リハビリがてら書きました。立希は不幸体質のオリ主に燈以上のクソデカ感情持ってます。

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笑う門には福来る

「よっすりっきー!今日も元気だねえ!」

 

「朝からうるさい、近所迷惑」

 

 寒空の中、まだ静寂が支配していた朝の住宅街に、とある一軒家の窓からけたたましい挨拶が響く。そんな男の挨拶を受けた黒い髪の女子高生はうんざりしながらもどこか日常のように流していく。

 

「あとなんで御幸がそのあだ名しってんの」

 

「愛音から聞いた!」

 

「アイツ……!とにかく、りっきーは禁止」

 

「ちょまま!せっかくしっくりきそうなあだ名みつけたのにひどい!鬼!悪魔!」

 

「あだ名一つ取り上げたぐらいで泣くなよ……はぁ、呼びたいなら勝手に呼べば?」

 

「ホント!?ありがとうりっきー!」

 

「とにかく、さっさと下に来ないと置いてくから」

 

「ああちょっと待ってて!急いでいくから!」

 

 そう言って男……千川御幸は朝の支度をするために勢いよく窓を閉めようとする。

 

「!?ま、待って御幸!いそがなくてm」

 

 それを見た少女……椎名立希は目の色を変えて彼にゆっくりでもいいと言おうと声を上げたが、それを言い切る前に彼は勢いよく閉めた窓に手を挟んでしまう。

 

「あ痛てっ!?」

 

「ああ言わんこっちゃない……ゆっくりでいいから!落ち着いて支度して!」

 

 それから数分して御幸が出てきたのだが……

 

「おまたぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「!?」

 

 出てきた瞬間、凍ってツルツルになった地面で足を滑らせ、勢いよくタイル張りの地面に頭から突っ込んでいく。立希はそれを見過ごすことなく、猛ダッシュで家に入り彼を救おうと飛びつく。

 

「はぁ、はぁ……大丈夫?」

 

「……おう」

 

 ギリギリセーフだった。床に勢いよく倒れる寸前で立希は体を受け止めて救出することができた。御幸はすぐさま起き上がり、助けてくれた彼女の無事を確認した後、心の底から安心した表情で礼を述べていく。そのことに安心しながらも、立希は彼の髪についた汚れや泥を払っていく。

 

「ごめんごめん、ありがとな立希。いつも助かる」

 

「……!それ反則ッ」///

 

「は、反則?」

 

「なんでもない!ほら、さっさと足動かす!」

 

「わ、分かったって!」

 

 立希に尻を軽く蹴られながら御幸は傷跡だらけの足で(・・・・・・・・)学校に向けて歩を進めていく。これが椎名立希と千川御幸の朝の日常である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはようわっ!」

 

 つくづく不運に巻き込まれる男である。教室にたどり着いたと思ったら、今度は前から走ってきた女子高生がぶつかってきて、御幸は廊下の硬い床に尻もちをつく。

 

「御幸!?」

 

「ええっ!?せ、千川君ごめんね!怪我してない?」

 

「あはは!大丈夫大丈夫!これくらいなれっこなれっこ!」

 

 自身の不注意を謝罪する女子生徒に御幸は笑顔で答える。女子生徒は心配そうに彼を気遣い、手を貸そうとするが御幸はそれを丁重に断り、ズボンの尻の部分についたほこりを払いながらゆっくりと立ち上がる。

 

「ほ、ホントにごめんね。ちょっとよそ見しちゃって……」

 

「は?よそ見?」

 

 彼女が申し訳なさそうに御幸に話しかけようとしたが、その声は刺々しい声によって制される。立希だ。突然声をかけられて硬直しているクラスメイトを冷めた目で一瞥したと思うと……

 

「ふざけてんの?打ち所が悪かったら御幸はどうなってた?もし死んでたら、お前は人殺しになってた。このことちゃんと理解分かってんの!?答えろよ!」

 

「ひいっ!?」

 

 物凄い剣幕で迫り、さらにクラスメイトの胸倉までつかみ始めた。それを見た御幸はすぐさま彼女を止めに入る。

 

「落ち着け立希!わざとじゃないのにそこまでしなくてもいいよ!」

 

