う。新鮮な空気が肺を満たし、頭が冴える。
身体の熱がすっかりと湯船に融けきったところで、あたごは風呂場を後にした。脱衣所でタオルを手に取り、身体を拭っていく。全身から水気が無くなった後、着替えに手を伸ばすが、それは空を切った。
「おや」
見れば、いつも置いているはずの甚平と下着がない。そういえば昨日下着が破れて、そのまま捨てにいったので用意を忘れていたなと思い出す。なのであたごは裸で部屋を出た。どうせ父くらいしか家にいないと高をくくっていたのだ。
自分の部屋に戻る前に水を一杯飲もうと台所へ寄る。冷蔵庫が開閉される音がしているので父が冷えた飲料でも手にしているのだと思い、何の気なしに入室した。そこには意外なことに、双葉が居た。
「あたごちゃん?」
彼女の足音に気が付いた双葉がくるりと振り向き、硬直する。なぜか?それは当然、裸の少女を真正面から捉えたからだ。
仮装大会の点数みたいに首から上へと朱が上っていく双葉を見て、これはいかんと片手で股を隠した。
「あいや申し訳ない。見苦しいものを見せたでござる」
そのまま下がって台所を後にする。その場で取り残された双葉は鯉のように二度三度と口をぱくぱくさせた後、絞り出すように言った。
「隠すところ、そこ……!?」
■■■
「なるほど、父上が双葉殿を招いていたのでござるな」
「言うのが遅れた。すまん」
「いやいや、裸でうろついていたのが悪いのでござるよ」
「そうだよ」
あたごの裸徘徊事件から数十分後、新保家の食卓にて三人が顔を合わせて遅めの昼食を摂っていた。
剛のリクエストか、鶏もも肉の唐揚げが大皿に盛られている。山ほどの大根おろしと過剰ともいえる味ぽんに一つまみの鷹の爪が塗され、べちゃべちゃになったそれに菜箸を伸ばす。
小皿にて二つに割り、口に運ぶと、揚げたての衣がカリッと音を立てた。肉汁が溢れ出し、醤油と生姜の香りがふわりと鼻に抜ける。じゅわりと溢れ出る脂が舌に絡みつき、塩気のある味が米を求めさせる。
「うまい」
「米がとまらんでござる」
剛とあたごの父娘がそろって白飯をかっこむ。育ち盛りの学生のような勢いで*1茶碗から消えていく白米を見て、双葉は小さくガッツポーズ。
がっつきすぎてハムスターめいた顔をしながらモグモグと食べ進めていくあたご。
「そういえば双葉殿はなぜこちらへ?」
「うちの両親が揃ってお出かけしちゃったから、暇つぶしもかねてお邪魔しちゃった。ご飯はおまけというか、私の趣味」
「はえ~」
何もわかっていないような返事をして、あたごは唐揚げを口に運んだ。
「どうだ、あたご。双葉とは」
「ん?どうも何も、変わらず良くしてもらっておるでござるよ」
「そうか」
突然差し込まれた、剛の妙な質問。それを不思議に思いながらも、感じたままに答えるあたご。その様子を見て、頷く父親。
お隣さんである双葉も剛との交流は長いが、ツーカーの仲ではない。口に出されないことには分からないので、さきほどの問答に首を傾げるばかりだ。
「昼からまた鋼を打つ。あたご、出来るか」
「はい!」
「双葉はどうする」
「え、私ですか?」
いきなりの問いかけに双葉は箸を宙で止める。何を問われているのか分からず困惑していると、横からあたごが補足してくれた。
「鍛冶場を見ていくか、ということでござるよ」
あたごの言葉を聞いて、意味を理解する双葉。なるほど、確かに興味はある。しかし。
あそこは言わば、新保家の聖域。鍛冶場に出入りするたびに上機嫌になる幼馴染を見れば解かる。そこには不可侵というべき何かがあるのだ。
「あの、あそこって、私が入ってもいいんですか…?」
だからこそ、そう問いかける。もちろん興味があるし、出来ることなら見せてほしいとも思うのだが、それ以上に穢したくはない。
その発言を聞いたあたごは何故か驚愕し、一方で何かに納得したように瞼を伏せ、箸と茶碗を置いてから、そっと口を開いた。
「双葉殿は…男を知ってしまったのでござるな」
「は?」
もちろんそんな事実はない。
金屋子神が祀られた鍛冶場へおぼこ以外の女性を入れてはならない、という禁がある。あたごはそうなのだと納得した。
