多くのマグル派魔法使いが追放され、残った人材は保守的な貴族に戦闘力全振り要因、人攫い。深刻な人材不足に悩んだヴォルデモートは騎士団たちをも呼び戻して……
死喰い人陣営の戦後統治って成功するのか? と思って書きました。
イギリス魔法界始まって以来の大戦争になるかと思われた“ホグワーツの睨み合い”は、その幕が切って落とされる前にホグワーツ側が全面降伏したことで、意外にも円満な解決を見ることとなった。
あの不埒で身の程知らずの小童、ハリー・ポッターは、最期だけは潔く我らが闇の帝王の御前に歩み出て──全く烏滸がましいことに──帝王が手ずから放たれた死の呪文を頂戴したのである。その亡骸は、息子と同学年の青年の死に珍しくも寛大な同情心を覚えたらしいナルシッサ・マルフォイによって丁重に葬られたというが、ここではそれを詳しく記述するつもりはない。
ハリー・ポッター以外の叛逆者たちに対しても、闇の帝王は苛烈な制裁を加えたのであるが、なんと慈悲深い御方であろうか、選択肢をお与えになられたのである。即ち、今ここで死ぬか、杖を没収されマグルの世界に追放されるか──マグル生まれ以外には、もう一つ、過去を悔い改めデスイーターとして仕えるというものもあった。
前二つは、結果としては同一のものである。なぜならば、我々のように高貴で偉大なる魔法族がマグルの豚どもに囲まれ卑しい暮らしをするとなれば、三日と経たずにショック死してしまうに違いないからである。
このような状況を前に、大部分の魔法使い及び魔女は、魔法界から立ち去ることを選択した。マグルが着ているあの奇妙奇天烈で低俗甚だしい、祭りで踊り狂う酔っ払いのような(アーサー・ウィーズリーなどは実際に小躍りしていた)服を身に付けた追放者たちが、ダイアゴン横丁のアーチの前にカラフルな列をなした時の悲壮な表情たるや!
さて、忌々しい叛逆者たちが軒並み追放され純血魔法族のみが残った理想郷の次なる目標は、当然マグル支配に定められた。が、ここで問題が発生することとなる。
後ろを振り返ってみると、なんとそこにはほとんど誰もいなかったのである! 第一次・第二次魔法戦争の戦死者だけでも馬鹿にならない。そして今や、全てのマグル生まれと、大半の半純血、そしておよそ三割の純血一族が去り、残る人数を掻き集めても、軍団というには少々心許ない数だった。
これは少しばかりまずかった。無論のこと、彼ら誇りある精鋭魔法使いが、数で劣った程度でマグルに敗北を喫することなど有り得ない。しかし、我らが闇の帝王は筋金入りの権威主義者だったので(学生時代に考案した美しいお名前にデフォルトで“卿”とついていることからも明らかだ)、いざ侵攻となった時に軍団すら持っていないというのは我慢ならなかった。聞くところによると、マグルの社会では正義や正当性とは軍隊の規模によって定められるらしいので、なおさら重大問題である。
ここに至って、偉大なる闇の帝王は素晴らしく効果的な対応策を打ち出した。
「マグル支配計画は戦略的理由から一時延期し、イギリス魔法界を苦しめる人口減少に対処する」
これは全く道理に適った政策である。しかし悲しいかな、例え帝王が優れた見地を有していても、配下がそうとは限らない。事実、魔法省の実務は絶望的停滞に陥ったのだ。
考えてみれば、政権幹部はほとんどが学業をそっちのけに破壊工作に勤しんでいた面々だし、長い不当な監獄時代の看守たちは哀れな囚人を発狂させることにばかり注力し、社会学の教科書を差し入れるような機転を持ち合わせてはいなかった。一部には古くから魔法省高官の職に就いていた所謂「貴族」のお歴々もいるにはいるが、彼らはどちらかといえば保守的で、つまりかつての制度が機能し得ない現状に対処する能力は不足していると言わざるを得ない。そして下級官吏に目を向ければ、物を壊すことは得意でも、物を壊さないことは大の苦手という連中しかいなかった。
保守的な貴族と(文字通り)革新的な下級官吏がうまく噛み合えば話は違ったのかもしれないが、両者がそれぞれ保有するプライドは歯車を錆び付かせ、回転することを許さなかった。
