夢を持てない男も異世界から来るそうですよ? 作:shoshohei
本当に申し訳ないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
何分私はクズなしがない物書きでして……これがいいのか悪いのか? これで出しちまって大丈夫だろうか? そんなことを延々と考えていて、悩みに悩んでたんですが……まあクズでも仕方ないかだって私だもん! ってことで落ち着きましたアハハハ!(白目
……暴走しちまってすいません。
悩んでる間に二話できたので、今回は二話投稿します。それでは、どうぞ!!
「――――さて。不慮の事故続きで色々と予定が狂ってしまいましたが、狂ったなら狂った分だけ対処しなくてはいけませんね」
仕切り直すように、黒ウサギが手に水樹――十六夜が、水神様を叩き伏して手に入れたギフト――を持ち直しながら切り出した。
皆の視線が彼女へと集中する。彼女はジンへと向き直った。
「ジン坊ちゃんは本拠へとお帰りください。巧さん達のゲームが明日なら、〝サウザンドアイズ〟に皆さんのギフトの鑑定をお願いしないと。この水樹のこともありますし、まあ十六夜さん一人でも楽勝でしょうが、準備はしておくに越したことはないでしょう」
「何言ってんだ?」
「そうだぞ。乾はともかく俺は参加しねえよ?」
お前も何言ってんだ。なんでそんなことになってんだ。
そんな言葉が出かかるも、呆れ過ぎて言うことも憚れた。何時の間にやら、巧が出ることが決まっていたらしい。
しかし巧は断固拒否する。そも彼は、このゲームをやることこそがバカバカしいのだ。それは億劫だからではなく、ソレそのものが自己満足でしかないから。
〝
『
これが茶番に思えてならない。飛鳥の『自分の手で』という気持ちは分からなくはないが、リスクを負ってまでするというその執着がピンとこなかった。
馬鹿じゃねえの? なんてことを口任せに言ってやりたいが、それでまた面倒なことになるのは御免なので黙っておく。
自堕落男の心情などは知らぬ存ぜぬ。少女は慌てふためく。
「なっ、何を言い出すんですか!? というかなんで巧さんまで!?」
「そんなもん、他人様の喧嘩に手を出すなんて無粋だからに決まってんじゃねえか。その喧嘩はコイツらが売った、そして奴らが買った。なら俺は傍観すべきだろうが」
ぐっ、と黒ウサギは勢いを削がれた。一理あると、納得できてしまう自分がいるからだ。
飛鳥達の自主性を尊重し、彼女達の力だけで勝つことは大切なことである。
「……た、巧さんは!?」
「メンドクサイ。なんでそんなことしなきゃいけねえんだ。ダリィったらありゃしねえ」
「どこの無職者ですか!?」
怒りどころか呆れと驚きが顔を出した。だが巧は知らんぷり。そっぽを向いて聞く耳持たぬ。
その態度に益々ムキになる黒ウサギ。口をへの字に結んで再度説得を試みる。
しかし、彼女はふとハッとなってそれを思いとどまる。彼が出たがらない理由に心当たりがあったからだ。
そうであった。確かどういうわけか巧には、余命が少ないという事実があったのだ。本人が話したがらない故に全て推測するしかないのだが、黒ウサギは巧が不治の病に侵されているのだと思っていた。だから、ゲームに出たくないのだと。
「……巧さん。本当に出たくないんですか?」
「ああ、出たくないね」
「もしかしなくても、巧さんが動く必要があるゲームは多分出てこないと思いますヨ?」
「嫌だ。動きたくない」
これも一種の建前だと、黒ウサギは想定する。自分が病を患っているのだと悟られたくないが故の。
尤も、彼の短命化はオルフェノクになった際の副作用的なものであるのだが、彼女が知る由もなく、黒ウサギは、ここで病状を悪化させても本末転倒であるとして、仕方なく説得を断念。その代わりとして、小さく嘆息した。
だが、そう事が易々と事が運ぶはずもなかった。
「いいじゃない黒ウサギ。出たくないんだったら無理に出さなくても」
横合いから、飛鳥が優しく黒ウサギの肩に手を置いた。巧の事情と、きょとんとした顔の黒ウサギの思考を知りようもない彼女は、異様に落ち着いた声音で、
「元々私たちが取り決めたゲームだし、確かにそこの男はいるだけでほとんど何もしていないわ」
たまにはいいこと言うじゃねえか、ありがとよ傲慢女。
心の中で毒づきながら、感謝の言葉を巧は述べる。この時だけは、飛鳥に毛の先ほどだけありがたみを感じていた。
尤もそれらは、次に彼女から放たれた言葉によって、とてつもなくくだらない感情に変わっていくのだが。
