Poppin'Partyが結成したあの日からちょうど3年目となる7月7日。駆け出した彼女は邂逅することになった。商店街に設けられたステージで、キラキラと輝きながら歌う5人の少女の姿に、魅了される形で。
それから月日は流れ、夏の面影は消え果て大晦日を目前にした12月25日。少しずつ前に進んでいた少女は、商店街にて左右頭頂部を猫耳の様に結った髪が印象的なPoppin'Partyのボーカル、戸山香澄と再会した。
「あ、夏祭りのステージの時見にきてくれてたよね?」
「あの……えっと……」
不意に声をかけられた少女は大きく動揺した。無理もない。なにせ、今の彼女にとっては憧れとも呼べる存在から突然声をかけられたのだから。
「凄く熱心に見てくれてたこと、今でもはっきりと覚えてるよ」
「え、あ、ありがとう……ございます」
「ふふっ。ねぇ、もし良かったら名前、教えてくれる?」
気恥ずかしそうに謝意を述べた少女に、思わず笑みを溢した香澄は少女に問うた。対する少女は、青み掛かった灰色の髪を小さく揺らしおどけた様子で名乗っていく。
「えっと……
「燈ちゃん、だね。私は」
「戸山香澄さん……ですよね?」
香澄の顔色を伺うかのように、上目遣いを香澄へと向ける少女こと燈。対する香澄は、ゆっくりと首を縦に振った。
「そうだよ。Poppin'Partyの、ギターボーカル。香澄、で良いよ。あ、燈ちゃん、今って時間大丈夫?」
香澄の投げかけにコクリと首を縦に振る燈。それを確認した後、2人は商店街の中にある公園に移動し、そこのベンチへ並んで腰を下ろす。
そこから暫し頭を下げ沈黙していた燈だったが、徐に顔を上げ湧き上がった疑問を香澄へと投げる。
「あの、えっと……香澄さんは、なんでバンドをしてるんですか」
突然の質問に小さく驚いた様子を見せた香澄であったが、不意に何かを懐かしむような目で天を仰ぎ始める。
「高校に入った頃にね、地面に光る星を見つけてね。その星を追いかけて行った先に居た子に、誘われたからかな」
——ちょっとおかしいでしょ? と付け加え苦笑してみせる香澄。それを見た燈は、勢いよく首を横に振って彼女の言葉へ否定の意を見せる。
「そんなこと……ない、です……! 凄く、いい、話だと思う……それに私も同じで……誘われて、バンド始めたから……」
「燈ちゃん……」
心の奥底を絞り出すように発された燈の言葉が、自身の発言を精一杯肯定するためのものだと理解した香澄は、感謝の念を胸中に灯す。同時に、目の前の少女にかつての自分自身を重ね合わせ始めた。
「燈ちゃんは、歌うの好き?」
自身の中にある想いが間違いではないのか。そう思った香澄は徐に問いかけをなす。対する燈はまっすぐとした表情で首を縦に振る。
「好きです。私が、私の言葉を、ちゃんと話せるから……」
先程よりも熱の籠った燈の言葉に驚いた香澄は暫しの後、そっと目を閉じながら想いを言の葉にする。
「なんだか私達……似てるかもね」
「……え?」
優しく微笑んだ香澄の口から飛び出た言葉に、今度は燈が驚く。憧れ、尊敬にも近しい感情を向けていた相手から自分達が似ていると告げられた結果、様々な感情が交錯してしまい思わず言葉を発せなくなったのだ。
「に、似てるん……ですか?」
静寂が場に訪れてから少しして、燈は漸くの思いで言葉を発した。すると香澄は淡々とした様子で首を縦に振る。
「私ね、バンド始める前は知らない人の前で歌うの、ダメだったんだ。でも歌うことは小さい頃から好きだった」
傍らに置いたギターケースへと視線を向けた後、燈へと視線を戻した香澄は再び口を開く。
「そんな時に、有咲——キーボードの子がバンドに誘ってくれて、このお父さんの形見のランダムスターを私に託してくれたんだ」
ケースから取り出した、真紅の星型のギター——ランダムスターを構えながら、燈の方へと笑いかける香澄。それにより、燈の目に映る香澄の姿は、先程まで見えていた凛々しく遠いものから、無邪気さを漂わせたとても近しい存在に姿を変えていた。
「だから今、ステージに立ってる、Poppin'Partyのボーカルとして歌ってる、私がいる。自分の思いを、しっかりと歌にできる私がいる」
「確かに……似てる気が、します……」
