夢を持てない男も異世界から来るそうですよ?   作:shoshohei

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本日二個目です。
ぶっちゃけ、あまり書き溜めとかないんですけどね……。




夢の始まり
灰色からの脱却


 光に包まれ、意識が断絶された後に目を開いたところに飛び込んできたのは、どこまでも真っ青に広がる青だった。

 その次に目に入ってきたのが、ふわふわと浮かぶ白い不定型な物体。頭上にはギラギラと輝く球体。

 さらに感じる浮遊感、間をおかずに続く高所から叩き落とされたかのような落下する感覚。

 

 否、今まさに叩き落とされていた。

 高度四〇〇〇メートルから問答無用で地上へと向かって、乾巧は叩き落とされていたのだ。

 

 

 おい、どういうことだ。こりゃどうなってんだ。

 

 

 今まさに絶体絶命の危機に陥っているというのに、乾巧は嫌に冷静だった。というか完全に拗ねていた。

 眼下に広がる縮尺を見間違うほどに広がる巨大な未知の都市とかハッキリ言ってどうでもよく、巧はこんな現状にただ仏頂面を浮かべながら絶賛落下中だった。

 どうやってここまで自身を送り込んだのかは知る由もないが、乾巧は不機嫌度一〇〇%の顔で送り主を見つけて一言文句を言ってやると心に誓いながら、薄い水幕が緩衝材となり、落下の吸収を抑える為に幾重にも貼られた湖へと着水した。

 

 

 

 

 

 

  ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■ 

 

 

 

 

 

 

 バシャァァアンッ、と周囲に顕在する森に木霊するほどの大きな音を立てて、仏頂面な男と一緒に落とされた3人の男女と猫一匹は、家を三軒ほど積んだらそうなるであろうほどの水柱を立てて落下した。

 緩衝材が働き、無傷で落下することに成功した男女達はそれほど深くはない湖から不快感たっぷりにそれぞれ陸へと上がって行き、服に含んだ水を絞り出す。

 

 勿の論のこと、巧は先ほどよりも二割マシな拗ねた顔で上がってくる。

 しかし彼は見知らぬ人とはつるむ気はこれっぽっちもないのか、三人の男女からは離れたところで鬱陶しそうな顔で水を絞る。

 

 

「……し、信じられないわ! いきなり空に放り出すなんて! 下手をすれば地面に激突して即死よ!?」

 

「ああ、全くだ。下手をすればゲームオーバーコースだぜ、これ」

 

「……大丈夫? 三毛猫」

 

 

 勝気そうな声音で、これまた勝気そうな顔立ちをしている正装を着た見た目十五、十六の長髪の少女。

 彼女に便乗するように不満げな声を上げた、黒い学ランを着た金髪でヘッドホンをした少女と同じくらいの歳の少年。

 唯一二人に同調せず、飼い猫なのか一緒に堕ちてきた猫に話しかけるスリーブレスのジャケットとショートパンツを来た茶髪でショートカットのぼんやりとした雰囲気を持つ少女。

 

 お互いがそれぞれの感想を漏らしているも、しかし巧は彼らの誰かなどはどうでもいい。というか彼ら彼女らの存在を意識の片隅に追いやって、ただ内心でぶつくさとここへと呼び出した張本人に愚痴を漏らしていた。

 そんなことはいざ知れず、ショートカットの少女が不思議そうにぽつりと言葉を零すのが巧の耳に滑り込んでくる。

 

 

「……ここ、どこだろう」

 

「さあな。大方どこぞの大亀の背中じゃねぇのか?」

 

 

 んなところに来させられてたまるかバカ。

 もしそれが本当になったらどうすんだ。不吉なことを口走るんじゃねぇ。

 

 

 現在イライラが頂点に達しそうな巧は、金髪少年の言葉に叫びたい気持ちを抑えて内心でそれをするに留まる。ここで怒鳴ってしまっては何だか自分が滑稽に思えてしまうからだ。あと面倒くさい。

 そんな巧の心もこちらも知らずに、見た目如何にも不良ですといった少年は曲った金髪を跳ね上げてから再度口を開く。

 