「だけど!」

 

「いいから落ち着け!」

 

 静止してなお手を下げない立希に御幸は頭に軽いチョップを浴びせる。威力こそないに等しいものの、怒りで沸騰しきった立希を落ち着かせるのには十分だったようで、ハッとした様子の立希は慌てて女子生徒の胸倉から手を下ろす。

 

「……ごめん、ついカッとなった」

 

 完全に我を忘れていたことを反省しながら謝罪する。一方、胸倉をつかまれて激昂された彼女は、腰が抜けてしまったのか、その場にへたり込んでしまう。その後、授業が始まるまでには何とか元の調子を取り戻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立希さん、朝はどうしたんですか」

 

「……」

 

「無視とは酷いですね」

 

「……うるさい」

 

 放課後、徹夜続きで机に突っ伏していた立希に海鈴が声をかける。しかし、立希は依然顔を伏せたままで振り絞ったような声で返事する。

 

「……そんなに御幸さんの事が大切なんですか?」

 

「お前に何が分かるんだよ!アイツの事、ろくに知らない癖に!」

 

 海鈴の口から御幸の言葉が出た瞬間、立希は怒気をあらわにして勢いよく立ち上がった。

 

「……ごめん」

 

「いえ、センシティブな話題だったようですね。私も無神経でした」

 

「……アイツがいつも笑ってる理由、分かるか?」

 

「笑ってる理由、ですか。すいません、私には考えもつきません」

 

「……御幸はな、不幸体質なんだよ。それも災害レベルの」

 

 立希は先ほどまでとは打って変わって静かな声で海鈴に話しかける。海鈴も彼女の様子を察して無言で話を聞いている。

 

「誕生日は赤口の日の丑三つ時、母親は出産時の出血多量で命を落とし、父親も病院から御幸を引き取ってしばらく経って家の中に押し入った空き巣犯に殺された。まだ首も据わってないうちから親戚や施設をたらいまわしにされ、しかも体も弱くてたびたび熱を出してたから碌に学校にも行けなかった。外に出ても事件に巻き込まれてばっかで……でも、笑う事だけは忘れなかった。『笑う門には福来る』その言葉を信じ続けてずっと笑顔でい続けてるんだ。それが御幸の心を崩壊寸前でつなぎとめてる」

 

「そんな事が……」

 

「そんな状態でも、アイツは笑う事で前を向き続けてる。私はそんな御幸を応援したいんだよ。不幸体質を治すことはできない、でも御幸の傍に寄り添って、支えになってあげる事なら出来る。だから、いくら海鈴とはいえ御幸の事をどうこう言うのなら容赦しない」

 

「……だからあんなに御幸さんのことを気にかけていたんですね」

 

「ああ………これが私が怒った理由だよ。話したらなんか疲れてきたから寝させてくれ」

 

「ええ、どうぞ。では、私は……あっ」

 

 立希の独白を聞いた海鈴は納得したようにそう呟いていた。それから海鈴はその場を後にしようとしたが、ふと思い出したかのように立希の机に戻り、おもむろに紙パックのジュースを頭に載せ始める。

 

「そういえば今日の日課がまだでしたね」

 

「それ日課なのかよ……ってあったか」

 

「ええ、今日は二段重ねの甘酒です。御幸さんと一緒に飲んでもらえれば」

 

「はぁ?からかtt」

 

「おっと動かないでください、もうストロー挿してるのでこぼれますよ」

 

「!??」

 

 海鈴の冗談めいた言葉に立希は顔を上げようとしたのだが、パックからジュースがこぼれそうになると分かると慌てて口をつぐむ。その様子を見届けた海鈴は満足そうな顔を浮かべていた。

 

「チバニアンジョークです」

 

「お前なあ……(怒)」

 

「では、私はバンドがあるので帰ります」

 

「え、あちょ……!」

 

 海鈴はバンドのサポートに向かうべく、足早に教室から出ていってしまう。取り残された立希は頭上に載せたホカホカのジュースパックを何とかしてどかそうとするが、下手に動くとバタバタと倒れるのは目に見えていたので、突っ伏したまま動けずにいた。

 

「……おーい、御幸ー、助けてくれー」

 


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