他方、自らの葛藤が莫迦みたいな思考を経て非処女であるということにされてしまった双葉は、ちょっとキレた。
■■■
「けぷっ」
とある日の昼休み。あたご、双葉、眠子のいつもの三人で昼食を摂ろうとした矢先の出来事であった。
いきなりレジャーシートの上で眠子が寝ころんだと思ったら、突然げっぷをしたのだ。
「眠子殿。お昼はこれからでござるよ」
「勘違いでげっぷは出ないよ」
どっかで食べてきたの?と双葉。
彼女の疑問に対して眠子は首を振る。そして再びげっぷをした。
「なんか、おなかいっぱい?」
なんでだろーねー?と愉快そうに眠子。そんな彼女の態度に呆れながらも、とりあえず双葉は弁当箱を開けた。
双葉の弁当は彩り豊かで栄養バランスにも配慮されたものだ。色とりどりの野菜や果物を使ったサラダに、ひじきやきんぴらごぼうなどのおかずが詰められている。メインは鶏胸肉の照り焼きで、焦げ目のついた皮が食欲を誘う。ごはんの上には梅干しがちょんと乗っていた。
あたごの弁当はいつもの茶色弁当。いなり寿司をメインに据えて、揚げ物やソーセージが添えられている。小学生男児並みの最強弁当だ。
そして最後に眠子の弁当だが。
「なにこれ」
包みを開いて出てきたのはコーラであった。
「コーラはね~、栄養剤になるし頭痛も治るし風邪薬にもなる万能飲料なんだよ~」
「なんと!世にそのような霊薬が…!」
「カフェインと糖の塊には過分な評価なんだよね」
かへいん?と頭を傾げるあたごを尻目に、双葉は呆れた様子でため息を吐いた。
眠子はコーラを開けてストローを差し、寝ころびながら優雅に飲み始めている。
「で、どうしたの?体調悪い?」
「昨日、ちょっとね~。お寿司とラーメンと焼肉をいっぺんに食べた感じ?」
そりゃお腹いっぱいになるわ。と双葉は納得し、あたごは「欲張りでござるなぁ~」とソーセージを突いていた。
食事が済めばお昼寝タイム。そのはずの眠子は珍しいことに、横になったまま双葉をペチペチ叩き続けていた。
「え、どうしたの。なんか恨まれることでもしたっけ」
「あるといえばあるし、ないといえばないかな~」
「禅問答でござるか」
いやあ懐かしいでござるな…などと、にやけ面で腕を組んでるあたごは放置して、早く寝ちゃいなと眠子の頭を撫でる。さらさらとした指通りの良い髪質。
いつまででも撫でていたい感触に感心しつつ撫で続けていると、彼女は気持ちよさそうに目を細め、すぐに瞼を落とした。
「ふわぁ…。なんだか私も眠くなっちゃった」
ほどなくして双葉のあくび。それを見て、あたごはスッと膝を差し出した。
その上に遠慮なく転がる双葉。膝枕の姿勢になると、そのまま目を瞑る。
「双葉殿の甘えん坊は治らんでござるなぁ」
「あたごちゃんのせいだよ」
「おや、他人のせいにするのは感心しませんな」
そんなやり取り。あたごが双葉の髪を梳くと、とろんと目が細まるのが見えた。二人の視界の外で眠子が腹を抱えて寝返りを打つ。
「あたごちゃん…」
「うん?」
寝ぼけ混ざりで呼びかける声。あたごが顔を寄せると、わずかに開いた双葉の目が見えた。
数秒の間見つめ合った後、双葉の瞼が落ち切ったことで視線の交錯は終わる。
「寝ちゃったでござるか」
穏やかな寝息をたてる幼馴染の頭を優しく撫でると、規則正しい寝息が返ってくる。その隣で眠子が腹を抱えてごろごろと転がっていた。
「うう~ん、もう食べられないよぉ~~」
「ふふ、眠子殿も楽しそうな夢を見ているでござるな」
うなされている彼女を微笑ましく見守るあたご。残念ながらツッコミ役である双葉は夢の中であり、予鈴が鳴るまでこのまま放置された。
■■■
「あっ」
「げっ」
放課後。華子は帰宅しようと校門を出たところで、ばったりあたごと出会った。華子は顔を強張らせ、ぎこちない笑顔。一方あたごの方はパッと花開いたように嬉しそうな表情を見せる。
華子としては、この学校で一番苦手な相手がよりにもよって一番油断したタイミングで現れたことに、思わず右足で地面を掻いた。そんな彼女の心中など知る由もなく、あたごは小さい体を活かしたステップワークで華子に接近すると、彼女の両手を取る。