 

「まあ、冗談は置いといて。一応確認しとくけど、お前らにもあの手紙が?」

 

「そうだけど、まず『お前』って呼び方を訂正して。私は久遠(くどう)飛鳥(あすか)よ。以後気を付けて。……それで、そこの猫を抱きかかえてる貴女は?」

 

 

 少年の礼節もなにもあった物ではない問いかけ方に、気に食わなかったのか応じるように少女――――久遠飛鳥は挑発的な態度と鋭い眼光を持ってして答えるが、しかし少年には答えた様子はない。

 少女はその鋭利な目つきで少年を睨んだ後、今度は別の少女へと問いかける。

 

 

 

「…………春日部(かすかべ)耀(よう)。以下同文」

 

「そう、よろしく春日部さん。それで? 目つきの悪い野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

 

 先ほどの会話が尾を引きずっているのか、久遠飛鳥は少年に対しての攻撃的な態度を緩めずに語りかける。

 しかしやはり少年には堪えず、彼はおどけた様に笑って肩を竦めた。

 

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見た目通りで野蛮で凶暴な逆廻(さかまき)十六夜(いざよい)です。粗悪で凶暴で快楽主義者と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と用量を守った上で正しく接してくれよ? どうも強気なお嬢様?」

 

 

 掴み所を掴ませまいとするかのように飄々とした態度を取る少年――――逆廻十六夜。

 雲のようにふわふわと存在を浮かばせている十六夜の態度に、飛鳥は顔を顰めて返す。

 

 

「そう。取扱説明書を作ってくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハッ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しといてくれお嬢様」

 

 

 どうにも心底が掴めない逆廻十六夜。

 見るからにプライドが高く傲慢そうな久遠飛鳥。

 それらの騒ぎをそばで聞いていても我悶せずの態度を貫き、なぜか猫に喋り掛ける春日部耀。

 その個性的すぎる集団を遠巻きに眺めた乾巧は、本当に面倒くさそうな雰囲気を醸し出していた。

 

 元来怠け者の気質が強い男である。しかも口も悪く笑うことなど滅多にない無愛想の塊ときた。

 この気質のせいで何度元の居場所で同じく同居人の少女と口喧嘩になったことやら。

 

 

 ちなみに先ほども申した通りに、巧に彼らとつるむ気は全くもって皆無である。

 理由としては、彼が口下手であることもそうではあるがなんか見ていてムカつくのが一番の原因だった。特にあの十六夜や飛鳥と言った少年と少女。

 

 

 十六夜は何だか飄々としていて、すかした(巧の偏見が生み出しているに過ぎない)態度がなんか気に入らない。

 飛鳥は見るからにプライドが高そうで、口を開けば恐らく偉そうにあーだこーだと講釈を垂れてくるに違いない。しかも自慢げな顔を付けて。

 そんな雰囲気が気に入らない、というか面倒くさいのだ。ハッキリ言って気の強い女とはあまり関わり合いたくないのが巧としての本懐である。それは彼の過去における体験が物語っているのだが、まあ今はいいだろう。

 

 

 しかし、どうやらこの世界にいるかもしれない神は、この超絶無愛想な男に救いの手は差し伸べられなかった。

 

 

 

「―――――それで、先ほどからずっと黙り込んで仏頂面でいるそこの貴方は誰なのかしら?」

 

 

 背を向けた方角から響く、少女の凛とした声。

 しかし巧は振り返らず無視を決め込む。ここで接点を持ったら碌な事がない。

 だがことは彼の意向とは正反対に進行していく。

 

 

「……無視かしら」

 

「…………」

 

「こちらから話しかけているんだから、返事くらいはしてくれてもよいのではなくて?」

 

「そうだぜ。これから俺たち、もしかしたら運命共同体になるかもしれないんだから、今の内に仲良くしとこうぜ? 旅は道連れ、とも言うしな」

 

「…………」

 

 

 

 

 ふざけんな、誰がテメェらみたいな奴らと運命共同体になるかっつうんだ。勝手にやってやがれ。 あと話しかけんな。

 

 