「――――それに、臆病風に吹かれた小心者が居たら、勝てるゲームも勝てなくなってしまうわ。だったら彼には臆病者らしく逃げてもらった方がみんなのためというものよ」
フフンと鼻を鳴らし、目線を高くして双眸に男を映す少女。明らかに侮蔑の色が帯びた声音であり、視線にも嘲笑が混ぜられているのがよく分かる。挑発としては上等のものだ。
飛鳥の言動によって、黒ウサギの背筋を塩分を含んだ水が滴る。恐らくは、先ほどの罵詈雑言の仕返しであろう。意外と根に持つ女の子だったらしい。
しかし、このままでは結果は日を見るよりも明らか。
何故だか馬が合わない二人である。またもや収拾に労力を割くドンパチを初めてしまわぬよう、飛鳥に巧の事情の弁明するべく、黒ウサギは動く。
「……あ、あのですね飛鳥さん。これにはちょっとした訳が」
だが。
運命の神は、少女を見捨てた。
「誰が臆病者だッ!!!」
兎少女のなけなしの努力は、猫舌男の威圧を纏う怒声によって水泡に帰す。
ひゃっ、と短い悲鳴を上げて黒ウサギは仰天する。恐る恐る首を捻れば、件の男は青筋を立てて大人げなく鼻息を荒げていた。
実はというと、久遠飛鳥の言葉は、乾巧の数ある欠点の内の一つを確実に抉っていた。
では、ソレは何か。
それこそが、乾巧はジャンケンと挑発には死ぬほど弱いという事実。
ジャンケンでは連敗し、勝負を回避しようとしても相手方の簡単な挑発に乗り、そして敗北の無限ループ。以前それらを熟知した同居人の少女に逆手に取られ、あらゆる面倒事を押しつけられたものだった。簡潔に言えば子供っぽくて単純なのだ。
しかも本人は自覚しているにも関わらず、面倒くさがって改善する姿勢さえ見せないので、直る兆しは一向に見えずじまい。今回も結局、意図せずとは言え飛鳥の挑発にまんまと乗った巧は、目の前の女の子にだけは見縊られることは我慢ならないので、大々的に宣戦布告。
「いいぜ! そこまで言うならやってやろうじゃねえかッ! 後で吠え面かくんじゃねえぞッ!!」
「あら、それは楽しみね。貴方が一体どんなことをしてくれるのか、期待しないで待ってるわ」
……もう好きにしてください。
もはや本人が良いならそれでいいか、と黒ウサギは自棄気味に匙を投げたのだった。
しかし彼女は巧が抱える問題について吟味しながら、密かに小首を傾げた。
――――しかし、巧さんのは御病気ではないのでしょうか? 動いても問題なさそうに見えましたが。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
意外にもあっさりと解決したところで、ジンを本拠へと返した一行は石造りの道を歩いていた。さきほどの黒ウサギの言葉の中に出てきた〝サウザンドアイズ〟と名の付く場所へと案内するためらしい。
「〝サウザンドアイズ〟は特殊な〝瞳〟のギフトを持つ者たちの群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層全てに精通する超巨大商業コミュニティです。私たちが向かっているのはその支店の一つです。そこで皆様のギフトの鑑定を行ってもらいます」
「何だよ、そのギフトの鑑定ってのは」
「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定することです。自身の力を正しく把握すれば、引き出せる力はより大きくなります。皆さまもご自身の力の出所は気になるでしょう?」
黒ウサギが言うが、巧は然したる興味は沸かなかった。
起源がどうした。他人が評価が何だ。そも自身の力の正体が何であろうが心底どうでもいい。強いて言えば自分が力を得た理由があるのならば、少しばかり興味があるが、それも微々たるものだ。
この力がなんであれ、自分は一度死に、更に未練がましくこの世に残り、『アイツ』を含む多くの命を奪った事実は変わらないのだから。
どんなことを知ろうが、人殺しの
いや、もしかしたら他の人間に正体を知られたくないだけかもな。
そこまで考えたところで、前方に青い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記された旗を立てる一つの商店が見えた。アレが例の支店なのだろう。
「…………ハア」
来ちまった、などと嫌悪しながら嘆息。
面倒くさがりの巧は、様々な事情抜きでここへの来訪を拒んでいるのだが、ここへ来なければそれはそれで今以上に面倒になる。それだけは御免である。