そしてなにより、下等なマグルの学問など誰も気にも留めなかったので、近親交配がもたらすリスクの知識は必ずしも共有されなかったのである。
戦後政権がこのような人材不足に見舞われた原因は、無論闇の帝王及びその忠実なる配下たちが後先考えずに大量虐殺を繰り返したからでは決してなく、死してなお朽ちぬダンブルドアの怨念がなした祟りに違いないのだが、しかし現実は現実である。どうにかしなければならない。
その時、彼らは見つけた。追放された人々が、マグル界で全く健康に生活しているのを。魔法省は直ちに彼らの名誉回復に取り掛かった。
「マグルというドブネズミの掃き溜めにいてもなお健康そのもので生き永らえていることこそ、彼らを含む我ら“純血魔法族”が極めて優れている証左に他ならない」
2017年9月1日 ホグワーツ魔法魔術学校
歴史あるこの学校が、今年もめでたく新学期を迎える今日、ホグワーツ教授陣は、かつては無かった一仕事をこなすことになる。
大広間の入り口の前には教授たちが陣取り、長蛇の列をなす一年生を驚くほど素早く捌いていく。
「次は」
教授の中の一人、薬草学を担当しているネビル・ロングボトムが、列の先頭に並ぶ女子生徒を呼んだ。真新しいローブに身を包んだ少女は、手に持った羊皮紙を一瞥すると、優しげな笑顔を浮かべるロングボトム教授のもとへ駆けていく。
「シャーロット・ウィルソンさんだね」
「はい」
シャーロットと呼ばれた未来の魔女は返事をすると、羊皮紙を差し出した。
「2017年魔法省発行、純血候補者シャーロット・ウィルソン……うん、間違いないようだ! 入学おめでとう、ホグワーツへようこそ」
シャーロットはロングボトム教授に肩を叩かれ、大広間に向かって歩いていく。教授たちの調べを終えた新入生たちが扉を括るたびに、上級生たちよる万雷の拍手が惜しみなく捧げられた。その先には、これまた遥か昔から数えきれないほど多くの生徒の頭に被せられてきた組み分け帽子が待っている。
この1998年までは存在しなかった「入学前純血検査」は、今では欠かせない新学期の恒例行事となっていた。以前は、神聖なる学舎を穢れた血が我が物顔で跋扈するという言語道断な事態が放置され続けてきたが、闇の帝王のもとようやくあるべき姿を実現しつつある魔法界においては、そんなことは最早許されないのである。
新入生は基本的に祖父の代までの家系図の提示が要求される。それ以上遡ってしまうと、名誉ある純血貴族の面々の中に極めて不可解な血縁関係が浮かんでくるので、信憑性は一切ないとされた。魔法族は文書記録のような瑣事にいちいち拘泥するマグルとは違うのだ。
そして少数ではあるが、家系図ではなく、魔法省の血縁調査室が極めて厳正なる調査を踏まえて認定する「純血候補者」という者もいる。これまた極めて不可解なことであるが、時にマグルの両親から魔法使いが生まれたとしか思えない現象が発生することがある。
この原因は明らかだ。
一つは、マグルのコソ泥どもが、魔法族の魂に宿る神聖な魔力を奪ったという可能性──全くけしからんことである。
そしてもう一つは、件の追放者たちの子孫である可能性。追放者は大変な数に上ったので、果たして全員が帰還したのか、それともまだ幾人かがマグル界に残っているかが把握できないのである。中には完全にマグルに溶け込んで生活している者もいるのだから、事態は余計に混乱する。
前者と後者は全く判別できないので、ひとまず全てを「純血候補者」に認定し、在学中に両者を区別する。4 年生の学期末にその学年の生徒全員が受験する「
さて、シャーロットを見送ったロングボトム教授は、次に待っている新入生を呼ぼうと顔をあげ、そこに見知った顔がいることに気づきさらに笑みを深くした。
「パーシバル! よく来たね!」
「うん、ネビ……ロングボトム教授」
「はは、そんなに畏まらなくてもいいよ」