 そんな言葉を口任せに飛ばしてやりたい気持ちがあったが、このまま黙っていれば恐らく事態は好転しない。

 いや、寧ろ悪化の一途を辿るだろう。主に巧にとって。

 故に巧は黙秘を放棄する。そして重いため息を短く漏らす。

 それに反応した久遠飛鳥は、片眉をピクンと上下させた。

 

 

「……何かしら、今のため息」

 

「なんでもねぇよ」

 

「何でもないならため息など吐かないはずなのだけれど」

 

「なんでもねぇっつってんだろ、うっせぇな」

 

 

 ぶっきらぼうに返せば明らかに私不快ですと言った風に口を尖らせる久遠飛鳥。

 それを意に反さず、巧は不満そうな態度を隠しもせずにぼそりと切り出した。

 

 

 

「……巧。乾巧だ。別に俺の自己紹介はいいけどよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 親指で彼の後ろに生い茂る草むらの中の一つを指差した。

 それが図星なのか、彼の後ろの草影がそれに呼応するようにガサガサと物音を立てて揺れる。

 

 

「へぇ、お前も気付いてたのか」

 

「あら、貴方も? 実は私もよ。見た目に似合わずやるのね、そこの男同様に」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ? そこの猫抱えてるお前も気付いてんだろ?」

 

「……風上に立たれたら嫌でも分かる」

 

「へえ? お前も面白いな」

 

「……何が面白いんだよ」

 

 

 巧は静かに毒づく。

 やっぱり彼はこの逆廻十六夜が嫌いなようだった。

 

 

 他の三人がその者の存在をなぜ感知できたのかは疑問だが、巧には明確な理由があった。

 

 これは巧のみならず、彼と同類の種族―――――即ちオルフェノク全体に言えることなのだが、彼らは一度死にオルフェノクとして覚醒すると、その五感が生前と比較して飛躍的に上昇する。

 数千メートル離れた人間の悲鳴を聴き分け、その場所を探知したり。

 どこかで流れた血の匂いを嗅ぎ分けてその生物の場所を特定する。

 故に、彼らは人間に対して探知に関しては必然的にアドバンテージを得ることができるのである。

 こういった点からも、強ち彼らが人類の進化形態というのは誇張でもないのかもしれない。

 

 それに付き纏う代償はこの上なく大きいが。

 

 また何の皮肉か、彼はこの力のおかげでオルフェノクを撃退し、多くの人間達を守ってきた。

 その人間に恐怖されて罵倒され、また感謝はされど、受け入れてくれた物は両手の数ほどもいないが。

 

 

 とにもかくにも、巧はオルフェノクとしての恩恵により湖から出てきて数分してから隠者の所在を掴むことができたのである。しかし彼らも巧と同じか、もしくはそれ以前から気付いていたようなことを言っていた。彼らも普通の(・・・)人間ではないことは容易に想像できるだろう。

 

 まさか全員オルフェノク、なんてことはないだろうが。というか考えたくもない。

 

 皆の視線を浴びた隠者は――――恐らくはここへ呼び出した張本人と四人は踏み、その茂みを無意識か鋭い視線で睨みつける。

 

 いきなり上空へ放り出された挙句、湖へと叩き落とされてびしょ濡れにされたのだ。表面は怒っていない様に見えても実際表に出していた巧以外の彼らであっても、それは怒るなと言う方が難しいだろう。

 やや殺気の籠もった突き刺すような視線を浴びた隠者は、ついにその雰囲気に耐えられなくなったのか、茂みを揺らしてそこから姿を顕わす。

 巧は怒りを孕んだその瞳を、その者の姿を見て思わず怒りも忘れて丸くした。

 

 

 茂みから出てきた少女を言い表すならば、頭にウサ耳を付けた美少女。所謂どこぞの誰かが熱中的になって楽しんでいる『コスプレ』とか言う奴だろうと巧は推測した。

 ミニスカートにガーターソックス、果ては賭博場で見かけるようなバニーガールのような服装。

 明らかに『そういうことをします』といった風貌に、巧の仏頂面が一瞬崩れかけたのだ。

 

