書きたいように書きました、よろしく
「……あ、ありがとう、キラくん。ここに電柱あるの、知らなくて……」
「ったく、そうやって石ばっかに集中するから周りが見えなくなるんだぞ? ったく、燈って俺がいないと何にもできないよな」
俺は月影キラ。何の変哲もないただの高校生だ。
隣にいるコイツは、幼馴染の高松燈。小さい頃からずっと一緒で、何をするにしても俺にべったりだ。
燈はいつもなんか不思議なこと考えてて、気づけばポケットに石ばっかり詰まってる、いわゆる変わり者、ってやつかな。俺はそんな燈の唯一の理解者、っていうか、ほとんど保護者みたいな立場をやらせてもらってる。
「キラくんは……すごいね。いつも、周りをちゃんと見てて、すごい」
「別に普通だろ。むしろ、燈が危なっかしいから周りをよく見るようになったとも言える」
ほんと、どっかの誰かさんがいつも危なっかしいおかげで、毎日俺はヒヤヒヤしてますよっと。ま、そんな毎日が、俺の「いつも通り」の日常なんだけどね。
そういえば、来週はクリスマスだったっけ? どうせ、今年も燈と過ごすんだろうけど。思い返せば、気づけばいつも一緒にいるんだよな、俺たち。
燈はイルミネーションとかキラキラしたやつが好きみたいで、いつもこの時期はどこかしら楽しそうなオーラを発している。俺はクリスマスのイルミネーションとか興味ないけど、燈が幸せそうにしてる姿を見るのは、嫌いじゃない。
そういえば、最近はバンドブーム? だったっけ? でも燈のバンド、昔解散したきりだったよな。可哀想な燈には、いつか代わりに俺がバンド組んでやろっかな、なーんて。
「キラくん、どうかした……?」
「ん、なんでもない」
──今年のクリスマスも、面白いことになりそうだな。
〜
「……燈?」
放課後の帰り道。路地裏から燈の声がしたと思ったら、燈が不良に絡まれていた。
嘘かと思って二、三度見返してみるが、やっぱり燈は怯えている。いくら燈が純粋そうだからって、襲うなんて最低だな。そんな人間の屑には、罰を与えないと。
──燈を傷つけたんだ。だったら、何をされても文句ねえよな?
「燈から手を離せ」
「……え、じ、自分すか? な、なんでしょういきなり……」
「とぼけたって無駄だけど? ほら、ケーサツ。お前だってこんなことで捕まりたくないよな?」
俺はスマホの画面をちらつかせ、
俺は燈を守るようにそいつの前に立ち、自分の罪を何もわかってないようなアホ面を睨みつける。
「燈を傷つけるやつは俺が許さないから」
「ち、ちがう……安曇くんは……」
「燈は俺の後ろに隠れてろ。てか、あんたどちら様? 燈にとって、あんたってなんなの?」
「じ、自分は……」
たじろぐ不良は、もはや俺の敵ではない。俺は燈の手を取って、走り出す。
多分、あいつが追ってこれないであろう場所に辿り着いた後、俺は燈にこう言い聞かせた。
「今度からひとりで出歩くなよ? 燈。街には、あいつみたいな燈を狙うクソ野郎がたくさんいるんだから」
「……うん」
〜
「キラくん、なんでこの前ちゃんと燈ちゃんの話を聞いてあげなかったの?」
「何の話?」
次の日。俺はそよになぜか呼び出された。いきなり呼び出されたかと思えば、燈の話をされて驚いた。
俺が燈の話を聞かない? そんなわけない。燈のことを一番理解して支えてるのは、間違いなく俺なんだから。別に言葉にしなくたって、燈の気持ちは手に取るようにわかる。
「とぼけないで。あの後、燈ちゃんはすごく悲しんでたんだよ」
「悲しむ? なんで燈が? 俺、不良から燈を助けたんだけど。喜ぶならまだしも、悲しむ理由なんてないだろ」
「はぁ……キラくんのそういうところ、今すぐ直した方がいいと思うよ」
俺の言葉を聞いて、そよは大きくため息をつく。明らかに訳がわからないことを言っているのはそよのはずなのに、なんでため息なんかつくんだろうな?