パーシバル・セブルス・ポタラー少年(一体どこのまともな親が、子供に叛逆者の頭目の名をつけるだろうか?)は、旧知の仲であるロングボトム教授を思わずファーストネームで呼びそうになったが、ここが学校であることを思い出し、すんでのところで踏みとどまった。しかしロングボトム教授本人は気にした様子もなく、パーシバルが差し出した家系図に目を向けた。
「父、Harry Potterer──母、Ginevra Potterer──おや、パーシバル。祖母のところに不備があるね」
ロングボトム教授はそう言うと、ローブの中から判子を取り出し、「Lilly Potterer」の名前の上にポンと押した。
魔法界が純血魔法族によってのみ成り立つあるべき姿を実現しようというとき、名誉あるブラック家に蓄積されたノウハウは余すことなく参考にされた。「訂正判子」と呼ばれるこの巧妙な作業は、ブラック家を筆頭とする「純血名家」が長年行ってきた慣習──即ち、家系図にささやかな細工を施す慣習──をもとにしている。当時は名前を直接焼き消していたようだが、今は時間と共に透明になるインクを使うので、そんな物騒かつ不躾なことはしなくてもよい。
「うん、これでバッチリだ。入学おめでとう、パーシバル。お父さんは元気かい?」
「とっても。今日も駅まで送ってもらったんだ」
パーシバルははにかみながら答えると、ロングボトム教授にしばしの別れを告げ、組分け帽子の待つ大広間へと歩いて行った。
組分けを待つ一年生たちが、上級生の遠慮ない視線に縮こまっている中、ホグワーツ魔法魔術学校校長、ミネルバ・マクゴナガルが立ち上がった。この女傑は、気高い厳格さと歳を重ねるに連れ増しつつある気さくさの入り混じった視線を大広間に注ぐと、挨拶を始めた。
「ホグワーツ入学おめでとうございます、一年生の皆さん。歓迎の料理が無いことを不満に思っているかも知れませんが、その前に組分けの儀式を行わなければなりません。宴は儀式が恙無く終わった後に始まります──分かっていますね、ポッタ……ポタラー!」
パーシバルは突然名前を呼ばれたことに飛び上がるほど驚いたが、マクゴナガル校長の目線が向けられているのは、グリフィンドールの席に腰掛けた兄であった。怒鳴られたジェームズ少年はなんでもないような顔で、新入生へのささやかな“プレゼント”をローブの中にしまった。
「さて、皆さん。本来ならばここで、組分け帽子が各寮をよく表した愉快な歌を歌ってくれるのですが、彼はこのところ限定的なストライキに突入し、説明業務を果たしてくれないので──」
「当然だ!何百年にも渡って組分けを一人で行なってきた私に対して口出しを──」組分け帽子がマクゴナガル校長の言葉を遮ってがなり立て始めたが、「適当でない発言」に入り始めた時点で制圧された。
「丁寧なご挨拶をありがとうございます。ええ、この通りですので、私から説明させて頂きます。みなさんがいずれかに所属することとなる四つの寮について、ある程度のことを知ってから組分けを受けるのも大切でしょう」
気高い老教授はコホンと咳払いをすると、教職員の長テーブルに向けて杖を振った。すると、小さな羊皮紙片が二つと、丸く巻かれた羊皮紙が二つ、フワリと浮き上がり、マクゴナガル校長目掛けて飛んでくる。
先ほどの検査において両親どちらの名前にも訂正判子が捺された純血魔法使いたちは、この光景に今日何度目かも分からない歓声を上げた。
「では、まず」マクゴナガル校長は小さな羊皮紙を一枚手に取った。「ハッフルパフについてです──“ハッフルパフはその勤勉さや公正さに関して最大限の賛辞を与えるに値する寮である。しかし私はここで、彼らの忍耐力に注目したい。なにしろ彼らはこの数年、寮杯で最下位を維持し続けているにも関わらず、未だ奮起する気配が見られないからである”」
この説明が終わるや否や、大広間中から大歓声が上がったので、事情を知らない一年生たちはギョッとした。多分の皮肉が込められていたというのは明らかだったのに、当のハッフルパフ生たちが最も大喜びしているようだった。
