転生した。落ちこぼれになった。   作:チキンうまうま

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そろそろ技名を考えなければならない時期が来たのではないかと思っている今日この頃。



暇な時に妄想したりするアレ

 

 シド様が鮮血を撒き散らしながら美しい放物線を描いたあの日からはや数日。無事に怪我の治療も終わり、シド様は今日は学校に登校することを可能としていた。

 いやほんとびっくりしたよねあれ。意気揚々と向かっていったかと思えば綺麗に吹き飛ぶし。無駄に頑丈なのか何回も立ち上がるし。ローズ様はローズ様でシド様が立ち上がるたびに容赦なく吹っ飛ばすし。流石に見るに見かねて途中で俺試合場にタオル投げたもんね。この間買ったばっかりの白いの。

 …レフェリーに止められた後に『まだ()れる!』と叫んでいたシド様の狂気には正直どん引いたけど。いったい何があの人を突き動かしたんだろうか。全くもって理解に苦しむところである。

 

 余談だが試合の後、謎の女学生と親しげに話すシド様を見てクレア様がどす黒いオーラを出していたのは内緒だ。あの人も大概ブラコンだよね。

 

 さてそんなこんなでまた変わり映えのない日常が戻ってくる─はずだったのだが。

 

「全員動くなぁ!我らは【シャドウガーデン】!この学園を占拠する!」

 

 現在俺は【シャドウガーデン】を名乗るやつに襲撃されています。まじかこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 多分世の中の結構な数の学生が授業中に妄想したことあるであろうシチュエーションの中に「通ってる学校が突然テロリストに占拠される」がある。なお他には「活動内容が不明な部活に入って変人美少女とラブコメを繰り広げる」とか「巨大ロボットのエースパイロットになってチヤホヤされる」とか「突然謎の力に目覚めて正体を隠しながら謎の組織のエージェントとして活躍する」とかがあるだろう。異論は認める。

 

 話を戻すと、これらのことは所詮妄想であるからいいのだ。実際に起こってしまえばやばいとかそんなレベルではない。実際思考は止まるし、冷や汗が背筋を伝う。

 

(…いやまあ、普通に考えたら戦力的に勝てなくはないんだけども。)

 

 現在【シャドウガーデン】を名乗って乗り込んできた男はぶっちゃけ大して強くない。どう見ても魔剣士としては並程度の、俺やローズ殿下、或いはクレア様なら秒殺できるくらいには雑兵である。

 

(問題は、その程度の雑魚が乗り込んできた、ってことよな。)

 

 普通に考えたら勝算のない戦いをしない、と言うのは常識である。そこから考えれば、この程度の雑魚ですらこの学園の魔剣士に対処できる、という目算が向こうにあると言うことだろう。

 

(そもそもこいつほんとに【シャドウガーデン】か?最近の動向的に【教団】が【シャドウガーデン】を騙ってるって線も普通にあり得るんだよな…。)

 

 動くな、と言われたのをいいことに敵を観察しながら思考を巡らせる。現在は黒剣を構えた敵と細剣を構えたローズ様が睨み合っている状態。普通に考えたらローズ様が勝てるはず、なのだが。

 

「…っ!いったい何が。」

 

 ローズ様の顔が動揺に揺れる。はて。いったい何があったと言うのか。

 

「やっと気づいたようだな。…だが、もう遅い!」

 

 そのザマを嗤いながら仮面の敵は剣を振りかぶった。ローズ様もそれに対応して剣を振るうが、明らかに遅い。

 

(…そう言うことか!)

 

 その様子に俺はようやく合点がいった。普段のローズ様の剣はもっと速いはず。なのに今のはあまりにも遅かった。─まるで魔力を使っていないみたいに。そして今の状況で魔力を使わない理由なんて何一つない。

 そこから導き出せる結論はただ一つ。『敵はなんらかの方法で魔力を妨害できる』。魔剣士に対して極めて合理的で、凶悪な手段を用いてきた。

 

 そしてほんの一瞬。一瞬だけ俺が思考の海に沈んでいたその間に、だ。座っていた椅子を蹴飛ばして、シド様がローズ様の前に躍り出た。

 

「やめろおおおおおおおおお!!」

 

 シド様が叫びながら飛び出していく。その様子に俺は大きく目を見開いた。あんた、なんで飛び出してんだ。ただでさえ大して強くないのに、魔力使えない今のあんたじゃなんの役にも立たねえだろうがよ。なのに身体張って王女様守ろうってか?