「燈ちゃんのことをちゃんと想ってるなら、ちゃんと話をしてあげて」
──所詮、解散したバンドだけの付き合いだったくせに。そんな浅い付き合いのあんたに、燈の何がわかるんだ?
「別にいい。だって俺と燈は幼馴染だぞ? いちいち言葉にしなくたって、燈は俺のことわかってくれてるから」
「……それ、燈ちゃんの言葉に耳を傾けない言い訳にしかならないと思うけど?」
「まあ、そよは所詮中学からの付き合いだからわかんないと思うけどね。だいたい、これは俺と燈の問題なんだから、そよには関係ないだろ」
つい、口数が多くなる。普段の俺らしくないが、仕方がないだろう。それに、俺は元々指図されるのが嫌いだ。
「俺は俺のやり方があるから。燈のこと何もわかってないあんたが、口を出すな」
別にどう思われようが構わない。所詮、本当の燈を知らない部外者の言葉だ。俺は、俺のやり方で燈と向き合うから。
「……何もわかってないのは、キラくんの方だよ」
──帰り際に聞こえたその言葉は、聞こえないふりをして。
〜
クリスマスの日になった。俺は、「いつも通り」燈の家に向かう。きっと、今年もいつも通り自分の部屋で石でも眺めてるんだろうな、そう思って燈の家のチャイムを押した。
すると、燈のお父さんが玄関を開けて俺を迎えてくれた。お父さんと軽く談笑した後、俺は「いつも通り」燈の部屋に向かおうとしたが、なぜか止められてしまう。どうしてですか、と理由を聞いたらお父さんは嬉しそうに笑ってこう言った。
──燈なら、さっき出かけて行ったよ。
と。
わけが、わからなかった。燈が、出かける? 人が多いところが苦手な燈が? どうやって?
もしかして、何か石にまつわるフェアでもやっていたのか? いや、クリスマスにそんな催しがやってあるわけがない。じゃあ、なんだ? 燈が興味を持ちそうなこと、持ちそうなことって……
──燈って、何が、好きなんだっけ。
……いや、もはや今はそんなことはどうでもいい。そもそも、だ。俺がいないと何もできない燈が、ひとりで出かけられるわけなんてないんだよ。
俺は、燈にメッセージを送る。何度も何度も、メッセージを送る。送信音がうるさくなり続けようがどうだろうが、俺は送り続ける。
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「……燈」
カラカラの声を絞り出すように、今ここにいない人間の名前を呼んでみる。当然、燈からの返事はない。
なあ、こんなの話が違うだろ。燈は、俺のことを無視なんてしないだろ。これが悪い夢なら、早く覚めてくれよ。せっかくのクリスマス、「いつも通り」、燈と二人で、ただ笑って過ごしたかっただけなのに。
どこにいるんだよ、燈、どうしちゃったんだよ、燈、何してるんだよ、燈、会いたいよ、燈。
無機質なスマホの画面に、緑が増えていく。こんなところまでクリスマスカラーに染まるなんて、神様はよほどクリスマスがお好みみたいだ。そこに雪が降ることは、決してないのに。
「……ぉぇ」
煌めくイルミネーションと恋人たちで溢れかえる人混みが、心の底から鬱陶しい。俺の視界に入る何もかも、今すぐ消えて欲しい。俺は、燈以外、全部全部どうでもいいんだから。
そうだよ。いっそ、ここでゲロでも吐いて全部台無しにしてやろう。元々、クリスマスもイルミネーションも、俺は大嫌いだ。そこに燈がいてくれたから、そんなクソみたいな日が宝物みたいに輝いていただけだったんだ。