 その見た目はあまり十六夜達と変わらないような歳の少女は、どういうわけかウサ耳をまるで本物のウサ耳のようにヒョコヒョコと動かせながら力なく彼らに笑いかける。

 

 

 

「や、やだなあ皆さん。そんなに怖~い狼みたいなお顔で睨まれると黒ウサギは死んでしまいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。ここは黒ウサギの脆弱な心臓に免じて、一つ穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいのでございますヨ?」

 

 

 愛嬌のある話し方でこちらを懐柔して、自身にくる怒りの猛攻をなんとか回避しよう背中に大粒の冷や汗を滝のように流しながら説得しようとする黒ウサギ。きょどっているように見えるのは怯えの表れか。

 しかしどうやら彼女の決死の説得は空しいほどに、彼らは頭に超が百個ぐらい付く問題児? だったらしい。

 

 

「断る」 とにべもなく答える十六夜。

 

「却下」 と微塵の隙も見せずに突っぱねる飛鳥。

 

「お断りします」 と丁寧に即答する耀。

 

「嫌だね」 と相も変わらず無愛想に突き返す巧。

 

 

「あっは♪ 取り付くシマもございませんね全く」

 

 

 清々しいまでの即答ぶりに思わずバンザーイ、と両手を上げて感服と降参の意を示す黒ウサギ。

 おどけた様に見せながらも、瞳だけは計算高く少年少女ら――約一名少年扱いを受けたくない男がいるが――を値踏みするかの如く見定めていた。

 

 

 肝っ玉は及第点。ここでNOと言えるほどの勝ち気は買いです。まあ扱いにくいのは難点ですけど。

 

 

 さてさて、このどうにも一癖も二癖も、三癖すらありそうな集団に如何様に接すべきかと黒ウサギは緻密な思考を張り巡らせる。

 

 だからだろうか。

 普段の彼女らしからぬことに、初対面の相手に感づかれるという失態に続いて。

 背後に忍び寄る影に気付くことができなかった。

 

 その忍び寄る影――――なぜか妙に熱っぽい瞳で彼女のウサ耳を見つめながら接近した春日部耀は、その黒髪の頭の頂点に生えている? ウサ耳をそっと片手で掴み、そして。

 

 

「えいっ」

 

「フギャっ!?」

 

 

 少し力を入れて引っ張ってみた。

 突然の行為におっかなびっくりした黒ウサギは、さきほどのおどけた調子はどこへやら、必死になって自身の自慢の耳を心なしか嬉しそうに掴む少女に抗議する。

 

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!? 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引っこ抜きにかかるとはどういう了見ですか!?」

 

「好奇心の成せる(わざ)

 

「自由にもほどがあります!」

 

「なんだ、このウサ耳って本物なのか?」

 

 

 何時そこにいたのか、未だ余っている部分の右の耳を十六夜が掴む。

 

 

「……じゃあ、私も」

 

 

 今度は飛鳥が興味本位で左を掴む。

 何だか壮絶に嫌な予感がした黒ウサギは、少々顔を青ざめさせて待ったを掛ける。

 

 

「ちょ、ちょっとお待ちを――――――」

 

 

 が。

 

 抵抗も空しく、彼女の両耳はそれぞれてんでバラバラな方向に引っ張られ続ける。しかも何だから力が強い。

 黒髪にから黒いウサ耳を引っ張られ、言葉にならない絶叫を上げて涙目でそばで傍観していた巧に助けての意志を送る黒ウサギだが、意図的に視線を逸らされてしまいそれは望めず、彼女はさらにウサ耳から来る痛みに絶叫を上げることとなった。

 

 

 救助支援を見事なスルースキルで回避した巧は、先ほどまで見ていた灰色の空とは違い、どこまでも真っ青に広がる青空を見上げながら呟く。

 

 

 

 

 どうやって帰ろう。




今作のタッくんは『ツン』と『デレ』の成分で、ぶっちゃけ最初は『ツン』の成分多目で行きます。
そして後にはちょっと『デレ』が入るって言うね……でもその調節具合が難しい……orz
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