渋々皆と共に商店の方角へと歩を進める。すると、店の暖簾を潜って割烹着を着た、店の店員らしき女性が現れた。
彼女は店の看板をいそいそと下げ始めた。恐らくは閉店時間なのだろうが、当然鑑定の目的があるので黒ウサギは困る。非常に困る。彼女は待ったを賭けるべくして慌てて駆けだした。
「まっ」
「待ったなしですお客様。うちは時間外営業はやっていませんので」
取り付くシマもねえな。
あまりの対応にすがすがしささえ覚える。さすがは超大手の大企業コミュニティ。クレーマーに慣れたエリート会社を彷彿とさせる対応だ。
「なんて商売っ気のない店なのかしら」
「ま、全くです! 閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」
「文句があるならどうぞ他所へ。貴方達は今後店への一切の干渉を禁じます。出禁です」
「出禁!? これだけで出禁とかお客様舐め過ぎでございますヨ!? お客様は神霊様でしょう!?」
がなる兎少女。彼女を陰鬱な眼で見つめる女性店員の気持ちが、巧にはなんとなしに分かる。同情はしないのだが。
「なるほど、〝箱庭の貴族〟であるウサギのお客様を無碍にするのは失礼ですね。よろしければコミュニティの名をお聞かせ願えないでしょうか? 中で入店許可を貰って参りますので」
「…………う」
黒ウサギ、言葉に詰まる。代わるように、十六夜の口から事実が述べられる。
「俺達は〝ノーネーム〟ってコミュニティなんだが」
「
十六夜も黙り込む。
傍観していた巧は、目つきの悪い――あくまで巧の主観である――女性店員を見やりながら、ガルドが言っていたことを思い出して納得する。彼らの言う〝名〟や〝旗印〟がないことのリスクとは、こういうことだったのだろう。その上で想う。
ネチネチネチネチ、分かってる癖に聞いてきやがって。この女相当性格捻くれてんな。
自身に跳ね返ってくるであろう言葉を内心で呟く。見た感じだと、あのふてぶてしい態度などからして、大方『〝ノーネーム〟はお断り』という規定にでも従っているのだろうが、明らかに本心でも彼らを見下しているのが分かる。
巧はあからさまに不機嫌になった。さっさと立ち去りたい。しかし黒ウサギの事情もある。退くにも退けないので、どうするんだという意を込めて黒ウサギを睨む。十六夜達も同じなのか、皆の視線は自然と黒ウサギの元へと注がれた。
彼女の表情が悔しげに歪む。次いで顔を真っ赤に染めると、震える唇で小さく呟いた。
「あの……その…………私たちに、旗はありま」
「いぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!! 久しぶりだ黒ウサギィィィィィィッ!!」
突然の強襲。場には硬直が訪れた。
いきなり白髪の着物風少女が爆走しながら出現したかと思えば、瞬く間に彼女は言い淀む黒ウサギにフライングボディーアタックをお見舞いして、勢いそのままに街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛び水の中へと沈んでいった。残像が残るほどの速さである。
「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」
「ありません」
「なんなら別バージョンで」
「やりません」
十六夜と店員が真剣な応酬を繰り返す。呆気に取られて動けない巧は、二人と今も水路の中で嬉しそうにたわわな胸部に頬ずりを繰り返す白髪の少女とを交互に見やりる。
「…………またガキかよ」
疲れたように絞りだされた言の葉は、吹いた風に乗って消え去った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「――――さてと」
白髪の少女は、巧達の目の前に腰を下ろしてパチン、と手に持った扇子を閉じる。
現在巧達は、少女の私室たる和室に招かれていた。いきなり強襲して黒ウサギにセクハラを働いた少女。彼女とのいざこざ……とも呼べなくもないやり取りの収拾をどうにか付け、更に黒ウサギとの面識があるらしい彼女がどういうことか店員を説き伏せ、紆余曲折を経てこうして今に至る。
「改めて自己紹介をしようかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えておる〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女だと認識しておいてくれ。ついでにこれは粗茶だ。まあ飲んでくれ」