胃の中にある全部が、ぐわりぐわりとせり上がっていく。平衡感覚が崩れ、頭がガンガンと悲鳴を上げる。喉が胃液によって焼け焦げて、少し匂うだけでも鼻が曲がってしまいそうな異臭によって気がおかしくなりそうなその時だった。
「……お兄さん、大丈夫っすか!」
「な、ん、だよ、あんた」
「と、とりあえず……袋! 大丈夫ですからね、ほら、ゆっくり……」
誰かが、袋を持って駆け寄ってきてくれたらしい。あー、世の中捨てたもんじゃないなあって、ちょっとだけ嬉しくなった。俺は差し出してくれた紙袋に、胃液とぐちゃぐちゃの感情を吐き出す。そこに、キラリと光る水滴がぽたりと落ちる。
ああ、俺、泣いてるのか。ああ、クリスマスに街中でゲロ吐いて、その上泣くなんて、本当に俺らしくない。これじゃ、燈に見せる顔なんてどこにもない。
そうだよ。俺は、俺はずっと、いついかなる時もかっこよくてクールで、何があっても取り乱さなくて、何があってもずっとそばにいて、何でもわかってあげられる。
燈に見合うような「キラくん」で、いたかったのに。
「……キラくん、泣かないで」
「と、もり。……その、さ、今の俺のこと、あんまり、見ないで欲しい。……多分、今の俺、世界で一番カッコ悪い、から」
そんな時聞こえる、俺が今日、いや、昨日も、いや、君に出会ってから何度も何度も恋焦がれた声。そう。燈が、俺の背中を優しく撫でてくれていた。
俺のこんな姿、燈には絶対に見られたくなかった。かっこ悪くて惨めな俺が燈の目に入るなら、死んでしまった方がマシだ。でも、そんな俺の背中を、燈は優しく撫で続ける。俺はそんな燈の優しさに、まっすぐさに、ずっと──
「……キラくんは、キラくんで、いい……! どんなにかっこ悪くたって、キラくんはキラくん……だから」
ずっと、救われてきたんだ。
俺は、そんな燈みたいになりたかった。迷子だった俺のことを導いてくれる燈の存在に、ずっと憧れていたんだ。
燈は、俺が思う何倍もすごい力を秘めている。俺がいなくたって、燈は生きていけるんだ。むしろ、燈がいなくなってダメになるのは、俺の方なんだ。
その時、ようやくわかったよ。俺は、どうあがいても「特別」にはなれないんだって。手を伸ばしたら届きそうな星は、とっくにどこか遠くに行ってしまったんだな。
燈の特別になりたかった。燈の唯一でありたかった。そんな自分のエゴが、気づけば肥大化して、醜く腐って、燈を傷つけていた。もっと早くそれに気づいていれば、何かが変わっていたのかなって。
きっと、何も変わらないのだろうな。燈と違って、俺は不透明なままなのだから。
こんな俺の吐瀉物を一緒に片付けてくれる彼は優しいな、って思った。あの日不良と見なしてあんなことを言ったのに、それでも優しく手を差し伸べてくれるところがどこかの誰かにそっくりで、ちょっとだけ胸が苦しくなった。
大丈夫、きっと、燈の「特別」は間違ってないよ。幼馴染の俺が言うんだから、間違いないに決まってる。二人を見ている時だけは、ギラギラと眩しいだけのイルミネーションが、少しだけ綺麗に見えたから。
──ま、クリスマスが終わればさっさと別れたら? その時は俺が燈をもらうから。そう言いかけた言葉を喉の奥にしまい込んで、俺は精一杯笑ってみせる。
「幸せになれよ、燈」
正直どこまでうまく笑えていたか、あまり覚えていない。けれど、その時の俺はきっと、今までで一番──
その燈りは、どこまでも。遠く眩い光で優しく俺を照らす。
それが、不透明な俺の唯一の救いだったんだよ。