香澄の言葉に同調し頷く燈。そんな彼女の脳裏に浮かび上がったのは、春の日差しの下で偶然にも出会った少女の姿。日影に隠れていた燈を見つけ出して、外へと連れ出してくれた張本人。
「さきちゃん……」
鮮明に浮かび上がった在し日の、共に笑いあった、今は道を違えてしまった恩人の名前を溢し、どこか寂しげな表情を浮かべる燈。その様子を傍らで見ていた香澄は、視線を燈から外すとゆっくりと言の葉を発し始めた。
「バンドをやってて、辛いことはたくさんあった」
「香澄さん……」
「燈ちゃんが、どんな風な辛いことを経験したかは、分からない。でも、バンドをやるってことは、人と人とが傷付いて、傷つけてお互いを認めて、思い遣って進んでいくことなんじゃないかって、私は思ってる」
淡々と発せられた香澄の言葉は、一言一言に重みを宿していた。それを受けた燈は大きく頷き、自身の内を言の葉へと乗せていく。
「そう、かもですね。私は……色んな人を傷付けて、辛い思いをして来て、バンドなんて……やらなきゃ良かったとも思った」
燈の語った辛い回想に耳を傾けながら頷いていた香澄だったが、徐に視線を下へ落とすとゆっくり口を開いていく。
「私も、みんなと意見が食い違って、喧嘩して、傷付いたし傷付けてきた。そんな時私はバンドに向いてなくて、音楽をやめたほうがいいのかな、とか考えた」
暗い表情をしながら述べられた、憧れの人物の過去を聞いて燈は大い衝撃を与えたが、次に発せられる香澄の言葉はその感情を払拭することになる。
「だけど、みんなと
晴れた冬空を見上げながら香澄が述べた言の葉は、過去の慈しみと、未来への強い覚悟が籠っていた。傍らで香澄の強い想いを受けた燈もまた、自身の中に灯った想いを言霊に乗せる。
「私も……今日までずっと、あのちゃんや立希ちゃんや、そよちゃんや楽奈ちゃんと一緒にバンドをやってる……! これからも一緒にやり続けたい、一生……!」
言い切った燈の目には、先程までは打って変わり
「燈ちゃんは、強いね」
「そんなことは……」
気恥ずかしそうな顔で首を横に振る燈と、微笑ましく見つめる香澄。穏やかな風が2人を撫ぜた時、何かを思いついた香澄が燈へと提案した。
「そうだ。もし良ければ今日の商店街のステージ、燈ちゃん達も出てみない?」
「え……?」
何の前触れもなく投げられた提案に、燈は慌てふためく。折角のお誘いであるため乗りたいが、自分1人では決めかねると。
「その、えと、みんなと相談してみないと……」
「そうだよね。バンドでのことは1人じゃ決められないよね」
申し訳なさそうな顔で返答した香澄は、燈から視線を外していく。自身の発言で香澄を困らせてしまったのでは無いかと、燈が不安を覚えていると香澄が彼女の方へと向き直り新たな言葉を紡ぐ。
「わがままかもしれないけど、出来ることなら燈ちゃん達の演奏、聴いてみたいな」
「みんなに、聞いて、みます……!」
「え」
言い終わるが早いか、燈は踵を返したかと思えば唖然とする香澄を他所にその場から走り去ってしまう。燈の背中が見えなくなった頃、漸く香澄は我に返った。
「行っちゃった……」
前にもこんなことがあったな、と苦笑しつつ立ち上がった香澄はランダムスターをケースに収め背負うと、燈が走り去った方向とは反対に歩みを進めていくのであった——
香澄の元を去った燈はすぐさまバンドメンバーの元へ行き、商店街でライブすることの賛成をもらった。そして、参加の手続き
「香澄、さん……」
「燈ちゃん?」
愛器を下げた香澄は燈の存在に気が付くと、驚いた様子で彼女の元へと歩み寄る。メンバーからの賛成をもらい、参加者として戻っては来たものの何て伝えたら良いのか。燈がそのことに悩み、次の言葉を発せないでいると、何かを察した香澄が凛々しげな表情で燈へと頷きかけた。
「しっかり見てるからね」
「……はい!」
燈が力強く頷いた後、互いに笑い合ってから、香澄はその場を去る。その背を見送った燈は、いつの間にか自身の背後に揃っていた面々へ目配せをし、頷き合い、ステージへと上がった。
「——こんばんは。『MyGO!!!!!』です! 聴いてください、『音一会』」
聖夜に湧き上がった歓声と共に、彼女達のステージは幕を開けた。