「あっ、これはどうも」
さり気なく気を効かせて、五人分の茶の入った湯呑を配る少女――白夜叉に、黒ウサギは申しなさそうに頭を下げた。
彼女のことを、巧は初見で『侮れない』と評価した。
まず第一に、黒ウサギや店員が敬称で呼んでいたこともそうだが、どうにも食えないというか、底を読ませないような立ち回りが、巧の危機察知器官にそう思わせるのだ。一見すれば穏やかでも、近づき過ぎれば傷を負う太陽のように。
「…………」
しかしそれはそれ、これはこれ。割り切って、目の前の物体を凄まじく凝視する。
言わずもがな、お茶は猫舌の天敵である。故にその登場に苦悶を露わにするも、ここで無碍にしても得はないので、取りあえずいつもの如く猫舌特製の天敵撃退作戦を開始する。
題して、フーフー大作戦。
隣で地味な作業が始まっていることもされ知らず、耀が小首を傾げて問う。
「その外門って、なに?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に巨大な力を持つ者達が住んでいるのです」
「フー……フー……フー…………」
中々に手強いお茶だ。一向に冷める気配がしない。ここはもっと息を強く吹かねば。
決断するが早いか、巧は徐々にお茶を冷ますことに没頭し始める。無論、目の前の話のことなどすっぽり忘れて。
実は箱庭は七つの層になってるだとか箱庭の見取り図はバウムクーヘンのようだとか、四桁以上になると人外魔境だとか結構大事な話をしていても、当然の如く頭に入ってこない。せいぜい単語の端々が耳を通り過ぎる程度だ。彼は強敵に絶賛苦戦中である。
そしてこれまた悲しいかな、誰も彼の愚行に、話に夢中で気付いてはいない。これぞ悲劇と言えよう。
「私たちが今いるここは、七桁外門の東のところに位置していてな。そのすぐ外にある〝世界の果て〟と向かい合う形となる。あそこにはコミュニティには属していないものの、強力なギフトを持った者たちが住んでおるぞ? そこの水樹の持ち主などな」
白夜叉が、黒ウサギが手に持つ水樹の苗を指差す。巧の吐く息が更に強さを増す。だがまだ冷めない。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? 勇気を試したのか?」
「いえいえ、この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」
少しだけ自慢げな黒ウサギ。目もくれず、巧は未だ衰えを知らない緑茶を相手に格闘中。
「なんと!? クリアではなく直接的に倒したとな!? ではその童は神格持ちの神童か!?」
「いえ、違うと思います。神格ならば一目見ればわかるはずですし」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」
考え込むような仕草の白夜叉。未だ冷ますことに没頭する巧。少し湯気が収まってきた。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」
呵々と豪快に笑う白夜叉。巧は息を少しばかり弱めた。もう飲めるかもしれない。
「へえ? じゃあお前はあの蛇より強いってことか?」
「愚問だな。私は東側の〝
「熱っ…………」
まだ冷めていなかった。舌先に感じる少しばかりの熱に顔を顰めると、再び格闘が続行される。
「へえ……なるほど。最強の
「つまり貴女のゲームをクリアすれば、私たちが東側で最強のコミュニティということになるのかしら?」
「無論、そうなるの」
「そう。それはよかった――――って」
そこでようやく、皆がその場の違和に気付いた。全員の茫然とした、もしくは呆れた眼差しが一人の男へと向けられる。
具体的には、耀の隣でフーフーうるさい男へと。
「…………………………、」
「フー……フー……」
「……………………………………ねえ」
「フー……フー…………あ?」
機嫌の悪そうな顔で振り返る。そこには、どういうわけか酷く感情が読み取れない瞳の飛鳥の姿が。彼女は問う。
「何してるの?」
「何って、みりゃ分かんだろ。冷ましてるんだ」
それがなんだ。当たり前のように憮然とした巧。
まるで自分が常識だとでも言いたげな男に、飛鳥の口の端が痙攣する。彼女は己の裡で今にも弾けんとするものを、一身で抑えつけながら、再度問う。
「……一応聞くけど、話聞いてた?」
「ああ、バウムクーヘンは俺も上手いと思う。なにより熱くないし、甘いしな」
その言葉が引き金となった。