「華子殿!お会いしとうございました!」
「えっ、その、そうですね??」
突然の接触に華子が慌てる中、あたごは嬉しそうに彼女の手を握りしめ、ぶんぶんと上下に振る。腕が動くたびに揺れ動くポニーテールに子犬の尻尾を幻視する華子。
それを見ながら考える。あたごが会いたがっていたのは、あの話題の話を聞きたいからだろう。ボロが出そうなので華子はそれとなくあたごを避けていたが、今日とうとう捕まってしまった。
「Hai!お二人サン!何をオハナシしてマスか!?拙者も混ぜてくだサーイ!」
「グラス殿」
うわ出た。そんな失礼極まりない言葉を喉元で飲み込みつつ、華子は笑顔を取り繕う。
現れたのは金髪碧眼の、見た目だけなら100点満点の美女。言動込みなら78点くらいのネタキャラ、グラス・透破だった。
華子は突然登場したグラスを警戒してそっと距離を取ると、さり気なくあたごを盾にするような位置に移動。
グラスの方はそれに気が付いた素振りもなく、夏の日差しめいた明るい笑顔でニコニコとステップを踏んでいる。
「こんにちは、グラス先生。私たちのお話に興味が?」
「イエエス!
「あはは…期待に沿えるかどうかはわかりませんけど」
あたごさんのオハナシってどんなのだろう。そう思いつつ、華子はちらりとあたごを見る。頭一つと半分小さい位置にある頭頂部。そのつむじがよく見えた。少し嫌な予感。
視線に気が付いたかどうかは定かではないが、あたごが嬉しそうに水を向けた。
「華子殿は博識でござるからな!獣のちんちんとかに詳しいでござるよ」
「言い方ぁ!」
詳しいことは獣全般だが、ちんちん部分も事実なだけに否定できず、華子は顔を真っ赤にして叫ぶしかなかった。グラスは一瞬驚いた表情を浮かべ、にんまりとした顔でウンウンと何度も頷く。
「わかりマス!拙者もガクセーの頃はいろんな事に興味津々デシタカラ!」
「う、あ」
「まあ拙者が調べたのはヒトのちんちんまでデシタけどね!平山サンの知的コーキ心はブルー天井デス!!」
「ぐわ────っ!!」
帰宅中の生徒たちの視線が集まる中、グラスは楽しそうに笑いながら華子の背中をバンバン叩く。
華子は自らの評判がバスケットボールのように地面に叩きつけられているのを感じ、羞恥で咆哮を上げた。
「それで、具体テキにどんなコトに詳しいんデスか?」
「まずは
「初めて知りマシタ!そのちんちんは何モノデース!?」
「そこは華子殿に解説してもらうでござるよ」
そう言って、あたごは話をパスした。あたご的親切心による大暴投を受けた華子はそれを受け取り損ね、目を回す。
なんでアタシは公共の場でハイエナのちんちん解説をすることになっているのだろう?ここで一瞬冷静になった華子は、この話題から抜け出すことを考える。
(ん?そもそもどうして捕まったんだっけ)
そして思い至る。回避した先に待ち受けているであろう話題を。それはつまり、華子が今までひた隠しにしてきた秘密への糸口だ。
論理的に考えれば、このままハイエナの話題に乗っかって有耶無耶にするのが最善なのだろうとは思う。ただし、この話に乗っかると女子高生としての大切な何かがアレされてしまうような気がする。
日常に隠れ潜む者としての矜持か。女子高生としてのアイデンティティか。
「ハイエナのメスのちんちんはですね!!!!」
拮抗は一瞬。一粒の塩と100キロの分銅が乗せられた天秤のごとく右足で地面に蹴りを入れ、やけくそ気味に言い放つ。
「あれはですね!!偽陰茎と呼ばれるもので!!
実はデッカくなったクリト
■■■
「何してるの?あたごちゃん」
「いや…股間を腫れさせるにはどうすればよいかと考えていた次第でござるよ」
「ええ……」
まんまと話題に乗せられたあたごは自宅で自分の股をじっと見つめていた。*2
双葉は困惑した。
・キャラクター紹介
平山華子(2回目)
大鹿としての本能が強く、感情が高ぶると足で地面を掻く。
甘え上手だけど直情的。おばあちゃんの作るオムライスが好き。
実は親戚のハイエナお姉さんのアレを触ったことがある。ぶにぶに。