意思表示苦手なTS盲従強化人間少女はおしごとが大好き   作:九曜ナーラ

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おひさしぶりです



わたしのしらないえぴろーぐ

 

 

 

「……それで? 何か弁明はありますか? 特務部隊【ヴェスパ】総隊長、ジークムント・シュローモ大尉」

 

「無いな。完全に俺の判断ミスだ」

 

「…………自己弁護のひとつでも吐いて見せたらどうです」

 

「お前に口で勝てる気がしない」

 

「………………ハァ……全く」

 

 

 

 ここ最近にしては珍しく……なんなら帝国軍指揮下にあった頃よりも賑やかで、多くの人々が慌ただしく動き回っている此処は、旧トラレッタ地域の軍事拠点。

 この地域一帯の兵力が集うここは、旧称レッセーノ改め『マーケンゼ』と名付けられた、対イードクア帝国の最前線である。

 

 

 尤も肝心の帝国軍はというと、度重なる惨敗と各地の抵抗運動等の要因が積もり重なり、派兵の気運は低下しているようだが……それでなくとも、今や各方面から戦力の補充がなされたマーケンゼ統合基地である。

 帝国方面には、引き続き睨みを効かせておく必要は残るだろうが……それでもロクな補給も届かなかった以前ほどの悲壮感は、基地内のどこにも見られない。

 

 

 ……ちなみに。

 新たなる銘となった『マーケンゼ』とは、トラレッタ地域の伝承として残る『群狼の長』の個体名であるらしい。

 獣であり(ヒトではない)ながらも高い知性を持ち、群れをよく律し害敵生物の駆除を担い、しかし決してヒトの領域や財産を侵すことは無かったという。

 古くから残る物語や詩には、度々『ヒトの良き隣人』として描かれることもあるという、ありがたく縁起の良い存在なのだとか。

 

 銘名を担った眼鏡の基地司令は、もっともらしく「戦力を(つかさど)る基地の銘に相応しいでしょう」などと述べていたようだが……眼鏡の司令に付き従う某尉官は、そこには別の意味合いも含まれているだろうということを、密かに認識していた。

 正確かつ機敏に『群れ』を操り、偉そうなヒトの隣に(はべ)り、気難しく偉そうな眼鏡の大佐の敵を的確に駆逐する。

 そんな力強くも可愛らしい、忠実だがどこか危なっかしい『群れの長』の存在も……もしかすると、少なからず影響しているのかもしれないなと、その某尉官は口に出さないながらも確信していた。

 

 

 まあ……そんな基地の改名もさることながら、なんと言ってもこちらのマーケンゼ統合基地、所属国さえ変わるような大改革の真っ只中である。

 大規模な人員配置変更が行われるとともに……基地司令のすぐ近くでも、前例の無い人員移動が執り行われることとなり。

 

 小さくて、真っ白くて、どこか危なっかしい腹心が……基地司令のもとを暫し離れることとなったのだ。

 

 

 

「…………今このタイミングで、貴方(あなた)を罰するわけにはいきません。各所から戦力を掻き集めたとて、自前の戦力が劣っていれば見縊(みくび)られ……最悪、武力行使で乗っ取られかねません」

 

「いや性格悪いなお前。ヒトの好意を(ハナ)っから疑って掛かるか」

 

「当然です。友軍とはいえ、成り立ちからして完全に別組織ですから。何かの切っ掛けで袂を分かつとも限りません。……()()なった場合、いや()()ならないためにも、自前の戦力を増強するに越したことはありません」

 

「ご苦労なことだ。大変だな、お前も」

 

「その『自前の戦力』の総隊長が誰なのか理解していますか? 貴方(あなた)は」

 

「俺だろう? それがどうした?」

 

「……………………」

 

 

 

 幸い、というべきなのだろう。帝国の指揮下から脱却したことで、これまでは敵対していた連邦国軍と一時の停戦を結ぶことに成功した。

 今はまだ、連邦国軍から直接戦力を借りることは叶わないながらも……そちら側から『攻撃を仕掛けられない』という保証が得られただけでも、状況は大きく好転する。

 

 対帝国の『壁』として、レッセーノ改めマーケンゼ統合基地が存在している限りは、連邦国から喧嘩を売られることは無いはずだ。

 連邦国にとっても、帝国から直接攻め込まれる恐れが無くなったといえるのだ。わざわざ停戦を反故にし、矢面に立ってくれている面々を敵に回す理由など無いだろう。

 

 

 まあ尤も、良く言えば心配性、そのまま言えば『他人を信用しようとしない』陰険で眼鏡の基地司令殿はというと……対連邦国軍に対する備えも、当然のように講じているのだろう。