面白い音をこめかみから発生させた久遠飛鳥は、青筋を立てると驚くべき迅速な手際で身近にあった湯呑を掴み、その中にある熱々の液体を巧の顔に向けてぶちまけた。
人類史上稀に見るほどの猫舌で、おまけに手の皮までぺらっぺらな薄皮の乾巧に堪え切れるわけもなく、顔面を押さえつけて悲鳴を上げる。
「うぐぎゃぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!?」
「さ、猫舌男は放っておいて、話に戻りましょう」
「う、うむ…………」
後ろでのたうつ巧も全く気にせず、笑顔で提案する飛鳥。同じく十六夜と耀も冷静である。
さすがの白夜叉もそれには顔が引き攣ったが、咳払いをして話の軌道を元に戻した。
「い、いやはや抜け目のない童たちだ。依頼しておきながら、私にギフトゲームを挑もうとは」
「え? ちょ、ちょっと御三人様!?」
巧の惨状に呆気に取られ、今更ながらに焦る黒ウサギを白夜叉は右手で制する。
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えておる」
「ノリがいいな。そういうのは好きだぜ?」
「そうかい。ところでそっちの猫舌は……まあ、後で聞くとするか」
チラリと横目で巧を見やる。のたうってはいないものの、涙目で痛々しそうに顔の茶をふき取っていた。ある意味自業自得である。
「まあ、参加人数は置いておくとして――――決闘の前に、おんしらに確認せねばならんことがある」
「何だ?」
白夜叉は着物の裾から〝サウザンドアイズ〟の旗印――――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言。
「おんしらが望むのは〝挑戦〟か――――それとも〝
刹那、視界が暗転した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
それは衝撃的だった。あれほど大嫌いな熱さも、火傷の様な痛みも吹き飛ぶくらいに。
視界はとうに意味を失くし、巧の脳裏の中を様々な情景が駆け巡る。黄金色の稲穂が垂れ下がる草原、白い地平線を覗く丘。森の湖畔。見覚えのない場所が流転を繰り返し、足元から飲みこまれていく。そして放り出された場所は、白い雪原と凍った湖畔、加えて
「……っ……………!!?」
十六夜達と同時に、巧が息を飲む。
まともじゃないと素直に感じた、戦慄した。まるで星一つを、世界一つを創り出したかのような奇跡の顕現。今まで見てきた怪奇な現象や、脅威に感じたオルフェノクが可愛く見えてしまうような文字通り人智を超えた力を、ひしひしと感じた。それほどのことを、あの少女は手軽にやってみせたのだ。
「今一度名乗り直し、問おうかの」
その本人の声が投げかけられる。
唖然と立ちすくむ四人の前に立つ少女は、薄明の空にある白い太陽を背に、問いかける。
「私は〝白き夜の魔王〟――――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への〝挑戦〟か? それとも対等な〝決闘〟か?」
これが例の魔王様ってか。思いっきり化け物じゃねえか。
巧は魔王の存在を再認識する。漠然としてしか掴めていなかったイメージを修正し、しっかりと己の脳に焼きつける。
同時に想う。自分では逆立ちしたって、世界が引っ繰り返ってもこの少女には勝てない。もしも挑んだとしても、この少女は鼻歌交じりに蹴散らすことだろう。それどころか、オルフェノクが数百万いたところでこの魔王には、万に一つも傷を付ける可能性すらないことが容易に分かってしまう。勝とうと想うこと自体が間違っている。
だが、同時にこうも想う。
これだけの強大な力を持っているのならば、元の世界へと帰る手段を知っているのではないか、と。
「〝挑戦〟を選ぶのならば、手慰み程度に遊んでやる。安心せい、命は保証してやろう。しかし〝決闘〟を選ぶならば話は別だ。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」
白夜叉に気圧されて黙り込む十六夜、飛鳥、耀。
希望的観測にも縋って、自身の望みを叶える可能性を持つ少女を睨む巧。
重苦しい空気が場を支配する中、星を背負う魔王は両手を水平に挙手。
「さあ、どちらを選ぶ?」
嗤う白陽を、望みを持って灰狼は睨みつけた。
たっくんの猫舌ネタを入れるのはここしかなかったんや……。
読者さん許してや……無理矢理感が否めなくて許してや…………。