実のところこれは、魔法省より「スリザリン寮の魅力を無垢なる一年生に最大限伝えること」と厳命された組分け帽子が、無謀にもそれを拒否したため、セブルス・スネイプ副校長が代理で執筆したものである。毎年毎年様々な工夫を凝らしてスリザリンの魅力を伝えんとする副校長の努力は、生徒たちにも教職員たちにも大好評であった。
他の教職員たちも試してはみたのだが、やはりスネイプ副校長ほど忠実に任務を遂行することはできなかった。
「次に進みますよ、よろしいですね──“授業中の態度に現れる限りにおいては、レイブンクロー生ほど探究心に富む者はホグワーツにはいないと言っても良い。今年はその優れた観察眼が、自寮内の人間関係における様々な課題点にも向けられることを期待する”」
やはり大歓声──しかしその中に、本当に不機嫌そうな顔をしている生徒がいることが、レイブンクローの在り方を何よりも的確に表していた。
「そして──“グリフィンドールの生徒たちに見受けられる数えきれないほど膨大な欠点は、別にここ最近になって初めて発覚したわけではないが、もしこれが誇り高きホグワーツ開校以来何百年にも渡って繰り広げられてきたのだとすれば、私は戦慄を禁じ得ない。もし新入生諸君の中に、自らの傲慢、不埒、不品行を自覚している者がいるのならば、グリフィンドールは君を受け入れるにやぶさかではないはずだ。あらゆる悪徳の蔓延るグリフィンドール寮談話室の壁をガラス張りにし、賢明なる他寮生が『過ち』とはなにかを理解することができる特別教室を作るべきだと私は再三校長に訴えかけているが、今年もそれが叶えられなかったことはホグワーツの悲劇である。しかし確かに、彼らの姿が少し目に入るだけでも網膜が腐り落ちていないか心配になるというのに、わざわざ意図して観察などすれば死人が続出するだろうことを思えば、校長のご判断ももっともかもしれない。たった一つでもかの伏魔殿の長所を述べるとするのなら──私がそんな気まぐれを起こすことは滅多にないので良く聞いていただきたい──彼らが誇らしげにぶら下げている毒々しい赤色は、廊下の遥か彼方からでも容易に識別できるので、危険をあらかじめ避けようとする君子にとってはこれ以上ない手助けとなり得ることくらいであろう──”」
丸められていた長い羊皮紙の半分ほどを読み上げたところで、マクゴナガル校長は切り上げてしまった。ジェームズ少年による抗議のクリーム砲撃が開始され、それに伴い歓声はいよいよマクゴナガル校長の言葉を遮るまでになったからである。
結局、大広間の騒ぎが落ち着くまでには優に10分はかかった。
「今は最後の説明を優先しますが、ジェームズ・ポタラーにはあとで話があります!──しかしよくやりましたよ、ポタラー──“スリザリンの魅力を伝えるというのは、大変難しい仕事である。なぜならそれはわざわざ言葉にするまでもないからである。ドラゴンのように勇敢でケンタウロスのように気高いスリザリン生について、今更新たに加えるべき説明がどこにあるだろうか? そしてスリザリン生の溢れんばかりの美徳とは、今後の学校生活の中で、他ならぬ諸君ら自身の眼によって当然確認されるものではないか? しかし同時に、私はその困難であることを理由に仕事を放棄し、輝かしいスリザリンの歴史における──とある有名な集団の如き──小さな、だが見逃し難い汚点となることは避けたいと考える──”」
その後およそ10分間にわたって代理演説が繰り広げられ、ホグワーツの新年に華やかな感動を呼び起こしたことは言うまでもない。
一年の中でこの時ほどスネイプ副校長が人気を集める瞬間はなく、またスネイプ副校長自身、その気性ゆえ極度に溜まりやすい鬱憤を晴らせるので、毛艶が良くなるのである。
しかし残念なことに、この決して若くはない副校長の幸福は、パーシバル少年が名誉あるスリザリン生の仲間入りを果たしたことで著しく損なわれてしまうのだが、その理由についても、いちいち説明する必要はないだろう。
ちなみにヴォルデモートさんは政権運営の失敗に心を痛めふて寝しています。