 その一環として、ウェスペロス大佐の『子飼い』として名の知れた特務制御体、ノール・ネルファムト特務大尉の、連邦国軍学校への派遣を推し進めたのだ。

 

 

 広く門戸を開いた連邦国軍学校とて、その敷地は軍の敷地内であり、またエメトクレイルをはじめとする軍用機材も多く取り扱っている。

 対工作や防諜の観点から、さすがに他国の軍に所属している者を受け容れたりはしない。同盟国であれば可能性はあるだろうが……マーケンゼ統合基地を擁するトラレッタ領は、まだまだ『国』と呼ぶのも難しい規模である。

 

 身も蓋もない言い方をするならば、せいぜいが『所属不明の武装勢力の構成員』である。

 国軍の首都近傍、国で一二を争う大規模軍事拠点に迎え入れるには、少々以上に難易度が高いということなのだろう。

 

 

 …………が、しかし。

 それが『武装勢力の構成員』()()()()()……まあ色々と屁理屈を()()り回せば、不可能では無いらしい。

 

 

 そもノール・ネルファムト特務大尉は、あくまでも『大尉相当の肩書をもった被験体』であり、れっきとした軍人()()()()

 ……実際、待遇ならびに福利厚生の観点や、軍人として必要な基礎訓練を施されていない点等から鑑みても、他の兵士や尉官士官らとはあからさまに扱いが異なっていたのだ。

 

 しかしまあ、本人は恐らく「軍に所属してるから」といった意味合いで、自らのことを度々「わたしは軍属なので」と口にしていたようだが……実はそれ、本来は『軍隊に所属しているが()()()()()()()』という意味合いだったりする。

 そもそも日常会話さえ難儀している彼女が、積極的に所属をアピールすることが少なかったため、疑問に思われたり訂正されたりされないまま今日まで来てしまった……というのが、正直なところである。

 

 

 とはいえ当然ながら、性格の悪い眼鏡の基地司令殿やその腹心である大尉殿は、本来の意味合いを理解していたことだろう。

 しかしながら、敢えて訂正せずに『軍属』名乗りを続けさせていた甲斐あって……先の場面では傭兵団の団長や連邦国軍の尉官を相手に、ノール・ネルファムト特務大尉から『軍属(軍人)である(ではない)』との自供を引き出すことが出来た。

 

 どんな手段を講じたのか、連邦国軍上層部に太いコネクションを持つ傭兵集団の首魁。そして彼女が連れてきた連邦国軍の尉官。……それらの前で、一片の虚偽も含ませず、自らを『軍人ではない』と宣言させたのだ。

 それを黙認していたということは、マーケンゼ統合基地司令眼鏡が『彼女を軍人として扱わない』ことに同意したようなものである。

 ……まあ、そもそもが先方からの勧誘である。軍学校への編入に関しては、これで如何様にも名目は立てられることだろう。

 

 

 ただ……その一連の遣り取りの裏には、連邦国軍側の『あわよくば抱き込みたい』『引き抜いて身内にしてしまいたい』『いっぱいなかよししたい』などといった思惑が、皆無であるとも言い切れない。

 似た境遇の者たち――かつて帝国の被験体として運用され、心身共に傷を負った子ら――が集う場所ならば、居心地の良さを感じてくれるのではないか……と。

 

 マーケンゼ基地司令とて、そういった連邦国軍の思惑は把握しているのだろう。

 それでも気にした素振りもなく、連邦国へ預けることを決めた背景には……ノール・ネルファムトが他所へ(なび)くことは無い、との自信の表れか。

 あるいは、居心地の良い場所を見つけたのならそれで良し、と……巣立ちをむしろ期待する気持ちもあったのだろうか。

 

 

 

「全く……貴官の実力は認めますが、もう少し素直さというか、謙虚さを身に付けて頂きたい」

 

「ほぉ? ネルファムト特務大尉のように、か?」

 

「…………アレはアレで、自己を卑下し過ぎるきらいがありましたが……まぁ、そうですね。扱いやすさで言えば、貴方とは雲泥の差です」

 

「酷いな。お前にあそこまで尽くした娘をそこまで()()ろすか」

 

「今の流れで何故貴方が『雲』のほうだと思ったのか全くもって理解出来ません」

 

「冗談だ。本当にお前は……本人の前では、なかなか褒めないよな」

 

「…………部下に媚を売る必要がありますか」

 

「媚を売るのと(ねぎら)うのとは全く違うだろうに。一番隊(ウチ)を見てみろ、基地司令部(お前ん所)よりも余程空気が良いぞ。ネルファムト特務大尉が抜けてから最前線みたいな空気漂わせやがって。お前は別にどうでも良いが、司令部詰めの奴らが可哀想だろう」