 

 シド様がローズ様を突き飛ばす。魔力の使えない今のローズ様ではその衝撃に耐えられず床に転がり、このままでは敵の剣は容赦なくシド様を貫くだろう。

 

「見せしめに死ねぇ!」

 

 男の剣が、ローズを庇ったシドを切り裂く。その直前だった。

 

 ─まったく、困った人だ。

 

 空を割いたのは『(あか)』だった。風よりも速く飛び出してきたマスールの、雷よりも強い拳の一撃が容赦なく仮面の敵の土手っ腹に突き刺さった。

 

「ごぼおべらぁっ……!」

 

 マスールの拳を喰らった男は、鮮血混じりの吐瀉物を撒き散らしながら壁に激突し、大きな蜘蛛の巣状のヒビを作って白目をむいて意識を失った。

 

「う、動くなああああ!!動くとどうなるか分かってんだろうなぁ!?」

 

 動かなくなった相方を見て動揺したのだろう、もう1人の敵が剣を傍の女子生徒の首筋に当てた。人質にでもするのだろうか。それは牽制としては確かに最適の手段であり、それと同時に、

 

「知らね。」

 

 最悪の手段でもあった。

 男を殴り飛ばしたマスールはすぐに次の標的─人質を取ろうとしていた男をジロリと睨みつけると、そのまま助走もつけずに跳び上がった。それも体をくるりと回しながら、天井に届くまで。

  

 今マスールがいるのは教室。つまりそこら中に机と椅子があり、人がいる。そしてそれらの障害物にまみれた中で最短距離を突っ切るのは、マスールにとっても周りにとってもなかなか厳しいものがあった。だからこその跳躍。

 

 最短で空間を突っ切るという、荒業。

 

 空中で反転し、マスールは天井に両手と両脚をつけ、深く沈み込んだ。そしてその身体が重力に従って落ちる、その前に彼の強靭な両脚が爆発する。マスールの足の裏と天井の間で轟音が響き、天井がひび割れるのと同時にマスールは弾かれたように飛び出した。

 

 この教室の中で最も勢いを殺さず、そして最も速く。敵に突貫する方法。それこそが天井を足場にした跳躍。天与の肉体が生み出したその速さは、常人の反応速度を優に超える。現に今、その拳は人質を取ろうとしていた男のすぐ眼前に迫っていた。

 それは突進の速度と体重、そして重力、それに馬鹿力を乗せた拳。必殺にして不可避の一撃。

 

「食らいやがれっ…!」

 

 その一撃は何にも阻まれることなく男の顔面へと突き刺さり、突き刺さっても未だ勢いは衰えず、そしてそのまま床にヒビが入るほどにめりこませた。その衝撃で手放された黒い剣が宙を舞い、床に落ちてカラカラと乾いた音をたてる。

 

「…これでよし。」

 

 返り血で真っ赤に染まった拳を制服の裾で殴ってマスールはつぶやいた。周囲のクラスメイトたちが驚愕で黙り込む中、その背中にある人物が声をかけた。

 

「えっと…マスール君?」

「ああ、シド様。ご無事ですか。」

 

 マスールに声をかけたのはシドだった。わずかに拍子抜けしたような、そんな様子をなぜか感じさせる彼は立ちあがろうとしているローズに手を貸している。

 

「え、あ、うん。僕は無事だけど。」

「ならいいです。次の敵が来る前にとっとと逃げますよ。」

 

 今の騒ぎだ。間違いなく次の敵はすぐにこっちに来るだろう。その前にどうにかシドとローズだけでも逃がさなければならない。

 

「え?」

「話は後です。ほら行きますよ。…殿下、非常事態故にご容赦を。」

 

 言うが速いがマスールはシドを肩に担ぎ、ローズを小脇にひょいと抱えて走り出した。机の上を跳ね、窓枠に足をかけて、勢いよく窓の外へと飛び出した。身動きの取れない状態で突然宙に放り出された感覚に、ローズが思わず悲鳴を上げる。

 

「きゃあああああああああああ!?」

「うわー速い。」

「喋らないでください!舌噛みますよ!」

 

 シド様の変なところで無駄に肝が座ってるのはなんなんだ。そう思いながらマスールは学園の外へと向かって走り出した。

 

 





マスール
 とりあえず王女様と主家の長男だけでも逃せればOKのため一時撤退。

シド
 僕の…モブムーブが…邪魔された…
 
 
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