って眩しいよね、特に冬のは。

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西日

 いつからか、西日がやけに目に刺さる――青葉モカは眩しそうに青翠(せいすい)の瞳を細め、一人寂しく商店街を歩いていた。新年を迎える装いを馴染みある店らが支度している中、真っ直ぐに通り抜けて何も映さない。見れば、簡単に思い出せてしまう夕焼け色の記憶――いつも通りがバラバラに散った日から眩しくて手を伸ばしたくなる。

 高校を卒業して、一年ぐらいの時間。すっかりよそ者となった彼女は、街の不寛容さを改めて知る。商店街も大なり小なりに変化していく今、一旦外に出た者は街のいつも通りにはもうなれない。

 遠方の大学に進学することを選んだ代償、けれど仕方のないことなのだ。Afterglow(アフターグロウ)というバンドが解散した現実を、結局呑み込みきれずに逃げ出してきたのだから。肩を並べたかった夕陽はもう自分の夢を追いかけている、他のみんなもそれぞれやりたいことを見つけて新しい道を歩き出している。

 解散の話が挙がったときは反対した。けれど何度も話し合った末に受け入れ、最後の日を迎えるまで全力疾走。燃え尽きた――と聞こえはいいが、バンドという輝きから離れることができず、一人だけ取り残されてしまう。

 新たないつも通りを見つけた四人とまだ見い出せない自分、真偽交えた上っ面な言葉で一人だけ県外の一人暮らし。誰にも深く付き合うことなく、特に何も持つことなく手ぶらでふらふらと歩き回る日々で、たまに幼馴染たちのチャットを適当に返すだけ。何を見つければいいのだろう、まだ覚めない夢を見ている。

 ふと足が止まった。視線の先には見慣れた――もはや見飽きたと言っても過言ではない――外装の喫茶店。窓をじっと見れば、跡継ぎ娘が忙しく店内を動いている様子が窺える。

 彼女ならきっと顔を見せた瞬間、嬉しそうに笑うのだろう。想像はできる、できるから行きたくない。だから静かに立ち去っていく。

 何度も通い慣れた店を見る度に足が止まる。音楽雑誌を買っていた本屋、ピリ辛の海老チリが食べたいときに行く中華料理屋、気に入った服が見つけやすい古着屋――顔馴染みがいるけれども、とてもではないが顔を合わせる勇気はなかった。

 お気に入りのパン屋も目に入れば、立ち止まる。また何気ないように通り過ぎようと――した瞬間、モカと後ろから声をかけられた。

 十年以上も聞き慣れた声、今も変わらない少しつっけんどんな調子。相手が誰なのかは察しがつかないわけがない。モカちゃんではないですよー、青葉さんとおどけてみても、いやモカじゃんと返され、諦めて振り返った。

 癖のない黒髪ボブと一筋の赤色、吊り上がって真っ直ぐな赤い瞳、子どものときから変わらぬ仏頂面。美竹蘭と認めるには十分すぎる要素、変化があると言えば高校を卒業してから洒落っ気が少し増して冬の装いも垢抜けていることぐらいか。

 いやー随分とオシャレさんになりましたなーと茶化すモカ。陽の光で温まりきれていない寒風が髪を撫でていく中、冷たい汗が流れていく。

 モカは相変わらずだね。穏やかに双眸(そうぼう)を細めて、優しく微笑む蘭。旧友との再会を実に嬉しく思っているのが、誰の目に分かるだろう。

 一年近く離れていた幼馴染が顔を合わせれば、近況報告会が始まる――最近バイトを始めた蘭とバイトの掛け持ちをし始めたモカ。好きなことに対して知見を深める意も含めて花屋に働いていると言った彼女に、親からの仕送りもあるとはいえ生活がやや苦しくなってきたから居酒屋のバイトを増やした自分からすれば羨ましい限り。あれ? 好きなことってなんだろうと振り返るぐらいには青葉モカという人間は消耗していた。

 やはりもう自分は美竹蘭の隣には立てない。花屋のバイトでの経験を嬉しそうに語る彼女を見て、西日のようにやたらと目に刺さって眩しく見える。冬の夕日はどうやら人を過去に閉じ込めたがるらしい、いや先を見せたがらないといった方が正しいか。

 遠くの話を聞きつつもモカは自身の身の上を適当に話す。大学で真面目に勉強すること以外、特に何もない。あの頃のような波は、もうやって来なかった。

 話もそこそこに、蘭がパン屋の看板を一瞥(いちべつ)。今日は奢るよ、指さして微かに笑う。

 おおー、じゃあお言葉に甘えますねー。瞼を軽く持ち上げたのち、モカは肺が押し潰される感覚を誤魔化しながら笑みを浮かべた。

 店内に入れば行きつけのパン屋も変化しており、看板娘は現在ライブハウスでバイトしている最中で不在。店主の妻がレジを勤め、彼女とも近況を話して盛り上がる。さらには看板娘の弟と妹も店の手伝いをし始めており、簡単な力仕事や整理整頓を任されている状況。

 離れている内に、大きく変わっていく。近ければ小さな変化の積み重ねだと気づくが、もう商店街に足繁く通う身ではない以上はどうしても時差を感じてしまう。隣で財布からお金を出している蘭も、もう誰かに対して壁を作るような刺々しい雰囲気はなくなっていた。

 本当に取り残されてしまったのだと、モカは嫌でも自覚して温かい店の中で寒さを感じていく。パンが大量に入った紙袋を抱え、店を出れば蘭は父親との約束があると言って別れを告げる。また新年の初詣のときにねーといつも通りの緩やかな青葉モカを貼りつけて彼女を見送った。

 夕暮れに消えていく美竹蘭の背をいつまでも見つめ続ける亡霊を夕焼け色の輝きが指さして嘲笑う。青翠(せいすい)双眸(そうぼう)は未だに残光を閉じ込めたまま、ずっと沈む太陽を追いかける。


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