 

「……………………」

 

 

 

 決して少なくない期間(かたわ)らに侍り、尽くしてきたネルファムト特務大尉に対して……ユーハドーラ・ウェスペロス大佐とて、思うところが無いわけではない。

 決して、決して態度に出すことは無いだろうが、きっと本人が気付いていないだけで、少なからず情も(たぶん)(きっと)(恐らくは)湧いていることだろう。

 

 

 幸いなことに、基地を取り巻く状況は圧倒的に好転している。

 以前のようにネルファムト特務大尉ただ一人に戦力を依存することは、もう無いはずなのだ。

 

 しかしながら。だからといって。

 自己主張が苦手で、自己評価が低くて、意思の疎通が苦手で、そこはかとなく依存体質な特務大尉の居場所が、レッセーノ改めマーケンゼに無くなってしまったのかと問われれば……素直じゃない眼鏡の基地司令殿は、なんだかんだで『否』と答えるだろう。

 

 

 いや、基地司令だけではあるまい。この基地がまだ苦境に喘いでいた頃から、小さく危なっかしい彼女を見守り続けていた面々も、また同様に。

 これまでは『自分のこと』を捨てるしかなかった彼女が、やっと手に入れた平穏に身を委ね、健やかに成長して帰還することを待ち望んでいるのだ。

 

 

 

「もうお前は、中間管理職である必要は無い。お前が実質的な頭なんだ。お前の言動如何(いかん)で、このマーケンゼの空気が変わるんだ。……そのことを、お前は理解しているか?」

 

「当然で――」

 

「してないよな。でなければそんな、全方位に喧嘩売った言動を取り続けているハズが無い」

 

「……………………それの――」

 

「いいか? あの子が……ノール・ネルファムトが戻って来たとき、この基地の空気が前より悪かったら悲惨だぞ。……少なくとも今はまだ、彼女にとってココは『帰る場所』なんだからな」

 

「…………………………チッ」

 

 

 

 反乱軍の頭目ともなれば、片付けなければならないタスクは山積みである。……それこそ、その頂すら窺うことは叶わぬであろう程に。

 以前のように、上から理不尽な指示を押し付けられることこそ無くなるとはいえ、逆に言えば全て自分が判断しなければならないわけで……まあ大変なのだろう。

 

 そんな中で、やれ『部下をちゃんと(ねぎら)え』『基地の空気をなんとかしろ』と来たものだ。そんなことは性格の悪い眼鏡の大佐にとって、これまで考えたことも無いことだろう。

 そして当然、これまでの眼鏡大佐であれば……一考の余地も無いと、バッサリ切り捨てていただろう。

 

 

 

 しかしながら。

 

 基地そのものの在り方が、根底から変わってしまった中で。

 

 長年そのトップを務めた総司令の心境もまた……少なからず、変わってしまったのだろう。

 

 

 

「…………前向きに検討しましょう。……ですが、早急な成果は期待しないで頂きたい」

 

「大丈夫だ。さほど期待していない」

 

「ぐ、ッ! …………それはそれで腹立たしいですね」

 

「その気持を糧に頑張れ。たまにはノールに良い所見せてみろ」

 

「失敬な。幾度となく見せ付けていますとも」

 

 

 

 自身の夢を抱き、明るい『ふつう』の生活に胸を躍らせる、元・実験体の少女と……やっと彼女と共に生きることが叶った、もうひとりの少女。

 彼女たちふたりが多くを得て、そして希望とともに帰ってくるときには……かつてはレッセーノと呼ばれたこの最果ての拠点も、いろんな意味で過ごしやすくなっていることだろう。

 

 

 ……まあ、しかし……その一方で。

 

 そんな彼女たちが連邦国軍学校で、日常的に吹聴していた『あることないこと』の数々と、それを耳にした多くの人々が抱いた『事実を含んでいなくもない認識』によって、眼鏡の大佐の評価がとんでもないことになっていることであろうが。

 

 そして肝心の大佐本人が()()を耳にしたとき、既に話は取り返しのつかない規模にまで膨らんでしまっており、それはそれは物凄い顔をして対処に追われる羽目になるのだろうけど。

 

 

 それはまぁ……ほら。

 たとえばペットの粗相は、飼い主の責任ですから。

 

 

 手放したように見えて、管理責任者は返上してないし……仕方無いよね。

 

 

 





不定期更新すぎてご迷惑をおかけしました。


ここまでお付き合い頂き

本当に、
本当にありがとうございました。


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