月ノ森女子学園の一般モブがライブに行く話

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ネモフィラの咲き誇る場所

 クラスにいる、あの不思議な子。授業中も休み時間も、たまに町で見かける時も何かを見ている。何を見ているかは分からないけれど、その何かを見てふっと微笑む彼女はキレイだと思う。うまく言えないけれど。

 

 私も大概変人だと言う自覚はある。空想に耽っているのはもちろん(自信満々に言うことではない)、ポエムというか痛々しい妄想とでも言ってしまうべきかそれらを書き連ねてはネットに投函したりと、オタク趣味で染まった私は月ノ森では友達が少ない。教室ではいつも1人でスマホ片手にネット上の二次創作物投稿サイトに投稿するSS(ショートストーリー)を書き、解釈不一致オタク共相手にレスバする毎日を送っている。

 

 多分彼女──倉田ましろさんと自分は似ているのだろう。程度の差はあれど同じく妄想家(そんな考えも妄想だろとか言わないで)。出来れば友達になりたい。が、私は陰キャ。自分から声をかけに行けるわけもなく、また彼女も人付き合いは苦手なのか、声をかけるandかけられる相手は決まってクラス委員の双葉つくしさん。聞こえてくる会話の内容から2人はバンドを組んでいるようだ。

 

「え、バンド組んでるの?あの倉田さんが?そんなはずはないだってあの人は私と同じ人付き合いの苦手な陰キャ気質だったはずなのになんでライブハウスなんて陽キャの集う地獄のような箱の中で演奏なんか……」

 

「ましろちゃんは陰キャなんかじゃないよ!」

「あああなんでもありませぬそんなこと思ってもいませぬ友達になりたいとかそんなこと思っててもうしわけごめんナッシングッッッ!!!」

 

 口に出ていたとは何たる不覚ッ!

 

 

 

 明くる日。朝いつものように席に着きイヤホンを外しヘッドフォンに切り替える。日課であるSS執筆を開始、しようとしたところで肩を叩かれた。

 

「あの……よかったら今日の放課後、ライブ見に来てください……」

「ふぉぇ?」

「ひぃぃっ!?」

「ふぁっ!?」

「そんな怯える必要ないでしょましろちゃん……」

 

 声をかけられたと思ったら自分より小さな双葉さんの背中に隠れてしまった。何か悪いことでもしただろうか私。したわ、昨日めっちゃしたわ。

 そんでもって話の内容はライブに来て欲しい、だったか。……え、ライブ?

 

「……なんで私に?」

「……えっと、と、友達になって欲しくて……で、でもライブハウスは地獄じゃないってことも知ってほしくて……」

「行きます」

「え、えっとだから……え?」

 

 行きます。人付き合い苦手な倉田さんから直接誘われたら行くしかねぇよなァ!?

 ライブする場所は最近よく話に聞く『CiRCLE』というライブハウスらしい。今日は特に予定はないから、行こう。行こう。行……。

 

「……すみません」

「え?」

「ライブハウス怖いので連れてってください……」

 

 初めて入るライブハウス。入ったことないおかげで先入観マシマシの評価しかもってないので怖いのです。連れてってください。

 

 

 

「ほぇ~……なんていうか、ライブハウスってもっとこう、お化け屋敷みたいなとこだと思ってた……」

「全部が全部そうな訳ないじゃん……とりあえず受付だけしてあとはロビーで開演まで待っててね」

 

 ……え、置いてかれるの?いや当たり前か。私はただの客だけど倉田さんたちは演者だもんね。1人にしないで怖い。

 そんなささやかな願いも一蹴されて、ロビーのベンチで私は1人さみしくコーヒーを啜っていた。不特定多数の目があるここでは趣味であるSS執筆はできない。かわりにこのライブハウスに来るお客さんを観察していた。

 

「みんなギター背負ってるなぁ。そんな活発だったっけ」

 

 今日のライブに出る人なのか、それとも練習にきているのか区別はつかないけれど。あんな人やこんな人もバンドするんだぁみたいな目で見てた。多分高校生じゃなかったら通報されてる。

 そんなこんなで時間は経ち倉田さんたちの本番が始まる。開場よりも早く来ていた(とはいえ40分程ではあるが)おかげか最前列に並ぶことができた。ちょうど舞台のど真ん中、おそらくボーカルが立つであろう場所の正面を陣取ることができた。

 ……は?そんなん倉田さんの顔真正面で見上げることになっちまうじゃねーか、オイどーすんだよまぶしさに当てられて倒れるぞ私。

 

 現実逃避しても仕方がない。運がよかったと思ってライブに参加しよう。と覚悟を決めたところで照明が徐々に暗くなっていった。本番の開始だ。

 倉田さんたちのバンドは『morfonica』というバンドだったはず。先ほどまでは緊張が体を支配していた。しかし今はどんな衣装で来るのか、どんな音楽を奏でるのか、それらで頭の中がいっぱいになっていた。

 そして、彼女たちの出番がやってきた。

 

「っ……」

 

 倉田さんと目が合った。少しはにかんだ、それでもしっかり自信に満ちた笑みを。

 

 目を奪われた。言葉を選ばずに言えば不思議ちゃんであるあの倉田さんが、あそこまで自信に満ちた顔をするのを、私は知らない。

 

 演奏が始まった。普段のおどおどした、人と話すときに見せるあの怯えたような表情は身を隠し、透き通るような歌声がライブハウスに響き渡る。

 

 彼女の声が届いた場所がネモフィラの鮮やかな蒼で染められていく。三日月が空で輝き、湖畔に反射して幻想的な情景を生み出す。花畑の中心で力強く音を奏でるmorfonicaのメンバー。彼女たちの世界を私は確かに見ていた。

 

 

 

 そして私の目は、耳は、いや全身が倉田さんに釘付けにされていた。多分私はこの瞬間──

 

 

 

 倉田ましろという少女に惚れた。

 

 

 

 


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